Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/03/03
Update

映画『探偵なふたり:リターンズ』あらすじと感想レビュー。クォン・サンウが恐妻家のホームズを演じる|コリアンムービーおすすめ指南8

  • Writer :
  • 西川ちょり

祝!探偵事務所オープン!

シャーロック・ホームズに心酔する推理オタクとハミ出し刑事がコンビを組んで難事件に挑んだ『探偵なふたり』(2015/キム・ジョンフン監督)。

あのコンビが本物の探偵となって再び帰ってきた!

クォン・サンウとソン・ドンイルが絶妙のコンビネーションを見せ、さらなるパワーアップをした『探偵なふたり:リターンズ』が、2019年3月16日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて全国順次公開されます。

【連載コラム】『コリアンムービーおすすめ指南』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『探偵なふたり:リターンズ』のあらすじ


(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

シャーロック・ホームズに心酔する推理マニアのカン・デマンは、経営する漫画喫茶を友人に売りつけることに成功します。

手にしたお金は、広域捜索隊のレジェンドと呼ばれた元刑事ノ・テスと共に探偵事務所を開く資金にあてられました。

探偵としての一歩を踏み出したデマンとテス。

意気揚々とスタンバイするも、まったく依頼人が現れず、暇を持て余す毎日。

生活費も工面できず、警察にまで営業をかけるふたりのもとに、その甲斐あって、ついに最初の依頼人が現れます。

依頼人である若い女性は妊娠中で、婚約者の身に起こったことを話し始めました。

ある夜、婚約者が買い物に出かけたまま帰宅しなかったため、心配になって警察に届けましたが、もう少し待ってみなさいと言われたといいます。

彼が勤めていた工場に行き、心当たりが無いか尋ねてみましたが、最近は連絡がないという返事が返ってきただけ。

彼は孤児で工場の人以外に知り合いがないんです。

それからしばらくして警察に呼ばれ、彼が電車に轢かれて死亡したと告げられました。

彼の出身の施設の人が身元を確認し、火葬も済まされていました。

婚約者が忘れていったスマホを開いてみると、イ・デヒョンという人物から“施設の出身者が何人も死んでいるから気をつけろ”という連絡が入っていました。

警察に相談に行きましたが、メールだけでは捜査ができないと追い返されたそうです。

女性は、引っ越すための資金を婚約者から預かっており、その5000万ウオンを成功報酬として支払うと約束し、デマンは即座に契約を交わしました。

デマンはこの事件を殺人事件だと確信します。

テスが警察時代の部下に無理やり調べさせたところ、電車の運転手は、男性がひとりでいたと証言しているとのこと。

イ・デヒョンという男は死んだ男性と同じ施設出身ですが、携帯に連絡しても出ないのだそうです。

「GPSで追跡しろ」とテスは命じますが、「事件でもないのに無理ですよ」と部下は応えるのでした。

イ・デヒョンの位置情報の追跡のため、テスはヨチという男を訪ねました。

ヨチは、かつてはサイバー捜査隊のエースでしたが、盗聴器を何台も仕込み妻を監視した罪で逮捕され、今は一人でひっそりサイバー興信所を運営しています。

成功報酬の10パーセントを受け取るという条件のもと、ヨチは協力することを約束しました。

早速、ターゲットの携帯に偽情報を送りつけてハッキングし、イ・デヒョンの居場所を突き止めます。

イ・デヒョンとは果たして何者なのか?自殺しそうもない婚約者の身に何が起こったのか? 

捜索していく中で「毒蛇」という謎の人物が浮上。

事件は複雜な様相を呈し、探偵ふたりの前に立ちはだかります。

映画『探偵なふたり:リターンズ』の感想と評価


(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

前作『探偵なふたり』のおさらいから

参考映像:『探偵なふたり』予告編

タイトルに“リターンズ”とあるように、本作はシリーズ2作目になります。

1作目を観ていないのだけれど、話についていけるだろうか?と心配な方もいらっしゃるかもしれませんが、その点はご心配なく。

本作だけでも十分楽しめる愉快でスリリングな作品に仕上がっています。

ただ、主人公の探偵ふたりに関して少々理解を深めておくほうがさらに味わいが増しますので、少しばかり前作のおさらいをしてみましょう。

前作ではカン・デマンは漫画喫茶経営の推理マニアで、ノ・テスは刑事でした。

カン・デマンは警察官希望でしたが、足の不具合のせいで試験に不合格になった過去があります。

ある日、カン・デマンは飲みつぶれて先輩の家に泊まり、目を覚ますと、廊下に血痕が落ちているのに気が付きます。

部屋の扉を開けると、先輩の妻が刺殺されていました。

死体発見者として警察に事情を聞かれた際、元広域捜索隊のノ・テスと知り合います。

ノ・テスは暴力団関係の事件で死者を出し左遷されていました。

友人が容疑者となったことから、彼の無実をはらすために、捜査にのり出すデマン。やたらと警察に出入りし、そのたびにつまみ出されますがめげません。

一方、ノ・テスは上司から2週間で真相を覆してみろ、できなければ署を去れと言われ、単独で捜査を始めます。

いつしか二人は協力し合い、巧妙で複雜な事件の手口を解明し、ついに真犯人を突き止めます。

デマンは名誉市民として表彰されます。

テスは「警察をやめて探偵事務所を開こうと思うんだが、一緒にやってみるか?」とデマンを誘います。

ここまでが前作のストーリーです。

『探偵なふたり:リターンズ』は、こうして本当に“探偵”となった二人が、初めての依頼を受け、捜査に乗り出すところから始まります。

恐妻家のふたり


(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

前作では「きちんと妻に探偵事務所を開くことを話す」と語っていたデマンですが、妻が恐ろしすぎて、漫画喫茶を他人に売ったことも、探偵事務所を開いたことも言い出せずにいます。

一方のテスは、話すことは話したのですが、妻からは冷たい目で見られ、もともと尻にしかれていたのが、さらに居心地の悪い、気まずい状態となってしまいます。

このおじさん探偵たちが恐妻家であることが「探偵なふたり」シリーズの大きな特徴です。

中盤、探偵事務所のことがバレて妻が家出し、デマンは赤ん坊を抱えながら捜査しなくてはならなくなります。こんなことで凶悪な犯罪者を突き止めることができるのでしょうか?

ところが、案外、その姿が相手を油断させたり、おむつ交換などが作戦に役立ったりします。

おもちゃのピストルがここまで効果をあげた“探偵映画”もそうないのではないでしょうか?

探偵ものといえば、男たちのクールでハードな世界を連想し、女子供には用はない、といったイメージがありますが、“子育て家事に追われる男たち”が主人公の探偵というのが実に新鮮です。

“探偵もの”という犯罪映画とファミリー映画の合体というユニークな設定が本作の大きな魅力となっているのです。

ミステリー映画としての面白さ


(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

そんなコメディ的な要素をふんだんに盛り込みつつ、犯人探しの方はかなり本格的なミステリ作品となっています。

ミステリー好きも納得のレベルといっていいでしょう。

前作も複雜な手口の殺人事件でしたが、本作でも底知れぬ陰謀が渦巻いているようです。

デマンはホームズ好きということもあり、ささいなことから推理を組み立てることに長けています。

ホームズのような完璧なロジックを駆使するわけではありませんが、直感と緻密な思考により、捜査を進めていきます。その加減がちょうどいい塩梅なんです。

一方のテスは長年養った警察としての捜査方法をフルに使い、犯人を追い詰めていきます。

もっとも、デマンからは「何も考えていませんね。ノープラン」と突っ込まれていますが…。

そんな二人に加え、今回初登場するのが、元サイバー捜査隊のヨチです。

サイバー関係といえば、都合のいいハッカーがなんでもかんでもカチャカチャと指を動かして突き止めてくれる作品が多いですが、こちらはかなり実務的なところがリアルです。

技術とはまったく関係ない張り込みなどをさせたら全く役にたたない上に、金にがめついキャラクターですが、どこか憎めません。

そんな強力な(!?)助っ人を得たふたりの探偵は、前作以上に凶悪な犯人と対峙して行きます。

人間味溢れる、夢追い人であるおじさん探偵の活躍をとくとお楽しみください!

スポンサーリンク

まとめ


(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

ミステリーマニアのカン・デマンを演じるのは、映画『マルチュク青春通り』(2004)、『青春マンガ』(2006)、ドラマ「推理の女王」シリーズなどで知られるクォン・サンウです。

シリアスからコメディまで幅広く演じられる名優ですが、本作では妻に内緒で探偵になるという夢を追い、家庭崩壊まで後一歩というコミカルな役どころを溌剌と演じています。

ノ・テスを演じるのは、『ミッドナイト・ランナー』(2017)の警察学校の教官役が記憶に新しいソン・ドンイルです。

ドラマ「応答せよ」シリーズでも人間味溢れる父親を演じていましたが、本作では、妻と双子の娘に戦々恐々としている不器用な夫をコミカルに演じています。

警察官としての逞しい顔とのギャップが見どころにひとつとなっています。

ヨチを演じるのは映画『ダイナマイト・ファミリー』(2014)、『フィッシュマンの涙』(2015)、ドラマ『Live』で知られるイ・グァンスです。

ねちっこさと爽やかさが絶妙に入り混じったキャラクターを軽妙に演じています。

デマンの妻を演じるのは『チェイサー』(2008)のソ・ヨンヒ、テスの妻にはイ・イルファが扮し、しっかりと家庭を支える妻&母を迫力ある演技で見せてくれます。

監督は『肩越しの恋人』(2007)、『女は冷たい嘘をつく』(2016)のイ・オン。

「探偵なふたり」シリーズが今後もずっと続くシリーズものになるよう願って本作を作ったそうです。

是非是非シリーズものとして、末永く続いて行って欲しい作品です。

余談ですが、冒頭、依頼人が現れず暇を持て余しているふたりの探偵のもとに、メニューを持って中華料理店の男が売り込みにやってくるシーンがあります。

その店の名前が「カンドン園(ウォン)」なのです。こんな小ネタも楽しい愛すべき作品となっています。

『探偵なふたり:リターンズ』は、2019年3月16日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて全国順次公開されます。

次回のコリアンムービーおすすめ指南は…

次回も魅力あふれる韓国映画の新作を取り上げる予定です。お楽しみに!

【連載コラム】「コリアンムービーおすすめ指南」記事一覧はこちら



関連記事

連載コラム

映画『ザ・クーリエ』ネタバレ感想と考察評価。“女トランスポーター”のオルガキュリレンコが悪を打ち砕く|未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録12

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第12回 世界のあらゆるジャンルの映画から埋もれかけた作品、時には大スターが出演する映画も登場する、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2 …

連載コラム

『ランディ・ローズ』映画考察評価。没後40年の永遠のギタリストの軌跡をたどる【だからドキュメンタリー映画は面白い75】

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第75回 今回取り上げるのは、2022年11月11日(金)から新宿シネマ・カリテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショーの『ランディ・ローズ』。 80年代 …

連載コラム

映画まぼろしの市街戦|ネタバレ感想とあらすじ結末の解説考察。ラストに傑作カルトが描く“真の狂気”への問い【B級映画 ザ・虎の穴ロードショー64】

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第64回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

ウルトラマンティガ解説|ウルトラマントリガー放送に向けネタバレ有で平成三部作の“原点”を紹介【邦画特撮大全89】

連載コラム「邦画特撮大全」第89章 今回の邦画特撮大全は『ウルトラマンティガ』(1996~1997)を紹介します。 今年2021年7月10日(土)より放送開始される『ウルトラマントリガー NEW GE …

連載コラム

講義【映画と哲学】第3講「悲劇的な知について:ヤスパースの悲劇論からコーエン兄弟作品を見る」

講義「映画と哲学」第3講 日本映画大学教授である田辺秋守氏によるインターネット講義「映画と哲学」。 第3講では、ジョエル・コーエンとイーサン・コーエンの兄弟監督の『ブラッド・シンプル』(1984)をは …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学