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Entry 2019/03/12
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韓国映画『探偵なふたり:リターンズ』感想評価レビュー。完成度はパート1以上のコミカルな推理サスペンス!|サスペンスの神様の鼓動13

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

サスペンスの神様の鼓動13

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回取り上げる作品は、2019年3月16日(土)より全国順次公開される、推理おたくの青年と、かつて伝説とまで呼ばれた元刑事が、難解な殺人事件に挑む推理サスペンス『探偵なふたり:リターンズ』です。

2015年製作の映画『探偵なふたり』の続編である本作。

前作を未見でも楽しめること請け合いですが、知っていたほうが愛着も湧きますので、さくっと前作の結末までのあらすじを紹介をしてから本作の話に移って行きます。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

前作『探偵なふたり』(2015)の結末までのあらすじ


(C)2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.
漫画喫茶を経営するカン・デマン。

デマンは推理おたくで、未解決事件を紹介するサイトを開設し、営業そっちのけで推理に没頭していました。

デマンには家族がいますが、漫画喫茶の売り上げも少なく、生活するにもギリギリの状況となっており、デマンの妻ミオクも呆れた様子を見せ、何度も離婚危機を迎えています。

また、デマンは親友の刑事ジュンスを訪ねて度々警察署に顔を出し、事件の捜査に首を突っ込んでいました。

ジュンスの相棒で「伝説の刑事」「人食いザメ」とも呼ばれているノ・テスは、警察署へ気軽に出入りするデマンを良く思っていません。

ある時、殺人事件が発生し、ジュンスが容疑者にされてしまいます。

テスは、ジュンスを犯人と決めつける上司に反発し。

2週間以内に真犯人を捕まえられなければ、辞職する事を条件に、独自捜査を開始します。

また、デマンも、兄弟同然に育ったジュンスを救う為に、テスに協力を要請し、2人で真犯人を探し始めます。

当初は反発しあっていた2人ですが、家では奥さんに頭が上がらないという状況が一致し、意気投合。

そしてデマンの推理力と、テスのベテラン刑事の捜査力と勘で事件を解決します。

市民賞を授与されるデマン。

警察に嫌気がさしたテスは、デマンを誘い、2人で探偵事務所を設立しました。

映画『探偵なふたり:リターンズ』のあらすじ


(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED
探偵事務所を設立したテスとデマンですが、依頼が全く無く、暇な時間を過ごしていました。

デマンの「殺人事件以外は受けない」という謎のプライドに不満を感じるテス。

テスが「自分を頼って人が殺到する」と、根拠不明の自信を持ち、ろくに営業をしてこなかった事に反発心を抱くデマン。

デマンが自ら営業を開始し、警察署で困っている人に売り込みをかけるという方法で、最初の依頼人を得る事に成功します。

依頼人は、婚約者が突然失踪したという女性でした。

婚約者は「すぐに戻る」と買い物に出かけて姿を消し、その後、電車に轢かれて死亡した事が判明します。

婚約者は孤児院の出身で、死体も2日前に火葬したと報告されました。

デマンとテスは、女性から受け取った婚約者のスマホを確認します。

スマホには、イ・デヒョンという人物から、施設出身者が謎の死亡を遂げている事と「気を付けろ」という警告がメールで送られていました。

デマンは婚約者がいる事から、自殺ではなく他殺の線を疑いますが、テスは慎重に捜査する事を重視。

事件解決の報酬は5000万ウォン。

デマンとテスは、まずイ・デヒョンを探し、話を聞こうとしますが、それは謎が交錯する難解な事件の始まりに過ぎず…。

サスペンスを構築する要素①「目まぐるしく変化するストーリー」


(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED
「探偵なふたり」シリーズの特徴は、次から次へと新たな事実が判明し、事件が覆されていく、二転三転するストーリー展開にあります。

作品に散りばめられた情報を、デマンが見落とす事無く全て回収し、天才的とも言える推理力を見せて行きます。

『探偵なふたり:リターンズ』でも、デマンの推理力は健在ですが、あまりにも不可解な情報が多いため、事件は混迷を極めます。

どのようにして真実に辿り着くのか?ここが見どころの1つです。

サスペンスを構築する要素②「事件解決の鍵は、動機の解明」


(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED
前作『探偵なふたり』では、事件解明の鍵を握るのは“アリバイ崩し”でした。

『探偵なふたり:リターンズ』では、犯人の目星が早い段階でつくのですが、犯行の動機を明かす事ができません。

本作の鍵を握るのは、ミステリー用語でいう「Why done it = なぜ犯行を行ったか」の部分です。

事件解決の為に必要な情報は、実は前半部分で全て出てきます。

皆さんもデマンと一緒に、推理力を働かせてみて下さい。

サスペンスを構築する要素③「噛み合わない2人の探偵」


(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED
難解な事件に挑む2人の探偵、デマンとテス。

ここは2人で力を合わせてほしい所ですが、2人とも「恐妻家」という部分以外は、全く噛み合いません。

長年の刑事の経験で養った、慎重な捜査を重視するテスに対し、デマンは自身の直感を信じ、すぐに犯人を決めつけます。

事件の調査のやり方1つでも噛み合わず揉める事が多い2人ですが、それぞれが探偵事務所に対する取り組み方にも不満を抱き、協力体制を築けません。

その2人に、元サイバー捜査隊のエースと呼ばれながら、盗聴癖で解雇された過去を持つヨチが加わるため、話がさらにややこしい事になります。

癖の強い3人は真相を暴く事ができるのでしょうか?

その前に団結する事ができるのかも、本作の見どころです。

映画『探偵なふたり:リターンズ』まとめ


(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED
「探偵なふたり」シリーズは、推理サスペンスの要素をしっかりと取り入れていますが、全体的にはコミカルな作品となっています。

主にデマンとテスの、子どもの喧嘩のような掛け合いが中心になっていて、デマンを演じた主演のクォン・サンウは、撮影の度にアドリブが多くなり「シナリオ通りに撮影したものは1つもない(笑)」と語っています。

クォン・サンウは前作『探偵なふたり』に主演した際のインタビューで、こう答えています。

「私はチョン・ウソンさんのように常にカッコいい演技だけができる俳優ではありません。どのジャンルでも少しずつコミカルな要素があるのを探すほうです」

本作でも、クォン・サンウの持つ絶妙なコメディセンスが、デマンという強烈なキャラクターに反映されており、作品を引っ張る牽引力となっています。

デマンとは違い常識人のテスは、デマンの突拍子の無い推理に振り回されており、時に父親のように叱り、デマンの暴走を喰い止めます。

テス役のソン・ドンイルが、表情豊かに演じており、テスを怖いだけではなく愛嬌のあるキャラクターにしています。

また、前作よりもコミカルなシーンが多くなっています。

前作『探偵なふたり』は後半に進む程、シリアスな展開になっていましたが、本作『探偵なふたり:リターンズ』では、クライマックスで笑いを誘うシーンが盛り込まれており、エンターテイメント作品として完成度を上げた印象です。

『探偵なふたり』は、韓国で250万人の集客を記録、『探偵なふたり:リターンズ』は300万人の集客を記録し大ヒットとなりました。

デマンとテスの活躍をまた見たいので、このまま長期的なシリーズにならないかと思っています。

ふたりなら、また新たなトラブルを抱えて、落ち着くことは無いでしょうから。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…


(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

クリント・イーストウッド、10年ぶりの監督と主演作で話題の、実話を元にしたサスペンス『運び屋』をご紹介します。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら



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