でも、爆発したって、べつによくないですか?
「このミステリーがすごい! 2023年版」「ミステリが読みたい! 2023年版」で1位を獲得した呉勝浩の同名ベストセラーを映画化したミステリー・サスペンス『爆弾』。
酒に酔った勢いでの傷害で逮捕された、冴えない風体の中年男。「スズキタゴサク」とだけ名乗った、身元が一切不明の男は突如として、都内に仕掛けられた爆弾の《予知》を開始した……。
本記事では、映画『爆弾』のネタバレあらすじと共に、本作の魅力を紹介。
スズキと類家という《正体不明》な同類が繰り広げた心理ゲームの「箱庭」という特徴、そして映画を観たあなたがスズキに対して嫌悪、あるいは共感を抱くことで明らかになる《心の形》を考察・解説していきます。
CONTENTS
映画『爆弾』の作品情報

(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会
【日本公開】
2025年(日本映画)
【原作】
呉勝浩『爆弾』(講談社文庫)
【監督】
永井聡
【脚本】
八津弘幸、山浦雅大
【主題歌】
宮本浩次
【キャスト】
山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎、片岡千之助、中田青渚、加藤雅也、正名僕蔵、夏川結衣、渡部篤郎、佐藤二朗
【作品概要】
呉勝浩の同名ベストセラー小説を『キャラクター』『帝一の國』などの永井聡監督が実写映画化。
『ゴジラ-1.0』『木の上の軍隊』の山田裕貴が天才肌の刑事・類家役として主演を務め、『新解釈・三國志』などのコメディから『あんのこと』『さがす』などのシリアスまで演じ分ける佐藤二朗が謎の男・スズキタゴサクを怪演。
伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎、片岡千之助、中田青渚、加藤雅也、正名僕蔵、夏川結衣、渡部篤郎と豪華キャストが共演。さらに主題歌を「エレファントカシマシ」の宮本浩次が担当した。
映画『爆弾』のあらすじとネタバレ

(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会
東京都中野区・野方署で事情聴取を受ける、身元不明の中年男。
偽名にしか思えない「スズキタゴサク」を名乗る男は、酔った勢いで酒屋の自動販売機を蹴り飛ばし、止めに入った店主を殴るなどの乱暴を働いたことで、沼袋交番勤務の巡査長・矢吹と巡査・倖田に逮捕され野方署に連行されました。
聴取を担当する野方署の刑事・等々力に「逮捕される以前の記憶がない」「自販機の弁償代と酒屋店主の治療代を払いたいが、金がないので貸してくれ」と語る中、スズキは急に「刑事さんの役に立ちますから」「自分には霊感があり事件の予知ができる」と言い出します。
「今日の午後10時に秋葉原辺りで、何か事件が起きる」
等々力も聴取に付き添っていた刑事・伊勢も、スズキの《予知》を全く信じていませんでしたが、その時刻通りに秋葉原で爆破事件が発生。また等々力のことを気に入ったと言うスズキは、彼に「あと3回、1時間ごとに爆発が起こる」と予告しました。
あくまでも「霊感が働いただけ」と主張するスズキに、等々力は「秋葉原の爆破事件ではまだ死者は出ていない」「殺人を犯していない以上、まだ引き返せる」と説得を試みますが、1回目の爆発から1時間後の午後11時、東京ドームシティ付近で2回目の爆破が起こりました。
連続爆破事件の重要参考人・スズキの存在は本庁にも伝えられ、警視庁捜査1課・強行犯捜査係の刑事・類家と彼の上司・清宮が野方署に到着。スズキの取り調べは二人が担当することになり、所轄の刑事である等々力は周辺捜査に回されます。
清宮が取調官となり、類家は付き添いながらもスズキの動向を観察することに。スズキは等々力と話せないのを残念がりながらも、清宮に「9つの尻尾」という9つの質問の回答をもとに相手の《心の形》を言い当てる心理ゲームを提案します。
1問目、2問目、3問目と続く中、スズキは4問目の質問内で突然「ハセべユウコウ」という名を口にしました。それは、かつて誰からも尊敬されるベテランとして野方署に勤務していたが「事件現場で密かに自慰をした」という不祥事でマスコミに糾弾され、のちに駅で投身自殺した刑事・長谷部有孔のことでした。
類家に依頼され、長谷部の遺族への聞き込み捜査に向かう等々力。彼は長谷部と職場でコンビを組み、家族ぐるみの付き合いをしていた仲でもありました。そして長谷部が逮捕された当時も、「気持ちは分からなくない」と唯一彼を擁護する発言をした人間でもありました。
等々力は長谷部の元妻・石川明日香にスズキの顔写真を見せますが、見覚えがないとのこと。
明日香は、長谷部が駅で投身自殺を遂げたために鉄道会社から損害賠償を求められ、一時は一家離散を選ぶほどに経済的に困窮した過去がありました。現在はスタイリストとして働く娘・美海と同居していますが、化粧品会社の研究員として働く息子・辰馬とは音信不通の状態でした。
そもそも所轄の一刑事に過ぎない長谷部の不祥事がマスコミに流れたのは、彼のカウンセリングを担当していた医者が情報を売ったためであり、長谷部がカウンセリングに通っていたのは、自慰行為を目撃した等々力が見逃す代わりに治療を受けてほしいと頼んだためでした。
取調室では「9つの尻尾」が続いていますが、スズキは散髪したてであり、記憶喪失であるはずの彼は今日を《特別な日》だと認識していた可能性が高いことに清宮は気づきます。対してスズキは「よく聞いてください」と8問目の質問と共に、意味の分からない話を語り始めました。
坂道を登った先から見下ろせた阪神タイガースの試合。自身が好きな中日ドラゴンズの龍はともかく、日本のプロ野球チームはツバメや鯉など弱そうな動物の名ばかりで、ミノタウロスみたいに強そうな動物の名を冠した方がいい。日本にも半牛半人の妖怪がいたが、その肉はどんな味で、特にタンはどんな味がするだろう。神の言葉は母と子のみか、天は気まぐれ……。
話題と共に1本、2本と指を立てるスズキの仕草から、類家はそれらの話が次の爆発が起こる場所を予告したクイズであると察し、タイガースは「寅の刻の正刻・午前4時」、半牛半人の妖怪・件(くだん)とタンの部位・舌(した)で「九段下」を意味すると推理。
また等々力の「スズキの話術の根幹は『卑下』であり自らを『神』には例えない」という助言から、類家は「神の言葉は母と子のみか」の一節も「天は気まぐれ」の言葉通り「ば(葉)」の「てん(天/点)=濁点」をなくすと回文となり、有名な回文として知られる「かみ(神/紙)」である「新聞紙(しんぶんし)」を意味することにも気づきます。
東京・九段下に唯一ある、新聞配達所に急行する警察。以前にスズキがバイトに応募していたという証言もとれる一方で、配達バイクに爆弾が仕掛けられているのが判明。応援に駆けつけた矢吹・倖田は業務中だった他の配達バイクも見つけ、間一髪で新たな犠牲者を出さずに済みます。
スズキの8問目の質問「煙が上がったのは?」に「九段下の新聞配達所」と答えそうになる清宮に「スズキに予言を吐かせるには、ゲームを長引かせなくてはいけない」と制止する類家。スズキは3回目の爆発が「午前11時」に起こると予告した上で、再び例の《意味の分からない話》を指を1本ずつ立てながら語り出します。
可能性が減っていくのが嫌な時には酒を飲んで寝てしまうが、部屋の外から聞こえてくる近所の幼稚園の子どもの歌声で寝られず「静かにしてくれ」と言いたくなる。最近性欲がなくなりつつあるが、それでも「理性」と「野性」の2つが交互に来る夜があり、それは決まって木曜日。二兎を追う者は一兎をも得ず。大山鳴動して鼠一匹……。
「次の標的は、幼い子どもがいる幼稚園などの保育施設」と確信した清宮はすぐに取調室を後にします。類家はまだヒントを聞き逃しているのではと忠告しますが、清宮は類家の能力を信用した上で捜査を続けるように命じます。
「よ(夜)」が2つ並んで「よよ」、そして木曜日の「木」で「代々木」の保育施設が標的であると推理する類家。その推理通り、とある保育施設で無事に爆弾が発見されました。
一方、スズキの見張り役を任されていた伊勢は、2人きりの際にスズキから「学生時代に恋した相手が教師に陵辱・殺害された挙句、自分が犯人扱いされた」という過去の記憶を聞かされるなど、独自に彼との関係性を築いていました。
スズキは「ホームレス時代にある人物と知り合い、その人物が見つけた居住先のシェアハウスで暮らさないかと誘われた」と伊勢に明かし、紛失していたスマホをとある喫茶店に置いてきたのを思い出したため、全てを告白するからスマホを回収してほしいと彼に頼みます。
功績を上げる絶好の機会ながらも、スズキの見張り役を怠るわけにもいかない伊勢は、矢吹に連絡してスマホの回収を依頼します。伊勢と矢吹は同期でしたが、矢吹の手柄を横取りする形になった伊勢が先に刑事へと昇進したという過去がありました。
矢吹と彼に同行した倖田の2人は、喫茶店でスマホを回収。スマホにはとある住所が記載されており、現在も不明のスズキの居住先かもしれないと判断した二人はその住所へと向かいます。
取調室には午前11時、代々木公園の南門付近が爆破されたという報せが届きます。ホームレスの人々が炊き出し会場に集まっていた時間帯での爆破は、多数の死傷者を出しました。
《意味の分からない話》を語る前、スズキはホームレスについて言及し、清宮に「命は平等って本当でしょうか?」と尋ねていました。それは「幼い子どもたちと、社会に不要なホームレスたちのどちらの命を助けるか?」という選択を清宮が迫られている状況へのヒントでした。
そして《意味の分からない話》の中でも、選択を連想させる「可能性」、代々木公園のある位置を示す方角、選択に加えて代々木に仕掛けられた爆弾が1つではないのを示す「二兎」、炊き出しに行儀よく並ぶホームレスたちをゲートに並ぶ競走馬に例えた「競馬場」など、見落とされたヒントがいくつも潜んでいました。
スズキは清宮に最後の質問を尋ねます。「今、ホッとしていますか?」「ホームレスではなく、子どもたちが死ななくて」……。
激昂した清宮は、本心を抉ってくるスズキの人差し指をへし折ります。痛みに悶えながらもスズキは「これがあなたの《心の形》です」とへし折れた指を見せつけ、清宮を嘲笑。自らの指と引き換えに清宮の心を折ったスズキは「9つの尻尾」の《2回戦目》の対戦相手を求めました。
映画『爆弾』の感想と評価

(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会
スズキと類家という《正体不明》の同類
「ホームレス時代の明日香と出会い、《死人》と感じていた自分のことを《生きた人間》として接してくれた彼女に惹かれていた」と思わせる描写は登場するものの、その素性や過去の経歴については原作小説版でも最後まで明かされることがなかったスズキタゴサク……と名乗る誰か。
スズキは自らを「くだらない人間」と評し、自分と似ていると語った刑事・類家のことは「優秀過ぎる人間」と評していますが、彼の卑下を通り越した慇懃無礼さに見受けられる自己承認欲求の強い飢餓感、そして悪魔的といえる人心操作の能力からは「かつてのスズキも《優秀過ぎる人間》だった」と想像するのは決して難しくありません。
映画では原作小説以上に、物語における「類家とスズキという《同類》同士の対決」という要素がより強調されて描かれていますが、それはエンタメ色を強めるのはもちろん「同じ《優秀過ぎる人間》であるはずの2人が、刑事と連続爆破犯という正反対の道を歩むに至った経歴とは、果たしてどんなものだったのか?」を観る者に思いを馳せてもらうための《仕掛け》といえます。
映画作中ではスズキと同様に、類家の過去や経歴についてもほとんど明かされていません。
《優秀過ぎる人間》である類家は、何歳の時点で「こんな世界、滅んでしまえばいい」と思うようになったのか。なぜ「謎解きを要する職業」「自らの才能を生かせる職業」に絞っても絞り切れないほどに無数に存在する職業の中でも、刑事という仕事を選んだのか。スズキに比べたら身元は判明しているものの、その内面はスズキ同様に謎に包まれています。
そもそも《優秀過ぎる人間》である類家が、ゲームで敗北した程度で「こんな世界、滅んでしまえばいい」と本心を漏らしてしまうような《タマ》なのか。そう思わせる類家の人物像は、山手線爆破の計画の詳細は知らなかったとされているものの、逮捕前の「自販機を蹴り飛ばした」という行動で「本当は計画の全容自体も全て理解していたのでは?」と観客に思わせるスズキの底知れなさにも似ています。
《箱庭》でのゲームを終わらせないために

(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会
類家とスズキの対決は野方署の取調室を中心に繰り広げられますが、なぜスズキは清宮に要望を問われた際、取調室以外の場所に移動することを拒んだのでしょうか。
「スズキが好意を寄せていた明日香にも裏切られたと感じ、連続爆破事件の真犯人を演じる羽目になったきっかけは野方署にあり、今回のゲームが開始された《会場》だと認識していたから」「自分のことを裏切った明日香に『娘・美海のためにずっと嘘を吐き続けなければならない』という報復を与えるのに、野方署以外に舞台はなかったから」と様々な理由が浮かびますが、「取調室が無機質な「箱」の形をしている点」が最も重要なのかもしれません。
《優秀過ぎる人間》は自らの能力を存分に発揮できず、世界という名の枷に閉じ込められてしまう世界。ひどく矮小な世界。ゲームをするぐらいしか、楽しみのない世界。箱の中身を壊すも守るも自分次第な世界……。
「その人間の心象風景そのものが映し出される、箱の形をした空間」と聞いて、箱状の舞台に砂やオモチャを自由に置かせることで自己の内面を引き出せる「箱庭療法」を思い出した方は多いはずです。また箱庭療法は遊戯療法(遊びを主なコミュケーション手段とした心理療法)の1種であり、スズキも映画作中で「9つの尻尾」という心理テストめいたゲームを提案していることも見逃せません。
取調室という箱庭で戯れているのは、時に「優秀過ぎる人間」や「くだらない人間」と評され、時に「異常者」と社会から排除される人間、2人。互いの精神を追い詰め合い、どちらが敗北し嘲笑されるかの殺し合いに等しいゲームを続けるばかり。そして2人とも、社会から押し付けられる《治療》など、ハナから欲していない……。
しかしながら、ゲームはいつか終わりを迎え、箱庭もオモチャも片付けられてしまう。だからこそスズキは「自分だけが在処を知る爆弾」というオモチャを置くことで、取調室という垣根を超えて、この世界そのものをゲームのための箱庭にしてしまったのではないでしょうか。
まとめ/もしあなたが、スズキに嫌悪したら

(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会
「その人間の心象風景そのものが映し出される、箱の形をした空間」と聞いて、「箱庭」以外に別の言葉を連想した方もいるのではないでしょうか。
それは、おそらく「映画館」であるはずです。
真っ暗な箱状の空間で、スクリーン上に映し出される物語の登場人物たち、あるいは演者や監督たちの心象風景。人々は映画館という箱庭の中で娯楽に耽り、時には疲弊した心を癒されることもあります。しかし上映が終わり、一度映画館を出てしまえば「ウンザリする世界」がそこには広がっています。
そんな映画館体験で皆さんが味わった感情は、心の救いになっていたのかもしれない明日香にも裏切られたと感じ、この世界に「もう、いいや」と絶望し切った果てに、取調室というゲームがし放題な箱庭に閉じこもることを選んだスズキの心中に似ています。
そしてスズキは取調室という名の箱庭に閉じこもるだけに留まらず、取調室の外の世界までも、自らの慰めの道具に過ぎない遊び場としての箱庭にしてしまった……そんなスズキのことを、あなたは嫌悪するのでしょうか。
しかし、もしスズキが自らを「死人」と評するほどに、自己嫌悪の激しい人間だったとしたら、皆さんが抱いたスズキという人間への嫌悪感は、ある意味では彼に対する「共感」と言えます。
だとしたら、あなたの心の中にも「バケモノ」はいる、ということになる。
あなたの「心の形」こそが、スズキという正体不明の、ゆえに何者にもなれる、無邪気で邪悪な人間の姿なのかもしれません。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身。2019年に日本映画大学を卒業。映画評を寄稿する一方、映画配給レーベル「Cinemago」宣伝担当として、『ザ・エクソシズム』『Kfc』のキャッチコピー作成なども行う他、『獄舎Z』『トレジャー・アイランド』の字幕監修を手がける。2025年公開のタン・チュイムイ監督・主演作『野蛮人入侵(原題)』では、日本公開版タイトル『私は何度も私になる』を命名した(@youzo_kawai)。

(C)Cinemarche


































