呉勝浩のベストセラー小説『爆弾』が映画化決定!
『このミステリーがすごい! 2023年版』(宝島社)、『ミステリが読みたい 2023年版(ハヤカワミステリマガジン2023年1月号)』で1位を獲得した呉勝浩のベストセラー小説『爆弾』。
スズキタゴサクという酔っぱらった中年男が、自販機と店員に乱暴を働き、警察に連行されました。スズキタゴサクは軽快におしゃべりをしながら、都内での爆破を予告します。そして次々と予告通りに爆発が起こり、彼は爆破事件の重要参考人となりました。
果たしてスズキタゴサクは本当に爆破犯人なのでしょうか。またその狙いとは? 謎を追う交渉人とともにスピーディーな展開が読者を魅了するミステリー小説『爆弾』。
この度、『キャラクター』(2021)の永井聡監督が交渉人・類家に山田裕貴を招いて、本作の映画化が決定しました。
映画『爆弾』は、2025年に全国ロードショー。映画公開に先駆けて、小説『爆弾』をネタバレありでご紹介します。
小説『爆弾』の主な登場人物
【交渉人・類家】
警視庁捜査一課でスズキタゴサクと真っ向から対峙する交渉人
【交番勤務の巡査・倖田】
爆弾捜索に奔走
【所轄刑事・等々力】
スズキタゴサクの過去を追う
【交渉人・清宮】
類家の上司としてスズキタゴサクと交渉する
【長谷部有孔】
優秀な刑事だがある不祥事をおこし自殺する
【石川明日香】
長谷部の元妻
【スズキタゴサク】
爆破予告をする謎の中年男
小説『爆弾』のあらすじとネタバレ
『爆弾』(著者・呉勝浩/講談社文庫)
東京都中野区の野方警察署に、自動販売機を蹴り飛ばし、止めようとした酒屋店主を殴り飛ばした、中年男の酔っ払いが連行されました。
男の年齢は49歳。でっぷりと腹の突き出た肥満体型で、いがぐり頭のてっぺんには大きな10円ハゲ。スズキタゴサクとふざけた名前を名乗り、取締官の等々力はうんざりします。
傷害の罪状ですが、男は一文無しのようです。タゴサクなどといういかにも偽名っぽく、どこの誰かもわかりません。酔っぱらったせいか、以前の記憶がないと言います。
ですが、ある霊感は働くと言い、秋葉原辺りで何か事件が起こると言いだしました。刑事はまったく相手にしていませんでしたが、その5分後、男の霊感は的中し、秋葉原の廃ビルで爆発が起こりました。
おまけに、スズキは「わたしの霊感じゃあ、ここから三度、次は一時間後に爆発します」と言いだしました。
その1時間後、東京ドームシティでも爆発が起こります。二度の爆破予告をしたことで、スズキタゴサクは連続爆破事件の重要参考人となりました。
その後、警視庁捜査一課特殊犯捜査課・清宮輝次がスズキの新たな取調官になりました。清宮は穏やかにスズキの《取り調べ》を始めます。
すると、スズキが不意に「ハセベユウコウ」という名前を口にしました。
長谷部有孔は、4年前までは野方署の番人とも呼ばれたベテラン刑事。野方署の誰もが彼を慕い尊敬していましたが、その名前は、今や野方署の汚点として記憶されています。
4年前、長谷部は事件現場で自慰をするという淫らな行為を目撃され、週刊誌に《お恥ずかしい不祥事》とすっぱ抜かれました。
長谷部は昨日まで仲間だった刑事たちから厳しく糾弾され、定年を目前に退職。そして3カ月後に自殺しました。
スズキがなぜ長谷部の名前を出したのかはわかりませんが、彼の標的は野方署だと思われ、長谷部とスズキとの関係を探るために捜査員が長谷部の家族に連絡を取り始めました。
一方、スズキタゴサクは、深夜になっても、取調室でとりとめのない話をしています。タイガースの試合、未来を予言する半獣半人の妖怪、焼き肉のタンなど。
スズキが、その雑談の中で次の爆弾についてのクイズを披露しているとわかり、清宮の部下の頭脳明晰な類家(るいけ)は、スズキの出したクイズに挑戦します。
類家は次々とクイズを解き始め、色めきだった捜査陣は、次の爆発場所を九段下の新聞販売所に絞り、爆発こそしましたが、間一髪のところで被害はありませんでした。
次の爆弾予告は、時刻は午前11時、場所は代々木。爆弾が仕掛けられている場所は幼稚園か保育園とわかります。各場所に避難命令が出されました。
11時までに避難は完了し、幼稚園に仕掛けられていた爆弾も発見されて処理されたのですが、午前11時に代々木公園南門でも、60名以上を巻き込んで爆発が起こりました。
スズキタゴサクが言葉遊びのようなクイズを出題している一方で、取調室の外側では捜査員を総動員した全力捜査が行われています。
スズキが唐突に口にした元刑事の長谷部有孔の元妻・石川明日香は、見せられたスズキタゴサクの顔写真に「見覚えがない」と言いました。
長谷部は駅のホームから飛び降りて命を絶ちました。賠償金は莫大な金額で、一家離散の後、今は長女の美海と同居させてもらっているのだと明日香は語ります。長男の辰馬は今も離れて暮らしているとのことでした。
一方、取調室のスズキは、隙を見て見張りの若い刑事・伊勢に同期の警察官・矢吹に電話をさせ、無くしたと言った自分のスマホを回収させました。スマホにはスズキの住所が記されていて、矢吹は独断専行でその住所へと向かいます。
到着した家はシェアハウスで、人の気配はありません。階段を上ると薬品の並ぶ一角がありました。矢吹は勇んで家探しを続行。
同行している後輩の倖田沙良に先行して、矢吹は進んでいきます。奥の部屋を発見し中に入ると、そこに座らされていた男性を発見し、矢吹が近づこうとしたとき何かが爆発しました。
その男性は、長谷部有孔の長男・辰馬と思われ、彼の遺体は爆発により粉々に飛び散ってしまいました。
小説『爆弾』の感想と評価
警察に連行されたひとりの酔っ払い・スズキタゴサクが爆破予告をします。単なる冗談だと思っていた刑事たちですが、スズキの爆破予告はことごとく的中しました。
爆破事件とおおいに関係を持つと思われたスズキは、口からべらべらととりとめもない話を始め、話の合間にクイズをだしてきます。
そんなスズキのクイズから、仕掛けられた爆弾の情報を聞き出そうと、刑事たちはやっきになります。
スズキの出すクイズには、爆弾の仕掛けられた場所と爆破時刻のヒントが隠されていました。次はいつ、どこで、爆発が起こるのか。刑事たちのみならず、読者もハラハラドキドキすることは間違いありません。
本作では、スズキが出す言葉遊びのようなクイズとそれに振り回される刑事たちの攻防が、スリルと緊張感をもって描かれています。
本当の爆破犯人は誰なのか。また、スズキがこの事件とどんな関わりがあるというのでしょう。
そして、ラストでスズキタゴサクという男の異常な性格が暴露されたとき、おしゃべりで掴み処のないこの男が悪魔に思えることは間違いありません。
まだ爆発していない爆弾がどこに隠されているのかもわからず、薄気味悪さを残して本作は終了。ですが、スズキタゴサクが生きている限り、爆弾の恐怖は続くと思われるのです。
映画『爆弾』の見どころ
呉勝浩氏のベストセラー小説「爆弾」が映画化。手がけたのは『キャラクター』(2021)の永井聡監督です。
永井監督は、映画化にあたり、心の中に誰しもが抱えている過去の消したい記憶や、隠しているが自分の中に潜んでいる悪意、そういう爆弾のような人間の闇を映した映画にしたいと語ります。
そんな監督の想いを形にするキャストとして、警視庁捜査一課で謎の男・スズキタゴサクと真っ向から対峙する交渉人類家に山田裕貴が抜擢されました。また、伊藤沙莉、染谷将太、渡部篤郎といった実力派の俳優も顔を揃えます。
ですが、何と言っても、注目すべきは「スズキタゴサク」でしょう。彼は、自分に向けられる憎悪や殺意を「自分が相手から望まれている」と思って喜ぶ特異な男です。
柔和な顔つきでぺらぺらとよくしゃべる胡散臭いヤツ、肥満体型でいがぐり頭のむさくるしいヤツ。出演者名も「スズキタゴサク」とされたままです。
こんなキャラを誰が演じるというのでしょうか。若干、細身ではありますが、温水洋一さんあたりがスズキタゴサクを演じると面白いかもと思います。
爆弾騒ぎと並行して、原作には警察官の表に出せない性癖や出世欲なども描かれています。
この映画によって、突きつけられる爆弾の恐怖ばかりか、人間の心の闇も鋭く描き出されるのではないかと、期待は高まります。
映画『爆弾』の作品情報
(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会
【日本公開】
2025年(日本映画)
【原作】
『爆弾』(著者・呉勝浩/講談社文庫)
【監督】
永井聡
【企画・プロデューサー】
岡田翔太
【キャスト】
山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、渡部篤郎、スズキタゴサク
まとめ
呉勝浩のベストセラー小説『爆弾』が、永井聡監督によって映画化され、2025年に全国ロードショー決定。
「爆弾を仕掛けた」という爆破予告通りに、仕掛けられた爆弾が次々と爆発していきます。犯人は一体だれか。また爆破予告をするスズキタゴサクとは何者なのか。
謎は謎を呼び、複雑な事件の詳細が徐々に明かされていきます。悪魔かダークヒーローというべきか。興味深い登場人物のスズキタゴサクに注目でした。
映画では誰が彼を演じるのか。とても気になる一方、原作の緊張感そのままのリアルな爆発の恐怖を映画でも期待します。