連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第43回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第43回は、ジョン・ウー監督が1986年に手がけた『男たちの挽歌』。
ド派手なガンファイトが大きな話題を呼び、“香港ノワール”なるジャンルを確立したハードボイルドアクションを、ネタバレ有りで解説致します。
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映画『男たちの挽歌』の作品情報
【日本公開】
1986年(香港映画)
【原題】
英雄本色(英題:A Better Tomorrow)
【監督・脚本】
ジョン・ウー
【製作】
ツイ・ハーク
【製作総指揮】
ウォン・カーマン
【撮影】
ウォン・ウィンハン
【音楽】
ジョセフ・クー
【キャスト】
ティ・ロン、チョウ・ユンファ、レスリー・チャン、エミリー・チュウ、リー・チーホン、ケン・ツァン、ジョン・ウー
【作品概要】
香港マフィアに生きる2人と警官1人の、3人の男を中心に描く1986年製作のハードボイルドドラマ。
後年、アメリカ映画『フェイス/オフ』(1997)や「レッドクリフ」シリーズ(2008~09)で名を馳せるジョン・ウー監督の出世作となり世界でヒット。正当続編の『男たちの挽歌Ⅱ』(1989)、『アゲイン/明日への誓い』(1990)も製作。
製作は、『ダブルチーム』(1997)、『クライマーズ』(2020)などのヒット作をプロデュースしてきた、“香港のスピルバーグ”の異名を持つツイ・ハーク。主演を務めたティ・ロン、チョウ・ユンファ、レスリー・チャンの3人は一躍トップスターとなりました。
日本では1987年4月に初公開され、2022年4月には公開35周年記念として4Kリマスター版がリバイバル公開されました。
映画『男たちの挽歌』のあらすじとネタバレ
香港にある財務会社、恒達財務有限公司は、裏ではマフィアの三合会(トライアド)として紙幣偽造のシンジケートを確立。三合会に属するホーは、相棒のマークとともに社長にしてボスのユーの片腕として顔を利かせていました。
そんな中、警察官志望の実弟キットに自分の稼業を隠していたホーは、闘病中の父に懇願され、次の台湾での取引をもって足を洗うことを決意。しかしその最後の取引場で相手側の密告により警察隊が突入、舎弟分のシンを逃がしたホーは逮捕されます。
取引が失敗に終わった代償として三合会に父を殺されたことで、兄が一味であると知ったキット。一方、ホーが捕まったことを知ったマークは単身で台湾に向かい、ホーをハメた組織幹部が集う料亭の楓林閣で銃撃戦を展開。一味を皆殺しにするも、銃弾で足を負傷してしまいます。
3年後、台湾の刑務所を出て香港に戻ったホーはキットと再会。しかし刑事になっていたキットは、兄の前科がネックとなり出世コースを外されていました。キットから絶縁されたホーは、前科者が勤めるタクシー会社に就職し、一からやり直すことに。
同僚たちとも打ち解けるようになったホーは、ある日マークと再会。三合会はホーによって逮捕を免れたシンが実権を握っており、右足が不自由となったマークは彼のお抱え運転手になっていました。
2人はバーで酒を交わすも、再び裏社会で一旗上げようというマークからの誘いを断るホー。そこへシンが現われ三合会に戻るよう声をかけられるも、それも断ります。さらにはシンを尾行していたキットも現れ、ホーに詰め寄ります。
ホーが協力しないとして、シンはマークを手下にリンチさせ、さらにはホーの務めるタクシー会社を襲わせます。怒ったホーは、マークとともにシンの事務所に忍び込んで偽札の原版を盗み、原版を返す代わりに金を要求するのでした。
「暴力が嫌い」な監督が手がけるガンファイト
『男たちの挽歌Ⅱ』(1989)
サングラスにロングコート姿の男が両手に銃を構えた二丁拳銃アクション、“メキシカン・スタンドオフ”と呼ばれる互いに銃を突き付けるショットなどなど、ジョン・ウー作品といえばガンファイトでの印象的なシーンがいくつも挙げられます。本作『男たちの挽歌』は、そんなジョン・ウースタイルが濃縮された出世作にあたります。
復讐もの功夫映画『カラテ愚連隊』(1973)で監督デビューしたのを皮切りに、ノワールもののフィルモグラフィが目立つウー。しかし自身は「私は暴力は嫌いだ」と断言します。
「犯罪や暴力を根絶する方法があればいいと願っている。だから罪のない子どもが殺されたという話を聞くと、とても怒りや苦痛を感じるね。だからアクションシーンを撮る時はそうした怒りの感情を盛り込むんだ」(「キネマ旬報」1997年11上旬号)
高校時にダンスをしていた経験からガンファイトやアクションでバレエのようなコレオグラフィを用いたり、「音楽的な感性でアクションを撮っている」のも、暴力を嫌う裏返しといえましょう。
さらにウー作品に欠かせないのが教会と白い鳩。教会が時おりガンファイトの舞台となるのは、ウーがクリスチャンであることに起因します。暴力や悪事がはびこるスラム街で生まれ育ったという彼にとって、「正しい道に導く」教会は外せない場です。
「精神的なものの象徴で純粋さや平和の表現」である鳩を初めて登場させたのは、『狼 男たちの挽歌・最終章』(1990)から。この作品がハリウッドで認められ、サム・ライミの招きでアメリカに進出。『ハード・ターゲット』(1993)、『フェイス/オフ』(1997)、『ミッション:インポッシブル2』(2000)といったビッグバジェット作を手がけることとなります。
外連味たっぷりに描かれる男の美学
作品冒頭でのチョウ・ユンファ演じるマークが偽札を燃やしてタバコに火をつけるシーンや、中盤でのティ・ロン扮するホーとマークの友情を確認するシーンなど、ジョン・ウー作品では男の美学やブロマンス的な友情描写が目立ちます。
今の観点だと少々気恥ずかしくなるような描写かもしれませんが、これもまたウー作品ならではの外連味。敬愛する黒澤明作品や石井輝男の東映任侠もの、サム・ペキンパー作品の影響を受けているのは言うまでもないでしょう。
『Silent Night(原題)』(2023)
「軍隊風イメージとしてのユニホーム。悪であるギャングから戦争をイメージさせた」という二丁拳銃✕サングラス✕ロングコートのファッションは、「マトリックス」シリーズ(1999~2021)や『リターナー』(2003)など後年のアクション映画のフォーマットに昇華。『ガンズ・アキンボ』(2021)のようなファッション自体をパロディにされた派生作も生まれるなど、ウーが映画界に及ぼした影響は計り知れないものがあります。
そんな彼の最新作は、約20年ぶりにアメリカで製作したバイオレンス・リベンジアクション『Silent Night(原題)』(2023)。劇中で一切セリフを発しない演出が話題を呼んだ意欲作で、日本公開を期待したいところです。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)