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Entry 2020/05/11
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映画『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』感想レビューと考察。ヌーヴェルヴァーグのミューズに捧ぐフィルム式ラブレター|だからドキュメンタリー映画は面白い48

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第48回

革命のミューズにして、ヌーヴェルヴァーグのアイコンになった女優アンナ・カリーナの軌跡。

(C)Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017

今回ご紹介する映画は、2020年6月13日(土)より新宿K’s cinema他にて全国公開予定の『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』。

ジャン=リュック・ゴダールに見初められ、ヌーヴェルヴァーグのアイコンとなった女優アンナ・カリーナの足跡をたどります。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

映画『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』の作品情報

(C)Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017

【日本公開】
2020年(フランス映画)

【原題】
Anna Karina, souviens-toi(英題:Anna Karina, Remember)

【脚本・監督】
デニス・ベリー

【製作】
シルビー・ブレネ

【キャスト】
アンナ・カリーナ

【作品概要】
惜しくも2019年12月に亡くなった、フランスを代表する伝説的な女優アンナ・カリーナの足跡に迫った、映像アンソロジー。彼女の最期のパートナーとなったデニス・ベリー監督により、彼女の出演作をはじめとする貴重な映像で構成されています。

劇中に挿入されている映画の権利関係上、本来は日本での公開が難しかったものの、プロデューサーの尽力により、2020年限りという条件で公開が実現しました。

映画『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』のあらすじ

1940年にデンマークで生まれ、親代わりとなっていた祖母の死により孤独を知り、17歳でパリにたどり着いた少女がいました。

ココ・シャネルと出会い、アンナ・カリーナという名を貰ったその女性は、またたく間に人気モデルとなります。

そんな彼女は、映画監督ジャン=リュック・ゴダールに見初められ、女優デビューを果たします。

やがてフランス・ヌーヴェルヴァーグのアイコン的存在となり、ハリウッドでも活躍していくアンナ。

本作は、そのアンナとハリウッドで出会い、やがてパートナーとなった監督デニス・ベリーが、彼女への想いと軌跡をフィルムに綴っていきます。

パートナーだった監督が綴るミューズの軌跡

参考:ジャン=リュック・ゴダールとの思い出を語るアンナ・カリーナ

本作『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』は、ハリウッドで生まれパリで育った監督のデニス・ベリー(『がんばれ!ベアーズ大旋風』[1978]などの監督ジョン・ベリーの息子)が、82年に結婚した女優アンナ・カリーナの軌跡を綴ったドキュメンタリーです。

冒頭、劇場に姿を現したアンナが席に着くと、目の前のスクリーンに、彼女がこれまで出演してきた映画のシーンが流れます。

つまり本作は、アンナ自身も観客となって、自らの歩みを一緒に観ていくという構成になっています。

「万感の思いを込めて作り上げたアンナへのラブレター」と監督本人が言うだけあって、本作は愛すべき妻にして、尊敬する女優への慈しみが詰まっています。

ココ・シャネルに見い出され、ゴダールに見初められる

参考:『気狂いピエロ』予告

本作でひも解かれるアンナの経歴は、まさに運命の出会いの連続といえます。

1940年9月22日、ナチスドイツ占領下にあったデンマークのコペンハーゲンで、遠洋航路船長の父と19歳の母との間に生まれたアンナは、すぐに両親が離婚したことで、祖母の元で育てられることに。

その祖母が亡くなって孤独を知った4歳の彼女が、寂しさを紛らわせるために通ったのが、映画館でした。

ロベルト・ロッセリーニ監督の『無防備都市』(1945)に衝撃を受け、“サッチモ”ルイ・アームストロングに恋し、チャップリンに魅せられ、映画『スタァ誕生』(1954)に心ときめかせます。

そして17歳で、ひとり列車に飛び乗り故国を離れ、たどり着いたパリのサンジェルマン・デプレを、「ここが私の居場所」と確信。

そこで出会ったシャネルの創業者ココ・シャネルから、「アンナ・カリーナ」という芸名を授かり、モデルデビューを果たします。

彼女が持つ、吸い込まれそうな大きな瞳は、たちまち大衆を魅了しますが、その中の一人に、ジャン=リュック・ゴダールがいました。

トリュフォーやシャブロルと並び、フランス・ヌーヴェルヴァーグの旗手とみなされていたゴダールは、初の長編デビュー作『勝手にしやがれ』(1960)のヒロイン役をアンナにオファー。

しかし、ヌードシーンがあると知ったアンナはそれを固辞するも、映画を観て育ってきた彼女には、女優としての素養が備わっていました。

幼少の頃のようにフランスの映画館に通い詰め、「映画館でフランス語を覚えた」アンナは、ゴダールの監督2作目となる『小さな兵隊』(1961)で、いきなり主役として女優デビュー。

以降、プライベートでもパートナーとなった2人は、『女は女である』(1963)、『女と男のいる舗道』(1962)、『はなればなれに』(1964)、そして『気狂いピエロ』(1965)と、ヌーヴェルヴァーグを代表する作品を次々と発表します。

余談ですがベリー監督は、アンナに代わって『勝手にしやがれ』に出演した女優ジーン・セバーグの夫でもありました(セバーグは79年に死去)。

それゆえに、監督のヌーヴェルヴァーグ愛も感じる内容にもなっています。

ラブレターにして哀悼文にして、ミューズを愛したファンへの感謝状

参考:『はなればなれに』予告

アンナの活動は、女優業だけにとどまりません。

音楽界の寵児セルジュ・ゲンズブールが14曲も作曲し、自身の名をタイトルにしたミュージカル映画『アンナ』(1967)では、デュエット曲『何も言うな』やエンディング曲『太陽の日の下で』を披露。

後年にはフランスなどのヨーロッパ諸国のみならず、日本でもライブツアーを行っており、劇中では日本での思い出を楽しそうに振り返っているのにも注目です。

また、1973年には主演だけでなく監督・脚本も務めた『Vivre ensemble(共に生きる)』を発表し、女性フィルムメーカーのパイオニアとなりました。

そうした自らの歩みを映すスクリーンを観て笑みを浮かべ、涙を流すアンナ・カリーナ。

ですが、彼女は2019年12月14日、パリの病院で79歳の生涯を閉じることになります。

フランスのフランク・リステール文化大臣は、「今日、フレンチシネマは身寄りをなくしました。伝説ともいうべき1人を失ったのです」と追悼のツイートを発信するなど、その死を惜しみました。

本作『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』は、アンナへのラブレターであり、アンナへの哀悼文。

そしてアンナを愛し応援してくれた、全世界の映画ファンへの感謝の手紙でもあります。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

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