Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2023/05/23
Update

『マッド・ハイジ』あらすじ感想と評価考察。クララも登場する‟アルプスの少女物語”が18禁バイオレンスで日本へ帰還⁈|映画という星空を知るひとよ155

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第155回

ヨハンナ・シュピリの児童書『アルプスの少女ハイジ』を基にした、B級エログロバイオレンス映画『マッド・ハイジ』。

スイスの独裁者による「チーズの独占販売」が始まり、極上のチーズを闇で売りさばいていた恋人ペーターを処刑されたハイジ。恋人の敵討ちと自由な生活を求め、ハイジは武器を手にして立ち上がります。

アリス・ルーシーが主役のハイジを演じる本作は、スイスが誇る名作児童書を、同国出身のヨハネス・ハートマン、サンドロ・クロプシュタイン両監督がB級エログロバイオレンスバージョンにアレンジした“スイス映画史上初のエクスプロイテーション映画”です

原題を『MAD HEIDI』とする本作は、『マッド・ハイジ』の邦題で日本公開が決定しましたが、そのあまりのグロさに、日本公開では18禁となっています。

映画『マッド・ハイジ』は、7月14日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショーされます。

果たして、‟アルプスの少女”は独裁者を倒し、平和で美しいスイスを取り戻すことができるのでしょうか? 映画公開に先駆けて『マッド・ハイジ』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『マッド・ハイジ』の作品情報


(C)SWISSPLOITATION FILMS/MADHEIDI.COM

【日本公開】
2023年(スイス映画)

【原題】
Mad Heidi

【監督】
ヨハネス・ハートマン、サンドロ・クロプシュタイン

【脚本】
サンドロ・クロプシュタイン、ヨハネス・ハートマン、グレゴリー・ヴィトマー、トレント・ハーガ

【製作】
ヴァレンティン・グルタート 

【エグゼクティブ・プロデューサー】
テロ・カウコマー

【出演】
アリス・ルーシー、マックス・ルドリンガー、キャスパー・ヴァン・ディーン、デヴィッド・スコフィールド、アルマル・G・佐藤

【作品概要】
『マッド・ハイジ』は、名作児童文学『アルプスの少女ハイジ』を大胆にアレンジした、18禁の異色のスイス映画です。

強欲で冷酷なスイスの独裁者に、唯一の家族だったおじいさんと恋人のペーターを殺されたハイジが復讐します。18禁ですが、日本やヨーロッパを含む世界各地で愛され続けている、1974年のアニメ版のおなじみのシーンの数々を再現するなど、日本へのリスペクトも随所に感じられる作品です。

ハイジを演じるのは、アリス・ルーシー。『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)のキャスパー・バン・ディーンが独裁者マイリ、『グラディエーター』(2000)のデビッド・スコフィールドが、ハイジのおじいさんを好演。ヨハネス・ハートマン、サンドロ・クロプシュタイン両監督が取りまとめました。

映画『マッド・ハイジ』のあらすじ


(C)SWISSPLOITATION FILMS/MADHEIDI.COM

スイス大統領の強欲なマイリは、チーズ製造会社のワンマン社長。自社製品以外のすべてのチーズを禁止する法律を制定し、スイス全土を掌握し、恐怖の独裁者として君臨しました。

それから20年後。ハイジはアルプスの山小屋でおじいさんと暮らし、年頃の娘に育ちました。

恋人のヤギ飼いのペーターと仲睦まじく毎日を過ごしていましたが、ベータ―は危ない仕事をしているからと、おじいさんから交際を反対されていました。

おじいさんの心配通り、ペーターは禁制のヤギのチーズを闇で売りさばいていました。それをマイリの部下に見つかり、見せしめにハイジの眼前で処刑されます。

ハイジを追ってきたマイリの部下によって、山小屋ごと包囲され、おじいさんは爆死、ハイジは捕虜となりました。途中同じように捕虜となったクララという少女と一緒に、マイリの矯正施設へ連れていかれます。

果たして、愛するペーターと家族を失ったハイジは、邪悪な独裁者を血祭りにあげ、母国を開放することができるのでしょうか。

映画『マッド・ハイジ』の感想と評価


(C)SWISSPLOITATION FILMS/MADHEIDI.COM

原作とはあまりに違う様相の‟アルプスの少女ハイジ”。美しいアルプスの山々に囲まれた平和な国スイスというイメージが、見事に覆えされる作品です。

残虐な独裁者マイリがチーズ製造販売に成功してのし上がって20年。マイリの会社以外のチーズ販売を禁じ、逆らう者は処刑します。

マイリの矯正施設ではチーズを使った筋トレ、チーズ三昧の食事と、何から何までチーズ尽くし。

スイスの名産チーズを上手く利用したストーリー展開に加え、殺害や処刑などの残虐シーンもたっぷりと用意されていて、18禁になる理由がよくわかります。


(C)SWISSPLOITATION FILMS/MADHEIDI.COM

あの有名な児童書とは全く違う物語として誕生した本作では、返り血も恐れず、血だらけになりながら、銃や剣で敵を倒していく可憐な少女ハイジが主人公です。

映画『マッド・ハイジ』のハイジは、その容姿からは想像もできないほど強いヒロインとなっています。一度火のついた彼女の復讐心は、眼を覆いたくなるような残酷な殺しにも怯むことはありません

流血の争いのあとで得る勝利の快感と自由な暮らしの尊さを、18禁の映像を通して監督たちはアピールしています。そして、観客は美しいアルプスの景色を背景に、スーパーヒロイン・ハイジの活躍に目を奪われることでしょう。

まとめ


(C)SWISSPLOITATION FILMS/MADHEIDI.COM

ヨハネス・ハートマン、サンドロ・クロプシュタイン両監督が、“スイス映画史上初のエクスプロイテーション映画”として手掛けた、『マッド・ハイジ』をご紹介しました。

映画の基となったのは、ヨハンナ・シュピリの児童書『アルプスの少女ハイジ』。誰もが一度は読んだであろう名作を、監督はB級エログロバイオレンスバージョンにアレンジしました

観光国スイスの名産・チーズも美しい景色も頻繁に画面に登場するのですが、それがなんだか独裁者の政策の一環のような気がして、素直に受け止められません。映画の中でキーワードとして出てくる美味しそうなチーズも、一度口にすると麻薬のような働きをして独裁者の言いなりになるような危険な香りがします。

真面目にスイスの良さをPRしているようでも可笑しさが先だってしまう『マッド・ハイジ』。こんなところからも、本作はエログロバイオレンス作品と言えるのかもしれません。

児童書のハイジファンの方、本作のハイジは本当にマッドなハイジです。平和を求める可憐な少女ですが、グロさも気にせず敵に挑むところなど、基の児童書とは違っていますのでご了承ください。

映画『マッド・ハイジ』は、7月14日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショーされます。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。



関連記事

連載コラム

映画『検察側の罪人』評価。ロケ地やラスト結末から制作側の意図を読み解く|舞台裏の裏の裏話1

連載コラム「舞台裏の裏の裏話」その1 『日本で一番長い日』や『関ヶ原』の原田眞人監督の最新作であり、原作は「月刊文藝春秋」にて2012年9月号から2013年9月号まで連載された雫井脩介による小説の実写 …

連載コラム

特撮映画としての『釈迦』『敦煌』内容解説とキャスト評価。邦画キングダムが受け継いだ超大作の源泉|邦画特撮大全43

連載コラム「邦画特撮大全」第43章 2019年4月19日の全国公開から大ヒットを打ち出した映画『キングダム』。 (C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会 紀元前の中国・春秋時代 …

連載コラム

実写映画『スポーン』あらすじと解説。ジェイミー・フォックスでリブートするダークヒーローとは|最強アメコミ番付評17

こんにちは、野洲川亮です。 今回は『ヴェノム』を生んだ作者の代表作、ダークヒーロー映画『スポーン』を解説していきます。 映画『スポーン』の魅力、そして2019年にジェイミー・フォックス主演で公開予定と …

連載コラム

ホラー映画『マタンゴ』『吸血鬼ゴケミドロ』あらすじと内容解説。こわいトラウマ必死の邦画とは|邦画特撮大全45

連載コラム「邦画特撮大全」第45章 まだ5月だというのに気温と湿度が共に高い日が時折あります。 町に出るとTシャツ姿の人も目立ちます。夏には早いですが、そんな日にホラー映画はどうでしょうか?  今回の …

連載コラム

山戸結希プロデュース『21世紀の女の子』あらすじと内容解説。評判映画を「21世紀の他者論」として読み解く|映画道シカミミ見聞録35

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第35回 こんにちは、森田です。 今回は2月8日よりテアトル新宿ほかで公開中の映画『21世紀の女の子』を紹介いたします。 “21世紀の女の子に捧げる挑戦的短篇集”を謳 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学