2014年の韓国映画を岡田准一、綾野剛を迎え、藤井道人監督が映画化
事件を起こし、隠蔽したことで追われていく工藤と、彼を追い詰める監査官の矢崎。
どんどん追い詰められていく工藤だが、矢崎にも差し迫った事情が……2人の男を巡る手に汗握るサスペンスを、岡田准一・綾野剛が迫真の演技で魅せます。
イ・ソンギュン、チョ・ジヌン共演の同名のサスペンス映画を『新聞記者』(2019)、『ヴィレッジ』(2023)の藤井道人監督が映画化しました。
12月29日の夜、刑事の工藤(岡田准一)は、母の危篤の知らせを聞いて雨のなか車を走らせていました。そんな折、署からも裏金の垂れ込みがあり、監査が入るとの連絡が入ります。
車を走らせて向かっている途中に母親の死を知った工藤は、車の前に現れた一人の男をひいてしまいます。焦った工藤は死体をトランクに入れ、その場を立ち去ります。
何とか死体を隠し、やり過ごそうとする工藤でしたが、見知らぬ番号からメッセージが入ります。そのメッセージには「お前は人を殺した。知っているぞ」とあり、工藤は焦ります。
果たして誰がこのメッセージを送っているのか……。ある事件により追い詰められていく男たちの手に汗握るサスペンス映画です。
映画『最後まで行く』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【監督】
藤井道人
【オリジナル脚本】
キム・ソンフン
【キャスト】
岡田准一、綾野剛、広末涼子、磯村勇斗、駿河太郎、山中崇、黒羽麻璃央、駒木根隆介、山田真歩、清水くるみ、杉本哲太、柄本明
【作品概要】
中国やフランスなど各国でもリメイクされたキム・ソンフン監督による同名サスペンス映画をリメイク。
監督を務めたのは、『新聞記者』(2019)、『ヴィレッジ』(2023)の藤井道人監督。
主人公工藤を演じるのは、『ヘルドッグス』(2022)、『燃えよ剣』(2021)の岡田准一、工藤を追う矢崎は、『ヤクザと家族 The Family』(2021)、『新宿スワン』(2015)の綾野剛が演じました。
さらに、『PLAN 75』(2022)の磯村勇斗に、広末涼子、杉本哲太、柄本明など豪華な俳優陣が脇を固めました。
映画『最後まで行く』のあらすじとネタバレ
工藤
12月29日、雨の中母親が危篤の知らせを聞いた工藤(岡田准一)は雨の中車を走らせていました。その間にも妻の美沙子(広末涼子)からいつ来るのかと電話が来ます。
さらに間の悪いことに淡島課長(杉本哲太)から、裏金をもらっているという告発が週刊誌に届き、署に監察官がやってくるという連絡が来ます。そして課長は「最近仙葉組から金をもらったか」と工藤にたずねます。
工藤は言葉を濁し、「課長だってお金をもらっていたじゃないですか、俺だけのせいにするのはおかしい」と言います。そんな時に美沙子から連絡があり、母が亡くなったと告げられます。
焦りながら車を飛ばす工藤の視界に女性が飛び出してきます。慌てて避けた工藤でしたが、その前にさらに男性が飛び出し、ブレーキを踏んでも間に合わず轢いてしまいます。
呆然としながらも状況を把握しようと男性に駆け寄るも、男性は息をしていません。遠くからパトカーがやってくるのが見えます。
工藤は咄嗟に死体を隠し息を潜めます。パトカーが別の方向に曲がったのを確認すると、死体をトランクに入れ病院に向かおうとすると、今度は飲酒検査が行われています。
交通課の警察に同じ刑事だから少し飲んだけれど見逃してくれ、と言います。工藤の姿を見た交通課の梶(山中崇)は、監査の話を出し工藤にやりすぎだと言い、強引に検査をしようとします。
トランクを開けられそうになった工藤は抵抗し、交通課の人々と揉み合いになります。そこに一台の車が止まり、車から降り立ったのは監察課の矢崎(綾野剛)でした。
矢崎は工藤を見て、「話を聞きたいので署に」と言いますが、工藤は母親が亡くなって病院に行かなくてはならないので、その後に寄ると言います。
病院にやっと辿り着いた工藤に、美沙子は何をしていたのかと責めます。工藤は葬儀屋の話もうわの空で、挙動不審な様子です。遺体安置所についた工藤は、咄嗟に死体を換気扇のなかに隠します。
母と一晩一緒にいたいと言い、一人になると換気扇の中にはいり、死体を母が安置されている部屋まで運ぶと、母の棺桶に一緒に入れます。そのまま火葬してしまえば隠蔽できると考えたのでした。
その頃、署には麻薬を売り捌いていた尾田(磯村勇斗)の事件が舞い込みます。資料を見た工藤は動揺を隠せません。尾田は工藤がひき殺した男だったのです。
追い詰められながらも、何とか切り抜けようとしている工藤の元に、知らない番号からメッセージが届きます。
「お前は人殺しだ、知っている」
何の話かわからないとしらを切るも、あの日の事件を目撃したかのようなメッセージに工藤は焦りを覚えます。メッセージに続き、非通知から電話がかかってきます。
「尾田をどこにやった」
工藤は電話の相手に対し暴言を吐き、一方的に電話を切ります。すると車から降りてきた矢崎が工藤を車から引きずり下ろし、殴りかかります。電話の相手は矢崎だったのです。
『最後まで行く』の感想と評価
岡田准一、綾野剛が迫真の演技で追い詰められていく男たちを演じる『最後まで行く』。
韓国のオリジナル版との大きな違いは、綾野剛演じる監査官の矢崎を取り巻く状況を深掘りしたところでしょう。
オリジナル版もリメイク同様、早い段階で工藤に電話してくる相手が監査官であることを明かしますが、時系列を追って矢崎側の視点を描くのは、オリジナル版にはない展開です。
野心家の矢崎が本部長の言いなりになりつつも、その立場に甘んじず、上にのし上がっていこうとする姿を描き、冷静さを装いつつもキレると危険な人物になる二面性を映し出していきます。
一方、工藤はジタバタ描くも、出世欲はない人物です。裏金を得たのも母親の介護などの医療費のためで、己の欲のためではありません。
しかし、工藤も矢崎もジタバタ描き、よく深い権力者にいいように使われている駒でしかない社会の残酷な縮図を浮き彫りにしています。そして工藤と矢崎の対決に決着をつけないところもリメイク版の特徴といえます。
共通点のある2人は騙し騙され、追い詰められもがくうちに奇妙な絆のようなものが芽生え、お金のためではない執着を互いに持つようになります。
狂犬のように闘いあう2人の姿と、その2人を利用する仙葉組の親父という構図は、救いがないようでどこか面白みのある不思議なラストになっています。
冷静で突如スイッチが入って暴力的になる狂気的な矢崎と対照的に、署内では問題のある人物として扱われてはいますが、工藤はどこかコミカルさのある人物として描かれています。
その場しのぎで何とか切り抜けようとする工藤の焦った姿はコミカルでクスッと笑わせてくれます。最近では寡黙な男を演じることの多い岡田准一ですが、『ザ・ファブル』(2019)などに通ずるようなコミカルな演技も見せてくれます。
オリジナル版も踏襲しつつ、2人の男を取り巻く環境を描くことで2人の緊迫した状況がより伝わるような映画になっています。
まとめ
『新聞記者』(2019)、『ヴィレッジ』(2023)など社会情勢を盛り込みつつ、登場人物の緊迫した心情を描いてきた藤井道人監督ならではの、最後まで行くしかない、他に選択肢のない男たちの足掻きを見事に描き出します。
岡田准一、綾野剛の迫真の演技、泥臭い殴り合いは悲しき男たちの行き場のなさを体現する一方で、2人の共鳴意識、奇妙な絆も感じさせます。
磯村勇斗演じる事件の鍵となる尾田も必死に足掻いて抜け出そうとする中でドツボにハマっていく人物といえます。矢崎の下で駒として扱われ、抜け出したい気持ちを仙葉に利用されてしまいます。
誰もが抜け出せず、足掻けば足掻くほど雁字搦めになっていく窮屈さは日本映画らしいノワールと言えるかもしれません。