Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2023/03/24
Update

【ネタバレ】シン仮面ライダー|ケイ(松坂桃李)元ネタはロボット刑事?ジェイ/アイ×白いバラの意味と“人類愛”の化身ゆえのジレンマ|仮面の男の名はシン6

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『仮面の男の名はシン』第6回

シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『シン・ウルトラマン』に続く新たな“シン”映画『シン・仮面ライダー』。

原作・石ノ森章太郎の特撮テレビドラマ『仮面ライダー』(1971〜1973)及び関連作品群を基に、庵野秀明が監督・脚本を手がけた作品です。

本記事では、秘密結社「SHOCKER」を生み出した人工知能「アイ」、そしてアイが“外世界観測用自律型人工知能”として生み出した「ジェイ」と「ケイ」(CV:松坂桃李)についてクローズアップ。

アイ/ジェイ/ケイの元ネタとネーミング解説をはじめ、人間の絶望が生んだ“人類愛の化身”としての人工知能たち、それ故に人工知能たちが抱える“人類愛”のジレンマを考察していきます。

【連載コラム】『仮面の男の名はシン』記事一覧はこちら

映画『シン・仮面ライダー』の作品情報


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
石ノ森章太郎

【脚本・監督】
庵野秀明

【キャスト】
池松壮亮、浜辺美波、柄本佑、西野七瀬、本郷奏多、塚本晋也、手塚とおる、松尾スズキ、仲村トオル、安田顕、市川実日子、松坂桃李、大森南朋、竹野内豊、斎藤工、森山未來

【作品概要】
1971年4月に第1作目『仮面ライダー』の放送が開始され、今年2021年で50周年を迎える「仮面ライダー」シリーズの生誕50周年作品として企画された映画作品。

脚本・監督は『シン・ゴジラ』(2016)と『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)にて総監督を、『シン・ウルトラマン』にて脚本・総監修を務めた庵野秀明。

主人公の本郷猛/仮面ライダーを池松壮亮、ヒロイン・緑川ルリ子を浜辺美波、一文字隼人/仮面ライダー第2号を柄本佑が演じる。


“人工知能”アイ/ジェイ/ケイを考察・解説!


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

ケイの元ネタは『ロボット刑事』/アイとジェイの由来は?

SHOCKERの創設者の指揮によって開発され、自殺した創設者から託された「人類を幸福へ導け」という願いを完遂するための組織としてSHOCKERを生み出した世界最高の人工知能「アイ」と、アイが外世界の情報収集のための分身として生み出した人工知能「ジェイ」及びそのアップデート版にあたる「ケイ」。

「ブレザーを身に付けた洋装の紳士風の人型ロボット」なケイの外見をスピンオフ漫画で初めて見た方の多くは、同じく石ノ森章太郎原作の特撮テレビドラマ『ロボット刑事』(1973)の主人公にして、高度な知性を持つ犯罪捜査用ロボット・Kが“元ネタ”だと確信したはずです。

またケイの前身にあたる人工知能ジェイの命名の由来も、「“I・J・K”というアルファベット順だから」だけでなく、『ロボット刑事』という作品タイトルが確定される前には『ロボット刑事J(ジョー)』なるタイトル案が存在していたことも理由の一つであるのは明らかでしょう。

そしてジェイ・ケイを生み出したアイの名も、映画・漫画作中におけるケイの人類に対する言動・行動からも窺える通り、Iと同じ音を持つ「愛」も命名の由来に含まれていることは否定できないでしょう。

“人類愛の化身”が抱えるジレンマ


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

コラム第4回でも言及したように、創設者の「人類自身が、人類を幸福へ導く」という願いが絶えた……「人類自身が、人類を幸福へ導くことは不可能」という“絶望”の果てに生み出され、創設者から「人類を幸福に導け」という願いを託されたアイ・ジェイ・ケイ。

人工知能たちは「愛」を連想させ得るアイの名からも、死を自ら選ぶほどの絶望に陥っていた創設者が、それでも人類の幸福を諦めることができなかったという“人類愛”の化身でもあると捉えることもできます。

SHOCKER上級構成員であるオーグたちの死、そして「組織の裏切り者」という粛清対象であるはずのルリ子の死すらも、胸元に一輪の白いバラを挿すことで悼もうとするケイの姿には、人工知能たちが自身らで収集した情報に基づく“愛情表現”を学習・実践する様が見てとれます。

しかし人工知能たちが優秀さ故に得た“人類愛”は、同時に「人類を幸福へ導くには『人類の幸福とは何か』という定義付けを要するが、“幸福の当事者”=“人類”ではない自身が人類の幸福の具体性・尺度を定義するのは人類への“幸福の押しつけ”となり得るため、創設者の『人類を幸福に導く』という命令に反し得る」というジレンマも生み出しました。

そのジレンマを孕んだ演算の果てに、人工知能たちは「幸福を何と定義するかの具体性や尺度は、幸福を希求する人類自身に判断させる」という選択肢をとり、最終的にはオーグとなった人間の“幸福追求”の名の下のテロリズムまでも肯定するという歪んだ結果へと至ったのです。

人類への“幸福の押しつけ”という命令違反を避けるために「幸福の定義付けは、人類自身に判断させる」を選択した人工知能たち。

しかしながら、「最も深く絶望した人間を救済する=“0”の人間を“1”にする」という命令完遂の最も効率的な機構を構築し、その機構へと人類を次々とはめ込んでいくという行動の時点で、人類愛の化身による人類への“幸福の押しつけ”は生じているのではないか……その疑念は、どうしても拭うことはできないのです。

まとめ/「白いバラ」の花言葉


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

映画作中、ケイがSHOCKER上級構成員のオーグたちやルリ子の死を悼むため、ブレザーの胸元に挿していた一輪の白いバラ。花弁の色によって花言葉が異なることでも有名なバラですが、白いバラには「純潔/純粋」「深き尊敬」「相思相愛」「約束を守る」などの花言葉が存在します。

人類と接する上での「深き尊敬」常に人類の幸福のために思考するという「純潔/純粋」“人類を幸福へ導く者”と定義された自身と人類間の理想の関係性としての「相思相愛」、そして創設者の願いを完遂する意思表明としての「約束を守る」……。

白いバラの花言葉には、人工知能たちの“人類愛”を象徴する言葉がこれでもかと凝縮されており、前述の通り白いバラは、まさに人工知能の“愛情表現”を描いた演出だったのです。

しかしながら、一点気になるのは「ケイはオーグと本郷猛/仮面ライダーたちの戦闘の結果を見届ける“外世界観測”の際に、“必ず”白いバラを準備している」という点です。

人工知能たちは「人類の幸福実現の過程において、人類間での犠牲は必ず生じる」と結論付けているため、「幸福実現のための犠牲を他者に強いる、人類間の争いは制止する」という道徳的行動は、アイが命令完遂に向けての演算結果を算出した時点で、行動の選択肢から抹消されているのではないか

人工知能たちは人類の死を悼むほどの学習能力を有する一方で、「人類を幸福へ導く」という命令の完遂において「人類の生存」という条件を前提に含めていないのではないか……。

そうした人工知能たちへの疑念も、全人類の魂を“この世”ならざるハビタット世界へと葬送しようと目論んだイチロー/チョウオーグの幸福追求すらも肯定した時点で、より真実味を帯びてしまうのです。

【連載コラム】『仮面の男の名はシン』記事一覧はこちら

ライター:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介











関連記事

連載コラム

映画『復讐の十字架』感想と評価レビュー。衝撃的なラストに向けた男の破壊と再生|SF恐怖映画という名の観覧車63

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile063 新宿シネマカリテで4週間に渡り開催された「カリコレ2019/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2019」。 今回は前回に引き …

連載コラム

映画『ザ・スリープ・カース 失眠』ネタバレ感想。香港ホラーに日本人俳優の姿も⁈|未体験ゾーンの映画たち2019見破録29

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第29回 今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。様々な58本の映画が公開中ですが、今回は極 …

連載コラム

【2018年のご挨拶】読者さんとお世話になっている映画関係者の皆さんへ

2018年も、「映画感想レビュー&考察サイト Cinemarche」をお読みいただき、誠にありがとうございます! 山の辺の道(天理〜桜井)©︎Cinemarche 見手である読者の皆さんに …

連載コラム

Netflixカウボーイビバップ1話|ネタバレ感想評価と考察解説。実写ドラマはアニメ原作に忠実?フィアレスの意味やオリジナル展開も紹介

宇宙のカウボーイ、ふたたび。 2021年11月19日(金)より全世界にて独占配信が開始された、Netflix実写ドラマ『カウボーイビバップ』。 宇宙を股にかける“賞金稼ぎ(カウボーイ)”の活躍を描き、 …

連載コラム

映画ネタバレ『チタンTITANE』感想評価とあらすじ結末の考察解説。パルムドール受賞作にみる肉体の脆弱性と想像力の限界|タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』11

連載コラム『タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」』第11回 2022年4月1日(金)より日本公開されたフランス映画『TITANE/チタン』。 幼い頃の交通事故により頭蓋骨にチタンプレー …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学