ミニオンたちが2020年以降のアニメ映画最大ヒットを記録!
前作『ミニオンズ』(2015)から7年、ついに待望の続編が登場します。
その映画こそが、『ミニオンズ フィーバー』です。
記録的大ヒットを果たした本作は、世界中にミニオンたちのファンがいる事実を再確認させてくれました。
今や地域も年代も越えて愛されるこのシリーズの秘密を、本作の紹介と共に解き明かしていきましょう。
CONTENTS
映画『ミニオンズ フィーバー』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
Minions: The Rise of Gru
【監督】
カイル・バルダ
【キャスト】
スティーブ・カレル、タラジ・P・ヘンソン、ミシェル・ヨー、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ルーシー・ローレス、ドルフ・ラングレン、ダニー・トレホ、ラッセル・ブランド、ジュリー・アンドリュース、ピール・コフィン
【日本語吹き替え版キャスト】
笑福亭鶴瓶、尾野真千子、渡辺直美、大塚明夫、田中真弓、速水奨、立木文彦、土田大、京田尚子、宮野真守、LiSA、市村正親
【作品概要】
ミニオンたちが繰り広げられる大騒動を描くコメディCGアニメ映画。監督は『ミニオンズ』をピエール・コフィンと共同監督したカイル・バルダ。
声の出演はグルーをおなじみのスティーブ・カレル、日本語吹替版では笑福亭鶴瓶が今回も起用されました。ミニオンたちのカンフーの師匠、マスター・チャウをミシェル・ヨー、日本語吹替版は渡辺直美が演じます。
字幕版・吹替版共に豪華なゲスト声優陣が注目を集めますが、重要な役であるワイルド・ナックルズはアラン・アーキン、日本語吹替版は市村正親が演じました。
映画『ミニオンズ フィーバー』のあらすじとネタバレ
世界的悪党6人が結成した超極悪組織、”ヴィシャス・シックス”。そのリーダーは伝説の悪党、ワイルド・ナックルズ(アラン・アーキン/市村正親)でした。
彼らは恐るべきパワーを秘めた、干支(十二支)の力を持つ秘宝”ゾディアック・ストーン”を手に入れようと企てます。
ナックルズは遺跡に眠る”ストーン”を奪います。ところが”ヴィシャス・シックス”のメンバーの1人、ベル・ボトム(タラジ・P・ヘンソン/尾野真千子)は彼を裏切りました。
“ストーン”を奪ったとベル・ボトムは、ナックルズを空から突き落として追放します。こうして”ヴィシャス・シックス”の新たなリーダーになるベル・ボトム…。
時は1976年、怪盗グルー(スティーブ・カレル/笑福亭鶴瓶)はまだ小学生でした。将来は大悪党=スーパー・ヴィランになると望むグルーは、クラスで浮いた存在でした。
授業が終わっても他の子供の親と違い、グルーの母マレーナ(ジュリー・アンドリュース/京田尚子)は迎えに現れません。しかし彼を”ミニボス”と慕う、ミニオンたち(ピエール・コフィン)が出迎えます。
少年グルーにとってケビン・ボブ・スチュアートたち”ミニオンズ”は、少しありがた迷惑だけど共に楽しい時間を過ごす、家族のような存在でした。
映画館で『ジョーズ』(1975)の満員の観客を秘密兵器で追い出し、ミニオンたちとのんびり鑑賞するグルー。彼はミニオンたちと子供なりに悪の限りを尽くします。
帰宅したグルーに”ヴィシャス・シックス”新メンバーを選考する、明日の面接への招待状が届いていました。家の地下に秘密基地を建設中のミニオンたちに、自分は”ヴィシャス・シックス”のメンバーになって、悪党としてデビューすると宣言するグルー。
同じ頃グルーが尊敬する大悪党ワイルド・ナックルズは、アメリカに戻って新たな手下を集めていました。裏切り者のベル・ボトムを恨み、必ず”ゾディアック・ストーン”を取り戻すと誓うナックルズ。
翌日、グルーは人生を左右する大切な面接に1人で向かいます。しかし彼の身を案じるケビン・スチュアート・ボブ、そして今回初登場のオットーの”ミニオンズ”が密かにグルーの後を追いました。
グルーが指定された場所に向かうと、そこはレコード店でした。店の従業員のネファリオ博士(ラッセル・ブランド/土田大)から、”ヴィシャス・シックス”の秘密基地への行き方を告げられます。
ネファリオはグルーが気に入ったのか、自身の発明品”ネバネバ指銃”を与えました。彼の助けを借りて面接に向かうグルー。
しかし子供のグルーに、手違いでメンバー募集の案内を送ったと気付いたベル・ボトムは、散々グルーを馬鹿にしました。そこでグルー自分の力を認めさせようと、彼らが大切に保管する”ゾディアック・ストーン”を奪います。
気付いた”ヴィシャス・シックス”の面々は慌てて追って来ます。レコード店の前にいたミニオンたちの助けを借り、グルーは逃亡しました。
その光景に店を監視していたナックルズが気付きます。グルーは”ストーン”を別行動になったオットーに持たせ、ケビンたちと共に逃走を続けます。
追跡を逃れ帰宅したグルーは、これで”ヴィシャス・シックス”が頭を下げて自分に仲間になってくれ、と頼んでくると大喜びしました。
ところがオットーは大切な”ゾディアック・ストーン”を、たまたま見かけた子供が持つ「ペットロック=ただの石」が気に入り、ついそれと交換していたのです。
何かとお間抜けなミニオンですが、これにはグルーも怒りました。もうお前たちと一緒に仕事は出来ない、と”ミニオンズ”にクビを宣言するグルー。
彼は雨の中、1人で”ストーン”を取り戻そうと家を出ます。しかし彼は何者かが運転するバンに連れ去られました。その姿をグルーの後を追ったミニオンたちのリーダー、ケビンが目撃します。
グルーは自分を誘拐した相手が尊敬する大悪党、ワイルド・ナックルズと知り大喜びします。しかし彼が”ストーン”を持っていないと知り、激怒するナックルズ。
ナックルズはグルーに自宅へ電話をかけさせます。出た相手がミニオンのケビンではどうにも話が通じませんが、2日以内にサンフランシスコまで”ストーン”を持って来い、とナックルズは脅します。
一刻も早くグルーを救おうと、ケビン・ボブ・スチュアートはサンフランシスコ目指して行動を開始します。
責任を感じたオットーは自ら”ストーン”を取り戻そうと、「ペットロック」と交換した子供の家を訪ねます。しかし肝心の”ストーン”は、その子の叔父に譲られていました。
ナックルズは子供のグルーが、ベル・ボトムら”ヴィシャス・シックス”を出し抜いた事に感心します。しかし”ストーン”が力を解放する旧正月の日が迫っていました。人質のグルーを、ディスコミュージックで拷問にかけるナックルズ。
何の準備も無く空港に現れたケビンたちは、サンフランシスコ行きの飛行機に乗れません。そこで搭乗員の制服を手に入れ、変装して旅客機に乗り込みました。
旅客機の操縦席に乗り込んだケビンとスチュアート。客室でボブがサービスしてくれますが、おバカなミニオンが操縦する飛行機なんて、誰も乗りたくありません…。
映画『ミニオンズ フィーバー』の感想と評価
ファン待望の「怪盗グルー」「ミニオンズ」シリーズ最新作のストーリーを紹介しました。
ファンならずとも「本作の魅力はミニオンたちの愛らしいさ、破滅的にバカげた行動、仲間や愛する人のために尽くす姿にあるのはご存じのはず。ぜひ映画を見て確認して下さい。
そして画面に登場する小ネタの数々。今回は70年代が舞台だけに、ご存じブルース・リーのカンフー映画、ディスコ文化が生んだファッション・音楽などが紹介されました。
また本シリーズは「悪党」「泥棒」の物語であり、アクションを交えさまざまなアイテムを駆使してミッションを果たす、「スパイ映画」の要素も盛り込まれています。
今回の『ミニオンズ フィーバー』の冒頭、「1つのミッション遂行後、さまざまなシルエットが現れるオープニングロールが流れる」のは、映画「007」シリーズのパロディです。
この最初に登場するパロディに大笑いさせられ、「怪盗グルー」「ミニオンズ」シリーズの世界にグッと引き込まれました。
もっともミニオンたちがシルエットを演じる訳で…愉快であっても、セクシーな要素は全くございません。
大人気シリーズの実力が再確認された
今やアニメ映画、特にCGアニメ映画は世界的に人気のジャンルです。単純に過去作を興行収入で比較すると、1位は『アナと雪の女王2』(2019)、2位が『アナと雪の女王』(2013)、3位が『インクレディブルファミリー』(2018)と、ディズニー&ピクサー作品が並びます。
それに次ぐ4位がイルミネーション製作の『ミニオンズ』(2015)。この結果は様々な事実を教えてくれます。「怪盗グルー」「ミニオンズ」シリーズは、今や世界中で子供のみならず、大人からも愛される人気シリーズに成長したと確認できるでしょう。
そして5位は『トイ・ストーリー4』(2019)。近年の作品が並んでいるのは、このジャンルの映画の市場が急激に拡大・成長した事実を示しています。
しかし2020年以降の作品は登場しません。これは明らかにコロナパンデミックの影響です。映画館が閉鎖され、営業が再開してもこの状況下で、子供と共に映画館に行くことを望む家族は少数でした。
2020年以降は映画業界、特にファミリー映画やアニメ映画に苦難の時期でした。一方で熱烈なファンが、多少リスクを冒しても見たいアニメ映画に集まる…『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020)の世界的ヒットも、この時期の印象的な出来事です。
『ミニオンズ フィーバー』は当初、2020年公開予定でした。この状況の結果2年遅れの公開になりましたが、オープニング興行成績は『アナと雪の女王』シリーズに匹敵する数字となり、関係者を安堵させています。
なぜミニオンたちは大人にも愛されるのか
2020年以降のディズニー&ピクサー映画の苦戦には、パンデミック以外にもさまざまな要因があります。
1つは技術の進歩が生んだ「リアルな表現の追求」。CGアニメのキャラクターはアニメの世界の登場人物ながら、よりリアルな動きの再現が可能になりました。
髪の毛や動物の体毛など繊細で緻密な描写が可能になり、技術の進歩は実写との差を縮めます。一方でアニメならではの誇張した動き、オーバーかつナンセンスな、見ているだけで楽しい動きの追求が、やや疎かになったと思われます。
「ピクサー映画には必ず、ジョットコースターを思わせるシーンがある」。この原則は今も守られています。しかしストーリー性重視のあまり、オーバーアクション描写の楽しみが薄れた感は否定できません。
『インクレディブルファミリー』の大ヒットは、世界のどの文化の人が見ても楽しめる、判りやすく誇張されたアニメ的表現の魅力の結果と言えるでしょう。
「怪盗グルー」「ミニオンズ」シリーズは、アニメならではの誇張された、楽しい動きが前面に出されています。『ミニオンズ フィーバー』はカンフーシーンなど、今まで以上に愉快なオーバーアクションシーンが登場しています。
アニメならではの動きの追求する、愉快なキャラクターがミニオンです。G指定、小さな子供さんが楽しめるバイオレンスでふざけた描写…アニメが本来持つ、動きの魅力にあふれた世界を楽しんで下さい。
しかし、キャラクターの動きの魅力だけでは、多くの人々の支持を集められません。「アナと雪の女王」シリーズの成功は、自由に生きることを望む者やマイノリティーを応援するストーリーが、人々の共感を呼んだ結果でしょう。
近年のディズニー&ピクサー映画のLGBTQへの姿勢、ポリティカル・コレクトネスへの配慮の背景には、確かに時代の要請が存在します。一方で『アナと雪の女王』の成功体験の影響とも解釈できます。
その結果ストーリー性が重視され、アニメーション本来のの魅力の追求が軽視されたのかもしれません。このようなストーリー・設定重視の作品の量産した結果、個々の作品の印象が薄れた感も否定できません。
ミニオンはどうでしょうか。女装(彼らに性別があるのか判りません…)するミニオンが多数登場しますが、これはマイノリティ的なの人々を、過去作の『クレヨンしんちゃん』のように笑いの対象にしたものでしょうか。
「怪盗グルー」「ミニオンズ」シリーズは、ポリコレ的な配慮に欠けた作品でしょうか。いいえ、そんなストーリーでは世界中の、多くの人々からの支持は集められません。
まとめ
アニメーションが本来持つ魅力に溢れた『ミニオンズ フィーバー』。それはキャラクターの動きだけでな、カラフルな映像の追求にも表れています。この楽しい世界をぜひ体験して下さい。
改めて「怪盗グルー」「ミニオンズ」シリーズを振り返ると、「幸せな疑似家族を作る物語」が大きなテーマになっていると気付かされます。
『怪盗グルーの月泥棒』(2010)は、ひねくれ者の大悪党が3人の孤児の娘を引き取り、幸せな家族を作る物語で、次作『怪盗グルーのミニオン危機一発』(2013)は、その家族に新たな他者、怪盗グルーのパートナーになる女性ルーシーが加わります。
『ミニオンズ』はミニオンたちが新たなボス=家族を探す物語であり、『怪盗グルーのミニオン大脱走』(2017)はグルーの生き別れの兄弟が登場し、壊れた家族性を再構築しました。
そして多様性を持つ無邪気な存在、ミニオンたちは自分たちの家族的な関係を維持するため、面白おかしく色んな姿に扮して各々の役割を果たします。おかげで、彼らはいつも「兄弟けんか」ばかりしていますが。
ミニオンたちと様々な登場人物の姿に異なる立場の様々な人々も、それぞれの役割を果たすことで一つの「家族」、幸せな「疑似家族」になれる、というメッセージが込められているのです。ディズニー&ピクサー映画と異なる形の、マイノリティ賛歌映画と言えるでしょう。
疑似家族の絆が、実は泥棒という皮肉な設定は意外にも『万引き家族』(2018)との共通点を見出すことも可能です。
『ミニオンズ フィーバー』は崩壊した家庭の少年グルーが、赤の他人の老人ナックルズとミニオンたちと共に、幸せな「疑似家族」を作るまでの物語でした。
グルーを演じたスティーブ・カレルと、ナックルズを演じたアラン・アーキンは『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)で共演しています。この映画は壊れた問題の多い家族が再生する物語です。
しかも『リトル・ミス・サンシャイン』のスティーブ・カレルとアラン・アーキンは、実は「血縁関係の無い家族」です。そんな訳アリ家族が一つの目的のため、バカげたクライマックスに向け一致団結する事で再生する姿を描きました。
本作へのアラン・アーキン起用の狙いはここにあるのでしょう。全く異なる他人も、信頼し愛し合って、役割を果たせば本物以上の家族になれる、このメッセージが人々に受け入れられているのです。
だからこそ、『ミニオンズ フィーバー』に大人たちもハマるなのです…。と、難しく考えなくて良いですよ。愛くるしいミニオンたちの姿を楽しんで下さい。私は、存分に楽しませて頂きました。
増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)