小説『鵜頭川村事件』がドラマ化され、2022年8月よりWOWOWにて放送・配信スタート!
『避雷針の夏』『死刑にいたる病』で知られる人気作家・櫛木理宇によるパニックスリラー小説『鵜頭村事件』(文春文庫刊)。
土砂崩れによって社会と遮断された村で起る暴動をスリリングな展開で描いたこの作品のドラ化が決定しました。
『22年目の告白 私が殺人犯です』(2017)『AI崩壊』(2020)の入江悠監督が手がけ、松田龍平を主役に迎えた『連続ドラマW 鵜頭川村事件』は、WOWOWで8月放送・配信スタート。第1話はWOWOWプライム、WOWOW4Kで無料放送です。
すでに公開された映画『死刑にいたる病』(2022)にも共通する病的とも言える‟人間の凶悪な心理”を見事に表しています。
『連続ドラマW 鵜頭川村事件』配信に先駆けて、小説『鵜頭川村事件』をネタバレ有りでご紹介します。
小説『鵜頭川村事件』の主な登場人物
【岩森明】
15歳で上京して就職した主人公。働きながら夜学へ行き、看護婦の節子と知り合って結婚。2人の間には愛子という子どもができる。
【降谷辰樹】
村の自警団の発起人。
【矢萩元市】
節子の伯父。岩森親子を離れに泊めている。
【矢萩吉朗】
村の実質的な支配者。元市の兄。
【矢萩大助】
吉朗の息子。乱暴者で村民から嫌われている。
【矢萩廉太郎】
矢萩の親族ながら、降谷港人と交友関係を持つ。
【降谷港人】
煙草屋の息子。村から出て行った兄・敦人は辰樹の親友だった。
【白鳥和巳・西尾健治】
自警団の一員。
小説『鵜頭川村事件』のあらすじとネタバレ
櫛木理宇『鵜頭川村事件』(文春文庫、2020)
昭和54年6月。岩森明とその娘・3歳の愛子は、岩森の亡き妻・節子の墓参りのため、節子の故郷である鵜頭川村を3年ぶりに訪れました。
その日は、節子の伯父にあたる矢萩元市の自宅に泊めてもらったのですが、鵜頭川村地域一帯が、突然豪雨にみまわれました。
山間の小さな村は土砂崩れで孤立。そして、雨の中、降谷敬一という若者の死体が発見されます。
たまたま雨の様子を見に外を歩いていた岩森と村の医者吉見が、遺体第一発見者からの通報を受けて遺体の状況を見ることになりました。
降谷敬一は、誰かから恨まれるような人物ではないのですが、遺体には無数の刺し傷がありました。
おまけに、大雨のため、足跡や物証など犯人につながる手がかりはまったく残っていません。
鵜頭川村は都会の流行が何年も遅れてやってくるような地方の村で、約300世帯900人が暮らしています。
村では「矢萩工業」の社長である矢萩吉朗が絶大な権力を握っていて、吉朗の親戚筋である矢萩姓の村民はみなその会社の幹部でした。
岩森が宿泊している矢萩家の家長矢萩元市は吉朗の弟ですから、村でも顔がきいていました。
それに反し、村で古くから商店や農業を営む「降谷」の一族は、支配者である矢萩一族に逆らえません。
降谷敬一殺しの容疑者として、矢萩吉朗の息子の大助を村の誰もが頭に浮かべます。
大助は、傷害と器物損壊の前科は数知れない乱暴者で、村の嫌われ者です。酒癖が悪く、昼間から酒を飲んではふらふらと村を歩き回り、行く先々でトラブルを起こす厄介者でした。
つい先日も村で騒ぎを起こし、その際、暴れる大助を殴って取り押さえていたのが敬一でした。
「きっと敬一を逆恨みした大助の仕業に違いない」と村人の誰もが思いましたが、事情聴取された矢萩大助には何のお咎めもなしでした。
矢萩吉朗は大助をとても可愛がっていて、これまでのトラブルもすべて揉み消してきました。今回も当たり前のように大助は無罪放免となったのです。
土砂崩れによって外の世界と切り離された村。停電による通信の断絶。閉じられた村のなかで未だ正体不明の殺人犯が潜んでいる状況。
元市の客人である岩森はいわばよそ者ですが、古びた人間関係の充満する村に閉じ込められているうちに、村に存在する主従関係をいやでも肌で感じるようになりました。
矢萩一族はともかく、降谷をはじめとする他の住民の不安は日々高まっていきました。
そんな中で、女子供だけは必ず守れと声をあげたのが、降谷辰樹とその仲間たちです。不運にも兄を事故で亡くした辰樹は、高校卒業後の東京での大学進学を諦め、継ぎとして村に残ることになりました。
現在の辰樹は矢萩工業の社員です。辰樹はいつも上司の矢萩の嫁から雑用を命じられ、仕事以外の時間も小間使いのように働かされ、不満が募っていきます。
親友だった降谷敦人が進学して村からいなくなったことも、辰樹を不安定にさせている理由の一つでした。
一方、土砂崩れの中、救助がいつになるかもわからない状況の村の孤立は、深刻な食糧不足を招いています。
降谷一族は、商店と農家を営んでいますが、矢萩工業の幹部である矢萩一族には権力こそあれど、食料は降谷から買うしかありません。
すると、ふだんの仕返しとばかりに、降谷たちは矢萩に対して「売り渋る」ようになりました。
物々交換が主となり、米や野菜などの現物を持つものが主導権を握ります。絶対的だった矢萩の権力は徐々に弱まっていきました。
敦人の弟である降谷港人は、矢萩姓の廉太郎と親友関係にあり、村の中の緊迫したこんな状況にピリピリしています。
客人の身分の岩森にも、村中の対立ムードが察しられました。
小説『鵜頭川村事件』の感想と評価
土砂崩れで外の社会と遮断された山奥の村で殺人事件が起こりました。容疑者はいるのに、村の権力者の矢萩一族であるため逮捕にいたりません。
閉じ込められた村内で、殺人犯人が野放しになっている現実が村民の自衛意識に火をつけます。わが身を守るために、若者を主流とした自警団が作られました。
目的は自警でしたが、セクハラ、パワハラ、モラハラに耐えてきた弱者たちの怒りは、いつしか村の権力集団‟矢萩一族”に向けられ、‟矢萩刈り”とでも言うべき、大暴動が勃発。小さな村に阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれます。
この作品において、一番の恐怖は、何と言っても「洗脳された集団の暴動」ではないでしょうか。
血に飢えた獣のように、理性も知性も吹っ飛んだ若者たちは、闘争本能の赴くままに人を殺伐する行為を起こしました。
『死刑にいたる病』でも書かれたような、人の心の悪しき病も怖いのですが、こちらの村人の心理現象もまた怖ろしい。
山奥の村に生まれる村人同士の確執、また昔からの村内の因習もストーリーの裏に存在。人間心理を上手く描いたパニックスリラー小説でした。
ドラマ『鵜頭川村事件』の見どころ
2022年8月に、入江忍監督によってドラマ化される『鵜頭川村事件』。主役の岩森を演じるのは、入江監督とWOWOWによるドラマ『同期』以来11年ぶりのタッグを組む松田龍平です。
松田龍平のコメント
「村の人達が狂気に染まって行く中、その狂気に飲み込まれないように意識していたんですけど、それでも次々に起きる事件に巻き込まれ、次第に岩森自身が抱えている狂気が浮き彫りになっていくのは演じていて面白かったところです」。
殺害の狂気一色に染まる中盤から終盤にかけて、岩森もまたその暴動の渦に巻き込まれます。
身の危険を感じながら事件の真相にせまる岩森を、松田龍平自身が感じた狂気を持って演じているのに注目です。
ドラマ『鵜頭川村事件』の作品情報
【配信】
2022年(日本ドラマ)
【原作】
櫛木理宇『鵜頭川村事件』(文春文庫刊)
【脚本】
和田清人
【監督】
入江悠
【キャスト】
松田龍平 ほか
まとめ
ドラマ化される櫛木理宇の『鵜頭川村事件』。閉じ込められた地域で起こった殺人事件をきっかけに、村内で恐るべき暴動がおこり、偶然村を訪れていた主人公も騒動に巻き込まれます。
村を牛耳る矢萩一族と奴隷のように虐げられた毎日をおくる降谷一族の確執が、その根底にありました。
極限の事態に立たされた人間のパニックと恐怖をつぶさに描いたスリラー作品を1話から6話でドラマ化。入江忍監督&松田龍平で描く、恐怖の物語をお楽しみに。
ドラマ『連続ドラマW 鵜頭川村事件』は、2022年8月よりWOWOWにて放送・配信スタート!