Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2019/03/15
Update

【ネタバレ映画感想】『サンセット』ラスト結末まで謎を残したネメシュ・ラースロー監督の意図とは

  • Writer :
  • 福山京子

ネメシュ・ラースロー監督の長編第2作『サンセット』

『サウルの息子』(2015)でカンヌ映画祭グランプリを受賞し、センセーショナルなデビューを果たした若き映画監督ネメシュ・ラースローの長編第2作。

1913年、繁栄を極めたオーストリア=ハンガリー帝国を舞台に、王侯貴族が集う高級帽子店に隠された謎が暴かれます。

家族を探し求め、大戦前の激動時代を駆け抜けた一人の女性の真実の物語です。

スポンサーリンク

映画『サンセット』の作品情報


(C) Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

【日本公開】
2019年(ハンガリー・フランス映画)

【原題】
Napszallta

【脚本・監督】
ネメシュ・ラースロー

【キャスト】
ユリ・ヤカブレイター・イリス、ブラド・イバノフ、エベリン・ドボシュ、マルチン・ツァルニク、モルナール・レべンテ、スザンネ・ベスト、ナジュ・ジョールト、シャーンドル・ジョーテール、モーニカ・バルシャイ

【作品概要】
長編デビュー作『サウルの息子』(2015)がカンヌ国際映画祭グランプリのほか、アカデミー賞やゴールデングローブ賞の外国語映画賞も受賞したネメシュ・ラースローの長編第2作。

本作は2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品で、第1次世界大戦前ヨーロッパの中心都市だったブダペストの繁栄と闇を描いています。

映画『サンセット』のあらすじとネタバレ


(C) Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

陽がゆっくりと沈み、暮れていく日没の油彩画が映ります。

1913年、オーストリア=ハンガリー帝国が栄華を極めた時代。新興都市ブダペストは、今やウィーンと繁栄を競っていました。

レイター・イリスは、ブダペストのレイター帽子店で働くことを夢見てやってきます。

そこは、彼女が2歳の時に亡くなった両親が遺した高級帽子店でした。

イリスは店に入ると、女店員がお客のように接し色々な帽子を持ってきますが、求人広告を見てやってきたとイリスが話すと、女店員の態度が急に変わり、奥の部屋に連れて行きます。

女店員をまとめるゼルマが、オーナーのブリルの前で質問を始めます。

イリスは、両親がこの店を経営していたことやこの店が火事になった2歳の時に、孤児の斡旋屋に引き取られ、トリエステという町で帽子屋の修行をしたことを話します。

ブリルは「やっと会えたな」と声を掛けるも、「何が狙いだ?」と意味深な言葉を残し、突然現れた彼女を歓迎せずに追い返します。

店内の女店員たちが大忙しの様子から、イリスは今週に「大きな行事」があることを知ります。

結局その夜、イリスは近くに宿を見つけることができず、店の部屋で泊まることになりました。

夜中イリスの部屋に、見知らぬ男が突然やってきます。

彼はガスパールと名乗り、レイター家に息子がいたことをイリスに伝えると、イリスは兄がいることを初めて知り愕然としました。

翌日イリスはトリエステに帰るため、ブリルに馬車を用意されます。

イリスは駅で列車を待っていましたが、虚ろな眼差しのまま急に向きを変え、かつて世話になった孤児院に向かいます。

「あなたは何も知らないの?」とイリスを憶えていた女性が、イリスの帰る寸前に声を掛けてきます。

その女性から「火事で燃えた家の子」と当時噂になっていたことや、兄の名前がカルマンで、レディ伯爵を殺したことを聞かされます。

その日、レイター帽子店では公園で30周年を祝う行事を行っていました。

イリスはお店に入ると、喪服のレディ伯爵夫人がやってきました。彼女は5年間も喪服を着ており、イリスをじっと見つめて去って行きました。

ゼルマが「雇うわけじゃないけど、人手がいるの」とイリスに声を掛け、イリスは一時的に店で働くことになりました。

女店員たちから「拷問で死んだ」と新聞を読み上げる声や「ウィーン王室の侍女に選ばれたの」という声が聞こえます。

階下のテントでは、皆がダンスを踊っています。

黒い帽子を被った髭面の男がイリスに近寄り「ブリルはうまい餌を投げ込んだ」と耳元で囁きます。彼は、ヤカブと名乗り「ここを去れ、今週ここで血が流れる」とイリスに警告します。

ある日ゼルマが女店員を集め「今週は王室の方がいらっしゃいます」と告げます。

イリスは店を抜け出し、レディ伯爵夫人の屋敷を訪ねます。伯爵夫人はパイプを持ち、朦朧としていました。

兄のことを教えて欲しいとイリスが話し始めた途端、オーストラリアの客人フォンがやってきます。

夫人が奥の部屋にイリスを隠しましたが、彼が伯爵夫人に暴力を振るい襲いかかるのを、イリアは目撃します。

その後イリスは店に戻り、下働きの少年アンドルを探します。

彼は兄のカルマンに助けてもらったと聞いていたので、イリスは「兄は、伯爵夫人を助けようとしたのでは?」と問いかけますが、アンドルは無言でした。

イリスは馭者のガスパールを探しに、町外れの村へ行くと暗闇から「ウィーンの男が街に着いた」「レイターは奴を狙う」という声が聞こえてきました。

イリスは荒くれた男たちが集う場所に、カルマンを探しに行きますが相手にされず、逆に男たちに襲われます。

その時に以前「立ち去れ」と警告してきた男ヤカブが助けます。イリスはヤカブが兄なのかを訪ねますが、違うと答えられました。

列車に乗って帰る途中、何台もの馬車がレディ伯爵夫人の家へ走っていくので、イリスはすぐに列車を降りて馬車で向かいました。

そこでは演奏会が開かれていましたが、フォンを狙う暴徒たちが銃声を響かせました。

伯爵邸から暴動を犯した男にイリスは連れて行かれ、「ブリルは女店員を富豪たちに捧げている。お前と組んで帽子店を破壊する」と命令します。

ボートで必死に逃げ出したイリスは店に戻り、ブリルに店が襲われることを話します。

ゼルマはボロボロになったイリスの服を着替えさせながら、兄カルマンがかつてブリルを殺そうとしたことを告げます。

いよいよフェルディナンド皇太子が来店する“大きな行事”の日がやってきました。

以下、『サンセット』ネタバレ・結末の記載がございます。『サンセット』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

スポンサーリンク


(C) Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

イリスが妃殿下の帽子の採寸をしていた時に爆発音が鳴り響き、皇太子と妃殿下はすぐに退出しました。

レイター帽子店では、女店員たちが綺麗なドレスを身にまとい、誰が王室に選ばれ侍女になるのかと落ち着かない様子でした。

ゼルマには一番目立つドレスをあてがわれますが、彼女は「行きたくないわ、ここに残りたい」と呟きます。

男の従業員にイリスが「ウィーン行きは、今回が初めて?」と聞くと「君のお母さんの頃から何度かあった」と答えます。

ブリルから見張り役としてイリスにヴィンセが付けられます。イリスは彼と共にカルマンを探すためにドナウ川をボートで渡りましたが、見つかりませんでした。

店に見知らぬ男がイリスを訪ね、探し回るのをやめて仲間になるように話し、出て行きます。

広場のテントでは、侍女たちを品定めするかのようにダンスパーティーが始まっていました。

その中にイリスも入り、ある男性にダンスを誘いますが、ゼルマに「この娘は招待されていないの」と言われ、追い返されます。

翌日、豪華な帽子やドレスを着飾ったゼルマを皆が囲んでいました。

皆の隙を見て、ゼルマが王室に出発しようとする馬車に、イリスが代わりに忍び込みました。

イリスは靴を脱がされ、皇太子や貴族が待つ屋敷に入って行きます。待ち構えていた男が次々と寄ってきて、彼女を品定めしています。

皇太子が近寄り「ただの水だよ」と言いながら、グラスを渡します。

部屋の奥には、豪華な寝室が用意されていました。イリスはパニックになり、グラスをひっくり返し裸足のまま部屋を逃げ出します。

すれ違うように、ブリルがゼルマを連れてきました。帰りの馬車で「ゼルマは死ぬかもしれません」とイリスが告げますが、ブリルは完全に否定します。

精気を失った表情のイリスが、ヘルツ医師に診察を受けています。「君の兄も両親が携わった地獄で、疲れ果てたんだよ」とイリスに告げました。

女店員を王侯貴族へ斡旋する仕事は自分の両親がしていた事実を知り、イリスの瞳は虚ろなままでした。

ある日イリスは兄の服と帽子を被り、男たちの集会に忍び込みます。

兄を探すイリスの「レイター?」という声とともに、暴動が始まります。

店に火が放たれ、あちこちから女の叫ぶ声が聞こえます。

イリスは燃え盛る炎を背に、立ち去って行きます。

激しい雨音が響く暗闇に、塹壕が浮かびます。

疲れ果てた兵士たちが蹲る奥に、一人十字の腕章を付けた看護師が映ります。

まっすぐに見据えつつも、虚ろな瞳のイリアの姿がそこにありました。

スポンサーリンク

映画『サンセット』の感想と評価


(C) Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

最初に登場する主人公のイリスを、無性に目で追ってしまいます。

彼女の美しさの中に、なぜかいつも漂う不安と躊躇いの瞳に釘付けにされます。

気品を持ちながらも、内に秘めた謎や生い立ちがあり、実際彼女も自分の生い立ちや家族の謎を追ってブダペストにやってきたようでした。

映像は、常にイリスの背中にピタッとカメラを付けているかのように追いかけ、遠景がほとんどボヤけて、行き交う人々も焦点が定まりません。

そんな映像の中、イリスはとにかく動きます。

隙さえあればどんどん突き進み、禁断の世界へ入り込んでいきます。

この不安で混沌とした当時のヨーロッパは、どんな時代だったのでしょうか。

本作の歴史的背景とは

20世紀の初めには、隆盛を極めたオーストリア=ハンガリー帝国が存在しました。

そこは当時ヨーロッパの中心であり、首都はウィーンと、本作に出てくるブダペストでした。

広大な領地が多くの国々と他民族を抱えており、劇中でもハンガリー語やドイツ語など多数の言葉が飛び交っていました。

第一次世界大戦が勃発前の、近代化と廃退が共存し、ヨーロッパの蓄積された緊張が爆発寸前の中心都市、それがブダペストでした。

その過激さと脆さを持ったモチーフとして、イリスが現れたのも納得です。

イリスの存在

ヒロインのイリスは、2歳の時に帽子店がなぜか火災に遭い、孤児として斡旋屋を仲介して、トリエステに連れて行かれます。

トリエステでどう育ったのかは謎に包まれたままですが、帽子屋で働いていたことは、本人がデザイン画を持参してきたことから分かります。

背中のカメラが映し出すように、どんどんイリスは進みます。どんな危険で禁断の場所でも、彼女には躊躇がありません。

しかも目はいつも焦点が定まらない虚ろな瞳で、笑ったり微笑んだりする表情は映画でほとんど見られません。

瞳の奥に最も凄みを見せるのは、男たちの集会に男装をして乗り込むシーンです。

ネメシュ監督は、イリスを当時の女性としては逸脱した特殊な女性として描き、彼女を“ジャンヌ・ダルク”に例えています。

そしてこの映画のもう一つの大切なモチーフは、何と言っても『帽子』です。

境界としての帽子

女店員が帽子のモデルとして、遊園地に繰り出すシーンがあります。

女店員は、豪華で美しい帽子をかぶった途端、王侯貴族の侍女になるために日々を生きている日常から、非日常へと自分が生まれ変わることを知っているかのように歩き出します。

その姿は、自信に満ちた美しいモデルのようでした。

装飾が施された帽子を身に着けることで、当時の人々は社会道徳観を持ち、洗練された姿と平静を保っているように見せました。

一方その裏では抑えられない欲望と権力が蠢き、帽子を脱いだ瞬間に闇と破滅が待っていることを、帽子を通して物語っています。

まとめ


(C) Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

冒頭から心をざわつかせるようなシューベルトの曲が流れ、明るく輝く街並みが次第に陰りを見せるサンセットが映し出される映像は、この映画の物語を暗示しているようでした。

登場人物は多彩なキャラクターが次々と表れ、多くを語らずに映像から姿を消していきます

主人公のイリス以上に、観るものは頭の中で少ない情報から細い糸を手繰り寄せ、物語をつないでいく必要があります。

一つ一つのシーンの映ったものを見逃さないように、緊張感を持って映像を追いかけます。

実際にネメシュ監督も“観客に映画へのインスピレーション(気づき)を育ててほしい”と語っており、敢えて全てを語らず、謎を謎のままに留めているのでしょう。

イリスとともに、謎を追って20世紀のヨーロッパ世界を辿ってみませんか。

関連記事

サスペンス映画

三度目の殺人|若手弁護士・川島輝役は満島真之介!演技評価と感想

是枝裕和の最新映画『三度目の殺人』が、2017年9月9日(土)に公開。 弁護士が殺人犯の心の奥底に潜む真意を、弁護する立場から見つめる姿によって、新たな真実を想像する法廷サスペンス。 キャストは是枝監 …

サスペンス映画

ギャスパーノエ映画『クライマックスClimax』あらすじネタバレと感想。狂気に誘うロングテイクのダンスシーンは圧巻

日本公開は2019年11月の予定 今回ご紹介するのは稀代の鬼才ギャスパー・ノエ監督の待望の映画『クライマックス(原題:Climax)』。 予告編ですでにただ事ではない香りがプンプン漂う『クライマックス …

サスペンス映画

【ネタバレ感想】十二人の死にたい子どもたちの映画と原作の違いを結末まで解説。犯人キャストは誰なのか⁈

「死にたい」その思いで集まった12人の子どもたち。しかし、集いの場にはすでに1人の少年が横たわっていました。 いるはずのない13人目。この中の誰かが嘘を付いているのでしょうか。 集団安楽死を成し遂げる …

サスペンス映画

『探偵はBARにいる』フル動画を無料視聴!PandoraやDailymotion紹介も

大泉洋と松田龍平の実力派コンビが贈る極上コメディサスペンス! 悪戦苦闘しながら正義を貫こうとする主人公たちの姿に感動します。 映画「探偵はBARにいる」シリーズの第1作目のあらすじや作品解説、またパン …

サスペンス映画

三度目の殺人あらすじネタバレと感想!映画ラスト結末も。原作はある?

是枝裕和の最新映画『三度目の殺人』が、2017年9月9日(土)に公開。 弁護士が殺人犯の心の奥底に潜む真意を、弁護する立場から見つめる姿によって、新たな“真実”を想像する法廷心理サスペンス。 キャスト …

映画『凪待ち』2019年6月28日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開【主演:香取慎吾/監督:白石和彌】
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
【Cinemarche独占】映画『メモリーズ・オブ・サマー』映画監督アダム・グジンスキへのインタビュー【私のお手本となった巨匠たちと作家主義について】
【真宮葉月インタビュー】映画『最果てリストランテ』の女優デビューへの心がまえと学び続ける好奇心
【Cinemarche独占】映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』公開記念・小林聖太郎監督インタビュー|倍賞千恵子と藤竜也が夫婦を演じた映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』の魅力を語る
【Cinemarche独占】映画『岬の兄妹』公開記念・片山慎三監督インタビュー|映画『岬の兄妹』での複雑な人間関係を上質なエンタメに仕上げた映像作家に迫る
【Cinemarche独占】アミール・ナデリ監督インタビュー|映画『山〈モンテ〉』に込めた黒澤明監督への思いとは
【Cinemarche独占】『洗骨(せんこつ)』公開記念・水崎綾女インタビュー|映画『洗骨』のキャストとしての思いを語る。自身の経験と向き合い深めた演技と死生観
【Cinemarche独占】『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』公開記念・三上博史インタビュー|役者魂と自身の人生観を語る。
日本映画大学
ニューシネマワークショップ
FILMINK
国内ドラマ情報サイトDRAMAP