Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2021/02/08
Update

映画『ファーストラヴ』のタイトル意味。ラブではない理由を相関図の恋愛模様から読み解く

  • Writer :
  • 星野しげみ

映画『ファーストラヴ』は 2021年2月11日(木・祝)ロードショー。

島本理生の原作小説を『十二人の死にたい子どもたち』の堤幸彦監督が手掛けた映画『ファーストラヴ』。

父親を殺害した容疑で女子大生・聖山環菜が逮捕されました。事件を取材する公認心理師の由紀は、夫の弟で弁護士の庵野迦葉とともに彼女の本当の動機を探ろうとしますが、二転三転する環菜の供述に翻弄されていきます……。

環菜の犯した犯罪の裏にある家庭内の問題を探るうちに、思春期を迎えた彼女の初恋と由紀の恋愛が交錯します。果たしてタイトルになっている「ファーストラヴ」とは誰の初恋なのでしょうか。

事件のカギを握るタイトルの意味を、紐解いていきたいと思います。

映画『ファーストラヴ』の作品情報

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【原作】
島本理生:『ファーストラヴ』(文藝春秋)

【監督】
堤幸彦

【脚本】
浅野妙子

【キャスト】
北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介、板尾創路、石田法嗣、清原翔、高岡早紀、木村佳乃

【作品概要】
原作小説は、島本理生の第159回直木賞に選ばれた『ファーストラヴ』。家族という名の迷宮を描いた傑作長編小説を『十二人の死にたい子どもたち』(2019)の堤幸彦監督が手掛けて映画化しました。

映画では『スマホを落としただけなのに』(2018)の北川景子ほか、『屍人荘の殺人』(2017)の中村倫也、『今日も嫌がらせ弁当』(2019)の芳根京子に、『源氏物語 千年の謎』(2011)の窪塚洋介といった実力派俳優が集結。

映画『ファーストラヴ』のあらすじ

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

ある大学のトイレで、一人の男性が胸を刺され倒れているのが発見されます。

その頃、血まみれのナイフを持ち川端の道を歩く一人の女性がいました。アナウンサー志望の女子大生、聖山環菜(芳根京子)です。

彼女は、トイレで倒れていた父であり画家の那雄人(板尾創路)を殺した容疑で逮捕され、大きくメディアで報じられました。

環菜は、警察の取り調べに対し「動機はそちらで見つけてください」と返答したと言います。彼女について取材の依頼を受けた公認心理師の真壁由紀(北川景子)は、彼女への接見を決意。

環菜の弁護士は、国選弁護人として選任された由紀の夫・我聞(窪塚洋介)の弟である弁護士・庵野迦葉(中村倫也)でした。

迦葉と由紀は大学の同級生で、過去に因縁を持つ間柄。彼女は戸惑いながらも迦葉に接見希望を申し出て、ついに環菜と対面します。

「あの子はくせ者だよ。心が読めない」という迦葉の言葉に身構えながら、由紀は最初は公認心理師の立場として冷静に環菜を観察します。

そして、環菜を取り巻くさまざまな人物から改めて知らされる事実に驚き、翻弄されます。

いつしかその真実は、由紀自身が抱える心の闇へと繋がっていきました。

「恋愛」が形作られる関係図

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

女子大生・環菜が父親を包丁で殺害する事件がおこり、なぜ彼女は父親を殺害したのかと、主人公・由紀が事件解明に乗り出します。

原作では、環菜の家庭環境は歪でした。父親は血の繋がらない娘・環菜に対して、娘にしたのだからと恩返しを強制します。父親を愛する母親は絶対服従でした。

素直な環菜は父親の命ずるままに、デッサンのモデルになり、父を怒らすのは自分が悪いという思想を植え付けられていきます。その結果として、精神を病むことに……。

少女時代に家を飛び出し怪我をした環菜を保護してくれたゆうじくん。初めて心からくつろげる時間が持てた環菜は、ゆうじくんのことが好きだと思います

その後、ゆうじくんとも連絡が取れなくなり、以前と同じような生活をする環菜は、寂しさからか危うげな男性遍歴を重ねます。

一方、環菜の取材をする由紀は、環菜の国選弁護人で由紀の学生時代の同窓生であり義弟でもある庵野迦葉とは、若かりし頃にある出来事がありました。

物静かな我聞に魅かれいつしか愛し合うようになって結婚した由紀ですが、環菜の事件の調査が進むにつれ、自分の過去との共通点に気がつき、封じ込めたはずの記憶が呼び覚まされます

タイトルに込められた思い

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

映画『ファーストラヴ』では、女子大生による父親殺害事件を描いています。事件の背景には複雑な家庭事情がありました。

家庭内暴力や性の虐待などがある家庭では、母親が見て見ぬふりをしているケースが意外と多いそうです。父親との関係よりも母親との関係が問われるのが、現実かも知れません。

そんな親から普通の真っ直ぐな愛が与えられない子供は、いつしかねじれた思想で愛を求めて行くことになります。

思春期には、ほとんどの人がそれぞれ恋愛経験を持つと思われます。ほろ苦い経験もあれば、相思相愛のハッピーエンドの初恋もあるでしょう。

その一方で、愛情のように見せかけて実は身体が目当てだったりとか、恋愛に見せかけた危ないものの存在も否定できません。

寂しさから身近にいる人に頼る気持ちを‟恋愛”と錯覚したり、心の拠り所として無理やり疑似恋愛を想定したりと、危なっかしい‟恋愛ごっこ”もあると思われます。

危うい恋愛感情が発展するとどうなるのか。社会的制裁を余儀なくされる悲劇を招くことにもなりかねません。

本作では、環菜の初恋や由紀の恋愛というエピソードも交え、どちらかの話がキーポイントになっていると想像できます。

しかし、タイトルを「ファーストラブ」ではなく「ファーストラヴ」と表記することで、きれいごとではない危険な‟恋愛”の存在を警告しているとも思われるのです

まとめ

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

北川景子×中村倫也の共演で、女子大生の父親殺人事件の真相を追求する映画『ファーストラヴ』。

主人公の公認心理師の真壁由紀が事件を追いながら自分自身の心の闇と葛藤するという、主人公の内面を鋭く抉り出すエンタテインメント・サスペンスです。

タイトルの“初恋”は、事件に絡み合う鍵となるものですが、誰の‟初恋”を指すのか、あるいは警告と捉えるのか、観る人によって意見も分かれるのに違いありません。

映画『ファーストラヴ』は豪華なキャストに加えて、女性心理を鋭く追及するサスペンスストーリーです。タイトルの意味に注目すると、作品に含まれているもっと深い意義を見出せることでしょう。

映画『ファーストラヴ』は2021年2月11日(木・祝)ロードショー





関連記事

サスペンス映画

【ネタバレ】スイートマイホーム|映画あらすじ考察感想と結末の評価解説。怖い小説原作との違いと意味ד覗き見る少女”が暴く“他人の不幸”の中を生きる者

映画『スイート・マイホーム』は2023年9月1日(金)より全国公開! 作家・神津凛子のデビュー作である同名小説を、俳優として活躍しながら映像制作活動も行い、初の長編監督作『blank13』(2018) …

サスペンス映画

映画『見えない目撃者』ネタバレ評価と犯人の正体は誰?ラストは浅香航大と吉岡里帆の演技力がぶつかり合う

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、そして意識。 第六感までも震撼させるノンストップ・スリラー。 2011年韓国で大ヒットを記録し、中国でもリメイクされた映画『ブラインド』を、森淳一監督が大胆にリメイク。 …

サスペンス映画

映画『ミスティックリバー』ネタバレ考察と解説。感想の賛否こそがイーストウッド監督の唯一無二の秀作の証し

クリント・イーストウッド監督のサスペンス映画、 25年前のトラウマ事件と現在の事件が交差 ボストンの小さな町で生まれ育った3人が、ある事件を境に、悲劇的な運命を歩む事になる映画『ミスティック・リバー』 …

サスペンス映画

『毒親ドクチン』あらすじ感想と評価考察。韓国本格ミステリー映画おすすめ!母の“免罪符”なき歪んだ愛は“愛を捨て切れない”娘を蝕む

映画『毒親 ドクチン』は2024年4月6日に封切り後、7月6日(土)よりシネ・ヌーヴォ、元町映画館にて劇場公開! 母からの過剰な愛に苦しむ娘の心の闇を描いた映画『毒親 ドクチン』が2024年7月6日( …

サスペンス映画

Netflix映画『6日間』ネタバレ感想と考察評価。実話の事件をサスペンスとして複数の視点から描いた真相とは

Netflix映画『6日間』 1つの物事でも見る方向が異なれば全く別の感想が生まれます。そのことを常に意識していると、世界で発生する事件の数々は容易に「善悪」ではくくれないものだと感じるはずです。 今 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学