マッツ・ミケルセン主演!
復讐に暴走する軍人の顛末を描くサスペンス・ドラマ!
『ドクター・ストレンジ』(2017)や『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)などをはじめ、待機作に『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022)や「インディ・ジョーンズ」シリーズ最新作への出演が控えるマッツ・ミケルセンが主演を務めた映画『ライダーズ・オブ・ジャスティス』。
監督は、『アダムズ・アップル』(2019)など数多くの作品でマッツ・ミケルセンとタッグを組んだアナス・トーマス・イェンセン。
アフガニスタンで任務についていた軍人のマークスの元に、列車の事故により妻が亡くなったとの報せが……。
悲しみに暮れる娘の元に帰国するも、娘とも自身の悲しみとも向き合えないでいるマークスのところにやってきたのは、同じ電車に乗っていたという数学者のオットー。
列車事故の背後にあるのは“ライダーズ・オブ・ジャスティス”という犯罪組織だと言うオットーの話を聞いたマークスは、オットーとその仲間たちと共に復讐へと駆り立てられていきます。
CONTENTS
映画『ライダーズ・オブ・ジャスティス』の作品情報
【日本公開】
2022年(デンマーク・スウェーデン・フィンランド合作映画)
【原題】
Retfaerdighedens ryttere(英題:Riders of Justice)
【監督・脚本】
アナス・トーマス・イェンセン
【キャスト】
マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・コース、アンドレア・ハイク・ガデベルグ、ラース・ブリグマン、ニコラス・ブロ、グスタフ・リンド、ローラン・ムラ
【作品概要】
監督を務めたアナス・トーマス・イェンセンは、『アダムズ・アップル』(2019)、『メン&チキン』(2015)の監督・脚本ほか、『悪党に粛清を』(2015)の脚本なども手がけるデンマークの監督・脚本家です。アナス・トーマス・イェンセン監督とマッツ・ミケルセンは本作が5度目のタッグとなりました。
マッツ・ミケルセンは、プロのダンサーとしてキャリアをスタートさせ、31歳のときにニコラス・ウィディング・レフン監督のデビュー作『プッシャー』(1996)で俳優デビューしました。
デンマークを中心に活躍後、ハリウッドにも進出し、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)、『ドクター・ストレンジ』(2016)、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2017)など多岐にわたって活躍しています。
共演者は『特捜部Q』シリーズや『チャイルド44 森に消えた子供たち』(2014)のニコライ・リー・コース、『博士と狂人』(2018)のラース・ブリグマン、『アダムズ・アップル』(2020)、『ドミノ -復讐の咆哮-』(2019)のニコラス・ブロ、『ヒトラーの忘れもの』(2015)、『スカイスクレイパー』(2018)のローラン・ムラなどデンマークが誇る役者陣が顔をそろえます。
更に『アナザーラウンド』(2020)でマッツ・ミケルセンと共演したアルバト・ルズベク・リンハートをはじめ、『ある人質 生還までの398日』(2020)のアンドレア・ハイク・ガデベルグや『罪と女王』(2019)のグスタフ・リンドなど北欧の若手俳優も出演しています。
映画『ライダーズ・オブ・ジャスティス』のあらすじ
クリスマスが迫るある冬の日、祖父に連れられ自転車屋にやってきた孫娘。欲しい青色の自転車がなかった孫娘は取り寄せることに。
自転車屋の主人がどこかに電話をかけ、道端にあった自転車が車に運び込まれます……。
舞台は移り、アフガニスタン。軍人のマークス(マッツ・ミケルセン)は帰国目前にして任期が延びたことを告げられ、妻に電話をかけます。
その頃妻は、娘のマチルデ(アンドレア・ハイク・ガデベルグ)の自転車が盗まれたので車で学校まで送ろうとしていました。しかし、車の調子が悪く、なかなかエンジンがかかりません。
マークスからの電話により、帰国が延びたことを知った妻は、マチルデに今日は学校に行かず電車に乗って出かけようと誘います。
帰りの電車に乗った2人。前に座っていたオットー(ニコライ・リー・コース)は席を譲ります。
その日、数学者であるオットーは研究発表の途中でクビを通告され、いつもより早い電車で荷物を抱え帰宅しているところでした。
2人が乗ってきた駅でオットーは、一人の男が一口齧っただけのサンドイッチとドリンクをゴミ箱に入れて降りたのを見かけ、不思議に思っていました。
オットーが席を譲り、妻が座った矢先大きな爆発音と共に電車が倒れます。何が起こったか分からないままオットーは起き上がり呆然と立ち尽くし、そばにいたマチルデを引き寄せます。
救急隊員がやってきて救助されたオットーは病室で途方にくれているマチルデを見かけ、マチルデの母が亡くなったことを知ります。
任地にいたマークスも電話を受け、帰国。娘と抱き合い、病院の人々が止めるのも聞かず妻の遺体を見に行きます。
心のケアのために必要であればカウンセリングなどの対応をします、娘さんには子供向けのカウンセラーもいますと説明を受けますが、マークスは頑なに日常に戻るためには他人がいない方がいい、必要ないと言います。
マチルデがカウンセリングを受けたいと言う気持ちも全く聞き入れず、長らく家にいなかった父親との生活、命令口調の話し方にマチルデは戸惑いを隠せません。
ある日、夜遅くになっても帰ってこない、連絡しても電話に出ないマチルデを心配したマークスは彼女を探しに外に出ます。
すると友人と共にいたマチルデを見かけ、何故連絡しないと怒ります。更に、今はマチルデを怒らない方がいいと助言する友人を思わず殴ってしまいます。
父の行動にマチルデは怒り、父を避けますが、マークスはこれでも努力していると言いつつも自分の態度を変えることはしません。
そんな父娘の元にオットーが友人のレナート(ラース・ブリグマン)と共にやってきます。
“ライダーズ・オブ・ジャスティス”という犯罪組織の裁判に証言するはずだった証人が事故により死んだ、これは統計的に事故はあり得ない、背後に“ライダーズ・オブ・ジャスティス”が絡んでいる事件だとマークスに伝えます。
妻と娘と同じ電車にいた、警察は話しても聞き入れてくれないので伝えにきたというオットーの言葉にマークスは犯人を突き止め、妻の無念を晴らそうと、復讐心を燃やしはじめます。
映画『ライダーズ・オブ・ジャスティス』の感想と評価
悲しみとの向き合い方
電車の事故により妻を失ったマークスはその事実に向き合うことが出来ず、オットーの話を聞き、復讐に駆り立てられていってしまいます。
それは、喪失感や突如妻を奪われたことに対する怒りなど、さまざまな感情をぶつける相手を探しているとも言えるかもしれません。そのようなマークスを、マチルデは暴力で解決することしかできないと非難します。
一方マチルデも、事件当日の自分の行動のメモを自室の壁に貼り付けています。自転車が盗まれた、マークスから電話が来る、車の調子が悪い、電車に乗った……考えても仕方ない帰ってこないその日の行動を考えずにはいられないのです。
人は悲しみを受け入れることからどうしても逃げてしまいます。オットーもそうでした。
かつて交通事故により妻と娘を失ったオットーはその悲しみから立ち直ることが出来ず、未だに娘のことを考える。そしてマークスとマチルデが羨ましくて仕方ないと言います。家族を顧みなかった過去の自分を責めても、もう娘は戻ってこないのです。
レナードもエメンタールも人を亡くした喪失感とは違いますが、かつての自分の失敗や受けた傷と向き合えずどこか引きずったままでいます。そのような彼らにとって、“復讐”とはある意味都合の良い気持ちをぶつけられる行動であったのかもしれません。
しかし、次第に復讐は何もうまないどころか見当違いであることに気付かされるのです。
偶然という皮肉
アナス・トーマス・イェンセン監督が監督・脚本を務めた『アダムズ・アップル』(2019)、『メン&チキン』(2015)ではシュールでシニカルな世界観が特徴的でした。本作も、シリアスなドラマでありながら時折クスッと笑えるような、ほっこりした場面が散りばめられています。
悲しみと向き合うマークスとマチルデ父娘の物語だけでなく、偶然が確信かのように思え復讐へと繋がっていく前半から、後半は見事に裏切られていく偶然性の皮肉が、本作の面白みでもあります。
2021年に公開された『悪なき殺人』(2021)でも偶然が絡まり合い、思いもよらない真実へと繋がっていく面白さがありました。本作でも、始まりはまさに“偶然”なのです。
たまたまクリスマスプレゼントに、自転車を買いに来た祖父と孫娘。この何の関係性もない2人の行動が、巡り巡ってマークス父娘の悲劇にも絡んでくるともいえる皮肉さ。
更に高確率で顔認証で一致した人物が別人であり、実際にオットーがみた人物はエジプトからやってきた人であり、デンマークの住人ではありませんでした。
オットーは安くないお金を払って買ったサンドウィッチを、一口だけ齧って捨てる人などそうそういないと考えていました。しかし実際はあまりにも不味くて捨てたのです。
オットーが考えるような計画性のある行動ではなく、全てが偶然のなせる業であった……。
登場人物が知り得ない事件の全貌を知ることができるのが、映画を見る観客の楽しみでもあります。事故により妻を失ったマークスが復讐の鬼と化すシリアスなサスペンスドラマであり、偶然の皮肉を描いたシニカルなドラマとしても楽しめる映画になっています。
まとめ
アナス・トーマス・イェンセン監督と5度目のタッグとなったマッツ・ミケルセンが復讐の鬼と化す軍人を演じた映画『ライダーズ・オブ・ジャスティス』。
喪失感との向き合い方、復讐…シリアスなドラマと共に描かれているのは偶然の皮肉でした。
しかし、見方を変えてみれば事故による偶然の連鎖が、マークスとマチルド父娘とオットーやレナード、エメンタールとの出会いを呼び寄せたとも言えるのです。
偶然も運命も紙一重であり、そこに意味を見出そうとしてしまうのが人間なのかもしれません。