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映画『博士と狂人』ネタバレあらすじと感想評価。オックスフォード英語大辞典に編纂に挑んだ男たち

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

「オックスフォード英語大辞典」の編纂に挑んだジェームズ・マレーと、殺人を犯した罪の意識から、辞書の編纂をサポートする男、ウィリアム・チェスター・マイナー。

この2人が礎を築いた「オックスフォード英語大辞典」は、初版発行まで70年以上の歳月を費やし編纂された、世界最高峰の辞典として知られています。

マレーとマイナーの物語を通じて、「オックスフォード英語大辞典」誕生の実話を描いた映画『博士と狂人』。

生活の中で必須となっている「言葉」や「文字」の持つ素晴らしさを描いた人間ドラマである、本作の魅力をご紹介します。

映画『博士と狂人』の作品情報


(C)2018 Definition Delaware, LLC. All Rights Reserved.

【公開】
2019年公開(イギリス・アイルランド・フランス・アイスランド合作映画)

【原題】
The Professor and the Madman

【監督・脚本】
P・B・シェムラン

【共同脚本】
トッド・コマーニキ

【キャスト】
メル・ギブソン、ショーン・ペン、ナタリー・ドーマー、エディ・マーサン、ジェニファー・イーリー、ジェレミー・アーバイン、ヨアン・グリフィズ、スティーブン・ディレイン、スティーブ・クーガン

【作品概要】
「オックスフォード英語大辞典」誕生の裏に隠された実話を描いたヒューマンドラマ。

オックスフォード英語辞典の編纂に挑むマレーを演じるのは、俳優として高い評価を受けながら、監督としても『ブレイブハート』(1996年)『ハクソー・リッジ』(2017年)でアカデミー賞を受賞しているメル・ギブソン。

「オックスフォード英語大辞典」の編纂に協力するマイナーを、『ミスティック・リバー』(2004年)『ミルク』(2009年)で2度のアカデミー賞主演男優賞に輝いているショーン・ペンが演じています。

監督はテレビシリーズ『BOSS/ボス~権力の代償~』(2011~2012)で企画と脚本を手掛けた後、本作が長編デビュー作となるP・B・シェムランが脚本も担当しています。

映画『博士と狂人』のあらすじとネタバレ


(C)2018 Definition Delaware, LLC. All Rights Reserved.
19世紀のイギリス。

アメリカ人の元軍医である、ウィリアム・チェスター・マイナーは、戦時下のトラウマに苦しんでいました。

常に何者かに狙われている幻覚に苦しんでいたマイナーは、仕事帰りの男性を銃で撃ち、家族の前で絶命させます。

逮捕されたマイナーは、裁判にかけられますが、不安定な精神状態を考慮され、無罪となります。

マイナーは、精神病院に収監されました。

名門で知られる、オックスフォード大学で、オックスフォード英語辞典の編纂者を決める会議が行われていました。

編纂者を希望するジェームズ・マレーは、貧しい家庭に生まれながらも、独学で学者となった異色の経歴の持ち主ですが、博士号を持たない事が問題視されていました。

ですが、マレーは独学で得た、言語に関する圧倒的な知識を披露した事で、言語学者のフレデリック・ジェームス・ファーニヴァルの信頼を得て、編纂者に決まります。

オックスフォード英語辞典の編纂者に決まった事を喜び、家族に報告するマレー。

ですが、求められるのは「完璧な英語辞典」である事から、マレーはすぐに困難な壁にぶち当たりました。

そこで、マレーが考えた方法は、ボランティアにお願いして単語を収集する方法です。

マレーは、書店などに「ボランティア協力のお願い」が書かれたチラシを配布していきます。

精神病院に収監されたマイナーは、精神病院の院長であるブレインの診断を受けます。

診断を受ける中でマイナーは、自分が命を奪ってしまった男の家族に、罪滅ぼしの為に、軍の年金を渡すようにお願いします。

看守であるマンシーは、未亡人となったイライザに、マイナーの年金の話をしますが、イライザはマイナーに強い恨みを持っていた事から、この申し出を拒否します。

イライザに自身の申し出を断られたマイナーですが、精神病院内で事故が発生した際に、看守の命を助けた事で恩赦を受けるようになります。

マイナーは、広い部屋を与えられ、本を読む事を望みます。

そして、マンシーから受け取った本に、マレーが配布した「英和辞典作成に関しての、ボランティアのお願い」のチラシが入っていました。

一方、自宅に作業用の小屋を作り、作業に没頭していたマレーですが、辞書作成が難航しており「Art」に関する記述が見つかり苦しんでいました。

また、辞書編集の担当者ジェルから圧力を受け、マレーは精神的に疲弊していました。

そこへ、マイナーから「Art」に関する記述が送られてきます。

マイナーからの、英語辞典に関する情報提供はそれだけではなく、マレーはマイナーからの情報をもとに、英和辞典作成の作業が軌道に乗り始めます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『博士と狂人』ネタバレ・結末の記載がございます。『博士と狂人』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


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イライザは、残された子供を食べさせる為に、売春を始めるようになります。

それでも生活が苦しい中、イライザが子供達と迎えたクリスマス。

そこにマンシーが訪ねてきて、豪華な料理をイライザ達に届けます。

その際に、マンシーから「子供達の為に、年金を受け取るべきだ」と説得されたイライザは、もう1度マイナーに会い、申し出を受けるかどうかを決める事にします。

精神病院でマイナーと面会したイライザは、年金を受け取る事を了承しますが、マイナーには「絶対に許さない」と伝えます。

また、マイナーからの情報で辞書作りが軌道に乗ったマレーは、精神病院にいるマイナーを訪ねます。

語学に関する高い知識を持つマイナーが、精神病院に収監されている事にマレーは疑問を抱きますが、2人は言葉に関する会話を楽しみ、マレーはマイナーに「友である」と伝えます。

マレーは、AからAntに関する言葉が記載された「オックスフォード辞典」を発売させます。

これまでの苦労が1つの形になった事に、マレーは喜びを感じますが、「オックスフォード辞典」の売れ行きが思わしくない事から、ジェルはマレーを編纂者から外す事を考えるようになります。

マイナーは、再び精神病院を訪ねて来たイライザと、庭を散歩します。

マイナーの年金で、不自由の無い生活を送れている事に、イライザは感謝をしマイナーに本をプレゼントします。

ですがマイナーの「君が選んだのかい?」という問いかけに、イライザはショックを受けた様子を見せて立ち去ります。

数日後、再びイライザがマイナーを訪ねて来た際に、マイナーはイライザが字が読めない事を知り、読み書きを教えるようになります。

マイナーに心を開いたイライザは、自分の子供達をマイナーに会わせますが、自分の父親の命を奪ったマイナーを、長女は拒絶します。

マイナーは、長女に拒絶された事から、自分がイライザの夫を奪った罪を、あらためて感じるようになり、幻覚に苦しめられるようになります。

そしてマイナーは、自分の下半身を痛めつける行為に出ます。

「オックスフォード辞典」を発売したマレーですが、掲載されていない言葉がある事が指摘され、編纂者として危うい立場になっていました。

さらに、マイナーが自分の部屋で描いていた、イライザの肖像画がマレーに送られてきた事から、異変を感じたマレーがマイナーを訪ねます。

マレーの前に現れたマイナーは、半狂乱状態となっており、マイナーはマレーに「お前なんか友達じゃない」と言い放ちます。

また「オックスフォード辞典」に殺人者であるマイナーが関わっていた事を、新聞記者に探られてしまい、マレーは妻に全てを打ち明けます。

マレーの妻は、マイナーが「オックスフォード辞典」に関わっていた事実を知り取り乱します。

そして、「オックスフォード辞典」にマイナーが関わっていた事は新聞で報道されてしまい、マレーは責任を取って辞任します。

マレーはイライザに会いに行きますが、そこでマイナーが面会禁止になっている事を聞かされます。

マレーはイライザと共に、マンシーの協力を得て、マイナーに会いに行きます。

そこには、ブレインの人格破壊を目的にした治療を受けてしまい、すでに意識も無くなった状態のマイナーがいました。

マイナーの状況を目の当たりにしたマレーは、フレデリックと共に、マイナーを釈放させる為の審議を起こしますが棄却されてしまいます。

諦めきれないマレーは、イギリス政府のウィンストン・チャーチルを訪ね、人権の観点からマイナーの釈放を要求します。

チャーチルは、マイナーを国外追放する形で、釈放を認めます。

マレーは、アメリカに送還されるマイナーと抱き合い、見送った後に、再び辞書作りの仕事を再開させます。

映画『博士と狂人』感想と評価


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世界最高峰と称される「オックスフォード英語大辞典」の誕生にまつわる実話を描いた映画『博士と狂人』。

辞書作りを描いた映画と言えば2013年の日本映画『舟を編む』を連想する方も多いのではないでしょうか?

『舟を編む』では、新しい辞書「大渡海(だいとかい)」の編纂を任された主人公の馬締の奮闘が描かれていましたが、作中で、辞書編集部はお荷物のような存在となっており、誰も新しい辞書に期待をしていないという場面がありました。

『博士と狂人』の主人公マレーは、逆に名門「オックスフォード大学」の名を背負い、「名門に失敗は許されない」というプレッシャーを抱えての編纂となります。

さらに、戦争のトラウマから殺人を犯してしまい、精神病院に収容されたマイナーが絡む事で、物語の独自性が高まります。

本作で強く主張されている事は「言葉の持つ力や素晴らしさ」です。

作品の序盤で、マレーがマイナーと初めて会う場面があるのですが、「言葉の持つ力や素晴らしさ」を印象付ける場面となっています。

「オックスフォード英語大辞典」の編纂に苦しんでいたマレーは、手紙で言葉に関する膨大な情報を提供してくれるマイナーを、当初は精神病院の院長だと思っていました。

その為、マイナーが殺人を犯し精神病院に収容された犯罪者である事に、マレーは最初は驚いた様子を見せます。

また、アメリカの名門出身のマレーも、スコットランド人のマレーを最初は差別的な発言で迎えます。

ですが、お互いの文学に関する高い教養を交換する内に、2人の間に友情が芽生えるようになります。

2人のやりとりは「言葉を交わす」という行為を、まるでエンターテイメントのように楽しんでいる印象があります。

仕立て屋の貧しい家柄出身のマレーと、名門のエリート階級出身のマイナー、家柄も人種も違い、普通なら会う事すらなかったであろう、2人を結びつけたのが「言葉の力」なのです。

また、作品中盤の、マイナーがメレットに言葉を教える展開も「言葉の力」を印象付けます。

当初メレットは、自分の夫の命を奪ったマイナーの事を憎んでいました。

マイナーも、その事を心から後悔しており、メレットに自分の全てを捧げるつもりで謝罪をしますが、メレットは全く受け付けません。

ですが、メレットが文字を読めない事に気付いたマイナーは、メレットに文字を教える事で、次第にお互いの心が通じ合うようになります。

そして、文学に触れたメレットは、これまで自身の生活の事だけで頭がいっぱいでしたが、新たな価値観に触れるようになります。

本作では、普段何気なく使っている「言葉」や「文字」が、人間という動物に与えられた素晴らしい能力である事を、さまざまな登場人物のエピソードから語られます。

物語の後半で、マイナーは、精神病院の院長ブレインにより人格を破壊され、まともに言葉が話せなくなります。

マレーは、マイナーを精神病院から出す為に、いろいろと模索をしますが、この展開には自由に言葉を話す事こそ、人間らしくいられる証であり、それこそが自由であるという主張が込められています。

映画『博士と狂人』は、言葉にまつわる人間ドラマが展開されますが、「オックスフォード英語大辞典」の編纂に関する重圧や、周囲の圧力に悩むマレーと、自身が犯した罪と、残された家族に向き合うマイナー、2つの物語に主軸を置いています。

そして、この2つが絡み合って迎えるラストは「人間らしさ」をテーマにした、とても感動的な展開となっていますよ。

まとめ


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映画『博士と狂人』の注目点として、メル・ギブソンとショーン・ペンの初共演という部分でしょう。

ショーン・ペンは罪の意識に悩み、心の病に苦しむマイナーを、感情剥き出しの演技で表現しています。

これとは対照的に、マレーを演じたメル・ギブソンは、常に冷静を装いながらも重圧に苦しむマレーの内面を、静かな演技で表現しています。

この2人の演技により、映画『博士と狂人』は重厚で見応えのある作品となっています。

「オックスフォード英語大辞典」の誕生にまつわる実話というと、少し難しいイメージを抱くかもしれません。

ですが、本作は練りこまれた脚本と、アカデミー賞俳優による演技合戦が楽しめる、言ってしまえば王道のエンターテイメント作品なのです。

「言葉の大切さ」というテーマは、『舟を編む』でも「気持ちを伝える言葉が見つからない」という部分では同じでした。

国は違えど、辞書をテーマにした作品が、同じテーマで着地するというのも、なかなか面白いですね

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