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Entry 2021/12/03
Update

映画『悪なき殺人』ネタバレ結末あらすじと感想評価。”動物だけが知っている”が意味する男女の繋がりを描く群像ミステリー

  • Writer :
  • 松平光冬

愛を求める者たちが“偶然のいたずら”に巻き込まれる

2019年の第32回東京国際映画祭コンペティション部門で最優秀女優賞と観客賞のダブル受賞に輝くいた映画『悪なき殺人』が、2021年12月3日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開、および4日(土)よりデジタル公開。

ある失踪事件を軸に、思いもよらない形でつながっていく5人の男女を描いたサスペンスを、ネタバレ有りでレビューします。

映画『悪なき殺人』の作品情報

(C)2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076

【日本公開】
2021年(フランス・ドイツ合作映画)

【原題】
Seules les betes(英題:Only the Animals)

【監督・脚本】
ドミニク・モル

【製作】
キャロル・スコッタ、カロリーヌ・ベンジョー、バルバラ・レテリエ、シモン・アルナル

【共同脚本】
ジル・マルシャン

【撮影】
パトリック・ギリンジェリ

【キャスト】
ドゥニ・メノーシェ、ロール・カラミー、ダミアン・ボナール、ナディア・テレスツィエンキービッツ、バレリア・ブルーニ・デデスキ

【作品概要】
フランスの山間の人里離れた町で発生した女性失踪事件を軸に、5人の男女のつながりを描くサスペンスドラマ。

『ハリー、見知らぬ友人』(2000)で名を上げた鬼才ドミニク・モルが今回も脚本も兼任し、「偶然」をテーマにした群像劇が繰り広げられます。

主要キャストに、『イングロリアス・バスターズ』(2009)や『ジュリアン』(2017)のドゥニ・メノーシェ、『レ・ミゼラブル』(2020)のダミアン・ボナール、ドラマシリーズ「ポゼッションズ 血と砂の花嫁 」(2020)のナディア・テレスツィエンキービッツなど。

2019年の第32回東京国際映画祭コンペティション部門では『動物だけが知っている』の邦題で上映され、観客賞と最優秀女優賞(ナディア・テレスツィエンキービッツ)を受賞しました。

映画『悪なき殺人』のあらすじとネタバレ

プロローグ

アフリカ、コートジボアール最大の都市アビジャン。

子ヤギを背負って自転車に乗る男ロレックスが、サヌー師という人物を訪ねます。

アリスの章

(C)2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076

フランスの山間の人里離れた寒村に暮らすアリスは、農場を経営する夫ミシェルを手伝いつつ、共済組合員として働いています。

彼女は、組合の加入者である農家のジョゼフと不倫関係にあり、この日も彼と体を重ねます。

いつもと違ってどこか上の空のジョゼフに、アリスは、彼が昨年の母を亡くして精神が不安定になっているからだとひとり納得します。

そんな中、雪道で乗り捨てられた車が発見され、所有者がエヴリーヌ・デュカという女性であることが判明。

彼女は村の高原にある別荘に滞在しており、別荘の所有者で離れて暮らす夫のギヨームは、マスコミのマイクに、最近は互いに干渉しない生活を送っていたとしながらも、行方不明となった妻の安否を気遣うと答えます。

仕事が多忙だとしてミシェルとの会話が減っているアリスが再度ジョゼフを訪ねると、彼が飼っていた犬の死体を藁小屋で発見。

犬は誰かに撃たれて殺されたと語るジョゼフは、「愛してる」というアリスの言葉を遮り、無理やり追い出してしまいます。

その夜、ミシェルが電話先の相手に「告訴なんてしない!ほっといてくれ」と怒鳴り散らし、そのまま車で外出。その後、帰宅した彼の顔には傷がありました。

翌朝、姿をくらましてしまったミシェルを探すアリスと警官のヴィジエは、エヴリーヌの車があった場所で彼の車を発見。アリスは「ジョゼフの犬を殺したのは夫だと思う」とヴィジエに告げるのでした――。

ジョゼフの章

(C)2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076

ジョゼフは、家の近くで布にくるまれた女性の死体を発見し、慌てます。

その直後、訪ねてきたアリスの声に驚き、すぐさま彼女を家に入れて情事にふけるも、死体が気になるあまり上の空状態に。

その後、一旦は死体を山林に捨てようとするも、持ち帰って藁小屋に隠します。

家を訪ねてきたヴィジエの事情聴取から、死体が行方不明中のエヴリーヌと知るも、その場をごまかします。

次第にエヴリーヌに囚われてしまったジョゼフは、死体に吠えまくる飼い犬を黙らせるために射殺。その後、訪ねてきたアリスに犬の死体を見られ、怒号交じりに彼女を追い返します。

エヴリーヌに音楽を聞かせて添い寝し、夢の中で彼女から「貴方が最後よ」と話しかけられたジョゼフ。
 
目覚めた後、エヴリーヌを背負って山にある深い穴に。そこで彼女を投げ落とし、自らも身を投じるのでした――。

マリオンの章

(C)2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076(C)Jean-Claude Lother

パリのレストランで働くマリオンは、エヴリーヌと同性愛の関係を続けていました。

エヴリーヌと常に一緒にいたいと思うも、目覚めたベッドには彼女の姿はありません。

マリオンは、以前語っていたプライベートな情報から、彼女が住んでいるとおぼしき山間の村に向かう事に。

村に着き、1台の車をヒッチハイクするも、アリスを乗せてその車を運転していたミシェルは途端に慌てて、マリオンを乗せずに走り去ってしまいます。

突如現れたマリオンに、別荘にいたエヴリーヌは驚きを隠せません

夫が戻ってくるから泊めれないとして、エヴリーヌはホテルを取ろうとするもマリオンは拒み、自ら低料金のロッジを見つけます。ところが、不審者にロッジの周りをうろつかれたり、ドアに現金が挟まっているなどの不気味な体験をすることに。

ある夜、ロッジを訪ねたエヴリーヌから別れを告げられたマリオンは荒れ狂い、口論に。エヴリーヌは思わずマリオンの頬を張り、その場を去ります。

悲しみのまま寝床に付いたマリオンは、翌朝訪ねてきた警官のヴィジエから、エヴリーヌが昨晩から行方不明になっていると告げられます。

事件の関与を否定し、その夜に失意のまま身支度をしていたマリオンを、ミシェルが訪ねてきます。

「アマンディーヌ」と呼んで近づくミシェルに身に覚えのないマリオンは恐怖し、彼の顔を蹴って追い返すのでした――。

アマンディーヌの章

(C)2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076(C)HautetCourt

アフリカ、コートジボアールのアビジャンに住む青年アルマンは、SNSで女性になりすまして現金を奪う詐欺行為を働いていました。

その日も、ネットで見つけたマリオンの画像に「アマンディーヌ」という名を付けてなりすますと、すぐさま1人の男がアクセスしてきました。

そんな中、黒魔術を操るサヌー師の助言を受ければ大儲けできるとされ、ロレックスという男もそれで成功したという噂を聞き、アルマンもサヌー師を訪ねます。

サヌー師から成功報酬の一部を上納するよう言われ、黒魔術の儀式を受けたアルマンは、アクセスしてきた男ミシェルをターゲットにすることに。

アマンディーヌになりすましたアルマンは、アビジャンにいる病気で倒れた父を見舞いに行く金がないと、1,000ユーロを無心。同情と下心から、ミシェルは指定された口座に振り込んでしまいます。

大金を手にしたアルマンがその夜にクラブで豪遊していると、元恋人のモニークと再会。

彼女はアルマンとの間に出来た娘と共に、今はフランス人の資産家と暮らしていると語ります。

(C)2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076

一方、SNSでアマンディーヌに素性を明かしていたミシェルは、助手席に座るアリスの勧めで、目の前の女性ヒッチハイカーに応じます。

ところがその女性がアマンディーヌ(マリオン)と知り、慌てて車を走らせます。

ミシェルは、アマンディーヌが泊まるロッジを突き止め、夜に徘徊したり、現金をドアに挟んでいきます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『悪なき殺人』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076

「僕に会いに来てくれたんだね」とのミシェルからのチャットの意味が分からず困惑するアルマンは、これまでの運が尽きかけているとして再びサヌー師を訪ねるも、最初に約束した金をもらっていないとして、さらに4,000ユーロ払うよう求められます。

チャットで「悪者に監禁されて4,000ユーロが必要なの」と告げられたミシェルは、とにかく直接会おうとアマンディーヌのロッジに向かうも、中で彼女が女性(エヴリーヌ)に叩かれている現場を目撃。

悪者がエヴリーヌと思い込んだミシェルは、彼女の車を尾行し、雪道で止めさせて問い詰めます。しかし話の意味が分からずその場を去ろうとするエヴリーヌを衝動的に絞め殺し、死体をジョゼフの家の前に投棄。

「問題は解決したから大丈夫」というミシェルからのチャットで運の尽きを完全に悟ったアルマンは、突入してきた警官隊に逮捕されます。

コートジボワール警察からの電話で、自分がSNS詐欺に遭っていたと知らされ、加害者を告訴するかと問われたミシェルは、「告訴なんてしない!ほっといてくれ」と怒鳴り、再度アマンディーヌのロッジに。

真相を確認しようとアマンディーヌの前に姿を見せるも、彼女に顔を蹴られて逃げるようにその場を去ります。

翌朝、突然いなくなった夫ミシェルをアリスが探していた頃、彼はアビジャンにいました。

釈放されたアルマンは、街中で出会ったモニークから、フランス人と一緒にこの地を離れると告げられます。

そんなアルマンの後を尾行し、捕まえたミシェルが問い詰めます。

「金は返す」(アルマン)、「人を弄んで楽しいか?」(ミシェル)

アルマンに逃げられ、宿泊するホテルで呆然としていたミシェルのパソコンに、「まだそこにいるの?」とのアルマンからのチャットが。

ミシェルは思わず泣き笑いを浮かべるのでした――。

(C)2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076

エピローグ

フランスの寒村のエヴリーヌがいた別荘に、車が1台止まります。

車から出てきたのはエヴリーヌの夫ギヨームと、モニークでした――。

映画『悪なき殺人』の感想と評価

(C)2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076(C)HautetCourt

本作『悪なき殺人』に登場する人物は皆、「愛」を求める者たちです。ただ、もう1つ共通しているのは、「愛」を求める相手がそれに応えてくれないということ。

アリスは農夫ジョゼフとの不倫に走りますが、当のジョゼフは素っ気ない。そのジョゼフは家の近くで発見した死体の女性エヴリーヌにのめり込んでいくも、彼女から語りかけることはない。

生前のエヴリーヌと同性愛の関係を続けるマリオンも彼女を欲しますが、深入りを拒まれる。アリスの夫ミシェルは、実在しないと知らずにSNS上の女性アマンディーヌ(マリオン)とつながろうとする。

そして、アマンディーヌになりすます青年アルマンも元恋人モニークとよりを戻そうとするも、金持ちのフランス人(エヴリーヌの夫ギヨーム)のパトロンである彼女にはその気がない…。

本作は、そんな報われない「愛」を求める者の偶然が誤解を生み、予期せぬ事態となっていく、秀逸なミステリーに仕上がっています。

まとめ


(C)2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076(C)Jean-Claude Lother

本作が2019年の東京国際映画祭で上映された際の邦題は『動物だけが知っている』。これは原題で原作小説のタイトルでもある、『Seules les betes(Only the Animals)』を意訳しています。

監督のドミニク・モル曰く、この原題には「動物のみが愛せる形で主人を愛する」という意味があるのだとか。

動物は何の見返りも求めず、ただ好きだから愛している。しかし本作の登場人物たちは、各々が見返りを期待して「愛」を求めてしまっている。その皮肉が原題に込められていると言えましょう。

劇中での、怪しい黒魔術を操るサヌー師の言葉、「愛とは、無いもの与えること。快楽とは、在るものを与えること」が実に響きます。

登場人物5人の視点を4章で描き、章が開くにつれミステリーの構図が一つにつながる展開に、唸ること必至の作品です。

映画『悪なき殺人』は、2021年12月3日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開、および4日(土)よりデジタル公開




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