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Entry 2020/02/26
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映画『ドミノ/復讐の咆哮』ネタバレあらすじと感想。ラストはデ・パルマの演出が光る三つ巴の追走劇|サスペンスの神様の鼓動29

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

サスペンスの神様の鼓動29

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回ご紹介する作品は、同僚の敵を討つため、犯人を追いかける刑事が、巨大な陰謀に巻き込まれるアクション・サスペンス『ドミノ/復讐の咆哮』です。

自身のミスにより、相棒の刑事を失ったデンマーク警察のクリスチャンが、新たな相棒となった女性刑事アレックスと共に、犯人を追走するアクション・サスペンス。

監督は、1983年の『スカーフェイス』や、1996年の『ミッション:インポッシブル』など、数々の名作を手掛けた巨匠、ブライアン・デ・パルマです。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『ドミノ/復讐の咆哮』のあらすじとネタバレ


(C)2019 Schonne Film IVS

デンマーク警察の刑事クリスチャンは、定年が近い老刑事、ラースを相棒に、日夜市内をパトロールしていました。

クリスチャンは、警察の仕事に対して不真面目な部分があり、拳銃を家に置いたまま、ラースと共にパトロールに出ていました。

2人の無線に「家庭内暴力発生」の連絡が入ります。

家庭内暴力という、夫婦間の争いに、クリスチャンは全く関わる気が起きませんが、現場が近かった事により、ラースが無線に応答し現場へ向かう事になります。

エレベーターで、部屋に向かうクリスチャンとラースですが、そこへ1人の男が入って来ます。

男の靴に血が付いていた事に気付いたクリスチャンは、男がエレベーターから降りたタイミングで話しかけますが、男の反撃に遭います。

何とか男を取り押さえたクリスチャンは、男をラースに任せ、自分は犯行現場へ向かおうとします。

その際に、自身が拳銃を持っていない事に気付き、クリスチャンはラースから拳銃を借ります。

犯行のあった部屋に入るクリスチャン。

そこには、果物の段ボールが積まれており、無残に首を切られた男の死体が、椅子に座ったままの状態となっていました。

慌ててラースの所へ戻るクリスチャン。

一方、男に手錠をして応援を呼んでいたラースですが、男が手錠から腕を抜き去ります。

ラースは、男を取り押さえようとしますが、男は隠していたカッターで、ラースの首を切り窓から逃走します。

クリスチャンは、男を追いかけますが、ビルの上で揉み合いになり落下します。

落下した衝撃で動けなくなったクリスチャンは、男が何者かに連れ去られる所を目撃します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ドミノ/復讐の咆哮』ネタバレ・結末の記載がございます。『ドミノ/復讐の咆哮』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019 Schonne Film IVS

病院に運び込まれたラースは死亡。

「自分が拳銃を借りなければよかった」と、後悔し悲しむクリスチャンは、デンマーク警察の上司から、犯人に関する情報を聞かされます。

ラースを殺害し、逃走した犯人の名はタルジ、この男の捜査にはCIAも絡んでいるという事です。

クリスチャンは、新たに捜査に加わった女性刑事、アレックスと共に、タルジの行方を追う事になります。

一方、タルジはCIAのジョーと名乗る男に拉致されていました。

タルジには、元特殊工作員の過去があり、イスラム系の過激派組織「ISIS」に恨みを持っている事から、復讐の為に殺しを重ねていました。

ジョーはタルジに、「ISIS」の首謀者、アルディーンを捕獲する為、CIAに協力する事を依頼しますが、タルジはこれを拒否します。

すると、ジョーは、誘拐していたタルジの息子に「父親が人殺しである」と教えようとします。

息子に、自分の素性をバラされる事を恐れたタルジは、CIAに協力する事に。

一方、世界中でテロを行っている「ISIS」の首謀者アルディーンは、オランダの映画祭に工作員を送り込み、銃を無差別に乱射させ、会場を恐怖のどん底に落としていました。

タルジの行方を追うクリスチャンとアレックスは、アルディーンの甥がデンマーク内で殺害された事を知り、現場へ向かいます。

タルジの犯行であると、クリスチャンは確信しますが、ラースが亡くなった夜に、拳銃を所持していなかった事が発覚してしまい、職務違反として問題になり、捜査から外されてしまいました。

それでも、クリスチャンは、タルジがオランダに向かった情報を独自に入手し、タルジを追いかけようとしますが、アレックスもクリスチャンに同行しようとします。

今回の捜査に、アレックスが加わった事に疑問を抱いていたクリスチャンは、アレックスから「ラースを愛していた」と聞かされます。

ラースには妻がおり、長年の相棒を務めていたクリスチャンも、初めて聞かされた話の為、動揺を隠せません。

その時「スペインの空港に、タルジが現れた」という情報が入り、クリスチャンとアレックスはスペインに向かいます。

飛行機の中で、クリスチャンはアレックスがラースの子供を身籠っている事を知り、更に動揺します。

スペインに到着したクリスチャンは、タルジに遭遇した夜、タルジに殺された男の部屋にあった、段ボールに書かれた果物屋のトラックと遭遇します。

あの夜、タルジによって命を奪われた男は、武器商人で、果物屋の段ボールに武器を隠し、「ISIS」に売りさばいていました。

クリスチャンとアレックスは、果物屋のトラックを追跡します。

一方、スペインに到着したタルジは、ジョーと共に「ISIS」がアジトに使っているバーを訪れ、アルディーンの行方を聞き出そうとします。

ですが、バーのマスターはなかなか口を割らない為、タルジが拷問にかけ、マスターの命を奪ってしまいます。

果物屋のトラックを追跡していたクリスチャンとアレックスは、アルディーンを乗せた車とすれ違います。

クリスチャンはアルディーンに気付き、すぐに車を追います。

アルディーンの車は、闘牛場に停車し、クリスチャンは車から出た男が、闘牛場に入る所を目撃します。

クリスチャンはアレックスに、闘牛場に入った男を追いかけるよう指示し、クリスチャンは再び発車した、アルディーンの車を追いかけます。

アルディーンの車は、闘牛場の向かいにあるホテルに停車し、ホテルに入るアルディーン達を追いかけ、クリスチャンもホテルに潜入します。

アルディーン達は、ホテルの屋上から闘技場を監視します。

闘技場に入った男はビールの売り子に変装しており、ビールが入ったケースに爆弾を仕込んでいました。

爆弾は、起爆コードに反応する仕組みになっており、アルディーン達は、起爆コードを仕込んだドローンを飛ばし、売り子に変装した男に近付けます。

そこへ、クリスチャンが現れ、アルディーンの首に腕をかけて、締め落とそうとします。

アルディーンの部下は、構わずドローンを操作し、闘牛場内の爆弾に近づけます。

闘技場の中にいる「ISIS」の工作員が、起爆スイッチを押せば、爆弾は爆発し、複数の死傷者が出てしまいます。

工作員が起爆スイッチを押そうとした瞬間、アレックスが工作員を蹴り飛ばし、爆弾テロを防ぎます。

更に、ドローンを操作していたアルディーンの部下も、クリスチャンに取り押さえられます。

クリスチャンの上司から連絡を受け、アルディーンが捕獲されたホテルに向かうジョーとタルジ。

しかし、アルディーンは死んでおり、自らの手で復讐する事を望んでいたタルジは、悲しみます。

クリスチャンは、ジョーにタルジの引き渡しを要求しますが、「ISIS」の壊滅に、まだタルジが利用できると考えるジョーはこれを拒否します。

そこへ、アレックスが現れ、タルジを射殺します。

ジョーは「気が済んだか?」と言い残し、その場を立ち去ります。

後日、インターネットには、オランダで起きた銃撃テロの様子が、「ISIS」によって、不気味なメッセージと共に流されていました。

サスペンスを構築する要素①「それぞれのドラマを描いた追走劇」


(C)2019 Schonne Film IVS

相棒のラースを失った刑事、クリスチャンが、ラースの命を奪った殺人犯タルジの行方を追う、アクション・サスペンス『ドミノ/復讐の咆哮』。

本作のストーリー展開は、逃げるタルジと、それを追うクリスチャンという関係が軸になっています。

追う者と追われる者の関係、つまりサスペンスの基本とも言える「追走劇」です。

ただ、本作の特徴として、犯人を追う立場であるクリスチャンが、タルジを追跡する中で、刑事として成長していく面白さがあります。

ラースと組んでいた時のクリスチャンは、パトロールに出る時間になっても恋人と過ごしており、先輩のラースに迎えに来させたうえ、拳銃を忘れてパトロールに出るという、かなり怠慢な性格として描かれています。

ですが、物語が進むにつれて、自身の怠慢な性格が引き起こしたミスで、相棒のラースを失い、ラースを愛していた人達を悲しませた事を後悔します。

クリスチャンは罪滅ぼしの為、タルジ逮捕に執念を燃やし、刑事として成長していきます。

一方、追われる立場のタルジも、ただ殺人を繰り返している訳ではなく、そうしなければならない理由があります。

そして、この追う者と追われる者の関係に、CIAのジョーが絡んで来た事で、本作は意外な方向に物語が進んでいきます。

サスペンスを構築する要素②「CIAやテロ組織が絡む三つ巴の追走劇」


(C)2019 Schonne Film IVS

本作の物語の軸は、クリスチャンとタルジの、追う者と追われる者の関係である事は、前述した通りですが、CIAのジョーの登場により、CIAと国際テロ組織の攻防戦に、クリスチャンとタルジが巻き込まれる展開となります。

タルジはCIAに脅される形で、半ば強引に協力させられる形となり、物語の中盤まで、凶悪な殺人犯という印象だったタルジが、中盤では悲しい物語が浮き彫りになり、ドラマに厚みを持たせる事となります。

また、クリスチャンが共に捜査に挑む、女性捜査官のアレックスにも、ラースとの深い関係が明らかになっていきます。

中盤からは、世界中で国際テロを行う首謀者のアルディーンを、CIAと共に追いかけるタルジ、そして、そのタルジを追いかける、クリスチャンとアレックスという、国際的テロ組織、CIA、デンマーク警察が絡む三つ巴の追走劇に発展します。

サスペンスを構築する要素③「デ・パルマ演出が光るクライマックス」


(C)2019 Schonne Film IVS

三つ巴の追走劇は、スペインの闘牛場で決着となります。

クライマックスの闘牛場でのシーンは、ドローンを使った「ISIS」の爆破テロを、クリスチャンとアレックスが、実行犯を探し出し、捕まえて、阻止するという、一連の流れを一切のセリフを使わずに表現しています。

セリフの代わりに、さまざまな撮影方法でクライマックスを盛り上げており、アルディーンが双眼鏡越しに、闘牛場の中を見ている「のぞき見」の映像や、ドローンに搭載したカメラの映像により、起爆コードが、爆破実行犯に近付いていく様子を映し、爆破までの時間が迫っている様子を描いています。

また、1つの画面を分割して、別々の場所にいる、クリスチャンとアレックスの表情を映し、緊迫した状況を演出しています。

このクライマックスでは、「映像の魔術師」とも呼ばれる、ブライアン・デ・パルマの職人技が光っています。

映画『ドミノ/復讐の咆哮』まとめ


(C)2019 Schonne Film IVS

本作で描かれているのは、アメリカと国際テロ組織の、終わりの無い報復の連鎖です。

タルジは、「ISIS」に恨みを持ち、独自に復讐を重ねていました。

そして、タルジの犠牲になった相棒の恨みを晴らす為、クリスチャンはタルジを追い、最後は愛する人をタルジに奪われた、アレックスの銃弾でこの追走劇は幕を閉じます。

ですが、エンドロールでは、首謀者のアルディーンを失いながらも、「ISIS」が新たな同志を募る動画を公開した場面となり、新たな復讐の連鎖が示唆されるという形となります。

現在も、アメリカとイラン・イスラム革命防衛隊との緊迫した状況が続いている事を考えると、アメリカと国際テロ組織の関係を「復讐のドミノ倒し」として表現した本作は、今、観るべき作品と言えるでしょう。

映画『ドミノ/復讐の咆哮』は現在、全国順次公開中です。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら





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