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Entry 2021/03/29
Update

映画『魔女の密約』ネタバレ感想レビューと結末あらすじ。悪魔・魔女ホラー再ブームの先駆け的作品|未体験ゾーンの映画たち2021見破録28

  • Writer :
  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第28回

世界の各国のホラー映画、今やブームの魔女・悪魔が登場する作品も紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第28回で紹介するのは『魔女の密約』。

悪魔の正体はキリスト教の普及と共に邪教とされた、自然を崇拝する古代宗教の神々がルーツとも言われています。映画においても、『ウィッカーマン』(1973)や『ミッドサマー』(2019)など、邪教と化した古代宗教をテーマとした傑作ホラーが作られてきました。

また邪教が悪魔崇拝に発展すると、悪魔と共に登場するのが魔女。近年は『ウィッチ』(2015)や『ヘレディタリー 継承』(2018)など、新たな趣向で「魔女」を描く作品が増えてきました。

悪魔・魔女映画ブームの中、アイルランドから本格派オカルト・ホラー映画が誕生しました。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら

映画『魔女の密約』の作品情報


(C)2015 MPI Pictures Limited.

【日本公開】
2021年(アイルランド映画)

【原題】
Cherry Tree

【監督】
デビッド・キーティング

【キャスト】
アンナ・ウォルトン、ナオミ・バトリック、サム・ヘイゼルダイン、エルバ・トリル、パトリック・ギブソン、リア・マクナマラ

【作品概要】
父親の命が長くないと知った女子高生は、魔女と契約を交わします。しかしその代償は……。魔女の企てに翻弄される主人公を描くオカルトスリラー映画です。監督は『ウェイク・ウッド 蘇りの森』(2009)のデビッド・キーティング。『ウェイク・ウッド』も本作同様、アイルランドを舞台にしたオカルトホラーでした。

主演は『ウイスキーと2人の花嫁』(2017)のナオミ・バトリック。『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』(2008)や『ミュータント・クロニクルズ』(2008)のアンナ・ウォルトンがミステリアスな女を演じます。

またジェイソン・ステイサム主演『メカニック ワールドミッション』(2016)で悪役を演じたサム・ヘイゼルダイン、『トールキン 旅のはじまり』(2019)のパトリック・ギブソンが共演しています。

映画『魔女の密約』のあらすじとネタバレ


(C)2015 MPI Pictures Limited.

暗黒の中世に、魔女に支配されたというオーチャード(「果樹園」の意味)の町。現在この地には恐るべき魔女エレナー・ヤングの魂が、桜の木に宿っているとの伝説が残っています……。

ショーン(サム・ヘイゼルダイン)が経営するレストランで、客のシシー(アンナ・ウォルトン)は相席していた女性に突然キスをしました。

女性は動揺して立ち去ります。夜道を歩く彼女は覆面の一団に拉致されました。ムカデが這いまわり木の根が絡み合う地下の空間で、怪しげな儀式の生贄として喉を切り裂かれる女性。

木の根が這う地面の上には、満開に花を咲かせた桜の巨木が生えていました。

女子高生のフェイス(ナオミ・バトリック)の教室では、生徒のブライアン(パトリック・ギブソン)が郷土に伝わる魔女伝説について発表しています。

フェイスは同じホッケーチームに所属する、キャロライン(リア・マクナマラ)とジェニファーからいじめられています。しかし彼女には、頼りになる親友であるエイミー(エルバ・トリル)がいました。

そんな学園生活を送るフェイスのホッケーチームに、いなくなったコーチに変わる新たなコーチとして、シシーが赴任しました。

次の試合の出場選手として、キャプテンとして活躍するキャロラインとジェニファーを選出するシシー。また彼女らとフェイスがもめているのを見ると割って入り、お互いに握手をさせます。そして次の試合に、フェイスも出場するように手配しました。

学校帰りに、父ショーンが経営するレストランを訪れたフェイス。ショーンは人目につかぬ場所で苦しみに耐えています。彼は長らく白血病を患っていました。

自宅に向かうフェイスに、ブライアンが声をかけてきます。フェイスに気があるようですが、親友のエイミーが彼に好意を寄せていると知るフェイスは、彼の誘いを断ります。

2人が自宅に着いた時、家の前に父ショーンが倒れていました。ブライアンの助けを借りて父を運び、主治医のスレイター医師を呼ぶフェイス。

親子2人で暮らすショーンは、娘の前では気丈に振る舞っていましたが、父が無理をしている様子はフェイスも察していました。

翌朝、登校する娘を見送ったショーンは病院を訪れます。彼に対して白血病の進行が早く、残念ながら余命は3ヶ月だと告げるスレイター医師。

その日はホッケーの試合の日です。開始直後、珍しく父が観に来ていることに気付くフェイス。

父は平静を装いますが、診察結果が思わしくなかったと彼女は悟ります。精神が不安定になった彼女は、ラフプレーで相手選手に怪我を負わせてしまいます。

控室で叫んで暴れるフェイス。そんな彼女の様子をコーチのシシーが見つめます。

信頼できる従業員のクレアに電話をかけ、店を任せたショーンは試合を終えた娘を抱きしめます。共に病魔と闘うことを誓う父娘。

厳しい日々が過ぎていきます。そんなある日、夜道を歩いていたフェイスに、突然シシーが声をかけてきました。

シシーは彼女の父の容態を知っていました。見せたいものがあると告げ、古い邸宅の地下にフェイスを案内します。

彼女は自身の叔母は、偉大な魔術の使い手だったと語ります。半信半疑のフェイスを、魔術の信奉者が儀式を行う地下集会場に案内したシシー。

地下奥深くに、木の根に覆われた集会場がありました。シシーはこの場所について「冥界の王から贈られた」と語り、自分たちはここに儀式を行い、彼に仕えていると説明します。

見返りとして、冥界の王は報酬を与えてくれる。その為には彼の求める献身に応えねばならず、逆らえば彼の怒りを買うと彼女は言葉を続けます。

自然には独自の力がある、それを操る行為を人々は魔法と呼ぶと語るシシー。彼女はニワトリの喉を切って殺し、その血を器へと注ぎます。

器の中にはうごめくムカデと共に、さくらんぼの実がありました。ムカデは魔術に役立つ使い魔だと説明するシシー。

ムカデはニワトリの死骸へと潜り込んでいきます。すると死んだはずのニワトリが生き返り、何事も無かったかのように動き出します。

シシーは死は全ての始まりだと説明します。いつの間にか周囲には、覆面姿の悪魔信奉者たちがいます。フェイスは驚いて逃げ出しました。

その日から彼女は、友人を避けて1人で思い悩みます。改めてシシーに会うと、父を治せるか尋ねるフェイス。それを証明するために、あの日魔術を見せたと告げるシシー。

シシーは望みを叶えるには強い願いが必要、力とは欲望から生まれるものだと説きます。

父を心から強く救いたいと望んでいる。そう訴えるフェイスに、代償として赤ん坊を要求するシシー。まだ15歳のフェイスは驚きました。

去る命があれば、生まれる命もある。自然はつながっていると語るシシー。そうするしか父を救う道は無いのだと説明します。

悩んだ末、赤ん坊を生み差し出すと決めたフェイス。あなたは若い、誕生日の日に誰か素敵な若い男と関係を持て。シシーはそう告げました。

誕生日の夜、フェイスは多くの知人・友人が集まった父のレストランに現れます。そこにやって来ると、彼女にプレゼントを渡すシシー。

フェイスは友人のエイミー、そしてブライアンと共に誕生パーティーの会場に向かいます。

にぎやかなパーティーの最中に、外にブライアンを誘い出すフェイス。2人でキスをしている姿をエイミーに目撃されました。

自身がブライアンに恋していると知っていた、フェイスの裏切りに怒るエイミー。気まずくなりますが、それでもフェイスはブライアンを誘います。

寝室に入る2人を密かに見つめるシシー。2人がベッドで関係を持った時、シシーが渡したプレゼントの箱からムカデが這い出しました。

ムカデはブライアンの背中を食い破り、彼の中に入って行きます。瞳が、そして体が黒くなり、怪物じみた姿になったブライアン。

行為を終えフェイスが目覚めた時、そこにブライアンの姿はありませんでした。彼女は現れた悪魔信奉者にとある一室へと案内されます。

その部屋のベッドの上に、父ショーンが眠っていました。父を囲む悪魔信奉者には学校の教師など、フェイスの見知った顔もありました。

信奉者たちのリーダーであり魔女のシシーは、術を使ってショーンの喉を切り裂きます。それを見て悲鳴を上げたフェイス。

シシーは父の体に、さくらんぼの実の汁を注ぎます。体の中にムカデが入って行きました。そして信奉者たちが呪文を唱え、シシーが魔術を使うとショーンはせき込みます。一度死んだはずの父が甦ったのです。

翌朝フェイスが目覚めると、父はキッチンにいました。いつもより食欲があると元気そうに話すショーン。

登校したフェイスは吐き気に襲われます。トイレに駆け込んだ彼女の前に、チームメイトで彼女をいじめるジェニファーが現れます。

フェイスに妊娠検査薬を渡し、使用しろと告げるジェニファー。あり得ないことに彼女の体は検査薬に反応しました。

結果を勝ち誇った顔で聞くジェニファーとキャロライン。2人が事情を知っている事実、そして普通ではない妊娠の経過に、フェイスは不安を覚えます。

何が起きているのか訊ねても答えること無く、ジェニファーとキャロラインは笑って彼女の前から立ち去りました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『魔女の密約』ネタバレ・結末の記載がございます。『魔女の密約』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2015 MPI Pictures Limited.

親友のエイミーにブライアンの行方を聞いても、彼女は知りませんでした。エイミーは昨晩のフェイスの振る舞いに気を悪くしていました。

レストランで働いているクレアから、父ショーンが倒れて病院に運ばれたと聞かされ、フェイスは騙されたと思いシシーの屋敷を訪ねます。

ショーンは必ず良くなると語るシシーは、フェイスがつわりの症状で吐いても動じません。6週間で全てが終わると告げるシシー。しかそそんなはずは無いと言い立ち去るフェイスに、彼女は冷たい視線を浴びせます。

病院に駆け込んだフェイスの前に、父が姿を現しました。めまいがしただけで、血液検査をしてもらったと話すショーンは元気そうでした。

幾日もしない内に、彼女のお腹は目立って大きくなります。そして血液検査の結果、白血病は消えて寛解したと嬉しそうに伝えてきたショーン。

父娘は抱き合って喜びます。父の店で働くクレアも喜びますが、父の回復を祝う席に現れたシシーを見て、フェイスは不安を覚えます。

ある日彼女は自宅のベッドで、父とシシーが激しく求め合う姿を目撃しました。

その事をショーンは娘に謝りましたが、その際にフェイスは自分の妊娠を告げます。まだ16歳の娘の妊娠に動揺するショーン。

フェイスが1人でいると、シシーが現れます。彼女はフェイスの首を締め上げ、父に妊娠の事実を告げるべきでは無かったと警告します。

父と寝たと非難するフェイスに、素晴らしい人間のショーンは病気のはずだと警告するシシー。

お腹の赤ちゃんは自分の好きなようにする、と告げるフェイスに、彼女は写真を見せました。そこには苦痛に歪んだ顔のブライアンが映し出されており、彼はお前と交わった時に何かに憑依されたとシシーは告げます。

ショーンは生き延びた、代わりに誰かが死なねばならない。生まれてくる赤ん坊は約束通りに引き渡せと迫るシシー。

フェイスはクレアに相談しました。彼女から産科医を紹介してもらい、もし自分と父が身を隠したら、レストランを見て欲しいとフェイスは頼みます。

物音が聞こえます。確認すると家にはシシーが侵入していました。彼女はフェイスに、出発する時間だと告げました。

クレアは悪魔信奉者に捕らえられ、魔女シシーの使い魔のムカデに襲われます。シシーにさくらんぼの実を与えられ、眠らされるフェイス。

目覚めた時フェイスは、父と同じベッドに寝かされていました。周囲は蜘蛛の巣のような被膜に覆われ、その上をムカデが這い回っていました。

眠ったままの父を残し、被膜を破り起きたフェイス。彼女が部屋を出ると、6週間と6日と6時間後に備え準備する必要があると喋る、シシーの声がします。

それが出産の時でしょうか。彼女は家を出て高校へと向かいます。居残りで残された生徒の中から、エイミーを探すフェイス。

彼女に気付いたエイミーが教室を抜け出しました。フェイスのお腹がなぜ大きいのか、ブライアンはどこにいるのかとエイミーは疑問をぶつけます。

助けて欲しいと真剣に訴えるフェイスの姿に、エイミーは彼女がトラブルに巻き込まれている状況を察し、2人で学校から逃げ出しました。

追ってきた教師も悪魔信奉者と知るフェイスは、遠慮なく殴り倒します。逃げる2人の乗るバイクを、別の悪魔信奉者の車が追ってきます。

エイミーの運転により、無事追っ手を撒くことができた2人。しかし激しい動きが災いしたのか、陣痛に襲われるフェイス。

逃げ込んだ仲間たちのたまり場で、フェイスは友人に見守られ出産しました。雷が鳴り響き風が激しく吹きますが、誕生した赤ん坊は普通の子と変わらぬ姿でした。

エイミーはフェイスと赤ん坊に必要な物を買いに、ガソリンスタンドのコンビニに向かいますが、その姿を覆面をした悪魔信奉者が見つけます。

コンビニから出たエイミーを殴り倒し、ヘルメットの中にガソリンを注ぐと、火を放った悪魔信奉者。

赤ん坊を抱いていたフェイスは、自分を呼ぶ声に気付いて逃げますが、彼女の前にシシー率いる、ジェニファーとキャロラインを含む悪魔信奉者の一団が現れます。

彼らは父ショーンを人質に連れていました。ショーンの喉を切ろうとするシシーを見て、抵抗を諦めて姿を現したフェイス。

父に駆け寄るフェイスから赤ん坊を奪い、彼の血こそ我らに冥界からの恩寵をもたらすとシシーは勝ち誇って言いました。

魔女シシーの元に集まった悪魔信奉者たちは、フェイスとショーンを車に閉じ込め、火を放ちます。フェイスは父と車の窓を破って外に逃れますが、ショーンは脱出が間に合わず車と共に炎に包まれます。

嘆き悲しむ彼女の前に、異形の姿となったブライアンの幻が現れます。魔女シシーは僕たちを騙し、そして今赤ん坊を殺そうとしている。彼女の野望を阻止し、赤ん坊を救ってくれと訴えるブライアンの声を聞きながら、フェイスは走り出しました。

フェイスは悪魔信奉者たちが集う地下の集会場に忍び込みます。儀式を執り行うシシーの声が聞こえてきます。シシーは赤ん坊をシーツでくるんで吊します。

キャロラインを襲って倒し、その衣装を奪おうとしたフェイス。しかし背後からジェニファーが襲いかかります。格闘の末に倒されたジェニファーは鉄骨の串刺しとなり、命を落とします。

ムカデがうごめく地下空間に、シシーの唱える呪文が響きわたります。信奉者たちが唱和する中、シシーのナイフに貫かれる赤ん坊。

フェイスが悲鳴を上げる中、赤子の血がさくらんぼの実の入った容器に注がれます。その実を食べる信奉者たち、その血を飲むシシー。

信奉者たちは自分の皮膚を剥がし醜い正体を現します。シシーも年月を経た怪物じみた姿を現しました。彼女はフェイスを見て、なぜ生きていると尋ねます。

赤ん坊の亡骸を手にしたフェイスに、儀式が終わる日の出を迎えれば、自分は最強で不滅の魔女になると言うシシー。赤ん坊の亡骸は桜の木の中に留めると告げました。

構わず逃げ出したフェイス。後を追えとシシーが叫びますが、そこに恐るべき姿となったブライアンが現れます。悪魔のような姿のブライアンは怪力を振るい、醜く変化した悪魔信奉者たちの体を粉砕しました。

赤ん坊を救うには呪われた桜の木の果実が必要で、魔女シシーと対決するしかないとフェイスに訴えるブライアン。

その言葉に従って集会場に現れたフェイスに、戻ってくると信じていたと告げるシシー。私はお前の望み通り父を治療したと語りかけます。

今からでも望めば私たちは何でも可能となる、絶大な力を持てると彼女は訴えます。しかしフェイスは彼女の言葉に耳を貸すことなく、さくらんぼの実とナイフを手にします。

お前は私が愛する全ての人を奪ったと彼女が言うと、伸びてきた桜の木の根が魔女に巻き付き、悲鳴を上げたシシーは地面へと飲み込まれていきます。

お前は地獄を楽しめ。フェイスはそう告げました。

地上に出たフェイスは呪われた桜の木の下で、ナイフで手を切り果実に自分の血を垂らします。すると使い魔のムカデが地から這い出し、赤ん坊の遺骸の中へと潜り込んでいきます。

使い魔が去ると赤ん坊は蘇り、泣き声を上げました。その子を抱きしめるフェイス……。

どれだけ月日がたったのでしょうか。ハロウィンの夜、3人の子供がお化け屋敷と噂される館の敷地に、お菓子をもらいに入ります。

「トリック・オア・トリート」と告げた子供たちの前に、ドアを開け現れたフェイス。お菓子を持ってきたフェイスに、あなたは魔女かと小さい女の子は尋ねました。

「違うよ」フェイスは続けてこう言います。「だけど、私の息子は悪魔です」。

映画『魔女の密約』の感想と評価

参考映像:『ウェイク・ウッド 蘇りの森』(2009)

「地味なアイルランド製ホラー映画」と思っていたらエグい殺され方の描写があったり、『ミディアン』(1990)のような妖怪じみた化け物が出現したり……と全く油断の出来ない作品でした。

古代ケルトのドルイド教の流れを組む邪教のお話と言えば、映画『ウィッカーマン』の世界。イギリス・アイルランドはケルト文化の風習が色濃く残る世界です。

本作の最後に登場するハロウィンも、イングランドでは一度廃れたもののスコットランド、そしてアイルランドでは脈々と受け継がれました。

そしてアイルランド系移民と共にハロウィンはアメリカに広まり、今や日本でも年中行事の一つになりました。本作に魔女と共に自然信仰、巨木崇拝が登場するのも納得です。

デビッド・キーティング監督の前作であり、ホラー映画の名門・新生ハマー・フィルム・プロ製作の『ウェイク・ウッド 蘇りの森』には魔女は登場しませんが、本作と多くの共通した要素があります。それらはアイルランド出身の監督ならではの、こだわりの成せる技でしょうか。

この映画、現代版『悪魔の性キャサリン』!?

参考映像:『悪魔の性キャサリン』(1976)

女子高生の周囲で起きる怪異を描いた『魔女の密約』。しかし青春ホラー、学園ホラーの枠に収まるような作品では決してありません。

悪魔崇拝や魔女をテーマにした作品には、生贄だの処女だの出産だの、物騒がせでエロチックな題材が登場します。

そんなテーマに忠実な本作、該当シーンも登場します。とはいえ残酷シーン同様にネチっこくない、素材にこだわるがアッサリ系だと、ラーメンみたいに例えられる描写です。おかげで安心して観れたと感謝するか、充分悪趣味と思うか、もっと過激に観せろと感じ取るかは、ご覧になる方の感性次第でしょう。

三角関係に異性愛に同性愛描写もあるなど、全編通して色々あります。盛り込み過ぎで各エピソードが駆け足気味、チープな賑やかさが楽しいホラー映画です。

例えるならレディースコミックのホラーの様な、B級グルメ的完成度が高い作品。しかし、ぼんやりしてると怪奇漫画の大ゴマの様に、いきなりショックシーンが登場する……そうした魅力を持った映画と言えます。

新生ハマー・プロの『ウェイク・ウッド 蘇りの森』を撮ったキーティング監督ですが、本作は旧ハマー・プロ末期の作品、『悪魔の性キャサリン』(1976)の雰囲気によく似ています。

クリストファー・リー、リチャード・ウィドマーク出演作より、ナスターシャ・キンスキーの出世作として名高い『悪魔の性キャサリン』。TV放送時のタイトルは『恐怖の性!キャサリン エロスの残酷な饗宴』と実に昭和チックなものでしたが、『魔女の密約』も放送する時は、凄いタイトルにするのでしょうか。

ハマー・プロホラー映画のゴシック感漂う青春ホラー


(C)2015 MPI Pictures Limited.

冗談はさておき、この映画とキーティング監督が、ハマー・プロのホラー映画と密接な関係を持っていることが確かです。

同時に悪魔信仰の根にある、古代宗教の自然崇拝要素を描いた点ではクリストファー・リー主演の『ウィッカーマン』風でもある『魔女の密約』。イギリス・アイルランドの、ケルト文化圏の生んだホラー映画と呼んで良い作品でしょう。

本作を古風に描けばハマー・プロ風のゴシックホラー、現代の辺境を舞台に描けば『ウィッカーマン』『ミッドサマー』風の寒村カルト宗教ホラーになったはず。

しかし本作は女子高生の周囲、学校や家庭を軸にした青春ホラーのフォーマットで描かれています。この点でも盛り過ぎ、駆け足描写になった感は否めません。

観るべき要素が盛り沢山はホラー映画ファンにとって嬉しいことながらも、同時に消化不良感がもったいない本作。ですがレディースコミックホラーや、貸本漫画から発展した昭和の怪奇漫画、ひばり書房の怪談シリーズ(怪談マンガ文庫)的な作品と捉えると、これはこれで正解なのでしょう。

まとめ


(C)2020 Axel Films Production Studiocanal M6

エロ・グロ・バイオレンス要素を適度な表現で盛り込んだ『魔女の密約』。駄菓子を詰め合わせたようなホラー映画として楽しむと、より満足感が味わえる作品です。

そしてその背景には、ケルト文化やドルイド教、そしてハロウィンを愛し守り育ててきたアイルランドの風土と、ハマー・プロを筆頭とするイギリス・アイルランド圏のホラー映画の歴史が隠されていました。

続々作られる魔女映画ですが、本作公開以降に新たな視点で描いた作品が続々登場したと思うと、この映画は早すぎたのかもしれません。

同時にこの映画は、古典的な魔女映画に忠実過ぎました。多くの要素を詰め込みながらも新機軸を描けなかった結果、やや埋もれてしまったのでしょうか。

「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!」と書いたのは梶井基次郎ですが、本作の桜の木の下には、よりトンデモない世界がありました。

本作の本質はエロやグロでは無く、デカダンスだと強調しましょう。ジャンクフード的お手軽デカダンスですが、ハマー・ホラーはそんな映画でした、これでイイんです。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…


(C)2019 BOAT MOVIE PRODUCTIONS INC.

次回第29回は、仲良し男女3人組が海の真っ只中の船上で修羅場を演じるサスペンス『ハープーン 船上のレクイエム』を紹介します。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら




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