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Entry 2024/03/21
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『海街奇譚』チャン・チー×串田壮史 中国日本の監督対談!国境を越え語り合うアートハウス映画の“表現と視座”

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『海街奇譚』は2024年1月20日(土)に封切り後、3月2日(土)〜大阪シネ・ヌーヴォ、3月15日(金)〜アップリンク京都、4月20日(土)〜横浜シネマ・ジャック&ベティで劇場公開!

姿を消した妻を探しに、彼女の故郷である離島の港町へと訪れた男。相次ぐ海難事故により住民の行方不明が続く寂れた町で、男は妻の面影を持つ女と出会うことになる……。

夢と現実、過去と現在が交錯する迷宮の物語を描く映画『海街奇譚』は、中国映画界の新たな世代を担うチャン・チー監督が驚嘆の映像美によって紡ぎ出す《アート・サスペンス》です。


(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

このたび『海街奇譚』日本公開を記念し来日したチャン・チー監督と、『写真の女』『マイマザーズアイズ』で知られる串田壮史監督の特別コラボ対談が実現!

コラボ対談では世界の映画祭で評価された現代的な映画作り、自由な発想で生み出すアート映画の技法など、貴重な意見交換が行われました。

映画『海街奇譚』チャン・チー監督×串田壮史監督コラボ対談


(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

越境するアートハウス映画の“表現と視座”

串田壮史監督(以下、串田):映画『海街奇譚』を面白いと感じたのは、まず、主人公が俳優業という設定です。俳優であるからこそ、本当の自分を隠しつつ、自分が考えた役をこの街で演じているに過ぎない、信用できない語り手として存在しており、もはや今の時代は何が現実で何が嘘かを区別せずに生きるべきであると、強く訴えられました。

私たちが今生きるべき姿を提示している、とても現代的な映画ですね。AIとか、役というアバ ターでの生活、時代に根差している作品です。


(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

チャン・チー監督(以下、チャン):あなたの前作『写真の女』にも同じような現代性を感じましたよ。加工で美しく盛った写真を自分自身の姿だと思い込んでいく様子は、とても現代的です。

より作家性が際立ったのが、『マイマザーズアイズ』ではないでしょうか。私と串田監督は同世代の映像作家で、お互いイギリスで映像制作を学んだ出自も共通しています。


(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

串田:私の監督した2作品はどちらも「デヴィッド・クローネンバーグの影響を受けた」と評されています。意識した自覚はないのですが。

チャン:『海街奇譚』を海外の映画祭で上映したとき「冷たい『マルホランド・ドライブ』のよう」とデイヴィッド・リンチ監督作品との親和性を指摘されました。私は意識しましたよ(笑)。

串田:それはチャン監督が映画を撮るにあたり、中国国内だけではなく、最初から海外の国際映画祭で勝負しようという意気込みがあったからですよね。青を基調とし、昼と夜でその色彩設計が異なるバランスで調整されている美しさは、舞台演出を映画として昇華していると感銘を受けましたし、俳優さんたちの演技も抑制が効いていて、アジア映画に留まらないという洗練された雰囲気に満ちていましたね。

自戒を込めて言うと、日本のインディーズ監督の作品は身近な暴力を描きがちで、創造力が半径数メートルの身近な世界で止まっているんです。

『マイマザーズアイズ』


(C)2023 PYRAMID FILM INC.

チャン:『マイマザーズアイズ』にも暴力が出てきましたね。しかし、とても芸術的であると感じましたよ。中国は審査制度があり、過度な暴力表現はできなかったため、『海街奇譚』では、主人公がカメラを使い、撮影という行為でもって殺人を行う抽象的な暴力演出を行いました。

チェロの弓で人体を引き裂く『マイマザーズアイズ』しかり、私たちは「芸術を生み出す道具を用いて殺人を描く」という唯一無二の共通点がありますね。

串田:作家自身が描きたいという自由な発想を用いて、アートハウス映画を作る環境は、年々厳しくなっています。

私もあなたも自身で制作したインディペンデント映画を映画館で上映できる最後の世代になるかもしれません。最近は、現代的な作品作りは映画の在り方そのものを考え直す時期に差し掛かっていると感じています。

チャン・チー監督プロフィール

1987年生まれ、中国浙江省・寧波出身。ノッティンガム大学国際コミュニケーション学科卒業、北京電影学院演出科修了。舞台演出家、舞台美術家としても活動。

2010年から2015年まではCMや短編映画などを手がけ、2016年に中編『Edge Of Suspect』でデビュー。2019年に長編デビュー作『海街奇譚』にてモスクワ国際映画祭審査員特別賞を受賞。2021年の長編第2作『ANNULAR ECLIPSE』は釡山国際映画祭に出品された。

学生時代から演劇を学んでおり、演出を手がけた最新の舞台は、2021年に上演された戯曲「三字奇譚」。同作品は浙江省文化芸術基金の資金提供対象に選ばれている。

串田壮史監督プロフィール

1982年生まれ、日本・大阪府出身。ピラミッドフィルム所属。

2020年に発表した長編デビュー作『写真の女』は、世界中の映画祭で40冠を達成し、8か国でのリリースが決定している。

長編第二作『マイマザーズアイズ』は、スクリームフェストやフライトフェストなど、世界の主要ホラー映画祭に選出されている。現在、長編第三作の製作中。

映画『海街奇譚』の作品情報

【日本公開】
2024年(中国映画)

【原題】
海洋動物(英題:In Search of Echo)

【脚本・監督】
チャン・チー

【共同脚本】
ウー・ビヨウ 

【撮影】
ファン・イー

【音楽】
ジャオ・ハオハイ

【キャスト】
チュー・ホンギャン、シューアン・リン、ソン・ソン、ソン・ツェンリン、チュー・チィハオ、イン・ツィーホン、ウェン・ジョンシュエ

映画『海街奇譚』のあらすじ


(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

とある離島にやってきた、売れない映画俳優のチュー。彼は妻の行方を捜すため、妻と出会ったこの島を訪れた。

荒波が押し寄せる島の堤防。カブトガニの面を装着した漁師の集団が怪しげな儀式をしている。漁師たちの守護仏であった町の仏像の頭が消えてしまい、町民たちが捜しているのだ。頭が消えたことで海に出た者は戻ってこなくなってしまい、以来、漁師たちは漁に出ていない。

夕暮れ時。宿屋の女主人がチューに声をかける。部屋に落ち着いたチューは、旅の疲れを休めるように目を瞑る。

女主人は身の上話を始める。かつて宿を切り盛りしていたのは双子の妹だったが、彼女は8月5日に出て行ってしまったきり戻ってこない。

島のダンスホール。妖艶なネオンが輝き、町民たちで店内は賑わう。タバコをふかす店の女将を遠くから見つめるチュー。女将は5年前、漁に出たきり戻ってこない夫の帰りを待ち続けていた。

過去の記憶。無機質な部屋に、チューと妻がいる。チューは妻の浮気を疑っている。妻は本業の俳優業に向き合わず写真にのめり込むチューに苛立ちを隠せない。

「大人になって現実を見てよ」しかしチューは自分を裏切った妻の言うことに聞く耳を持たない。やがて妻は別れを切り出す。

夢と現、過去と現在を彷徨する迷宮に迷い込んだチューの辿り着く先はどこなのか……。

まとめ


(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

『海街奇譚』を手がけたチャン・チー監督が来日したのを記念して実現した、『写真の女』『マイマザーズアイズ』の串田壮史監督との特別コラボ対談。

離島の港町を舞台に描かれる幻想的なビジュアルイメージが、モスクワ国際映画祭はじめ高い評価を得たチャン・チー監督と、最新作『マイマザーズアイズ』にて世界主要ホラー映画祭での受賞経験を持つ串田壮史監督

対談では、ともにアジア出身の監督でありながら、自国の文化にとらわれない自由な発想と表現を国際マーケットでアピールする重要性と、減少するインディペンデント映画の劇場公開においては「自分たちが最後の世代かもしれない」という危機意識も露わにしました。

映画『海街奇譚』は2024年1月20日(土)に封切り後、3月2日(土)〜大阪シネ・ヌーヴォ、3月15日(金)〜アップリンク京都、4月20日(土)〜横浜シネマ・ジャック&ベティで劇場公開!





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