Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ラブストーリー映画

Entry 2022/04/11
Update

『彼女来来』ネタバレあらすじ感想と結末の解説評価。不条理な恋愛映画を山西竜矢監督が劇場デビュー作として描く

  • Writer :
  • 谷川裕美子

山西竜矢監督が前原滉主演で描く不条理な世界の恋物語

演劇ユニット「ピンク・リバティ」の代表で、劇作家・演出家として活躍する山西竜矢の長編デビュー作『彼女来来』。山西監督がオリジナルで脚本も務めています。

「MOOSIC LAB[JOINT]2020-2021」で準グランプリを受賞しました。

あゝ、荒野』(2017)の前原滉、舞台やドラマを中心に活躍する天野はな、『あなたの番です 劇場版』(2021)の奈緒が出演。

映画『彼女来来』の作品情報


(C)「彼女来来」製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
山西竜矢

【出演】
前原滉、天野はな、奈緒、村田寛奈、上川周作、中山求一郎

【作品概要】
劇団子供鉅人のメンバーで演劇ユニット「ピンク・リバティ」の脚本・演出を手がける山西竜矢が映画監督に挑戦した不条理劇。

音楽×映画プロジェクトMOOSIC LAB[JOINT]2020-2021に参加し、準グランプリを受賞しました。

出演は『あゝ、荒野』(2017)『とんかつDJアゲ太郎』(2020)の前原滉、ドラマ『そして、ユリコは一人になった』の天野はな、『あなたの番です 劇場版』(2021)『僕の好きな女の子』(2020)の奈緒。

関西の異色人気バンド「Vampillia」のバイオリニスト・宮本玲が音楽を担当。

映画『彼女来来』のあらすじとネタバレ


(C)「彼女来来」製作委員会

キャスティング会社勤務の佐田紀夫には、交際3年目の田辺茉莉という恋人がいました。仲睦まじいふたりはオリジナルのでたらめ歌を歌いながら、手をつないで家路につきます。

夕食を一緒に食べ、疲れて眠る彼女の顔を優しくみつめる紀夫。

ある日、会社から疲れて帰った紀夫は、茉莉を呼びますが返事がありません。部屋で横になっていた彼女が起き上がり、無言で窓へ向かいカーテンを開けます。

夕陽が見えた後、紀夫が彼女の顔を見ると、そこにいたのは茉莉ではない別の女性でした。

驚いて「誰!?」と叫んだ紀夫に、彼女は「マリ」と答えます。うろたえながら茉莉の友達かと聞く紀夫に、彼女は「違うよ。私がマリ。家がないのでここに住む」と答えます。

紀夫は電話で事情を警察に話しますが、相手にされません。

必死にマリに出ていくよう説得する紀夫。茉莉はすぐに帰ると言う彼に、「本当に帰ってくるの?」とマリは聞き返します。紀夫が電話しても茉莉は出ませんでした。

翌朝、マリを外に連れ出して部屋の鍵を閉め、逃げるように紀夫は出社します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『彼女来来』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『彼女来来』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)「彼女来来」製作委員会

その晩、茉莉が働いていた石本書店に立ち寄った紀夫は、彼女が急に辞めたことを聞かされます。

紀夫が茉莉の姉夫婦に相談すると、姉は中学のときにも茉莉が急に家出してすぐに戻ったことがあったと話し、すぐ帰ってくるから心配いらないと言います。

紀夫が帰宅すると、家の前の路上でマリが眠っていました。具合が悪そうだった彼女を、仕方なく家へ入れて寝かせてやります。

目覚めたマリに、食事を食べたら出て行くように言う紀夫。しかしマリはとりあわず、「何も覚えていない。マリという名とここに住まなければとだけは思った」と言って紀夫を当惑させます。

茉莉の歯科診察券をみつけた紀夫は、慌てて駆けつけ、彼女の予約状況を聞きますが教えてもらえませんでした。

茉莉との思い出の河原にひとりで行く紀夫。川を流されていくカバンを見ながら、たわいない会話をしたことを思い出します。

家でマリが食事を作って待っていました。怒った紀夫は料理を流しに捨て、「なんなんだよお前は!!」と怒鳴りつけて、力づくで彼女を外に追い出します。

しばらくすると、外でマリが男にからまれているのに気づき、彼は仕方なくまた彼女を家に入れました。礼を言うマリに、紀夫は背を向けたままでした。

やがて外は大雨となりました。再び食事を用意したマリは、雨が止んだら出ていくと言います。それを聞いた紀夫は、皿を自分の机に持って行って食べ始めます。

それからも奇妙なふたりの共同生活は続きました。紀夫はマリに、「なんであの歌知ってた?」と聞きます。

「わかんない。でもずっと前から知ってた気がする」そう言って、マリは紀夫と茉莉が作ったでたらめ歌を口ずさみます。カーテンが夜風に揺れていました。

翌朝、マリはいなくなっていました。

会社の後輩から2日前に茉莉を喫茶店で偶然みかけたと言われた紀夫は、その店を訪ねます。最近毎日茉莉が来ていると聞いた彼は待ち続けますが、彼女は現れませんでした。

帰宅すると、両親とマリが談笑していました。マリは忘れ物をとりにきたら二人がいたので出ていけなくなったと言います。

マリと名乗ったら茉莉と勘違いされてしまったと言われ、どうにもならず紀夫も会話に加わります。

楽しかったと言って帰っていく両親を見送った後、眠くなったマリは泊っていくことになりました。

寝付けない紀夫は、茉莉が映っているDVDの映像を見始めました。一緒に見始めたマリに、茉莉とのことを話しながら紀夫は泣き出します。何度も「茉莉」とび続ける彼に「どっちのマリ?」と聞くマリ。

慌てて自分から離れようとした紀夫に、マリは近づいてキスしました。思わずこたえてしまった紀夫は、「ごめん、出てって」と言って背を向けます。

仕事中も心ここにあらずの紀夫。茉莉の歯科や元の仕事先を訪ねますが、茉莉はみつかりませんでした。

紀夫が再び訪ねた茉莉の姉は「ごめんね」と泣きながら吐いてしまいます。彼女は妊娠3カ月でした。

帰宅するとマリが部屋で待っていました。

「なんで戻ってきたの?」「わかんない」「そっか。なんか飲む?」

紀夫は彼女を受け入れ、その後一緒にベッドに入りました。

2年後。紀夫は笑顔を取り戻していました。会社帰りの彼を、マリが河原で待っていました。以前茉莉としたように、でたらめ歌を歌いながらマリと手をつないで歩く紀夫。

夕食の献立を話していた紀夫は茉莉に似た女とすれ違い、思わず振り返ります。しかし、追いかけずにそのままマリと家へと向かいました。

帰宅後もふたりは仲良くじゃれ合い、それから寄り添って眠ります。夜中起き上がったマリは、紀夫の寝顔をじっとみつめていました。

映画『彼女来来』の感想と評価


(C)「彼女来来」製作委員会

阿部公房の世界にインスピレーションを得た不条理劇

カフカや安部公房が好きだという山西竜矢監督による不条理劇を描いたデビュー長編作『彼女来来』。安部の『砂の女』を意識したという本作では、迷宮を彷徨う内にそこに順応していく主人公が映し出されます

俳優として活動する傍らで脚本・演出を独学で学んだ山西監督は16年に演劇ユニット「ピンク・リバティ」を旗揚げしました。

17年には脚本・監督した短編映画『さよならみどり』が第6回クォータースターコンテストでグランプリ受賞、20年には執筆エッセイが「ベスト・エッセイ2020」に選出されるなど多方面で活動の場を広げています。

主演の前原滉は独特の容姿が印象に残る実力派で、『あゝ、荒野』(2017)『とんかつDJアゲ太郎』(2020)などで活躍中です。最近では「タクシーアプリGO」のCMでも知られています。

ヒロイン・マリを演じるのはドラマ『そして、ユリコは一人になった』の天野ハナです。浮遊感がある彼女はマリにぴったりだということで、監督が直々にオファーしました。

もうひとりのヒロインである茉莉を演じた奈緒は、人気脚本家・野島伸司のアクターズスクールで演技を叩き込まれた実力派。ドラマ『半分、青い。』『あなたの番です』などで好演し注目を集めました。

友達同士だった天野と奈緒が一緒に山西監督の芝居を見に来たことがあり、並んでいた姿を見てどことなく似てるという印象を山西が感じたことが本作に生きたそうです。

音楽は、ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』も担当したVampilliaのヴァイオリニスト・宮本玲が担当。幸せと不穏が共存しているヴァイオリンの音色に山西監督が魅せられ、音楽と映像でセッションしているように感じながら制作したといいます。

劇に漂う不穏な空気がヴァイオリンによって見事に高められています。

謎の女・マリとキスしてしまった紀夫が普段通りの仕事をしながらも内面が大きく動揺していることを映し出すかのように、狂った転調をみせるヴァイオリンの音色はとても印象的です。

悲しくもたくましい人間の順応力


(C)「彼女来来」製作委員会

この作品の主人公の紀夫はキャスティング会社勤務の30歳のごく普通の男で、つき合って3年目になる魅力的な彼女の茉莉と仲睦まじく暮らしていました。

しかし、ある夏の日に窓からの強い夕陽を見た彼の前に、茉莉ではない別の女性・マリが姿を現します。

これまでのことは覚えていないというマリから「ここに住む」と言われた紀夫は、ワケがわからないまま必死で拒絶し続けますが、追い払ってもすぐに彼女は部屋に戻ってきてしまいます。

一方、恋人の茉莉は探しても探してもみつかりません。目撃された喫茶店をはじめ、バイト先や通っていた歯科医院などを訪れても、彼女の姿はありませんでした。

はねつけてもはねつけても紀夫のもとへと帰ってくる謎の女・マリを、紀夫は最終的に受け入れます

紀夫と茉莉だけが知るでたらめ歌をなぜか知っていたマリ。そのことが彼の心を開くきっかけになったとはいえ、茉莉を探すことにもマリを追い払うことにも紀夫が疲れ果ててていたことが大きな理由だったことでしょう

また、自分の前から突然消えた女性より、突き放しても尚、そばにい続けてくれる女性に安心感を抱いたに違いありません

人はいなくなった相手をいつまでも待てるほど強くはありません。近くに代わりになってくれる人がいれば尚更です。

どんな厳しい状況にも順応してしまうのは、人間の弱さでもあり、強さでもあります。そんな真実を、見事に映し出した一作となっています。

まとめ


(C)「彼女来来」製作委員会

恋人の女性が一瞬にして別の人間に入れ替わってしまうさまを描いた不条理劇『彼女来来』。ファンタジーのような非現実の世界の中で、人間の悲しさ、逞しさの真実が色濃く映し出されます

謎めいたわけのわからない環境の中だからこそ、人間の本質はあぶりだされるものなのかもしれません。

山西監督自らが長編1作目としてはすごく満足していると語り、今後は演劇とともに、映画にもっと力を入れていきたいと思えるようになったと語る作品です。

もし紀夫と同じことが自分に起きたならいったいどうしただろうかと想像しながら、摩訶不思議な世界を旅してください。




関連記事

ラブストーリー映画

映画『素敵なウソの恋まじない』ネタバレ結末の感想とあらすじ解説。大人のラブストーリーをジュディデンチとダスティンホフマン共演で描く

ジュディ・デンチ&ダスティン・ホフマンが贈る情熱と驚きで満ちたシニアのラブコメ 『素敵なウソの恋まじない』は、『チャーリーとチョコレート工場』『THE BFG』『マチルダ』など、イギリスだけでなく世界 …

ラブストーリー映画

映画『ホットギミック』ネタバレ感想。山戸結希が『溺れるナイフ』以上に作家性を発揮した完成度!

映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』は、2019年6月28日(金)より全国ロードショー 山戸結希監督がジョージ朝倉の原作を映画化した『溺れるナイフ』(2016)に続いて、再び少女漫画作品を実写映 …

ラブストーリー映画

ブリジット・ジョーンズの日記|ネタバレあらすじ結末と感想評価の解説。レニー・ゼルウィガーが等身大の独身女性をキュートに演じる

ぽっちゃり女子ブリジットの魅力にはまる女性が続出! 恋に仕事に奮闘する32歳の独身女性を等身大に描いたヘレン・フィールディングによるベストセラーを映画化した大ヒットコメディ『ブリジット・ジョーンズの日 …

ラブストーリー映画

【ネタバレ】先生、私の隣に座っていただけませんか?|結末あらすじ感想と評価解説。最後まで目が離せないさわやかな不倫復讐劇

黒木華と柄本佑主演『先生、私の隣に座っていただけませんか?』 「本当に観たい映画作品企画」の募集から映画化までバックアップを行うオリジナル作品のコンペティション「TSUTAYA CREATORS’ P …

ラブストーリー映画

妻ふり映画あらすじと感想!榮倉奈々の『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』

映画『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』は、6月8日(金) 謎の〈妻ふり〉ロードショー! 日本人ならネットで誰もが一度くらいは見たことがあるだろうYahoo!知恵袋。 ここにあげた投稿から始 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学