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Entry 2023/03/02
Update

【豊嶋花インタビュー】映画『ちひろさん』有村架純や先輩たちの演技に刺激を受けて増やせた“自分のページ”

  • Writer :
  • 河合のび

映画『ちひろさん』は2月23日(木・祝)よりNetflix世界配信&全国劇場にて公開中!

安田弘之の人気コミックを原作に、“恋愛映画の旗手”と称される今泉力哉監督が実写映画化した『ちひろさん』。

有村架純が主演を務めた本作は、“ひとり”で生きることを選んだ主人公・ちひろさんと彼女に出会った人々の“孤独”と“癒し”の物語を描き出しています。


photo by 田中舘裕介

このたびのNetflixでの世界配信と劇場公開を記念し、ちひろさんに出会う人間の一人であり、家族や友だちとの関係性に悩む女子高生・オカジ役を演じられた豊嶋花さんにインタビューを行いました。

オカジという役への印象の変化、豊嶋さんから見たちひろさんの人物像、ご自身が目指す女優としての在り方など、貴重なお話を伺うことができました。

“生きづらさ”と“居心地の良さ”を具体化する


(C)2023 Asmik Ace, Inc.(C)安田弘之(秋田書店)2014

──本作で演じられたオカジという役の第一印象を改めてお聞かせいただけますか。また、実際に演じられた中でのその印象に変化はありましたか。

豊嶋花(以下、豊嶋):最初は「明るくて面白そうな子だな」という印象を持ったんです。ただ原作漫画を拝見させていただいて、実は彼女にも“影”の部分といいますか、自分の他人に見せていない部分があることを知り、その上で彼女のことを考察し直したので印象はかなり変わりましたね。

家族や友だちといる時と、ちひろさんやマコトといる時とで、オカジは“生き方”を分けています。ただ、家族や友だちといる時の生き方には生きづらさを感じたのに対して、ちひろさんといる時はとても居心地が良さそうだったんです。

オカジを演じる上でも、その“生きづらさ”と“居心地の良さ”のギャップをどう演技として具現化していくかが一番難しく感じられました。

──豊嶋さんご自身も、現在の生活の中で「“生き方”を分ける」という感覚を抱く時はあるのでしょうか。

豊嶋:私はまだまだ子どもなので、大人と話す時は喋り方も少し硬くなるんですが、同年代の友だちと過ごす自分が映っている動画を見た時には“幼さ”が伝わってくるといいますか、「仕事の時と全然違うな」と実感することがあります。

またお仕事の現場に入る時には、具体的な“切り替えのスイッチ”があるわけではなく、強いて言えば演技をする前に、心を少しだけ集中させることを常に心がけています。

気圧されるほどの“オーラ”を体感


photo by 田中舘裕介

──オカジを演じられた豊嶋さんから見て、有村架純さんが演じられた本作の主人公・ちひろさんはどのような女性だと感じられましたか。

豊嶋:近くにいるけれど、どこか遠いところに立っているように感じられる。でも、遠い存在に見えるようで、実は身近にも感じられることもある。その時々によって、ちひろさんとの距離が変化するんです。

ちひろさんがしっかりとした自分の意思を持ってそこにいるから、周りの人たちはちひろさんとの距離を感じられるのかもしれません。

──豊嶋さんが特に記憶に残っている、ちひろさんとオカジの場面をお教えいただけますか。

豊嶋:作中、ちひろさんとオカジが二人で海に入っていく場面があるんですが、その撮影での有村さんの演技が何と言いますか、怖くはなかったんですが、有村さんの放つちひろさんとしてのオーラに気圧されてしまったんです。

今泉監督にも「オカジという役としても、オーラを素直に受け止めてほしい」と伝えられ、その場面ではちひろさんのオーラ、そして有村さんのオーラを全身で受け止めました。本当に凄いお芝居をされる方だと改めて感じられました。

成長ができた、思い入れのある作品


photo by 田中舘裕介

──女優というお仕事において、豊嶋さんが一番「楽しい」と感じられる瞬間はどのような時なのでしょうか。

豊嶋:正直挙げるとキリがないんですが、クランクアップした時の達成感がとても好きですね。スタッフさんや共演したキャストさんから花束や拍手をいただく中で、「この作品でがんばってよかったな」とはっきり思えるんです。

『ちひろさん』ではマコト役の嶋田鉄太くんと一緒にクランクアップとなったんですが、有村さんからお花をいただけて、泣きそうになりました。そのぐらい『ちひろさん』が思い入れのある作品になったからだと思いますし、きっと本当に泣いていたんでしょうね。

私は「この作品で成長したい」と思って撮影に臨んだんですが、有村さんやリリー・フランキーさん、風吹ジュンさんなど、本当に素晴らしいお芝居をされる方々から多くの刺激を受け、成長することができたと感じています。

これからも増やし続ける“ページ”


photo by 田中舘裕介

──『ちひろさん』へのご出演を経て、どのような点が成長されたのでしょうか。

豊嶋:自分の持っている“ページ”を増やすことができたんです。新しい演技におけるアプローチの種類、感情の引き出し方を増やせたんです。

私は「こういう演技ができるようになりたい」とこだわるよりも、どんな演技もできる女優になりたいと考えています。

「この演技はうまいけど、この演技はイマイチだな」と評価され、固定のイメージがついてしまうことは少なくありません。そうならないためにも、これからも“ページ”を増やし続けたいと思います。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

豊嶋花プロフィール

2007年3月27日生まれ、東京都出身。1歳の時から芸能活動を開始し、5歳の時に出演した映画『外事警察 その男に騙されるな』(2012)で可憐な容姿と大人顔負けの演技が絶賛された。

主な出演作はドラマ『梅ちゃん先生』(NHK/2012)、『ごちそうさん』(NHK/2013)、『八重の桜』(NHK/2013)、『昼顔』(CX/2014)、『キッドナップ・ツアー』(NHK/2016)、『トットちゃん!』(EX/2017)、『大豆田とわ子と三人の元夫』(KTV/2021)、『みなと商事コインランドリー』(TX/2022)、『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』(NTV/2022)、映画『真夏の方程式』(2013)、『恋妻家宮本』(2017)、『生理ちゃん』(2019)などがある。

2023年は大河ドラマ『どうする家康』に出演。

映画『ちひろさん』の作品情報

【公開・配信】
2023年(日本映画)

【原作】
安田弘之『ちひろさん』(秋田書店「秋田レディース・コミックス・デラックス」刊)

【監督】
今泉力哉

【脚本】
澤井香織、今泉力哉

【キャスト】
有村架純、豊嶋花、嶋田鉄太、van、若葉竜也、佐久間由衣、長澤樹、市川実和子、鈴木慶一、根岸季衣、平田満、リリー・フランキー、風吹ジュン

【作品概要】
安田弘之の人気同名コミックを『愛がなんだ』などで知られ“恋愛映画の旗手”と称される今泉力哉監督が実写映画化。“ひとり”で生きることを選んだ主人公・ちひろ役を有村架純が務める。

共演者には風吹ジュンやリリー・ フランキーといったベテラン陣から、若葉竜也、豊嶋花といった若手の注目俳優まで個性的なメンバーが集結した。

映画『ちひろさん』のあらすじ


(C)2023 Asmik Ace, Inc.(C)安田弘之(秋田書店)2014

ちひろ(有村架純)は、風俗嬢の仕事を辞めて、今は海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働いている。

元・風俗嬢であることを隠そうとせず、ひょうひょうと生きるちひろ。彼女は、自分のことを色目で見る若い男たちも、ホームレスのおじいさんも、子どもも動物も……誰に対しても分け隔てなく接する。

そんなちひろの元に吸い寄せられるかのように集まる人々。彼らは皆、それぞれに孤独を抱えている。

厳格な家族に息苦しさを覚え、学校の友達とも隔たりを感じる女子高生・オカジ(豊嶋花)。シングルマザーの元で、母親の愛情に飢える小学生・マコト(嶋田鉄太)。父親との確執を抱え続け、過去の父子関係に苦悩する青年・谷口(若葉竜也)。

ちひろは、そんな彼らとご飯を食べ、言葉をかけ、それぞれがそれぞれの孤独と向き合い前に進んで行けるよう、時に優しく、時に強く、背中を押していく。

そしてちひろ自身も、幼い頃の家族との関係から、孤独を抱えたまま生きている。

勤務していた風俗店の元店長・内海(リリー・フランキー)との再会、入院している弁当屋の店長の妻・多恵(風吹ジュン)との交流……揺れ動く日々の中、この街での出会いを通して、ちひろもまた、自らの孤独と向き合い、少しずつ変わっていく。

これは、軽やかに、心のままに生きるちひろと、ちひろと出会う人々──彼らの孤独と癒しの小さな物語。

ライター:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介




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