映画『巡る、カカオ〜神のフルーツに魅せられた日本人〜』は2024年1月12日(金)よりシネスイッチ銀座ほかで全国順次公開!
2024年1月12日(金)よりシネスイッチ銀座ほかで全国順次公開を迎えた『巡る、カカオ〜神のフルーツに魅せられた日本人〜』。
チョコレートの原材料である果物「カカオ」の歴史や可能性に魅せられ、カカオ農家の労働環境の向上・カカオの新たなビジネスモデル構築に奔走する日本人たちを追ったドキュメンタリー映画です。
今回の公開を記念し本作の出演者の一人であり、《境界線を溶かすチョコレート》で知られるチョコレートブランド「MAAHA CHOCOLATE」を立ち上げたMpraeso合同会社CEO・田口愛さんにインタビューを行いました。
美味しいチョコレートを「長く」食べ続けるためには何が不可欠なのか、そして自分自身にとってカカオという果物はどのような存在なのかなど、貴重なお話を伺えました。
CONTENTS
ガーナという「心が豊かな国」
──田口さんは2019年に初めてガーナに訪れていますが、そもそもカカオの代表的な生産国の中でガーナという国に興味を持たれた理由は何でしょうか。
田口愛(以下、田口):小さい頃からチョコレート以外の食べ物も好きな食いしん坊で大好きだったんですが、私の生まれ育った場所には農家さんが多くいらっしゃったのもあり、美味しいものを食べるたびに「どんな人が作っているんだろう」と考える癖があったんです。
そして食べ物の中でも特に好きなチョコレートについても「どうやって作られているんだろう」と中学生の時に調べてみたところ、チョコレートの原材料として日本が輸入しているカカオの8割はガーナ産であることを知りました。
長い間「ガーナチョコレート」という言葉が気になっていた中で、大学生となり「自分の時間をどう使おう」と考えた時、今まで興味を持ち続けていたガーナに行ってみたいと思い立ったんです。
──初めてガーナを訪れた際、そこで生きる人々はどんな方たちだと感じられましたか。
田口:中学生の頃に調べた際には、カカオ生産のために児童労働が行われていることも知り、そうやって作られたカカオを原材料としたチョコレートを食べているという罪悪感を強く抱きました。その罪悪感は大学生になった時まで残り続け、ガーナへ行くことを決意したのも「ガーナでカカオを作る人々のために何かできないか」という想いが強かったんです。
ただ実際にガーナへ行ってみると、自分が調べてみた中学生の頃に比べれば、カカオ生産にまつわる現状は少しずつ改善されてきていることを知りました。
そもそもガーナで生きる人たちは、小さなことに対し幸せを大きく感じられる術を持っていて、本当に陽気なんです。街中を見渡せば必ずどこかに歌っている人・踊っている人がいるほどで、もちろん金銭的な貧しさという問題は現実としてあるものの、その中でも助け合い、今目の前にあるものに感謝しながら生きていくという精神を持っています。
当初ガーナに対して抱いていた「貧しい国」というイメージは、自然と「心が豊かな国」というイメージに変わっていきました。
美味しいチョコを「長く」食べ続けるために
──田口さんはガーナ国内のカカオ産業の現状を変えるべく、エンプレーソ地域・アマンフロム村ではクラウドファンディングで集めた資金を基にチョコレート工場を設立し、ガーナ政府にも新たなカカオ買取システムの構築を働きかけています。
田口:カカオの原産は南米であり、のちにカカオがヨーロッパに持ち込まれたことで現在まで続くチョコレートという食べ方が開発されました。そして植民地主義の時代にヨーロッパ諸国がカカオ生産を始めさせたという事情から、アフリカの国々には「カカオをチョコレートにして食べる」という文化自体がなかったんです。
そこで「チョコレートの原材料となるカカオを作ってくれている彼ら自身に、彼らが生み出している味を知ってほしい」と思い、村で実際にカカオからチョコレートを作り、食べてもらったんです。すると農家さんたちも「チョコレート作りを、この村でもっとできたらいいのにね」と話してくれるようになり、その言葉に応えるためにもチョコレート工場の設立を進めました。
また「政府の人々に新たなシステム構築を働きかける」というと非常に大それたことに聞こえてしまうんですが、ガーナにはカカオの買い上げを管理する「ガーナ・カカオ協会」という国営の機関が存在し、協会の職員さんが各地域の管轄をそれぞれ担当し、所有する倉庫で豆を管理しているんです。
私は初め、アマンフロム村を担当する職員さんに「この村のカカオの収穫量はどのぐらいなのか」「日本ではこういった品質のカカオが評価されるんだけど、どうやったら増やせるだろうか」と相談レベルの内容を尋ねました。
やがて「良いカカオをしっかり高く買いたい」と自分の中で決めてからは、担当職員の方に自分の今後の展望を共有し、村の人たちと同じようにチョコレートの味を知ってもらったりご当地トークを織り交ぜたりする中で、少しずつ「上の人」と話したいと働きかけました。そのおかげで、エンプレーソ地域を統括するトップの方とお会いする場を設けられました。
そして「トレーサビリティを担保した上で、品質の高いカカオを輸出したい」と伝えたことで「現状ではまだ法律そのものを変えられる段階ではないものの、あなたが考案したシステムによるカカオの輸出を、協会の管理下のもとエンプレーソ地域で実験的に行なってもらって構わない」と許可が得られたんです。
今後も美味しいチョコレートを長く食べ続けたいと考えた時、ガーナ・日本の両国の関係性をより良いものにし、お互いに手を取り合っていくのが最も重要だと思っています。私は元々カカオやチョコレートの専門家ではなかったですが、これからも「自分が現地でできること」を考え続けたいと感じています。
自分を世界へ旅立たせてくれたカカオ
──田口さんにとって、カカオとはどのような存在なのでしょうか。
田口:私にとってカカオは世界を旅するきっかけで、チョコレートの「生まれ」を探しに行ったことで、地球の反対側で生きている人たちの生活に辿り着けました。
私たちにとってチョコレートは身近な食べ物だけれど、原材料であるカカオやカカオ農家さんのことは知らない。逆にガーナまで行ってみると、そこで生きる人たちにとってカカオ生産は生活の大切な柱になっているけれど、カカオから作られるチョコレートの味は知らない。そんな「つながっているけれど、つながっていない」というもどかしさから「両国をカカオとチョコレートによってつなげたい」と思うようになったんです。
今の仕事では色々と大変なこともあるんですが、やっぱりチョコレートが、カカオが好きだからこそ続けられているところがあります。
見た目はとてもシンプルなのに、一口食べてみると全然違う世界が全身に広がって、ガーナをはじめカカオが作られる地域を思い浮かべながら「このカカオは、こう育てられたんだろうな」と想像する時間がとても好きなんです。
「MAAHA CHOCOLATE」を立ち上げてからも、日本のお客さんに「チョコレートは好きだけど、カカオについてこんなに想像することはなかった」と言ってもらえる時があります。チョコレートという身近な食べ物を通して、世界について想像し、考えるきっかけを届けられるようなブランドをこれからも目指していきたいです。
映画を観終えたら、チョコレートの味も変わる
──完成した映画をご覧になった際、田口さんはどのような想いを抱かれたのでしょうか。
田口:小方真弓さんとカカオハンターズさんの挑戦など、大先輩である人たちの姿を観ることができたのは、ドキュメンタリー映画という形でご共演できた嬉しさはもちろん、カカオに関わる人間としてとても強い刺激を受けました。
当初はアマンフロム村の皆さんへの恩返しのような想いから、村と日本をつなぐ仕事を始めましたが、今はより多くの場所を日本とつなげたいと考えています。そして今回出演させていただいた『巡る、カカオ』も、カカオの生産国と日本のそれぞれで生きる人たちをつなぐ、きっかけの一つになるはずです。
カカオがどう育てられ、実った果実がどんな過程を経てチョコレートになるのかを細かく映し出している映画は本当に貴重ですし、この映画を観た後に食べるチョコレートの味は、今までとは全く違うものになると思います。
誰かと一緒にチョコレートを食べる時にも、その人と一緒に話すことや考えることは以前とは大きく変わってくるはずです。今まで身近なものとして触れてきた存在に対して、見方が変わるきっかけをくれるような映画になっています。
インタビュー/河合のび
田口愛プロフィール
1998年生まれ、岡山県・岡山市出身。Mpraeso合同会社CEO。
19歳でガーナを初訪問し、カカオ農家の抱える課題を目の当たりにし「境界線を溶かすチョコレートを作る」と決意。
2020年、Mpraeso合同会社を設立。クラウドファンディングで資金を調達し現地にチョコレート工場を建設。2021年にはチョコレートブランド「MAAHA CHOCOLATE」を立ち上げる。
映画『巡る、カカオ〜神のフルーツに魅せられた日本人〜』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本映画)
【監督】
和田萌
【撮影】
佐々木秀和、佐藤康佑
【編集】
宮島亜紀
【音楽】
原摩利彦
【出演】
小方真弓、田口愛、堀淵清治、南雲主于三、土居恵規
【ナレーション】
堀ちえみ
【作品概要】
チョコレートの原在料である果物「カカオ」の歴史を描きながらも、カカオの可能性に魅せられた果てに、カカオ農家を取り巻く現状の改善、カカオ生産の新たなビジネスモデル構築に奔走する日本人の活躍を追ったドキュメンタリー映画。
コロンビア先住民の末裔・アルアコ族が抱える課題を現地でともに解決に取り組みながらも、カカオ産業のビジネスモデル構築に奮闘するカカオハンターズの小方真弓、ガーナに単身渡航し現地のカカオ産業を変革するために農家だけでなく政府にも交渉を続けるMpraeso合同会社CEOの田口愛の姿を中心に、生産国・消費国が喜び合えるカカオ作りへの挑戦を映し出す。
監督は、多様性の意味に迫ったドキュメンタリー映画『であること』(2020)を手がけた和田萌。ドキュメンタリー作品の演出家としてテレビ番組を中心に制作へ携わり、放送文化基金賞やギャラクシー月間賞を受賞した経験を持つ。
またナレーションを、歌手・タレントの堀ちえみが担当している。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。