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Entry 2022/09/26
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【久保田直監督インタビュー】映画『千夜、一夜』“田中裕子が港を見つめる姿”が自然と想い浮かんだ佐渡島の風景

  • Writer :
  • ほりきみき

映画『千夜、一夜』は2022年10月7日(金)よりテアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開!

夫が突然姿を消してから30年。彼はなぜいなくなったのか。まだ、生きているのか。妻は愛する人とのささやかな思い出を抱きしめながら、その帰りをずっと待っている……。

日本では年間約8万人が人知れず消え、今もどこかで誰かを待ち続ける人々がいます。映画『千夜、一夜』は、そこに隠された物語を感じとった久保田直監督が、前作『家路』でもタッグを組んだ脚本家・青木研次とともに編み上げたオリジナル作品です。


(C)Cinemarche

このたび映画の劇場公開を記念し、久保田直監督にインタビューを敢行。

企画のきっかけをはじめ、主演の田中裕子さん、共演の尾野真千子さんをキャスティングされた経緯と本作での演技など、貴重なお話を伺いました。

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「別の場所で暮らしている」という失踪者の便り


(C)2022 映画「千夜、一夜」製作委員会

──日本では年間約8万人が人知れず消え、その一方で今もどこかで失踪者の帰りを待ち続けている人がいるという状況に久保田監督が興味を持たれたのが、本作の企画の始まりだったとお聴きました。

久保田直監督(以下、久保田):北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者を「特定失踪者」といいます。彼らの顔写真が掲載されたポスターを見た失踪者本人が「拉致ではなく、自分の意思で別の場所で暮らしている」と家族に連絡してきた事例がいくつもあると聞いた時には、とても驚きました。

特定失踪者リストに名前が載るくらいですから、失踪する直前まで普段と変わらない暮らしをされていたのでしょう。ただ残された者にとっては、何か失踪した理由を探したくなるのではないかと思ったのです。

だからこそ「別の場所で暮らしている」と本人から連絡がきた時には、それをどう受け止めたらいいか、戸惑ったに違いありません。このことを映画で撮れないかと思ったのです。

脚本家・青木研次とともに佐渡島へ


(C)2022 映画「千夜、一夜」製作委員会

──これまで久保田監督はドキュメンタリー作品を中心に制作されてきましたが、本作にて「劇映画」という表現方法を選ばれた理由は何でしょうか。

久保田:やはり先ほど説明した状況にある方を、ドキュメンタリーで撮るのは難しいためです。

ドキュメンタリーといえども、“起承転結”が必要です。極端なことを言えば“結”はなくてもいいのですが、“起承転”まではイメージし、“承”のために何かが動かないといけません。それはどこまでこちらで動かしていいものか、こちらが動かそうとして動くものなのか。自然に動くのを待つのは、多くの時間と潤沢な資金が必要です。

仮にドキュメンタリーとして企画が採択されたとしても、何年も密に撮ることはできません。飛び飛びに撮るとなると、どうしても撮られる側の方々にも“構え”が生じてしまい、なかなか心情に寄り添えない。それらをふまえると、このテーマでドキュメンタリーを企画するのは難しいのです。


(C)2022 映画「千夜、一夜」製作委員会

──脚本は前作『家路』(2014)と同じく青木研次さんが担当されていますが、青木さんとはどのように本作の物語を形作られていったのでしょうか。

久保田:僕が青木さんに「失踪者を待つ人を主人公に、映画が作れないだろうか」と相談したところ、「面白そうだからやってみよう」と言ってもらえ、どういう設定が考えられるかをその場で話し合いました。その際に「人ってどれくらい待てるものだろうか」という話になり、いちばん長く待っているという状況を考えてみました。

その後、二人で佐渡島へシナハンに向かい、そこでいろんな風景やいろんな人たちの話を見聞きした中で、見えてきたものがあったのです。

そこで青木さんがシノプシスを書き、それを基に話し合いを重ねていき脚本の第一稿ができあがりました。何人かのプロデューサーに脚本を見せ、意見を伺ったことなども加味して、改稿を重ね、さらに改稿を重ね、完成形に近い形になるまでには1年ほどかかりました。ただ、そこからが長かったですね。資金集めが大変で、脚本にも紆余曲折がありました。

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田中裕子が作る「登美子」という世界


(C)2022 映画「千夜、一夜」製作委員会

──主人公・登美子を演じられたのは、『家路』にも出演された田中裕子さんです。脚本執筆を進められていた当時から、田中さんのキャスティングを想定されていたのでしょうか。

久保田:僕も青木さんも「田中さん」と言葉に出してはいませんでしたが、最初から頭の片隅に裕子さんの佇まいが浮かんでいたと思います。

シナハンで佐渡島に行った時、丘の上に建っている小さな家を見つけ、アプローチの階段に座りながら海を眺めていたら「ここで裕子さんが毎日、港を見つめているんだろうな」というイメージが浮かびました。それは多分、青木さんも同じだったと思います。

──田中さんは『家路』でも「登美子」という名前の女性を演じられていますね。

久保田:ある時、僕が「また『登美子』だね」と聞いたことがあるんですが、青木さんは「いやぁ、『登美子』なんだよなぁ」とだけ言っていました。

──久保田監督の目からは、本作における田中裕子さんの演技はどのように映ったのでしょうか。

久保田:裕子さんは脚本をしっかり読み込んで、体に沁み込ませているように感じられました。「登美子」という世界ができあがっていて、その世界がどういう世界なのかが監督である自分にもよく伝わってきました。

特に安藤政信さんとの場面は、「これは凄いな」というものがありました。

久保田:その場面は尺がとても長くセリフも多いのですが、まずは最後のカットを撮る際のカメラ位置へとカメラを置き、最初から最後まで撮らせてもらいました。本編で使用するのは最後のカットで映したいと思った箇所だけですが、そこは気持ちが難しい場面なので、最初から通しで全部演じなくては、いきなりその気持ちには行き着けないのではないかと考えたのです。

なかなかカットがかけられないくらい、二人の芝居に感動させられました。その場面の撮影日は、前日の時点から「明日は山場だ」と現場全体で緊張していましたし、僕自身も二人がどういう風に演じるか想像がつかなかった。こちらから何か演出するのではなく、あくまでも二人の感情に任せましたが、「いい役者は違うな」と改めて実感しました。

共演を待ち望んでいた尾野真千子


(C)2022 映画「千夜、一夜」製作委員会

──作中では、もう一人の「消えた夫の帰りを待つ女性」として奈美が登場します。奈美を演じられた尾野真千子さんのキャスティング経緯を、改めてお聞かせいただけますでしょうか。

久保田:尾野さんは裕子さんと同じ事務所で、以前から「裕子さんと共演したい」という気持ちがあったようです。脚本を読まれて、尾野さんの方から「やってみたい」と言っていただきました。もちろん、尾野さんはこちらからお願いしたいくらいの方ですから、キャストをどうするか考える前に決まりました。

尾野さんは「映画本編で映し出される場面の直前に、奈美は何をしていたのか」という視点からも芝居を考え込まれていて、その視点が実際の撮影での芝居にも反映されていたように感じられました。

例えば登美子が奈美の部屋を訪ねた場面、奈美の部屋には山中崇さん演じる大賀もいたのですが、尾野さんに「奈美と大賀は一緒に座ってお茶を飲んでいるのか、それともまだもうちょっと距離があるのか」と聞かれました。そこで僕が「そばにいていいのでは」と伝えると、尾野さんは「ではチャイムが鳴った時、『ハイ』と答えるのはどっちなのか」とさらに聞かれたのです。

2人の関係性を踏まえた上で「その場面に至るまでに、2人が何をしていたのか」を考えて、芝居をする。その視点があるからこそ、登美子に向けた最初の奈美の表情につながっていくわけです。


(C)2022 映画「千夜、一夜」製作委員会

──撮影を終えられた現在、久保田監督はどのような想いを抱かれていますか。

久保田:脚本開発のキャッチボールをし、脚本を読んでもらった俳優に作品の解釈を拡げてもらい、撮影後に編集をするという様々なプロセスを経て、このような作品になりました。

できあがった作品を前に、「自分は本当の気持ちを、自分の大切な人に伝えているだろうか」という気持ちになりました。映画をご覧いただいた方にも、そういう気持ちが過ってくれるといいなと思います。

インタビュー/ほりきみき

久保田直監督プロフィール

1960年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、1982年からドキュメンタリーを中心としてNHK、民放各社の番組制作に携わる。

2007年MIPDOCでTRAILBLAZER賞を受賞し、世界の8人のドキュメンタリストに選出される。2011年に文化庁芸術祭参加作品『終戦特番 青い目の少年兵』(NHK・BSプレミアム)を演出。

劇映画デビュー作『家路』(2014)が第64回ベルリン国際映画祭パノラマ部門をはじめ、第38回香港国際映画祭、第17回上海国際映画祭に正式出品され、第19回新藤兼人賞金賞、第36回ヨコハマ映画祭 森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞した。

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映画『千夜、一夜』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
久保田直

【脚本】
青木研次

【キャスト】
田中裕子、尾野真千子、安藤政信、白石加代子、平泉成、小倉久寛/ダンカン

【作品概要】
「日本では年間約8万人が人知れず消え、今もどこかで誰かを待ち続ける人がいる」「そこにはいったいどんな物語が隠されているのか」と考えたドキュメンタリー出身の久保田直監督が、青木研次によるオリジナル脚本で映画化。

主演は田中裕子。夫の帰りを待ち続ける女性・登美子の強さや脆さを繊細に体現する。登美子とは対照的な女性・奈美を尾野真千子が熱演。

登美子に想いを寄せる漁師・春男をダンカン、失踪した奈美の夫・洋司を安藤政信が演じるほか、白石加代子、平泉成、小倉久寛らが出演した。

映画『千夜、一夜』のあらすじ


(C)2022 映画「千夜、一夜」製作委員会

北の離島の美しい港町。登美子の夫・諭が突然姿を消してから30年の時が経った。彼はなぜいなくなったのか。生きているのかどうか、それすらわからない。

漁師の春男が登美子に想いを寄せ続けるも、彼女がそれに応えることはない。

そんな登美子のもとに、2年前に失踪した夫を探す奈美が現れる。彼女は自分の中で折り合いをつけ、前に進むために、夫が「いなくなった理由」を探していた。

ある日、登美子は街中で偶然、失踪した奈美の夫・洋司を見かけて……。

堀木三紀プロフィール

日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。

これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。




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