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高倉健映画『夜叉』あらすじネタバレと感想。ラスト結末の考察も

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

1960~70年代の東映の任侠モノで一世を風靡した高倉健。「午前十時の映画祭8」でデジタル・リマスター版として、健さんが1985年に元ヤクザ役の“夜叉の修治”として挑んだ本作『夜叉』が上映。

無口な演技で定評のある健さんの相手役には、色香と少女が入り混じる田中裕子の際立った演技にも注目したい作品。

この作品のあらすじと人物像についての考察です。

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2.映画『夜叉』の作品情報

【公開】
1985年(日本映画)

【監督】
降旗康男

【キャスト】
高倉健、いしだあゆみ、田中裕子、田中邦衛、乙羽信子、大滝秀治、小林稔侍、あき竹城、檀ふみ、寺田農

【作品概要】
1960~70年代の任侠映画で一世を風靡した高倉健が、1985年に元極道役に挑んだ東宝作品。

2.映画『夜叉』のあらすじとネタバレ

大阪ミナミで“夜叉の修治”と言われた男は、今では足を洗い、妻冬子の故郷である敦賀の日向で漁師として暮らしていた。

修治は夏になっても服を脱ぐことはなく、漁師仲間と温泉旅行にも出かけることもありません。彼は15年のあいだ村人たちには隠していたものを背負っていたからです。

ある日、村に飲み屋「蛍」が開店。何度も開け閉めを繰り返す店の今度の女将は蛍子といい、彼女もかつてミナミで働いてきた色香のある女性でした。

たちまち漁師たちの評判となり、夜な夜な漁師は飲み屋「蛍」に集います。

しかし、その蛍子には好いたヒモの矢島という男がいました。

蛍子は矢島と漁村で所帯を持ちたいと彼を呼び寄せ、もう昔のように薬物だけは止めて欲しいと懇願します。

一方の矢島は明けても暮れても麻雀博打に漁師たちを誘います。その目的の裏には栄養剤と称して薬物を漁師に売買していたのです。

修治の漁師仲間の啓太も、いつの間にか薬物を使用するようになってしまいます。

かつて修治が極道から足を洗った理由は、妹夏子が薬物に溺れ命を落としたことや、盃を交わした塙組が薬物の利権争いに手を出したことがきっかけでした。

ある時、修治は自分の元舎弟トシオが矢島と駅で一緒にいるところを目撃します。

トシオが運び屋として矢島に薬物を横流ししていたのです。かつての舎弟であるトシオをシメる修治。

トシオの事情をやむ得ない事情を理解しながらも、今後は矢島との取引を止めることを約束させます。

その後、修治は螢子に矢島の薬物を処分するよう助言します。さもなければ、警察に伝えるというのです。

矢島の所持していた薬物を勝手に処分した蛍子。

やがて、そのことに気が付いた矢島は狂ったように包丁を振り回し、蛍子に切りかかり、村中の隅々まで追いかけ回します。

しかも矢島は通りすがりの村人にまで包丁を振り上げたので、誰もが悲鳴をあげて逃げ惑います。

その緊急事態に止めに入ろうとした修治。矢島に背中を切り裂かれ、15年のあいだ隠し通してきた、背中の夜叉の彫り物が顔を覗かせてしまいました…。

以下、『夜叉』ネタバレ・結末の記載がございます。『夜叉』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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矢島の乱暴を収めた修治でしたが、このことを境に漁師たちやその妻たちは修治やその家族たちを白い眼で見るようになります。

しかし、その逆に蛍子は修治に惚れていき、ふたりは関係を持つ仲となります。

やがて、薬物の代金が払えずにいた矢島は、ミナミのやくざに捕まってしまいます。

螢子は修治に矢島を救って欲しいと頼みます。

男気のある修治は螢子のために妻冬子の反対を振り切り、“夜叉の修治”として大阪ミナミに舞い戻ります。

修治は元務めたやくざの姉御組長に仁義を通すものの、2代目塙松子は今は“漁師の修治”と村へ帰ることを促します。

しかし、修治は姉御に迷惑をかけないと言い残すと、矢島を監禁した組長に連絡を入れて修治の仁義の戦いに出ます。しまいます。

クラブの一室で監禁された矢島をいったんは救出した修治ですが、矢島は修治の元舎弟のトシオによって命を奪われてしまいます。

舎弟のトシオにも極道として生きる仁義があったからです。

敦賀の漁村に戻った修治はこれまでのように家族のもとに帰ります。

一方の螢子には幼い息子連れて夜の列車に乗って何処かへと去っていきます。その様子を修治は駅のホームの物陰から静かに見つめている修治は螢子とその息子のふたりを見送ります。

女手ひとつで漁村で開いた飲み屋や、そこで稼いだお金、そして矢島も失った蛍子。

彼女が列車に揺られると、悪阻が込み上げました。螢子のお腹には修治の子が宿っていたのです。

列車の個室トイレでニヤリと笑う夜叉のような螢子…。

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3.映画『夜叉』の感想と評価

日本映画のスタッフの力量は見事!

本作『夜叉』の演出は高倉健とのコンビ映画で知られる「新網走番外地」シリーズや『駅 STATION』『居酒屋兆治』『鉄道員』などの降旗康男が務めています。

この作品でも無口で耐え忍ぶ高倉健と、そして色香漂う田中裕子のキャラクター考察に入る前に、触れておきたいのは、1985年当時は日本映画が確固たるものとして存在していた事実です。

本作の演出を務めた降旗監督もさることながら、敦賀の小さな漁村の風景などを捉えたキャメラワークの木村大作の撮影

物語の場面の変わりのビジュアルの豊かさにきっと驚かされることでしょう。

波が打ち寄せられる海、雪降る山、ネオンのミナミ(象徴)、雨の水辺など、どれもが息を抜けぬほどしっかりと、密度の濃い場面設定が見事に描かれています

撮影現場の過酷さも感じられますし、今の日本映画と違い絵面がとても良いのです。

本作の映像力に名キャメラマン木村大作と美術の今村力に拍手を贈りたいですね。

また、サウンドデザインを担当したのは、録音を担当したのが紅谷愃一。そして音響効果は小島良雄です。

この作品を見て、かつての日本映画の良い意味での状況音や効果音の嘘の巧みさも聴きどころです。

螢子はファム・ファタールなのか?

かつて主人公の修治は、人斬りあるいは“夜叉の修治”と大阪ミナミで呼ばれていた極道です。

また、螢子もミナミで働いていた女です。

つまり、15年ものあいだ昔の姿を隠し通し、何事もなく過ごしていた修治に、過去とともに螢子がやってくるという設定です。

螢子は修治の新たに刻み始めた15年の時を巻き戻していく、過去から来た女なのです。

・ミナミの人(南)=修治と螢子(蛍は夏の風物詩)
・敦賀の人=冬子=(北のメタファー)

ゆえに、今の妻である冬子と、過去の螢子は真逆の時間にメタファーとして生きる存在になります。

時間軸を南と北という場所で表しています。

また螢子はかつての女の面影も連れて来ます。

修治には過去に惚れた恋仲であるクラブ歌手の女がいました。

あくまで想像ですが、彼女には受け入れてもらえず、修治は冬子を妻にしたのではないでしょうか。

その出来事を思い出させたのは、ラジカセで流したジャズで呼び起こした螢子です。

他にも過去の女がミナミから思い出されます。それは薬物使用で亡くなった修治の妹の名前は夏子です。

確かに田中裕子演じる色香のある螢子は、修治の運命的な恋愛の相手。または男を破滅させる魔性の女かもしれません。

しかし、単純にファム・ファタールの女であると考えるよりも、修治の心に燻りの火、その燃えかすが初老に差し掛かっていく際に、男の夜叉が目の前に姿として現れたと考えた方が良いと思います

その理由はまとめに書きます、最後までお読み下さいね。

さて、修治=螢子は鏡合わせであり、修治の男の背中で背負った夜叉、また心に深く棲む夜叉は、妻にした冬子のような性格の女ではないのです。

勝気な悪女である螢子もそうですが、芯の強いであろうクラブ歌手や妹夏子、もしくは組長2代目の松子なのです。

ちなみは松は夏の風物ものではありませんが、冬でも新緑の強さを持つ緑樹です。皆ミナミの女なのです。

『夜叉』のリメイクは不可能⁈

この作品は高倉健という大物俳優と、そのすべてを活かした“夜叉”を演じた田中裕子という稀代の女優だからこそ可能となった作品です。

田中裕子は時に娼婦のようで、それで清楚。しかも大人と少女の女の色香が入り混じる菩薩のような女優です。

この作品を今の日本映画界のスタッフや、俳優たちにリメイクできる力はおそらくないでしょう。

修治のセーターのみを着た田中裕子、螢子の耳をハグっと噛む高倉健。それだけでも表現は豊かでした。

あの時、ベッドをともにしたことで、ラストシーンの列車で悪阻を覚えた螢子のニヤリとする笑みこそ、夜叉そのものなのです。

かつて夜叉の修治と呼ばれた初老の男が、新たな夜叉を生み出した怖い場面ですね。(何が怖いのかは人それぞれですが…)

ある意味、ハッピーなエンディングです。

まとめ

青春
本作『夜叉』は初老を迎えた大人の単なる火遊びを描いた作品ではありません、

冒頭で修治は、漁師仲間の啓太の大切な一人息子の秀雄が都会に出て見たいと申し出ると、彼の家出の手助けをします。

また中盤では、父親啓太が倒れた際に舞い戻った秀雄を、駅で見つけた修治は一括します。いったん男がその場所を出て行ったら、出たり入ったりするなと説教をするのです。

修治は秀雄にも、かつての自分を見ているのだろうと感じさせます。片田舎で生きるのではなく世界を見て欲しいという、初老の気の迷いを背負わせたともいえるでしょう。

若い秀雄が父親に宛てた手紙には、都会に出てジャズを好きになったことともに、「青春はすばらしいと思いました」という一文がありました。

これはミナミで“夜叉の修治”として、肩で風を切っていた若い頃を遠くで見つめているような修治の心境なのか、それとも青春とは老いに関係ない心境なのか。

見るものにそこは委ね思わせる高倉健。言葉少なくとも上手い役者なのだと評価すべき作品です。

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