映画配給会社《Cinemago》代表・出町光識さんにインタビューを敢行!
2023年6月3日(土)より下北沢トリウッド他で全国順次公開される洋画『宇宙の彼方より』。
また、配給と宣伝協力を務める6月17日(土)より渋谷ユーロスペース他で全国順次公開の『ピストルライターの撃ち方』など、続々と公開待機作品が控える映画配給レーベル《Cinemago(シネマゴ)》。
インディーズ映画の配給を中心に行っている、映画配給レーベル《Cinemago》の代表を務められている出町光識さん。新人監督の個性が光る独自のラインナップの作品を扱い、劇場への配給や宣伝活動の仕事を進められています。
今回は、出町さんが映画配給レーベル《Cinemago》を立ち上げた際の思いや、Cinemagoの配給作品ラインナップへのこだわり、そして「映画配給」という立場から考える映画の今後のビジョンや可能性についてお話を伺いました。
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インディーズ映画を劇場へ届ける
芳賀俊&鈴木祥監督『おろかもの』
──映画配給レーベル《Cinemago》では、どのような映画作品の配給に力を入れていらっしゃいますか?
出町光識(以下、出町):私のほか2名のスタッフと共に《Cinemago》を運営し、国内外のインディーズ映画を主軸に作品の劇場公開を目指しています。
もともと《Cinemago》というレーベル名に関しては、私が決めたものではなく、若いスタッフが命名したものなんです(笑)。「Cinema」+「mago」を併せた造語から「映画の魔法使い」、ひいては「映像使い」を意味し、シネアスト(cinéaste)としての作家たちの才能を表した言葉でもあります。
日本映画と海外映画のいずれにおいても、私たちが《Cinemago》として第1に注力していることは、誰よりも先に「質の高い映画」を見つけることです。そして、映画監督の思いを観客である一人一人に届けることに努めています。
それは、映画のクオリティが高ければ高いほど、観客の心身に刺激を与えることを可能にし、日々の「人生の豊かさ」を有意義に過ごすことができると“映画の力”を信じているからです。
また私は、情熱を持った映画監督の初期作品を扱うことで、《Cinemago》の若いスタッフたちにも、その作家にとって劇場デビューとなる映画を、作家と一緒に汗をかき悩み考えながら、能動的にかつゼロから成長してもらいたいとも思っています。若さって、すべてが伸び代ですからね(笑)。
2022年12月より全国順次公開中!
石井良和監督『特撮喜劇 大木勇造 人生最大の決戦』
──出町さんが手がける映画について、そのジャンルや作風の特色・共通点など、もう少し詳しく教えていただけますか?
出町:私が手がける映画は幅広いジャンルにわたっていますが、特に注目すべき点は、社会との接点があるメッセージ性の強い作品や、感動的なエンターテインメント映画であることです。
例えば、2022年に池袋HUMAXシネマズで公開した石井良和監督の映画『特撮喜劇 大木勇造 人生最大の決戦』は、笑いを通じて石井監督らしい「人間の生き様」を描いた作品です。
現代的な視点から見れば、人生の中で「格好悪くても、他人を恨まずに生き抜く」を選んだ主人公は、かつての昭和に量産されたプログラムピクチャー的だと揶揄されるかもしれません。しかし、そこで描かれた“ドッコイ人情節”もまた、ある種のアーティスト作品として評価ができ、「世界標準の魅力」だと思っています。
また、芳賀俊&鈴木祥監督の映画『おろかもの』(2020)はシスターフッドな作風が特徴で、観終わった後に心が温かくなるような感動的な結末を迎えます。沼田真隆さんが担当した脚本は巧みで、エンディングまでの展開も時にサスペンスフル。現時点で最も幅広い観客から支持を得た秀作です。
“思い出”が詰まった劇場公開『横須賀綺譚』
2023年5月31日Blu-ray発売!大塚信一監督『横須賀綺譚』
──出町さんがこれまで手がけた映画で、最も思い出深い作品は何でしょうか?その映画を手がけることになった経緯なども教えてください。
出町:2020年に新宿K’s cinemaで公開した『横須賀綺譚』でしょうか。初めて劇場公開に取り組んだ記念碑としての思いが強いですね。
同作は大塚信一監督の長編第1作『アメリカの夢』に次ぐ長編第2作であり、初の劇場公開作にもなった大塚監督の代表作の1つでもあります。
また、初めて海外セールスエージェントと契約書を結んだ作品であり、中国で行われた第8回重慶青年映画祭に選出されました。そして奇遇なことに、同作が作中の時代設定と同じく、震災から9年後の年に公開を迎えたのも印象深いものでした。
大塚監督は当初、劇場配給を個人のみで取り組もうとされていました。ひょんなご縁もあり、急遽、劇場公開1ヶ月前に私の方から映画を預けてほしいと懇願しました。もちろん、配給・宣伝チームのメンバーからは無茶だと反対もされましたね(笑)。
出町:『横須賀綺譚』を初めて観た際に、作中で描かれていた米軍基地でのイベントの場面で、ナゼか脳裏に長谷川和彦監督の『太陽を盗んだ男』がフラッシュバックしたんです。この直感で配給を決めました。いつもそうなのですが、「この映画を配給をしたい」という決め手は“第六感”が働いた作品だと決めています。
また、俳優としてリスペクトしており、ファンでもある川瀬陽太さんの存在感も大きなものがありました。同作で目の当たりにした“迫真の演技”に感銘を覚えました。
その後、劇場公開までの約30日間での宣伝稼働を無理くり試みました。すでにいったん決まっていたポスタービジュアルの変更を申し出たり、型破りに大きな劇場用リーフレットを作成したりしました(笑)。
その他にも、私自身がハンディカメラを片手に映画のプロモーション動画の撮影を行いました。大塚監督のアイディアから始まったことですが、映画評論家の切通理作さんとの対談を無我夢中で撮影しに行きました。今から考えれば、わずか4週間足らずの日数を後先も考えずに公開初日まで走っていました。
──『横須賀綺譚』について、観客からの反響はいかがでしたか?
出町:『横須賀綺譚』は、公開当時から映画ファンの間では高い評価を得られました。もちろん、公開までの宣伝期間が短かったこともあり、観客動員に苦労したのは事実です。しかし、大塚監督の人柄のみならず、彼に突き動かされた俳優たちの演技力などもあり、映画通な方々には好意的に受け止めてもらえたといっても過言ではないと思います。
この作品は「人間の命の尊さ」「善悪の揺らぎ」など、誰の心の奥底にもあるであろう深いテーマを扱っていることもあり、インディーズ映画としては珍しく、多くの人々に愛される映画となりました。
観客が作り手を“育てる”インディーズ映画市場
2023年5月20日(土)より池袋シネマ・ロサ他で全国順次公開!
萬野達郎監督『ストレージマン』
──出町さんの目から見て、日本のインディーズ映画の市場規模はどのように変化しているのでしょうか?
出町:近年、日本インディーズ映画市場は以前よりもだいぶ注目されるようになりました。2017年に爆発的なヒットを飛ばしたインディーズ映画『カメラを止めるな!』の影響が強く、同様に自主映画を制作する監督らに刺激になっていますね。また、とりわけ観客たちにも、その熱量は色濃く見られます。
そんな映画ファンの中には、表現の規制が多い商業映画ではなく、個人的な監督のセンスで勝負するインディーズ作品だからこそ、映画鑑賞の対象として追いかけるという観客層も随分増えました。また、そのような観客層の中には、1本の映画が公開を迎えた時、作品や監督を気に入った際には何度も映画館に足を運ぶことで、監督を応援し育んでいくという方もいます。
私たちが以前配給した大久保健也監督の『Cosmetic DNA』(2021)では、劇場公開時に15回以上も鑑賞してくださった強者な方にも映画館で度々お会いしました(笑)。
この特出した現象は、お笑い芸人を“生み出す”というムーブメントを起こした「M-1グランプリ」に近い。映画が好きだからこそ、その作り手を“育てたい”という心理があるのかもしれません。また、この競争化に拍車をかけているのは、日本各地で開催されるインディーズ映画をピックアップする映画祭の尽力も大きいと思います。
ちなみに萬野達郎監督の『ストレージマン』は、福岡インディペンデント映画祭でグランプリを獲得した作品ですが、その副賞は「池袋の映画館シネマ・ロサでの上映権」であり、そうしたサクセス・ストーリーも近年のインディーズ映画界では重要なことの1つです。
インディーズ映画は“才能の発掘の場”
ファンタスポア映画祭にて低予算映画部門で最高賞を受賞!
ゲイリー・ハンギンズ監督『Kick Me(原題)』(2024年日本公開予定)
──今後、日本国内におけるインディーズ映画への注目はどう高まり続けていくのでしょうか?
出町:インディーズ映画が注目されているのは、日本だけに限ったことではありません。世界的に見ても、映画のこれからの流れはバジェットの大きなメジャー作品よりも、むしろインディーズ映画にこそあるといえます。
かつて、1966年に製作されたクロード・ルルーシュ監督のフランス映画『男と女』や、日本では1980年に製作された横山博人監督の『純』など、今から四半世紀も前から志の高い監督はいました。
そして2023年現在、より一層インディーズ映画が注目を浴び続けている理由としては、ハリウッド大作や日本の商業映画と異なり、多様性や独自性を特色としている点でしょう。また、インディーズ映画という土壌は、新しい才能を発掘する場でもあります。実は映画業界全体にとっても、重要な役割を果たしているのは言うまでもありません。
ちなみに、2024年に私たちスタッフが劇場公開を目指している、ゲイリー・ハンギンズ監督が制作した『Kick Me(原題)』は、2023年4月にブラジルで開催されたファンタスポア映画祭の「低予算映画部門」で最高賞を受賞しました。
ゲイリー・ハンギンズ監督『Kick Me(原題)』場面写真より
ゲイリー監督は2012年にクラウドファンディングを開始し、名乗り出てくれた366人による70,302ドル(約974万円)の資金から『Kick Me』を制作をしました。しかも驚くべきことに、2022年までの10年間をかけて映画を完成させました。
彼はカンザスシティにある図書館のビデオ係として働き、地元の利用者たちに映画の面白さを伝播することに従事しながら、一歩一歩、カンザス地元民に『Kick Me』を観てもらいたいと制作に勤しんだそうです。
私から配給したいとコンタクトした際のゲイリー監督は、まだポスプロの最中で、最後の最後まで作品の完成度にこだわり続けていました。「Mitsu(出町)には、ニュー・バージョン版で観てもらいたい!もう少し時間をください」と、映画への誠実な対応も印象深いです。
監督から届いた新しいグレイディング、新しい編集の『Kick Me』を観ることができた時、この上ない幸せを感じましたよ(笑)。ゲイリー監督、主演俳優のサンティアゴさんと太平洋こそ挟んではいましたが、メジャー映画では決してあり得ない“贅沢な時間”の一部に確かに私はいましたね。
今後の《Cinemago》
2023年6月3日(土)より下北沢トリウッド他で全国順次公開!
フアン・ヴ監督『宇宙の彼方より』(2010)
──今後、出町さんが《Cinemago》で取り組まれていくことについてお聞かせください。
出町:《Cinemago》が手がけた映画には、様々なジャンルの作品が含まれています。そして、それぞれの作品にはユニークな魅力が詰まっています。
私たちは、これからも多様性に富んだラインナップを提供することが大切だと考えています。その上で、若いスタッフたちと話し合いを重ねながら、少しずつジャンル映画のみを扱う方針に移行したいと考えています。
私自身、もちろん子どもの頃から映画は大好きでした。しかし、第2次怪獣世代(変身ブーム)の中で育ちましたし、特撮モノやアニメーションばかりを観てもいました。そして、アメリカのテレビドラマ『スパイ大作戦』(1966〜1973)、『ミステリーゾーン』(1959〜1964)『コンバット』(1962〜1967)を、再放送で何度も繰り返し見ていました。
そうした映像体験もあり、日常のありふれた出来事を描いた物語よりも、フィクションで描かれる“創造物としての未来・過去”、そして“異世界・異次元”といった特異な世界観を描くSF映画や、“異物との遭遇に対する恐怖”を描くホラー映画を配給するのが「“Cinemago映画”の魅力の1つだ」と期待されるようになりたいです。
その第1弾となる海外配給作品として、SF映画の勝負作に選出したのが、2010年にフアン・ヴ監督が制作した『宇宙の彼方より』です。
映画『宇宙の彼方より』場面写真より
──映画『宇宙の彼方より』には、どのような魅力をがあるのでしょうか?
出町:映画『宇宙の彼方より』はベトナム系ドイツ人であるフアン・ヴ監督が、怪奇小説家H.P.ラヴクラフト(1890〜1937)による傑作の1つに挙げられる小説『宇宙の彼方の色』を映画化した作品です。
小説『宇宙の彼方の色』は1927年に雑誌『アメージング・ストリーズ』で発表され、日本のみならず、世界でも非常に人気が高い作品です。そんなラヴクラフトの遺した小説の持つ魅力を忠実に表現しながらも、フアン監督ならではの“現代とつながる恐怖”となり得る時代背景を取り入れるという、新たな解釈も加えられています。
映画ファンのみならず、文学ファンにもオススメできる仕上がりの作品ですので、新たに加えられた時代背景を劇場でご覧いただいた観客の皆様がどう解釈するかに、とても興味があります。
2023年の映画館で、なぜ映画『宇宙の彼方より』を公開したいのか。その答えは、仕事ということを超えて「ドイツ発の良質なSF映画」を目撃した私たち映画配給と、劇場支配人や編成担当さんが抱いた“何か、大切な思い”にあると信じています。
映画『宇宙の彼方より』のモノクロームによる映像、また音楽や効果音。フアン監督がドイツ在住の作家であるからこそ、こだわりを持つことができた表現とテーマを、“世界初”の劇場公開となった映画館でぜひ読み取っていただきたいですし、多くの方に楽しんで観ていただきたいと思っています。
インタビュー/岩野陽花
写真/田中舘裕介
出町光識プロフィール
1968年生まれ、東京都文京区出身。
1989年、日本映画学校の演出科卒業。一時期は東映大泉にある撮影所で助監督を務めるが辞めて、陶芸家として作家活動を行う。以後と版画家 井田照一や、現代美術家 折元立身のスタッフとして従事。
40代半ばで再び映画の道にもどり、2016年に編入学を果たした日本映画大学の理論コースを卒業。複数の映画館でアルバイトを経験していたこともあり、映画配給に興味を持ち、2020年、映画『横須賀綺譚』にて配給に着手する。
今後の作品には、2023年秋公開予定となる、霧生笙吾監督の映画『Journey』。チー監督の映画『海洋動物(仮)』などがある。
【映画配給レーベル《Cinemago》公式サイトはコチラ→】
映画配給レーベル《Cinemago》公開作品一覧
2023年公開決定作品
2023年5月20日(土)より池袋シネマ・ロサ他で全国順次公開!
萬野達郎監督『ストレージマン』
2023年6月3日(土)より下北沢トリウッド他で全国順次公開!
フアン・ヴ監督『宇宙の彼方より』
20236月17日(土)より渋谷ユーロスペース他で全国順次公開!
『ピストルライターの撃ち方』
近日公開予定作品
・『海洋動物(原題)』(2023年秋公開予定)
・『Come True(原題)』(2024年公開予定)
・『Kick Me(原題)』(2024年公開予定)
・『HYPOCHONDRIAC(原題)』(2024年公開予定)