SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022国内コンペティション部門観客賞(短編部門)受賞の萬野達郎監督作品『ストレージマン』
2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能の発掘と育成を目指した映画祭です。
第19回目を迎えた2022年度は、3年ぶりにスクリーン上映が復活。7月21日(木)から27日(水)までの期間は、オンライン配信も行われ、27日(水)には無事に幕を閉じました。
今回ご紹介するのは、国内コンペティション部門観客賞(短編部門)受賞の萬野達郎監督作品『ストレージマン』です。
【連載コラム】『2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集』記事一覧はこちら
スポンサーリンク
映画『ストレージマン』の作品情報
(C)MANTRIX PICTURES
【日本公開】
2022年公開(日本映画)
【英題】
Storage Man
【監督】
萬野達郎
【プロデューサー】
連下浩隆
【キャスト】
連下浩隆、瀬戸かほ、渡辺裕之、矢崎広、渡部直也、米本学仁、古坂大魔王
【作品概要】
萬野達郎監督が手がけた『ストレージマン』は、人が住むことを禁止されている密室空間であるトランクルームを舞台に、コロナ禍の閉塞感を描き、設定自体にダブルミーニングを持たせています。
本作で主演を務めた連下浩隆はプロデューサーとして参加。全く異なる性格のキャラクターを一人二役で挑戦している瀬戸かほや、ベテランの渡辺裕之らが脇を固めます。
経済情報メディア・NewsPicksやNHKワールドの経済番組で演出を担当してきた萬野監督の手腕が光る本作は、国内コンペティション部門観客賞(短編部門)を受賞しました。
萬野達郎監督のプロフィール
大阪府出身の映画監督。映像ディレクター。
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校映画制作学科を卒業し、市川海老蔵の映像作品やカナダ建国150周年記念番組などを演出。
映画監督をした『Motherhood』(2019)は、国内外で20以上の映画祭に入選。Action On Film International Film Festivalの最優秀外国作品賞をはじめ、数々の映画祭の賞を受賞しました。
スポンサーリンク
映画『ストレージマン』のあらすじ
(C)MANTRIX PICTURES
自動車工場の派遣社員・森下は妻と娘の3人暮らし。
社宅に住み、娘の誕生祝を家族で祝うなど、慎ましいながらも幸せに暮らしていました。
しかし、コロナショックで派遣切りにあい、職を失ってしまいます。
同じ頃、妻もパート職を失い、将来に不安を抱き、森下と口論になります。
妻に対していら立った森下は、手を上げてしまいました。
それが原因で妻の両親がやってきて、妻との離婚を要求します。
結局妻は子どもを連れて実家に戻り、会社からは社宅の立ち退きを迫られた森下。
荷物を持ち、途方に暮れていた時、目についたのはトランクルームです。
トランクルームは荷物を預ける狭い部屋ですが、雨風もしのげ、鍵もちゃんとかかります。
誘惑に負けた森下は、トランクルームでこっそりと生活を始めました。
映画『ストレージマン』の感想と評価
(C)MANTRIX PICTURES
派遣切りにあって、職も家も家庭さえも失った男の行き着く先はどこなのでしょう。
すぐに路上生活という手段が頭に浮かびますが、映画『ストレージマン』では、主人公の森下はトランクルームに居住します。
トランクルームを借りるときには、飲食や寝泊まりは禁止という約束がついていますので、これは明らかに規則違反!
管理人に見つからないようにと、森下の人目を忍んだ隠遁生活が始まりました。
狭く息がつまりそうなトランクルームで音もたてずに丸くなって寝る森下。食事はお決まりのコンビニ弁当、ビニール袋を緊急用のトイレとし、公園の水道で洗濯や顔を洗います。
実家に帰った妻とよりを戻したい森下は、トランクルームで寝泊まりして働き、子どもの養育費を稼ぐつもりだったのです。
しかし現実はそんなに甘くありません。妻の実父は堅実な職業と安定収入を望んで森下に離婚を迫りました。
リアルに描かれるトランクルーム生活と現実的な離婚問題が展開。
風変わりな生活に笑みがこぼれる反面、これも実際に起りうる現状なのだというゾッとする思いに捉われます。
一生懸命に生きていても、どこかに人生の落とし穴はあるものです。
たまたまその落とし穴にはまってしまった運の悪い森下の姿からは、貧困や格差社会に苦しむ人々の心に「希望の火」を灯したいという監督の願いが見えてきました。
スポンサーリンク
まとめ
(C)MANTRIX PICTURES
職も家も失った男が行き着いたところはトランクルーム!
驚くべき視点で描き、ブラックユーモアな要素も含んだストーリーが展開する『ストレージマン』をご紹介しました。
社会的な地位や収入など何もかもなくした主人公ですが、自分の家族だけは手放したくありません。
果たして、森下が再び家族と一緒に暮らせる日が来るのでしょうか。一途に願う森下を応戦したくなることでしょう。
国内コンペティション部門の短編部門で観客賞を受賞した本作では、わずか40分の時間で人生のどん底に落ちた主人公の生き様を描いています。
希望がある限り、トランクルーム住まいでも人は生きていけるに違いないと、前向きな気持ちになれる作品でした。