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映画『クイーン・オブ・グローリー』あらすじ感想と解説評価。ナナ・メンサ―が出演・初監督デビューで自らが作り出した作品の魅力とは⁈|2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集2

  • Writer :
  • 西川ちょり

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022国際コンペティション部門エントリー/ナナ・メンサー監督作品『クイーン・オブ・グローリー』

2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能の発掘と育成を目指した映画祭です。

第19回目を迎えた2022年度は3年ぶりにスクリーン上映が復活しました。7月21日から27日までの期間はオンライン配信も行われています。

今回ご紹介するのは、国際コンペティション部門にエントリーされたナナ・メンサー監督のアメリカ映画『クイーン・オブ・グローリー』です。

【連載コラム】『2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集』記事一覧はこちら

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映画『クイーン・オブ・グローリー』の作品情報


(C)Anthony Thompson

【日本公開】
2022年公開(アメリカ映画)

【原題】
Queen of Glory

【監督】
ナナ・メンサー

【キャスト】
ナナ・メンサー、ミーコ・ガットゥーゾ、オベロン・K・A・アジェポン、アダム・レオン、ラッセル・G・ジョーンズ、アーニャ・ミグダル

【作品概要】
Netflixのコメディシリーズ「ザ・チェア ~私は学科長~」に出演している若手女優のナナ・メンサーが自ら主演し初監督を務めた作品。

母の死を機にガーナ系のエリート女性が自分自身を見直す姿を描くヒューマンコメディドラマ。

トライベッカ映画祭で初上映され、新人監督賞を受賞したのをはじめ、世界各国の映画祭で多数の賞を受賞している。

ナナ・メンサー監督のプロフィール


(C)Stephanie Diani

ガーナ系アメリカ人の脚本家、監督、プロデューサー、女優。

主演、脚本さらに初監督も務めた本作は、トライベッカ映画祭の奴隷解放記念日プログラムの1本として、USナラティブ・コンペティション部門でプレミア上映され最優秀新人監督賞を受賞。

Netflixのコメディシリーズ「ザ・チェア ~私は学科長~」にレギュラー出演中。2021年にオフブロードウェイの舞台「Nollywood Dreams」に再登板するなど舞台でも活躍。HBO制作「Random Acts of Flyness」シーズン2とアマゾン制作「The Power」の脚本を担当。Netflix制作「ボンディング ~男と女の事情~」シーズン2では共同脚本のほか出演も果たした。映画出演作品には『パパと娘のハネムーン』(2018)、『Farewell Amor』(2020)、『The King of Staten Island』(2020)、『アフター・ヤン(原題)』(2021)などがある。

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映画『クイーン・オブ・グローリー』のあらすじ


(C)Anthony Thompson

ガーナ系アメリカ人のサラは、コロンビア大学博士課程で教育助手をしながら分子神経腫瘍学の論文を書いています。

恋人がオハイオ州立大学に就任することになり、彼をサポートしながら論文を仕上げようと考えた彼女は、彼と共にオハイオに行く準備を始めました

そんな矢先、母が急死したという知らせが届きます。母とはつい最近、電話で話をしたばかりでした。

サラは、母がブロンクスで経営していたキリスト系の書店を相続することになりましたが、とても手が回らないと考え、売りに出すことにしました。

ところが、書店に赴くと、過去に犯罪歴があるが母に雇ってもらい立ち直ったという店員ピットがいて、溌溂と働いていました。

母への感謝を度々口にする彼に、サラはどうしても書店を売りに出すことを告げられません。

葬式には近隣の白人家族もかけつけてくれました。しかし、親戚からはガーナ式の葬式をするべきだという声があがります。

ガーナの伝統的な葬式はアメリカのものとは違う、何日もかけて行うものでした……。

映画『クイーン・オブ・グローリー』の感想と評価


(C)Anthony Thompson

コロンビア大学博士課程で教育助手として学びながら働いているガーナ系アメリカ人のサラは、白人の恋人とともに、アメリカ中西部のオハイオ州に移る計画をたてていました。

彼女はガーナの伝統と価値観を重んじる叔母たちといるよりも、白人の恋人や同僚と過ごすほうが気が楽だと感じています。

体重計に乗るのを拒否した彼女を叔母たちはまるで白人のようだと笑い、立派な骨盤をしている彼女に早く子どもを生みなさいと言います。

サラがオハイオに生きたがっていた一つの原因は、親戚の人々と少し距離を置きたいという思いもあったのかもしれません。

しかし母が突然亡くなり、彼女はオハイオではなく、幼少時代を過ごしたブロンクスに戻ることになります。

離婚して今はガーナに住んでいる父もはるばるニューヨークにやってきますが、伝統的な葬式の準備や、相続したキリスト教系書店の後始末など全てサラが対処せねばならず、母の死を悲しむ暇もないほどです。

映画は、アメリカ社会で築いてきた自分自身の姿と、自身のルーツであるガーナの伝統の間で揺れる彼女の姿をクローズアップを多用しながら描き、時にシリアスに、時にコミカルにエピソードを重ねながら、テンポよく展開していきます。

赤を基調としたガーナの伝統的な葬式の光景はとても興味深く、そこで、サラはまさにクイーンのように、赤いドレスに身を包み、これまでになく毅然とした姿で登場します。以前の彼女とは確実に何かが違って見えます。

一方、母が遺した書店を処分しようとするサラですが、犯罪歴があるのに雇ってくれたと母のことを感謝する従業員がいたり、地域コミュニティーの憩いの場になっているなど、母がこれまでに築いてきた世界に触れ、罪悪感を覚えます。

ニューヨークはジェントリフィケーションが進み、個人商店が一掃され、大企業を中心とした新しい街へと変化を余儀なくされています。

本作はブロンクスに残る個人商店や多民族社会のコミュニティーの様子を映し出し、失われつつある本当に大切なものを伝えようとしています

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まとめ


(C)Anthony Thompson

サラを演じ、初監督も務めたナナ・メンサーは、ステレオタイプの役柄ばかり与えられるのを打破するために本作を制作するに至ったといいます。

本作は2021年のトライベッカ映画祭で初演され、USナラティブ・コンペティション部門の最優秀新人監督賞と特別審査員賞を受賞しました。

また、2021年のインディペンデントスピリット賞でも第一回作品賞にノミネート。書店員ピットを演じたミーコ・ガットゥーゾは、助演男優賞にノミネートされています。そのほかにも世界各国の映画祭で、数々の賞を受賞しています。

『ギミー・ザ・ルート ~NYグラフィティ~』(2012)の監督としても知られるアダム・レオンが、妻と別れられずぐずぐずしている主人公の恋人を演じている他、愉快なロシア系白人一家に扮する面々や、アフリカ系アメリカ人の俳優たちが個性的な演技を見せているのも見どころのひとつです。

『クイーン・オブ・グローリー』は、映画祭での劇場上映は終了していますが、7月27日まで配信で鑑賞することが出来ます。「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022」のHPをチェックしてみてください。

【連載コラム】『2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集』記事一覧はこちら




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