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Entry 2019/07/24
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映画『バッド・アート』あらすじと感想。アーティストの情熱を搾取する理不尽な業界を風刺【タニア・レイモンド監督のQ&A収録】2019SKIPシティ映画祭7

  • Writer :
  • 桂伸也

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019エントリー・タニア・レイモンド、ジオ・ゼッグラー共同監督作品『バッド・アート』が7月15日に上映

埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典が、2019年も開幕。今年で第16回を迎えました。


(c)Studio Visit LLC /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

そこで上映された作品の一つが、アメリカのタニア・レイモンド、ジオ・ゼッグラー共同監督が手掛けた長編映画『バッド・アート』。

権威者が評価したことで作品が突然価値を持つという一方で、たとえ才能があっても無名の芸術家は一向に報われない、そんなアート界が抱える矛盾を、コメディ仕立てのストーリーで描いた物語です。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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映画『バッド・アート』の作品情報

【上映】
2019年(アメリカ映画)

【英題】
Bad Art

【監督】
タニア・レイモンド、ジオ・ゼッグラー

【キャスト】
タニア・レイモンド、ルーリグ・ゲーザ、サラ・ウィンター、マーク・L・ヤング、ジョシュ・スタンバーグ、ヴィンセント・パストーレ、クリスチャン・バンク

【作品概要】
権威者が評価したことこそがアートの価値とばかりに、アーティストの情熱を搾取するアート業界を風刺したスラップスティック・コメディ。

女優として人気海外ドラマでも活躍しているタニア・レイモンドと、本業としてアーティスト活動を行うジオ・ゼッグラーが共同監督として脚本・監督を担当。本作が長編デビュー作となります。

また、『サウルの息子』で主演を担当したルーリグ・ゲーザや、『私はラブ・リーガル』のジョシュ・スタンバーグ、『24 -TWENTY FOUR-』のサラ・ウィンターなど、豪華な出演陣も名を連ねています。

タニア・レイモンド監督&ジオ・ゼッグラー監督のプロフィール


(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

タニア・レイモンド(写真左)

女優として活躍する傍ら、MVの監督や脚本家としても活動。アートを主題にしたTVシリーズのパイロット版の脚本をゼッグラーと共同で執筆しており、社会風刺劇や風変わりなコメディに取り組んでいます。

女優としては大人気TVシリーズ『LOST』にアレックス・ルノー役として第二シーズンから最終シーズンまで出演したほか、現在はアマゾンで配信中のビリー・ボブ・ソーントン主演ドラマ『弁護士ビリー・マクブライド』に出演しています。

ジオ・ゼッグラー(写真右)

アーティストとして彫刻、絵画、脚本家として活躍。これまで東京、パリ、イスタンブール、ニューヨーク、ミラノなどで、壁画や彫刻の展覧会を行っています。気鋭のスプレーアート作家として、日本でもBEAMS原宿の印象的な壁画を描くなど、多くの人に知られています。

脚本家としては、レイモンドと共同でそれぞれのキャリアを生かしつつ、文学や歴史的観点も盛り込みながら執筆活動を行っています。

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映画『バッド・アート』のあらすじ


(c)Studio Visit LLC /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

無名画家のジョルダナは、収入を得るためにリー・ローレンスと名乗る謎のアーティストに雇われて、あるアトリエで他人名義の絵を描く日々を過ごしていました。

しかしある日、アトリエに一人の女性が現れます。彼女はある芸術批評誌での評判を聞いて、この場に訪れることに。さらに芸術批評誌での評判を聞いてアトリエに訪れたという人バイヤー一人、また一人と増え続け、来訪者は一人、また一人とやってきます。

雇われで書いた身分であるはずが、自分の知らないところで知らない評価を受け、画をよこせと迫るバイヤーたちに、ジョルダナはうんざりした表情を見せますが……。

映画『バッド・アート』の感想と評価


(c)Studio Visit LLC / (c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

物語は、背景を説明している間もなくいきなり核心に迫ります。

映画の冒頭から登場する主人公。ジョルダナはあるアーティストに雇われた絵描き、その他は不条理なことを言い続ける美術品のバイヤー、そしてジョルダナの雇い主である、ある一人の不確かなアーティスト。物語の背景はそれだけあれば描ける、いや逆に余計なことを書くことは、作品のメッセージを損なう恐れもあると言わんばかりに、非常にシンプルな構成で描かれています。

それゆえにこういった構成を見慣れない人には、この作品がどうしてこのように展開していくのかを理解するのを、難しく考えるかもしれません。しかし作品で描かれているメッセージは、いたって単純なものであります。

目の前に突き付けられた絵を、意味不明の美辞麗句で批評するバイヤーたち。しかしその画の評価の根底にあるのは、どこかで著名な批評家が評価をしたからという理由だけで、非常にアーティストにとっては腹立たしいこと。

作品で描かれるバイヤーたちの評価など、アーティストとしての活動の中では、実はどうでもいいことのように見えますが、実際にアーティとという仕事の中では、こうしたどうでもいいことに振り回されていることも事実であり、そのことをこの作品では見る人に深く考えさせてくれます。

また面白いのは、ジョルダナという絵描きが、自分はあるアーティストに雇われて絵を描いているだけであり、自身をアーティストとして認めていないということにあります。

アーティストが自分の作品に対して、とかく言われることはともかく、アーティストの作品と自身が認めていないものを、同様の評価で高い値をつけようとする。その構図はバイヤーたちの行動を、さらに深く滑稽にし「どうでもいいもの」にしているようでもあります。

シンプルである一方、非常に緻密に描かれた作品とも感じられることでしょう。

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上映後のタニア・レイモンド監督Q&A

15日の上演時にはタニア・レイモンド監督が登壇、舞台挨拶を行うとともに、会場に訪れた観衆からのQ&Aに応じました。


(c)Cinemarche

──レイモンド監督は、監督業以外に役者としてのキャリアもありますが、ご自分の作品が監督や俳優不在で周りの批評家からどんどんいろんなことを言われると、どんなお気持ちになるでしょうか?

タニア・レイモンド監督:(以下、レイモンド監督)批判を受けると、役者というのは「それは自分の演技のせいだ、と思いがち」なんです。

でも実際には映画や作品が観客に対してアピールできないとき、そこで役者の責任というのは、実は小さいことが多いんです。ただそれでも役者というのは自分のこととして責めがちなところがあります。

とはいえ、私は誇り高い人間でもありますし、虚栄心もありますので(笑)、批評家たちが自分が出た作品について酷いことを言ってきた場合は、ジョルダナのように爆発したりはしないけど、一日か二日はムッとして怒ったりすることはあるかもしれません(笑)

──舞台としての戯曲を映画にしたような印象がありました。物語をこういう形態にした理由は?それと全編文字は英語ですが、エンドタイトルだけが、なぜ最後だけ“FIN”(フランス語)に?

レイモンド監督:エンドタイトルに関しては、私の母がフランス人なので、フランス語の“FIN”の方がENDより響くと思いまして。

また戯曲の印書を受けられたというのは、面白いご意見をいただいたな、と思いました。というのも、実際私とジオ・ゼッグラーは二人で2~3日でこの脚本を書き上げたんですが、実はこの作品は最初に映画化を考えておらず、演劇を想定して書き上げたんです。

作品の中ではすごく極端に、過剰な形で美術を取り巻く批評の世界が、しばしばアーティストに対して酷いめちゃくちゃなことを言ったりするというようなことを描きました。ですので、全体的に最終的には、非常に賢く批評的なことが言えたらいいなと思っています。

ただ結果的には映画化したわけですが、俳優さんたちの演技も一般の映画よりはすごく誇張したものになっていると思います。実際私が、芸術の中でも、不条理な風刺というものが好きで、ノンストップで言葉をバーっと言っていく、というような極端な表現も好きなんです。だからそんな要素がこの『バッド・アート』の映画版にも生かされていると思います。


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──クレジットの最後にアートワークの担当としてゼッグラーさんのお名前がありましたが、劇場のアート作品はすべてゼッグラーさんがお書きになったものですか?それと、この映画をお二人でどのようにコラボして作り上げたのでしょうか?

レイモンド監督:そうですね、全てのアートワーク作品はゼッグラーによる作品です。

ストーリー上で私の演じたジョルダナのキャラクターが経験しているプロセスと、美術作品が呼応するようにという風に考えたので、そのシーンごとに登場する画も、非常に抽象的な画からものすごくぎっしり詰まったカラフルな画という風に進行して、最後の方にはほとんど何もないような、ミニマリスト的な絵画という風に移行していきました。

ゼッグラーとの共同作業についてですが、脚本は完全に一緒に描きました。その中で役割分担として、私の方は会話のやり取りとか、その中での不条理さ、登場人物のデザイン、設定というところに注力し、ゼッグラーはアーティストとしての経験から、美術界や美術批評をめぐる状況の方に注力しました。

当然、お互いがいないと成り立たないコラボレーションであったことは念押ししてお伝えしておきます(笑)。また実際の撮影現場での演出、監督としての役割ですが、そこでは私が完全に他の俳優たちと一緒に、常に同じ戦場に立っているというようなやり方でした。

そして、この作品のゴール、目標としたところ。これはゼッグラーも私も共通して抱いていることですが、アートは大好きだけど美術業界の在り方は非常に疑問に思っていて、むしろ大嫌い。それは二人が共通で持っていた思いであり、この作品ではまさにそれを表現しました。

──映画に描かれたメッセージとはほとんど同意見ですが、画を見るシーンばかりで、コメディはもうちょっと面白く描いたものがいいかなと思いました(笑)

レイモンド監督:何人かの方に、実は同じご意見をいただいています(笑)

私もご意見に賛成ですが、この映画に関してはリアリズムと演劇性の間の微妙な境界線というところを探った結果としてこのような作品になりました。

ところでこのプロジェクトですが、将来的には舞台にしたいと思っているんです。毎回それぞれ違うアーティストを起用し、違うメディアでの作品を作るアーティストを起用する、そしてツアーをしたら、このテーマに沿ったカッコいいものになるんじゃないかと思っていると思います。

というのは、そうすることで「グッド・アート、バッド・アートというものは、どこにも存在しない、誰も決められない」というテーマが際立つのではないかと、思うからなんです。


(c)Cinemarche

──映画のメッセージからも感じますが「わかっていないことが分かっているつもりになる」など、自分の体験してないことを観念で語ってしまうということを、やってはいけないと絶えず心掛けています。タニアさんは、表現者として日常生活の中でそういったことに気を付けることはありますか?

レイモンド監督:そのように思われ、心掛けられてることは非常に美しいことで、哲学的だと思います。そしてそれは、この映画のメッセージに通じるところがあると思います。

アーティストの世界、役者も画家も含めてですが、特に現代のアートの世界では、物を作ったり、演技をしたり、あるいは美しいものを作ろうとしたりするわけですが、いつも“これは何を意味するのか”と考えることもあります。

しかし実際私自身が、懸命に演技をしているその瞬間に何かを考えているかというと、感じるままに演技をしていたりします。これはアーティストの友人たちも一緒ですが、よくよく何の意味があるかと考えると、実は何も考えてない瞬間もあって、そこにとらわれてしまっている状況があると思います。

それはこの映画のメッセ―ジにつながりますし、おっしゃった気を付けているということにもつながると思います。

女優として私は、実際の自分としては絶対経験しないことをたくさんやってきました。ハイジャックをしたり、人を殺したり、ジャングルの中で生活をしたり、ショットガンで人を殺したり、シリアルキラーだったり(笑)。

そんなたくさんの役を演じてきた中で、結局のところシリアルキラーでその役を演じているけど、それも私自身なんです。でもそのことについて私は満足というか、それでよいと思っています。もちろんリサーチをして役そのものに近づくこともあるけど、私自身ということもとても気に入っていたりします。

あまりにも経験がありすぎると良くないということもあって、知らない無垢さというのが良いということもあるので、女優である私の答えとしてはそんな恰好となるんですが…

──最後にもう一言だけメッセージをいただければと思います。

レイモンド監督:私にとってこの映画から得た重要なこととしては、とにかくやりたいことをやって、他の人がそれを見てどう思うか、なにを言うかは気にしない、ということ。勇敢にやるべきことをやるだけだというのを、自分自身も学んだと思います。

というのは、女優としては常にどのように受け入れてもらえるかを非常に気にしてしまうものだからなんです。美術のアーティストは、どのギャラリーに扱ってもらえるか、ということをすごく気にするし、俳優たちはどのエージェントと契約できるのか、どんな役がもらえるのか、そして自分が出演作は公開されるのかということをすごく気にする。

こうしていつも俳優もアーティストも、傷ついているんです。でもこの映画を通して私は、ジョルダナが最後のほうに言ったように「とにかく作品を作ることなんだ、他はすべて忘れていい、とにかく自分が作りたいものを作る」、そのことが重要だということに気づかされたと思います。

そしてもう一つは、美術をめぐる批評というのは、しばしば本当にバカげているとんでもないものが多いので、それをこの映画を通して、皆さんに笑っていただき、合わせてそのことを気づいて改めていただければいいなと思います。

まとめ


(c)Cinemarche

この物語では、バイヤーたちの気持ちに少し迫ったような部分もあります。自身は絵描きを目指しながら、結果的に今のポジションにいるもの、また自身も理不尽な思いをしているものと、その事情もいろいろであります。

そんなことも含んで改めてこの物語を見ると、二人の監督が描こうとしているアート界の理不尽さというものが、本当にどうでもいいものであり、なぜこういったことに振り回されてしまうのかを、考えたくなることでしょう。

またその考えは、自身の身の回りにある理不尽さ、あるいはどうでもいいことに振り回されていること、そういったことへの指針となり、様々なことを考えさせてくれることでしょう。

真に自分が目指さなければならないものは何か?そういったことへのヒントを与えてくれる作品でもあります。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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