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Entry 2020/02/06
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【成島出監督インタビュー】映画『グッドバイ』コメディが持つ力を今だからこそ信じたい

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』は2020年2月14日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー公開!

文豪・太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」を鬼才ケラリーノ・サンドロヴィッチが独自の解釈で完成させた戯曲『グッドバイ』を、成島出監督が“映画”として新たに描いた『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇〜』

何人もの愛人を抱えるダメ男の主人公・田島周二が、愛人と別れるため、金にがめつい担ぎ屋・キヌ子と嘘(にせ)夫婦を演じるというハイセンス・コメディ映画です。


(C)Cinemarche

このたび本作の公開を記念し、成島出監督にインタビューを行いました。

成島監督が考える喜劇の力や、背中を押した二人の名監督からの言葉、闘病生活を経たことによる変化など、貴重なお話を伺っています。

舞台で感じた笑いの力を全国へ


(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

──映画『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』は劇作家として知られるケラリーノ・サンドロヴィッチさんの戯曲『グッドバイ』を原作としていますが、同作を最初に知られたきっかけとは何でしょうか?

成島出監督(以下、成島):もともとケラさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)の舞台がとても好きで、太宰治の作品も青春時代にはよく読んでいました。ケラさんと太宰のファンだった者としては、ケラさんが太宰の未完の遺作である『グッド・バイ』を戯曲としてどのように料理したのか、どうしても確かめたいと思い観に行きました。

舞台を観る以前は「映画化」という言葉すら思い浮かんでいなかったんですが、実際に観てみたら圧倒的に面白くて。劇場全体が笑いの渦に包まれていましたし、魅力的でパワフルな喜劇に仕上がっていたんです。

そして帰りの電車の中で「この戯曲は映画にできるんじゃないかな」と思い、すぐさまプロデューサーたちに「すごい舞台だからぜひ観てほしい」と連絡したのが始まりですね。映画という形で全国のより多くの方々に楽しんでほしいと感じたんです。またそのタイミングで、昔から「喜劇を作りたいね」とよく話していた脚本家の奥寺佐渡子さんにも連絡しました。

喜劇に宿る哀しみと生命力


(C)Cinemarche

──本作はラブストーリーでありコメディでもありますが、生きる強さやパワーが伝わってくる映画でした。またその点においては、成島監督が脚色として関わられた『シャブ極道』(1996)との共通性も感じられました。

成島:『シャブ極道』や監督デビュー作の『油断大敵』(2004)も一応人生喜劇でありファンタジーであるため、僕のなかでは同じジャンルの作品ですし、だからこそ共通する点もあるんだと思います。

今の日本映画には、“喜劇”が少ない。そもそも、昔はさまざまなタイプの喜劇がありましたが、今は人生全体を喜劇として魅せるのではなく、ある決まった切り口によって物語を構成してゆくシチュエーションコメディが主流ですしね。

その一方で、喜劇やコメディではなく、物語としてもテーマとしても暗いトーンの映画が増え続けている気がしています。もちろんそういった作品にもニーズがあるとは思っていますが、「話題作」や「問題作」というと、なぜか暗い作品ばかりですよね。その現状に対して、「僕自身は何かをしないといけないのではないか」「明るい作品がもっと多くあってもいいんじゃないか」という思いを抱くようになったんです。

というのも、僕らはもともとユーモアに満ちた映画を観て育っていますから。映画が好きな方々に喜んでもらえるユーモアに溢れた作品、かつ生命力を感じる作品を描きたいなと感じたんです。


(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

──確かに、今の「問題定義をしなくては映画ではない」という風潮とは違った、昭和の名作コメディ映画に見受けられるような“笑いの強さ”も本作からは伝わってきました。

成島:昭和の時代、映画の中にある笑いの力のおかげで日本は立ち直り、復興したと思っています。東日本大震災においても、現地で寅さんを上映するとみんな「待ってました!」という風に笑って、泣いて、喜んでくださったそうなので、喜劇の強さや力は間違いなくありますよね。

僕らの世代でいうと、例えばビリー・ワイルダー監督はナチスの強制収容所で母と祖母を殺された過去があるからこそ、彼の描く喜劇にはどこか哀愁や深みが感じられるわけですし、太宰の「グッド・バイ」からも日本人が持つ悲しみや「生きたい」という切実な想いが感じ取れるわけです。そしてケラさんの舞台は、太宰の原作小説に込められている哀愁も描き、その上で全てを笑わせるような展開で構成されているのが面白いんです。そして今の時代だからこそ、映画として描くことができたらとても面白い作品になると感じたんです。

あとは「大人の恋愛狂騒劇」という舞台のキャッチコピー通り、10代・20代のキラキラした恋愛映画では描けない、人生経験を重ねた大人だからこそできる味のあるパワフルな恋愛劇を作りたいという思いがありましたね。

自立した女性像への尊敬


(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

──大泉洋さんが演じる主人公・田島が優柔不断な男性に対し、小池栄子さんが演じるキヌ子は、最初から一貫して強くたくましい女性でしたね。二人のキャラクターを描くにあたってどのようなことを意識されていましたか?

成島:田島は見ての通りいい年してふらふらとしている仕方のない男なんですが、だからこそ面白みがあります。

キヌ子は本当に強くてかっこいい女性です。『八日目の蟬』(2011)で井上真央さんが演じられた秋山恵理菜もそうでしたし、僕自身が「強い女性」を好きだし、映画を通じてその姿を描きたいんでしょうね。ただ「好き」というよりは、尊敬の念をもって撮っているとは感じています。

キヌ子は孤児という設定ですが、あの時代において、親に見捨てられ孤児院で育った子であれば、男性を相手にしての仕事や闇商売で食いつないでいてもおかしくはありません。ですが彼女は、ごつい身体や力持ちを生かして重い米俵を運ぶ「担ぎ屋」として働き、文字通り「自力」で生計を立てている。また実生活では汚い部屋でもんぺを履いて過ごしているけれど、一人でおしゃれな服を来て映画を観に行くことを生きがいにしている。その姿はかっこいいですし、彼女には現代の女性に近いものがあると思います。キヌ子は男に媚を売ることなくあの時代を生き抜いている、自立した本当にかっこいい女性なので、本作を観て現代の女性が共感してくれたら嬉しいですね。

名監督たちの言葉を胸に映画界へ


(C)Cinemarche

──成島監督は1986年のぴあフィルムフェスティバル(PFF)で入選され、その際に長谷川和彦監督と大島渚監督に「お前は監督になれ」と告げられたことで、映画監督になることを決意されたそうですね。

成島:あの年のPFFは「当たり年」と言われていて、橋口亮輔監督や園子温監督も入選を果たしていましたし、最終審査にも阪本順治監督や岩井俊二監督といった今も第一線で活躍している監督陣が残っていました。

そんなメンバーの中で、僕は水商売のバイトを続けていて、将来は居酒屋のような自分の店を持つのが夢でした。ですが、バイトとは別で自主映画は撮り続けていたんです。その中で完成させ、PFFに応募した『みどり女』という作品が入選したわけです。

その後の打ち上げの席で、僕の作品を推薦してくれた大島監督と長谷川監督にお礼を言いに行くと「お前は今後どうしたいんだ」と訊かれました。当時の僕は映画監督という仕事を「なりたくてもなれるものじゃない」と考えていましたが、それに対しお二人は「俺んとこ来て、一本シナリオ書いて一本カチンコ打ちゃあさ、監督になれるよ」と語られました。その言葉で「そうか、俺監督になれるんだ」と思っちゃったことで、僕は長谷川監督に弟子入りすることにしたわけです。実際は、それから十何年後の41歳まで監督になれないという波乱万丈な人生になりましたが(笑)。

──長い修業時代、不安や迷いはありませんでしたか?

成島:弟子入りをするならば、もう腹を決めて絶対にプロを目指そうと思っていたので、そのために他のものは全て犠牲にしようと思い、入選から1年の間に全てを整理し、多くのものを捨ててから映画の世界へと飛び込みました。ですから不安も迷いもなかったです。

「大島監督と長谷川監督がなれる!と言ってくれた以上は、監督になる」と心に決めていました。道のりは長かったものの、迷わずここまで来ることはできたのかなと思っています。

闘病を経て再認識した映画の魅力


(C)Cinemarche

──前作の制作時より、成島監督は闘病生活を送られていたとお聞きました。ご自身にとっては復帰作でもある本作には、どのような思いで臨まれたのでしょうか?

成島:実は、この作品の構想を練っている段階で僕が肺がんであることが発覚したので、闘病のために撮影が延期になってしまったという経緯があるんです。

またその後回復して本作の制作を再開した際、僕は脚本担当の奥寺さんに「敢えて、“中身が何もない作品”にしよう」「小難しいことは全部やめて、空っぽでもいいからとにかく笑える喜劇にしよう」と相談し、それまでの脚本に含まれていた少しシビアな要素、シリアスな要素を取っ払いました。僕自身が死に損なったからこそ、笑いが持つ力に賭けたかったんです。

また制作中には、いわゆる“キャンサーギフト”、がんになったからこそ気づけたことも多くありましたね。僕がもう一度監督としてフィルムを撮れるまで回復できたこともそうですし、撮影が延期となれば、主演のお二人をはじめこれだけのキャストのスケジュールを改めて確保すること自体も本来は難しいのに、みんながなんとか調整してくれて早めに撮影ができたのも奇跡的でした。「この作品を撮れてよかった」と言ってしまうと少し違うかもしれませんが、お互いに対する感謝の思いを自然とみなで共有できたことが、キャンサーギフトの一つだと感じています。

その感謝の思いが、ラストシーンには特に強く現れていました。もし病気にならずにそのまま撮っていたら、同じような映画にはならなかったかもしれない。これはある意味運命だったのかもしれませんね。

インタビュー/出町光識
撮影/河合のび
構成/三島穂乃佳

成島出(なるしま・いずる)監督プロフィール

1961年生まれ、山梨県出身。大学の映画サークルで活動を開始し、1986年に監督作『みどり女』でぴあフィルムフェスティバルに入選。長谷川和彦と大島渚というビッグネームから推薦を受け、映画監督を目指す。

「ディレクターズカンパニー」で映画製作を学び、1994年『大阪極道戦争 しのいだれ』で脚本家デビュー。『日本沈没』『クライマーズ・ハイ』など多数のヒット作の脚本を手がける。

2003年に役所広司と柄本明主演の『油断大敵』で監督デビューし、多数の映画賞を受賞。2012年『八日目の蟬』にて第35回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。その後も『ソロモンの偽証』『草原の椅子』『孤高のメス』など多数の話題作を手がける。2017年『ちょっと今から仕事やめてくる』公開後、肺がんで入院。本作『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇〜』が復帰作となる。

映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇〜』の作品情報

【公開】
2020年2月14日(日本映画)

【原作】
ケラリーノ・サンドロヴィッチ(太宰治「グッド・バイ」より)

【監督】
成島出

【キャスト】
大泉洋、小池栄子、水川あさみ、橋本愛、緒川たまき、木村多江、皆川猿時、田中要次、池谷のぶえ、犬山イヌコ、水澤紳吾、戸田恵子、濱田岳、松重豊

【作品概要】
太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」を、劇団「ナイロン100℃」主宰のケラリーノ・サンドロヴィッチが2015年に独自の解釈で発表した戯曲『グッドバイ』を映画化。妻子を田舎に残して単身で東京に暮らす編集者・田島周二が、何人もの愛人を抱えて四苦八苦する様子をコミカルに描きます。

本作の監督を務めるのは、『八日目の蟬』(2011)で日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝いた成島出。「ラブコメがやりたかった」というケラリーノの言葉を受け、大人が楽しめる洒脱なコメディに仕上げました。

なぜか周囲の女たちが好きになってしまうダメ男の主人公・田島を演じるのは、『探偵はBARにいる』シリーズ、2019年放送のTBSドラマ『ノーサイド・ゲーム』などで好評を博した大泉洋。そして田島の妻と偽る永井キヌ子役には、舞台版でも同役を演じて読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞し、成島作品への出演は5回目となる小池栄子。

さらに田島を取り巻く女性役として、クールな女医・大櫛加代を水川あさみ、挿絵画家の水原ケイ子を橋本愛、儚げな花屋の青木保子を緒川たまき、離れて暮らす田島の妻・静江を木村多江、田島を尊敬する編集部員・清川伸彦役に濱田岳、“嘘(にせ)夫婦”の計画を提案する作家・漆山連行役を松重豊が演じているなど、豪華キャストが集結した作品です。

映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇〜』のあらすじ


(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

戦後の混乱から復興へ向かう昭和のニッポン。

文芸雑誌の編集長の田島周二は、単身東京で気がつけば何人もの愛人を抱える始末。

このままではいけないと愛人たちと別れる決心をしたものの、優柔不断な田島は、彼女たちを前にすると別れを切り出すことができません。

そこで田島は、金にがめつい担ぎ屋・キヌ子に、女房を演じてくれと頼み込みます。

実はキヌ子は、泥だらけの顔を洗うと誰もが振り返る絶世の美女でした。

男は、女と別れるため、女は、金のため――こうして、二人の“嘘(にせ)夫婦”の企みが始まります。

映画『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』は2020年2月14日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー公開!



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