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Entry 2019/06/08
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【谷光章監督インタビュー】映画『99歳 母と暮らせば』老老介護の現実を親子の仲の良さでドキュメンタリーに仕上げる

  • Writer :
  • 加賀谷健

映画『99歳 母と暮らせば』は、2019年6月8日(土)より新宿K’s cinema他にてロードショー!

『DX(ディスレクシア)な日々 美んちゃんの場合』(2012)や『華 いのち 中川幸夫』(2014)などのドキュメンタリー作品を手がけてきた谷光章監督


©︎Cinemarche

谷光監督が今回カメラを向けたのは、認知症を患う99歳の母。自身も70代と高齢の身で、四苦八苦する老老介護の日常生活が藤沢の四季折々とともに綴られます。

本インタビューでは、谷光監督が母との日常を通して発見した、人生の愛おしさや母への変わらぬ想いについてお話を伺うことが出来ました。

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ドキュメンタリー作家として


©︎Cinemarche

──ドキュメンタリーはいつから撮られるようになりましたか。

谷光章監督(以下、谷光):最初に入社したところがニュース映画を作っていた会社でしたので、自然にドキュメンタリーを撮るようになりました。それからフリーになって、役者さんを使うドラマ作品も何本か撮りましたが、慣れ親しんできたドキュメンタリーの世界の方が自分も羽を伸ばして、自由に作れるという感覚がありました。

ドキュメンタリーの場合は、先に相手があって、こちらが思い通りの画が撮れるとは限りません。こんな場面がもし起こるのであれば、狙っておきたいというように何かが起こりそうだなと想像しながら事前に構えます。

──その意味で今回は、対象がお母さまですから距離感が最初から違いますね。関係性が築きあげられているからこそ、逆に難しかったことはありましたか?

谷光:特に意識はありませんが、認知症の症状に直面した時に、自分の向かい方として、どのようなかたちで撮影を進めれば、観る人にきちんと伝わる映像になるかということを頭に描きながら回していました。

介護のために同居を決意


©︎谷光章

──この作品を作ろうと思い到った経緯を教えてください。

谷光:母が96、7歳になるまでは一人で家に住んでおりました。同じ敷地には、兄夫婦が住んでいて時々面倒をみてもらいながら、週に2回デイケアサービスでヘルパーさんに一日来てもらっていました。

それ以外の曜日は、宅配のお弁当屋さんに頼んで、弁当を届けてもらったりして、何とか一人で住んでいましたが、時々家の中で転んだり、庭で洗濯物を取り込んでいる時に転んだまま動けなかったり、という報告を受け、やはり危ないなと思いました。

それで認知症のことを調べるようになり、90代まで生きて、最期に近い母親の日常を不快な思いをさせないで、穏やかに幸せなかたちで過ごしてあげればいいかなと思いました。

会社勤めだと難しいところがあったと思うんですが、私がたまたま映像の仕事をやっていて、パソコンがあれば仕事場を移してもそんなに困らないという分があったので、決断して同居を始めたんです。

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日々の記録が映画に


©︎谷光章

──撮影のことはお母さんにどのようにお伝えしたのでしょうか?

谷光:母には、これから映画を撮るよというかたちでは伝えていないです。私もこれを最初から映画にしようと思ってカメラを回し始めたわけじゃないんです。かなりの高齢でこれからどうなるか分からない状況で、とりあえず記録として日常を撮っておきたくて少しづつ回し始めたわけです。

──カメラを向けられることへの抵抗はありませんでしたか?

谷光:母に関しては拒否されなかったです。徐々にならしていった部分はありますが、本人はそこまで意識していなかったように思います。

三脚に取り付けたカメラを居間に置きっぱなしにしてあるので、カメラを意識したり、自分が撮られているということに対して拒否反応はありませんでした。

一年間近く回して、それなりにいろんな症状や現象が出てきたりして、それをうまく収められた感触がありましたので、ひょっとしたらこれをまとめれば、みなさんに色々考えてもらえる映画になるかなと思い、編集に取り掛かりました。

母との想い出


©︎谷光章

──監督が子どもの頃はどのような親子だったのでしょう。

谷光:色々な思い出があります。映画に連れていってもらったり、兵庫県の甲子園に住んでいたものですから、母の友達とその子どもと一緒に、六甲山に登ったり、海に行ったりしました。

母は専業主婦でしたが、私が小学生くらいの時、普段は、家に帰ってもいないんですよ。洋裁の学校に通ったり、自分の用事でいなかったりすることが多く、寂しい小学生でした(笑)。だからたまに母と出かけると楽しかったです。

父は仕事をずっと忙しくやっていたので一緒に出かけたことは滅多にありません。母には本当にいろんなところに連れて行ってもらったんです。私は母に似て、お笑いが好きだったり、性格的に母とのやり取りの相性はいいのかなと思います(笑)。

今もこちらが冗談やバカなことを言ってもそれなりに返してくれますし、ビールも飲む口で、一緒に住むようになってからは一杯だけでは足りずにすぐ催促されます(笑)。

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映画を介した愛情表現


©︎谷光章

──お母さまの手を引いて寄り添うように歩いている場面が印象的でした。

谷光:恋人だろうとなんだろうと、想いが通じていれば、自然に手を繋いでいたりするものです。と言っても女房とは手を繋がないですが(笑)。

介護の手法で、ユマニテュードというものがあります。どんなに認知症が進んで言葉が出ない相手であっても、目をみて優しく声を掛けたり、柔らかく手を触ってあげたり、身体に触ってあげるというコミュニケーションです。必ずしもお互いに言葉をやり取りするのがコミュニケーションではなくて、アイコンタクトや肌に触れるということも大切なコミュニケーションなんです。

それは状況にもよりますが、言葉は話せなくても、ちょっと寂しいな、誰かともう少しお話したいなと思っている人に対して優しく手を握ってあげるだけで、ほっとしたり安心したりする部分があります。

この間も、認知症のお年寄りたちを招いたコンサートに行ったんですが、全然話せないおばあさんになぜだか私は気に入ってもらって、おばあさんの方から触ってくるんですよ。そういった時はやはり優しく握り返してあげて、少しこちらで声をかけてあげるといいんです。

決して言葉が出ない人でも必ず感情は残っているので、コミュニケーションが取れるものです。

日常と介護


©︎谷光章

──本作ではコミカルな描写が満載ですが、一方では老老介護の厳しい現実もありますが。

谷光:今は母は「要介護2」ですが、実はそんなに大変な介護ではないんです。介護の映画は今までも色々ありましたけれども、もっともっと現実問題として、大変な場面や、悲惨な状況というのはいくらでもあります。

働きながらの介護となると、会社に通いながらになってしまいます。日中にヘルパーさんに来てもらうにしても、夜、疲れて帰ってきた中で、色々言われたり、同じことを聞かれたりすると、ストレスで普通の人なら癇癪を起こしたくなるものです(笑)。

認知症の人への対応は、どんな状況であっても介護する人が心がけるべきだと思いますが、私の場合、非常に恵まれた環境での介護であるとは思うんです。

──谷光監督はお母さまのために料理をされていますね。

谷光:料理は好きで、何でも作ります。どこか映画作りと似ているところがあります。いろんな材料が冷蔵庫にあれば、それをどんなふうに組み合わせて、どんな味付けをすれば美味しいものが出来るかなんて想像しながら作ってみます。これは違うなという試行錯誤が物作りと一緒なんです。


©︎Cinemarche

──介護で溜まってしまったストレスはどのように解消されていますか?

谷光:しょっちゅう息抜きしていますよ(笑)。その時の気分次第で、昼間に映画をみたり、音楽を聴いてみたり、母がデイケアに行っている時には、久しぶりに外に出て好きなものを食べに行ってみたり。

庭では小さな家庭菜園をやっていて、今、なすとトマトや小玉すいかを植えています。実がなってくると母にみてもらったりして、成長をみせてあげるのも、自分の楽しみとしてあります。そして、採れたなすでどんな料理を作れば美味しいかなと想像することも大きな楽しみのひとつです。

母への変わらぬ想い

──この映画を撮られた今の心境はいかがでしょう。

谷光:映画は映画として全く別物です。母には今の日常を平穏で何事もなく、幸せに人生を全うしてもらいたいと思います。どんなことが出来るかは分かりませんが、少しでも母が安心して人生を終えられるような環境を作っていければと思っています。

母は小さい頃スポーツをやっていたので、是非来年までは頑張って、一緒にオリンピックを観たいです。

──最後にお母さまの一番好きなところはどこですか?

谷光:楽天的で天真爛漫な部分です。母が怒るのを滅多にみたことがありません。私自身もそういったところを受け継いでいるんだと思います。

いつも出かける場所を書いていくんですが、家に帰ると一応にっこりして迎えてくれます。今日もその笑顔をみられるだけで幸せです。

谷光章監督のプロフィール

1945年香川県丸亀市生まれ。

1967年に日本映画新社に入社し、ニュース映画企画者として3億円事件、安田講堂占拠、大阪万博、浅間山荘事件、三菱重工爆破事件などに関わります。

1977年よりフリーの演出家として多岐にわたる映像作品を演出。

1994年には、ドキュメンタリー映画制作会社「イメージ・テン」を設立し、環境・健康・高齢化に沿ったテーマを中心に映像作品を制作しています。

『DX(ディスレクシア)な日々 美んちゃんの場合』(2012)で児童福祉文化賞を受賞、2014年には前衛生け花作家である中川幸雄の創作の秘密に迫った『華 いのち 中川幸夫』を手がけ、大きな注目を集めました。

インタビュー/加賀谷健
インタビュー・構成・撮影/出町光識 

映画『99歳 母と暮らせば』の作品情報

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
谷光章

【キャスト】
谷光千江子、谷光賢、谷光育子、谷光章、小田中通子、川邊壽子、松本尚子、長田典、高橋綾子、前田由美子

【作品概要】
映像作家・谷光章監督が、認知症を抱える99歳の母親との介護の日々を追ったドキュメンタリー作品。

次々起こる認知症の症状に向き合う毎日に、実家のある藤沢や江ノ島の自然が織り込まれ、情感豊かに綴られていきます。

“人生100年時代”を迎えた今、『DX(ディスレクシア)な日々 美んちゃんの場合』(2012)や『華 いのち 中川幸夫』(2014)などのドキュメンタリー作品を手がけてきた谷光監督が大切な人と暮らすちょっとした日常の温かみについて問いかけます。

映画『99歳 母と暮らせば』のあらすじ

認知症を患っている99歳の母。

足腰の衰えも進行して、日々の生活が苦しくなってきた母を介護するため、71歳の息子が実家に移り住みます。

老老介護に四苦八苦しながらも、母の残された日々を記録していきます。

日常茶飯事で起こる失敗や苦難、それでも母がみせるチャーミングな一面を愛おしく想う日々の輝き。

介護され、介護する人たちがともに幸せに暮らせる介護とは?

生きることの素晴らしさ、愛おしさに溢れる日常がユーモラスに綴られます。

映画『99歳 母と暮らせば』は、2019年6月8日(土)より新宿K’s cinema他にてロードショー!

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