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映画『おろかもの』あらすじと感想。芳賀俊×鈴木俊ふたりの監督が描く“おろかもの”ゆえにたどり着く感動|2019SKIPシティ映画祭12

  • Writer :
  • 河合のび

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019エントリー・芳賀俊監督×鈴木祥監督作品『おろかもの』が7月16・20日に上映

埼玉県川口市にて、映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能の発掘と育成”を目指し誕生したSKIPシティ国際Dシネマ映画祭も、2019年でついに16回目を迎えます。

そこで上映された作品の一つであり、国内コンペティション長編部門にて観客賞を受賞したのが、芳賀俊監督と鈴木祥監督が共同で手がけた映画『おろかもの』です。

多くの映画制作を共にし、もはや「盟友」と評しても過言ではない芳賀監督と鈴木監督が満を持して挑んだ、二人にとって初の長編監督作です。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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映画『おろかもの』の作品情報


(C)2019「おろかもの」制作チーム/(C)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

【上映】
2019年(日本映画)

【監督】
芳賀俊、鈴木祥

【脚本】
沼田真隆

【キャスト】
笠松七海、村田唯、イワゴウサトシ、猫目はち、葉媚、広木健太、南久松真奈

【作品概要】
形は違えど、これまでいくつもの作品をともに制作してきた芳賀俊監督と鈴木祥監督が満を持して挑んだ、二人にとって初の長編監督作。

結婚を控えている兄の浮気相手と対峙した妹が、やがてその浮気相手、そして兄の婚約者と接してゆくうちに他者や自身にとっての“つながり”について見つめ直してゆく物語です。

主人公・洋子を演じたのは、『空の味』(2016)『サイモン&タダタカシ』(2017)の笠松七海。女子高生特有のアンビバレントな感情を完璧に捉えた快演を劇中で見せます。

兄の浮気相手・美沙を魅惑的に演じたのは、『密かな吐息』(2014)『デゾレ』(2017)など自身も監督として活動している村田唯。また兄の婚約者・果歩を演じた猫目はちも、『つま先だけが恋をした』(2018)で監督デビューを果たしています。

本作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019での上映がワールド・プレミアとなりました。そして国内コンペティション長編部門にて見事観客賞を獲得しました。

映画『おろかもの』のあらすじ

高校生の洋子は結婚を目前に控えた兄・健治が、美沙という女性と浮気をしている現場を目撃してしまいます。

ある日、衝動と好奇心に突き動かされて美沙と対峙した洋子は、美沙の独特の柔らかさと強さ、そして脆さに惹かれていきます。

そして、美沙が何気なく言葉にした“ある提案”に乗ってしまったことで、洋子は彼女と行動をともにするようになり、次第に奇妙な関係を結んでゆきます…。

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映画『おろかもの』の感想と評価

“どうしようもない”魅力に溢れたキャラクターたち


(C)2019「おろかもの」制作チーム/(C)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

本作の物語は魅力溢れる、しかしどうしようもない登場人物たち、言い換えれば“どうしようもない”魅力に溢れた登場人物たちによって形づくられています。

それがどれほど他者を傷つけることになるのかを理解し切れないまま、兄・健治の浮気相手・美沙に惹かれ、彼女の“ある提案”に乗ってしまう洋子。

健治が結婚を控えていること、自身がその相手に選ばれないことを薄々察していながらも、それでも健治と結婚したい、或いはそばに居たい、幸せになりたいという思いを捨てることができない美沙。

“誰か”を真剣に愛することができないが、それでも“誰か”を真剣に愛そうと試み続けてきた結果、多くの女性を傷つけてきたと思われる健治。

具体例として挙げた上述の三人のみならず、スクリーン越しに出会う登場人物たちはみなどうしようなく、そして愛おしい。本作のタイトル通り、“おろかもの”な人々なのです。

映画『おろかもの』上映後Q&Aでの芳賀俊監督


(C)Cinemarche

本映画祭のパンフレットにて、芳賀監督は下記のメッセージを述べています。

私は愚か者である。人は時として自分の愛するものに対して心底愚かな行動をとる。映画というものに魅せられ、人生の中で得た全ての財産を総動員して『おろかもの』の愛おしくも愚かで多面的且つ矛盾した登場人物たちの微細で大胆な心の機微を描き出す事ができた私は、今の今まで映画を愛し続けたことを誇りに思う。

その愛する対象は誰であれ何であれ、人はそれまでに築き上げてきたあらゆる論理や理屈を放り捨ててしまうほどに、“おろかもの”になってしまう時が訪れる。

それは映画『おろかもの』の登場人物のみならず、人として生きている限り、誰もが経験することと言っても過言ではないでしょう。

そして芳賀監督の言葉通り、どうしようもない“おろかもの”な人々を、芳賀監督・鈴木監督をはじめとする制作チームとキャスト陣は同じく愛をもって描きます。

その結果、本作を鑑賞した人々は登場人物たちに自身の姿を、或いは自身の“おろかもの”ぶりを重ね合わせる。だからこそ、その登場人物たちのキャラクター性や本作の物語に対し、より大きな共感を感じられるのです。

「愛の力を信じる」という“おろかもの”ぶりの先に


(C)2019「おろかもの」制作チーム/(C)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

ではそもそもなぜ、人の内にある“おろかもの”ぶりは愛、或いは愛するものによって露わになってしまうのでしょうか。

それは、人と人をつなげる力を持つもの、最も強大な“つなげる力”を持つものが愛であると多くの人々が信じているからなのだと、映画『おろかもの』は答えています。

決して、「人と人をつなげる力を持つもの、最も強大な“つなげる力”を持つものが愛である」ということを事実だ真実だと唱えているわけではありません。あくまで「多くの人々が信じている」ということだけを劇中で提示しているのです。

愛には“つなげる力”があるのかもしれないし、実際にはないかもしれない。

最も強大な“つなげる力”を持っているかもしれないし、むしろ人と人を“引き剥がす力”を持っているかもしれない。

そもそも、愛なんてシロモノは存在しないかもしれない。

その不確かさを知らなくても、たとえ知っていたとしても、それでも愛を信じ続けている。

それが、愛或いは愛するものによって人の“おろかもの”ぶりが露わになってしまう原因であり、人の“おろかもの”ぶりの原因なのでしょう。

その「愛の持つ力を信じ続ける」という人の“おろかもの”ぶりを、映画『おろかもの』は様々な形で描きます。そして同時に、“おろかもの”だからこそたどり着くことのできる結末があることを、同じく“おろかもの”として生きて続けている観客に示してくれるのです。

芳賀俊監督×鈴木祥監督のプロフィール

映画祭授賞式後の芳賀俊監督(右)と鈴木祥監督(左)


(C)Cinemarche

芳賀俊監督のプロフィール

周防正行監督『舞妓はレディ』(2014)で撮影助手ビュー。以降、映画・CM・MVなどの撮影現場で撮影助手として活動を続けてきました。

近年の参加作品は、沖田修一監督の『モリのいる場所』(2018)。また撮影を務めた作品に、各映画祭で高評価を受けた塚田万理奈監督の『空の味』(2016)、本作にて共同監督を務めた鈴木祥監督の『ボーダー』(2011)があります。

鈴木祥監督のプロフィール

日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。

卒業制作作品であり、芳賀監督も撮影担当として参加している監督作『ボーダー』(2011)にて映文連アワード2011優秀作品賞を受賞。

助監督として参加した作品には、塚田万理奈監督の『空(カラ)の味』(2016)、村田唯監督の『密かな吐息』(2014)、『デゾレ』(2017)があります。

鈴木監督は本作にて初めて長編映画の制作を手がけました。

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まとめ

Q&A終了後の映画『おろかもの』スタッフ・キャスト陣


(C)Cinemarche

生き続ける限り、愛を信じ続ける限り、“おろかもの”であり続ける人。

本作の登場人物たち、ひいては多くの人々のそのような姿を肯定・否定することなく、けれども愛をもって描く。すなわちスタッフ・キャスト陣も“おろかもの”となることで、人の“おろかもの”ぶりと愛おしさに溢れた映画『おろかもの』が生まれたのです。

そして、“おろかもの”だからこそたどり着くことのできた結末には、安直な感動とは一味違う、映画の結末の“その先”を想像してしまうほどに心へとしみ込んでしまう感動が待ち受けているのです。

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