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Entry 2019/01/09
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SF映画おすすめのディストピア作品を「隔離」をテーマに読み解く。現実でも動く問題とは|SF恐怖映画という名の観覧車31

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile031

「SF」と言うジャンルの中で、比較的取り上げられることの多い「ディストピア」と言う世界観があります。

ある一方の見方では人々は幸福で何の不満もない世界ですが、その一方で徹底した管理や「隔離」を繰り返すことでその世界が成り立っていると言う「表」と「裏」を表現した世界のことを指します。

今回は「ディストピア」的世界観で描かれた様々な「隔離」の方法から、隔離の「その先」にあるものを考えていきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

隔離キーワード①「犯罪者」

治安の維持にあたり、犯罪を行った者を「隔離」することは必要な行為であると言えます。

ですが、犯罪を行った者にも当然与えられるべき「人権」を蔑ろにすることが横行しており、一部の国では社会問題となっています。

そんな状況を鑑みてか、1990年代にアメリカでは隔離した先を「放置」することにより、あるべき「人権」すらも認められない刑務所を皮肉った、今もなおカルト的人気を誇る「SF」作品が製作されていました。

SF映画おすすめのディストピア作品『ニューヨーク1997』(1981)

ホラー映画の代名詞「ハロウィン」シリーズで有名なジョン・カーペンターがカート・ラッセルを主演とし製作したSF映画『ニューヨーク1997』(1981)。

作中では、犯罪の増加が止まらないアメリカがマンハッタン島を高い壁で囲み、その中を巨大な刑務所として利用します。

ですが、刑務所とは名ばかりであり、そこは「犯罪者」だけが暮らす「秩序」のない島と化していました。

弱い者や世渡りのヘタな人間は生き残れない「非情」な空間であり、そこに「人権」は存在しません。

「罪を償う場」であるはずの刑務所が、単なる「隔離地域」となってしまっている劇中の刑務所。

しかし、現実の一部の刑務所が未だにそうであるように、劇中の「1997年」を遥か越えた現在でも、まだまだ「犯罪」と向き合う姿勢を取れていないことが分かります。

隔離キーワード②「貧困者」

「ディストピア」世界の典型的構図であり、現実世界でも遥か昔から続く貧富による格差社会。

2018年には増税に対する大規模なデモが発生し、パリの街が火の海になるほどの勢いを見せたフランス。

アクション映画として目を見張るほどのものがあり、アメリカでもリメイクされたあるフランス映画が、「貧困隔離」政策の行き着く先を描いていました。

SF映画おすすめのディストピア作品『アルティメット』(2004)


© 2004 EUROPACORP-TF1 FILMS PRODUCTION

『レオン』(1994)などで知られるフランスの映画監督リュック・ベッソンが、パルクールの始祖ダヴィッド・ベルを俳優として起用し高い評価を受けた映画『アルティメット』(2004)。

スタントマンとして活躍するシリル・ラファエリとのダブル主演で映される華麗なアクションの数々が印象的かつ人気な本作ですが、今コラムでの注目点は「物語」にあります。

貧困層の増加と「治安の悪化」から高い壁により外界と隔絶されてしまった「13地区」。

「麻薬」と「暴力」しかモノを言わない「13地区」は政府にとっては既にお荷物であり、警察も既に機能していません。

そんな「13地区」を巡る陰謀を本作と続編『アルティメット2 マッスル・ネバー・ダイ』(2009)では描いているのですが、共通するのは「13地区」が「負債」として描かれている部分です。

劇中において「13地区」は「貧困層」の体現であり、政府が「貧困層」を「負債」としていると言う皮肉にも見ることが出来ます。

現に貧富の格差が問題となるフランスのマクロン大統領は「景気回復」を謳って当選したものの、法人税や富裕税など富裕層が恩恵を受ける減税を真っ先に執り行う反面、燃料税などの一般市民にも関わる税を増税する政策を掲げ昨年の暴動へと至りました。

富裕層への減税措置が「景気回復」に繋がると言われてはいますが、一方で衣食住に困った貧困層による「治安の悪化」が危惧されています。

『アルティメット』の意外性のある物語の「オチ」と合わせて考えると、貧富の格差の広がりが見せる最悪のケースを想像してしまいます。

隔離キーワード③「難民」

紛争や様々な事情により自国を出て、住む国を探す「難民」。

まともな出国手続きや入国手続きが出来ないことから、正規の職業に就くことが難しくEUを中心に世界各国で不法労働者が増加しています。

「難民」の受け入れに厳しいため、その余波をあまり受けていない日本ですが、実は「不法労働者」の「隔離」を描いた映画が話題を呼んだことがあります。

SF映画おすすめのディストピア作品『スワロウテイル』


(C)1996 SWALLOWTAIL PRODUCTION COMMITTEE

『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2018)など、独特の映像技法を使った映画が印象的な岩井俊二監督が描いたSF映画『スワロウテイル』(1996)。

劇中のバンドである「YEN TOWN BAND」名義のアルバムがオリコンチャートで1位を取り、「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」は映画を知らない人でも聞き覚えがある人は多いと思います。

本作では、「違法労働者」及び「不法滞在者」を「円盗」と呼び、円盗たちは郊外で住むことを余儀なくされていました。

「円盗」である主人公のグリコ(CHARA)は身体を売ることでしか生計を立てることが出来ませんでしたが、「あるモノ」を見つけたことによって「夢」を叶える道を見つけます。

しかし、類まれなる才能があったとしても円盗であったと言う過去が、彼女の夢を蝕んでいきます。

「難民」の受け入れはその国にとって有益とは限らず、治安の悪化や就労率の低下など様々な問題をもたらす可能性があります。

ですが、国の無い難民たちは一体どこで生きていけば良いのか、と言う「命」の問題を再度思わされる作品でした。

まとめ

今回は3つの「隔離」の映画をご紹介させていただきました。

アメリカではトランプ大統領が、メキシコとの国境に高い壁を築き不法移民を減らす対策を進め、両国や自国の中でも反対意見が相次ぐなど「隔離」の問題はもはや現実世界でも動き始めています。

隔離と言う方法が世界にとって「良い方法」なのか「悪い方法」なのか、もう一度自分の目線で考えていく必要がある時代に入ったのだと確信させられます。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile032では、イタリアの名作ホラー『サスペリア』(1977)を視覚面にこだわり抜き、超豪華俳優でリメイクした1月15日公開最新作『サスペリア』(2019)についてご紹介して参ります。

1月16日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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