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映画『誰がハマーショルドを殺したか』感想レビューと考察。“冷戦期最大の謎”国連事務総長事故死に迫るミステリーハンターたち|だからドキュメンタリー映画は面白い49

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第49回

原因不明の飛行機墜落事故に隠された、驚きの巨大な陰謀とは—―。

今回取り上げるのは、2020年6月よりシアター・イメージフォーラム他にて全国公開予定の『誰がハマーショルドを殺したか』

1961年に発生した、国連事務総長の事故死の真相に迫る男たちを追った、サンダンス映画祭監督賞受賞作です。

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映画『誰がハマーショルドを殺したか』の作品情報

(C)2019 Wingman Media ApS, Piraya Film AS and Laika Film & Television AB

【日本公開】
2020年(デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・ベルギー合作映画)

【原題】
Cold Case Hammarskjold

【監督・脚本】
マッツ・フリュガー

【製作】
ピーター・エンゲル

【撮影】
トーレ・ボッラン

【音楽】
ヨン・エリク・カーダ

【キャスト】
マッツ・フリュガー、ヨーラン・ビョークダール

【作品概要】
1961年に起こった、国連チャーター機墜落事故の真相に迫るドキュメンタリー。

監督にしてジャーナリストのマッツ・ブリュガーと調査員のヨーラン・ビョークダールが、アフリカ、ヨーロッパ各地へ飛び、7年の歳月をかけて驚愕の真実を暴き出していきます。

2019年の第35回サンダンス映画祭ワールドシネマ·ドキュメンタリー部門で監督賞を受賞したほか、世界78もの映画祭で上映され、9つの受賞を果たすなど、高く評価されました。

映画『誰がハマーショルドを殺したか』のあらすじ

1961年9月18日、コンゴ動乱の停戦調停のため、当時の国連事務総長ダグ・ハマーショルドは現地に向かうべく、チャーター便に乗ります。

しかしその途中、ローデシア(現ザンビア)にて、彼の乗った飛行機が謎の墜落事故を起こし、乗員全員が死亡してしまうという最悪の事態に。

しかし、その後も詳しい調査が行われなかったとして、長らく原因不明の事故とされてきました。

この未解決事件の謎を探るべく、デンマーク人ジャーナリストで本作監督のマッツ・ブリュガーと、調査員のヨーラン・ビョークダールが挑みます。

ところが、彼らが取材を重ねるうち、墜落事故の裏側に想像を絶する陰謀が…。

はたして、事の真相とは?

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潜入取材が身上のミステリーハンター、マッツ・ブリュガー

参考:『アンバサダー』予告

本作の監督で、ジャーナリストの肩書を持つデンマーク出身のマッツ・ブリュガー。

彼は、北朝鮮への潜入取材を敢行した監督デビュー作『ザ・レッド・チャペル』(2009)でサンダンス映画祭審査員賞を受賞し、脚光を浴びます。

続く『アンバサダー』(2011)では、アフリカのリベリア共和国で外交官の肩書を金で買えるという情報をキャッチしたブリュガーが、自ら外交官になりすまして、その先にあるダイヤ密輸の現場の隠し撮りを試みます。

危険を顧みずに体を張った潜入取材を身上とする、ミステリーハンターのブリュガーが本作で追究する謎は、1961年に起こった国連事務総長ダグ・ハマーショルドの事故死です。

墜落事故をつついたら暗殺説が出てきた

参考:『誰がハマーショルドを殺したか』の本国版ツイッターより、マッツ・ブリュガー監督(画像中)

1953年に国連事務総長に選出されたダグ・ハマーショルドは、アフリカのコンゴ動乱における停戦調停のため、1961年9月、時の権力者モイーズ·チョンベ大統領に会うべくチャーター機でコンゴに向かいます。

しかしその途中、ローデシア(現ザンビア)にて墜落事故を起こし、ハマーショルドを含む15人の乗員全員が死亡するという悲劇に。

しかしこの事故は、その後も詳しい調査が行われないままでした。

冷戦下の米ソの縄張り争いの場となっていたアフリカ諸国の解放に注力していたため、アメリカやソ連、フランスなどから非難されていたというハマーショルド。

そのため、この墜落事故もハマーショルドの暗殺を狙って故意に行われたのでは?という憶測が流れるように。

また、他の乗員と違って、ハマーショルドの遺体だけが大破した機体から離れた場所に横たわっていて、さらに火傷を全く負っていない状態で発見されたというのも、暗殺説に拍車をかけていました。

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本気か冗談か、観る者を煙に巻く演出

参考:『誰がハマーショルドを殺したか』の本国版ツイッターより、ブリュガー(左)とビョークダール

元国連職員の父の代から、この事故を調査していたというヨーラン・ビョークダールに興味を示したブリュガーは、彼に同行します。

2人は当時を知る地元民や関係者たちからの証言を元に、管制官の飛行記録や関連文書を探りますが、明確な手がかりはつかめません。

ここでブリュガー作品の特徴を挙げておくと、彼は自ら取材・調査している映像の合間合間に、意図的に作為的な演出を挿入し、観る者を煙に巻きます。

例えば、ブリュガー自らストーリーテラーとなり2人のアフリカ人女性秘書に調査報告をしていくシーン。

または、事故現場から墜落機を掘り起こそうと、わざわざ発掘調査隊の格好に着替えたブリュガーとビョークダールがスコップと金属探知機を持ち出すシーン。

さらには、父が所持していた墜落機の欠片を息子のビョークダールに持たせて電車に乗るシーンなど、意図することが分かりにくい描写を、随所に盛り込むのです。

こうしたブリュガーの作風は、事実のみならずフィクションを織り交ぜていくゴンゾー(ならず者)・ジャーナリズムを思わせます。

ロサンゼルス・タイムズ紙が、「(ゴンゾー・ジャーナリズムの先駆者である)ハンター・S・トンプソンの心を持ち、(『ボラット』、『ブルーノ』でドッキリ取材を敢行した)サシャ・バロン・コーエンの体を持つ男」とブリュガー(風貌もどことなくトンプソンに似ている)を評したのも、うなずけるあたり。

そんな曲者ブリュガーでさえ手を焼いた追跡取材は、予想を超えたクライマックスへと向かいます。

ブリュガーとハマーショルドを結び付けるもの

参考:『誰がハマーショルドを殺したか』の本国版ツイッターより

ハマーショルドの遺体の襟元にスペードのエースカードが差し込まれていたと証言するカメラマン、南アフリカに存在したという秘密組織サイマー、さらには組織の准将とされた謎の人物の暗躍など、続々と露になる怪しき仮説は、テレビドラマ『X-ファイル』を彷彿とさせます。

ドキュメンタリーなのかフェイクなのか、何が真実で何が虚構なのか、ブリュガーの作為的演出も手伝ってか、最後まで観ても多くの方は困惑することでしょう。

謎が解明したのか、それとも謎は別のものに変身したのか。調査して発見したものは本物だと分かっている。しかし、全てを証明するのは非常に難しい。

ブリュガーがこうコメントしているように、2019年10月に国連が公表した調査報告でも、「外からの攻撃や脅威が墜落原因として妥当、との結論を揺るがす根拠はない」として、墜落事故の全容解明には至っていません。

ただ、亡くなったダグ・ハマーショルドは登山を趣味としており、国連事務総長としての任務を「未知なる領域」と例えていたといいます。

潜入取材で謎を追究するミステリーハンターのブリュガーと、「未知なる領域」という山に挑み続けたハマーショルド。

探求心を持つ者同士が結びつき、本作が生まれたのは自明の理だったのかもしれません。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

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