Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/05/16
Update

映画『誰がハマーショルドを殺したか』感想レビューと考察。“冷戦期最大の謎”国連事務総長事故死に迫るミステリーハンターたち|だからドキュメンタリー映画は面白い49

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第49回

原因不明の飛行機墜落事故に隠された、驚きの巨大な陰謀とは—―。

今回取り上げるのは、2020年7月18日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開予定の『誰がハマーショルドを殺したか』

1961年に発生した、国連事務総長の事故死の真相に迫る男たちを追った、サンダンス映画祭監督賞受賞作です。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『誰がハマーショルドを殺したか』の作品情報

(C)2019 Wingman Media ApS, Piraya Film AS and Laika Film & Television AB

【日本公開】
2020年(デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・ベルギー合作映画)

【原題】
Cold Case Hammarskjold

【監督・脚本】
マッツ・フリュガー

【製作】
ピーター・エンゲル

【撮影】
トーレ・ボッラン

【音楽】
ヨン・エリク・カーダ

【キャスト】
マッツ・フリュガー、ヨーラン・ビョークダール

【作品概要】
1961年に起こった、国連チャーター機墜落事故の真相に迫るドキュメンタリー。

監督にしてジャーナリストのマッツ・ブリュガーと調査員のヨーラン・ビョークダールが、アフリカ、ヨーロッパ各地へ飛び、7年の歳月をかけて驚愕の真実を暴き出していきます。

2019年の第35回サンダンス映画祭ワールドシネマ·ドキュメンタリー部門で監督賞を受賞したほか、世界78もの映画祭で上映され、9つの受賞を果たすなど、高く評価されました。

映画『誰がハマーショルドを殺したか』のあらすじ

(C)2019 Wingman Media ApS, Piraya Film AS and Laika Film & Television AB

1961年9月18日、コンゴ動乱の停戦調停のため、当時の国連事務総長ダグ・ハマーショルドは現地に向かうべく、チャーター便に乗ります。

しかしその途中、ローデシア(現ザンビア)にて、彼の乗った飛行機が謎の墜落事故を起こし、乗員全員が死亡してしまうという最悪の事態に。

しかし、その後も詳しい調査が行われなかったとして、長らく原因不明の事故とされてきました。

この未解決事件の謎を探るべく、デンマーク人ジャーナリストで本作監督のマッツ・ブリュガーと、調査員のヨーラン・ビョークダールが挑みます。

ところが、彼らが取材を重ねるうち、墜落事故の裏側に想像を絶する陰謀が…。

はたして、事の真相とは?

スポンサーリンク

潜入取材が身上のミステリーハンター、マッツ・ブリュガー

参考:『アンバサダー』予告

本作の監督で、ジャーナリストの肩書を持つデンマーク出身のマッツ・ブリュガー。

彼は、北朝鮮への潜入取材を敢行した監督デビュー作『ザ・レッド・チャペル』(2009)でサンダンス映画祭審査員賞を受賞し、脚光を浴びます。

続く『アンバサダー』(2011)では、アフリカのリベリア共和国で外交官の肩書を金で買えるという情報をキャッチしたブリュガーが、自ら外交官になりすまして、その先にあるダイヤ密輸の現場の隠し撮りを試みます。

危険を顧みずに体を張った潜入取材を身上とする、ミステリーハンターのブリュガーが本作で追究する謎は、1961年に起こった国連事務総長ダグ・ハマーショルドの事故死です。

墜落事故をつついたら暗殺説が出てきた

(C)2019 Wingman Media ApS, Piraya Film AS and Laika Film & Television AB

1953年に国連事務総長に選出されたダグ・ハマーショルドは、アフリカのコンゴ動乱における停戦調停のため、1961年9月、時の権力者モイーズ·チョンベ大統領に会うべくチャーター機でコンゴに向かいます。

しかしその途中、ローデシア(現ザンビア)にて墜落事故を起こし、ハマーショルドを含む15人の乗員全員が死亡するという悲劇に。

しかしこの事故は、その後も詳しい調査が行われないままでした。

冷戦下の米ソの縄張り争いの場となっていたアフリカ諸国の解放に注力していたため、アメリカやソ連、フランスなどから非難されていたというハマーショルド。

そのため、この墜落事故もハマーショルドの暗殺を狙って故意に行われたのでは?という憶測が流れるように。

また、他の乗員と違って、ハマーショルドの遺体だけが大破した機体から離れた場所に横たわっていて、さらに火傷を全く負っていない状態で発見されたというのも、暗殺説に拍車をかけていました。

スポンサーリンク

本気か冗談か、観る者を煙に巻く演出

(C)2019 Wingman Media ApS, Piraya Film AS and Laika Film & Television AB

元国連職員の父の代から、この事故を調査していたというヨーラン・ビョークダールに興味を示したブリュガーは、彼に同行します。

2人は当時を知る地元民や関係者たちからの証言を元に、管制官の飛行記録や関連文書を探りますが、明確な手がかりはつかめません。

ここでブリュガー作品の特徴を挙げておくと、彼は自ら取材・調査している映像の合間合間に、意図的に作為的な演出を挿入し、観る者を煙に巻きます。

例えば、ブリュガー自らストーリーテラーとなり2人のアフリカ人女性秘書に調査報告をしていくシーン。

または、事故現場から墜落機を掘り起こそうと、わざわざ発掘調査隊の格好に着替えたブリュガーとビョークダールがスコップと金属探知機を持ち出すシーン。

さらには、父が所持していた墜落機の欠片を息子のビョークダールに持たせて電車に乗るシーンなど、意図することが分かりにくい描写を、随所に盛り込むのです。

こうしたブリュガーの作風は、事実のみならずフィクションを織り交ぜていくゴンゾー(ならず者)・ジャーナリズムを思わせます。

ロサンゼルス・タイムズ紙が、「(ゴンゾー・ジャーナリズムの先駆者である)ハンター・S・トンプソンの心を持ち、(『ボラット』、『ブルーノ』でドッキリ取材を敢行した)サシャ・バロン・コーエンの体を持つ男」とブリュガー(風貌もどことなくトンプソンに似ている)を評したのも、うなずけるあたり。

そんな曲者ブリュガーでさえ手を焼いた追跡取材は、予想を超えたクライマックスへと向かいます。

ブリュガーとハマーショルドを結び付けるもの

(C)2019 Wingman Media ApS, Piraya Film AS and Laika Film & Television AB

ハマーショルドの遺体の襟元にスペードのエースカードが差し込まれていたと証言するカメラマン、南アフリカに存在したという秘密組織サイマー、さらには組織の准将とされた謎の人物の暗躍など、続々と露になる怪しき仮説は、テレビドラマ『X-ファイル』を彷彿とさせます。

ドキュメンタリーなのかフェイクなのか、何が真実で何が虚構なのか、ブリュガーの作為的演出も手伝ってか、最後まで観ても多くの方は困惑することでしょう。

謎が解明したのか、それとも謎は別のものに変身したのか。調査して発見したものは本物だと分かっている。しかし、全てを証明するのは非常に難しい。

ブリュガーがこうコメントしているように、2019年10月に国連が公表した調査報告でも、「外からの攻撃や脅威が墜落原因として妥当、との結論を揺るがす根拠はない」として、墜落事故の全容解明には至っていません。

ただ、亡くなったダグ・ハマーショルドは登山を趣味としており、国連事務総長としての任務を「未知なる領域」と例えていたといいます。

潜入取材で謎を追究するミステリーハンターのブリュガーと、「未知なる領域」という山に挑み続けたハマーショルド。

探求心を持つ者同士が結びつき、本作が生まれたのは自明の理だったのかもしれません。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『アメリカの夢』解説評価。尾関伸次(伸嗣)を主演に大塚信一監督が“幸せより大切なもの”を描く|銀幕の月光遊戯 68

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第68回 映画『横須賀綺譚』が全国順次公開中の大塚信一監督の劇場未公開作『アメリカの夢』が、名古屋シネマスコーレで限定上映されます。また、後日、ネット配信も予定されています …

連載コラム

映画『ばるぼら』あらすじと感想。二階堂ふみがヌードの濡れ場で稲垣吾郎を相手に手塚漫画に挑む|TIFF2019リポート23

第32回東京国際映画祭・コンペティション作品『ばるぼら』 2019年にて通算32回目となる東京国際映画祭。 令和初の開催となった本映画祭は、2019年10月28日(月)に無事開会の日を迎え、11月5日 …

連載コラム

イラン映画『死神の来ない村』あらすじと感想レビュー。老人の“終の姿”にこそ生きる希望を見出す|TIFF2019リポート30

第32回東京国際映画祭・アジアの未来『死神の来ない村』 2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間をかけ …

連載コラム

『スパイダーマン』ライミ版からアメイジング。そしてMCU版へ|キャラクター映画史1

連載コラム「キャラクター映画史」第1回 今ではアメコミ映画って何って聞くと、頭に思い浮かぶ存在となったスパイダーマンですが、実は映画化までは一筋縄にはいきませんでした。 (C)Marvel Studi …

連載コラム

クローネンバーグの名作『戦慄の絆』ラストの考察。実話をもとに悲しくも美しいハッピーエンド|偏愛洋画劇場4

連載コラム「偏愛洋画劇場」第4幕 2人の登場人物の片方がもう1人の隠れた自我であり、最後は1人に統合されるといった物語はよく映画、小説で見受けられます。 自分とは完璧に違うもう1人の自分、異なる存在無 …

U-NEXT
架空映画館 by ReallyLikeFilms Online
【Cinemarche】今週のおすすめ映画情報
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
凱里(かいり)ブルース|2020年6月6日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次ロードショー予定!
映画『異端の鳥』2020年10月9日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
映画『朝が来る』2020年10月23日(金)より全国公開
ドラマ『そして、ユリコは一人になった』
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学