ニコラス・ケイジ史上最恐のホラー映画『ロングレッグス』
FBIの新人捜査官のリー・ハーカーは、並外れた直感力を買われ、重大な未解決事件の担当に抜擢されます。
家族の父親が妻子を殺害して自殺するという凄惨な事件が過去30年間に10件も起きていました。その現場には、“ロングレッグス”という署名付きの暗号文が残されていました。
“ロングレッグス”とは一体何者なのか、真相に迫ろうとするハーカーは恐ろしい事態に巻き込まれていきます。
製作にも携わったニコラス・ケイジが、40年のキャリアで初のシリアルキラー役に挑戦しました。
FBIの新人捜査官のリー・ハーカー役には、『イット・フォローズ』(2016)のマイカ・モンロー。
映画『ロングレッグス』の作品情報
(C)MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
【日本公開】
2025年(アメリカ映画)
【原題】
Longlegs
【監督、脚本】
オズグッド・パーキンス
【製作】
ダン・ケイガン、ブライアン・カバナー=ジョーンズ、ニコラス・ケイジ、デイブ・キャプラン、クリス・ファーガソン
【キャスト】
マイカ・モンロー、ニコラス・ケイジ、ブレア・アンダーウッド、アリシア・ウィット、ミシェル・チョイ=リー、ダコタ・ダルビー、ローレン・アカラ、キーナン・シプカ
【作品概要】
ニコラス・ケイジが、40年のキャリアで初のシリアルキラー役に挑戦し、製作にも携わっています。監督を務めたのは、『呪われし家に咲く一輪の花』(2016)のオズグッド・パーキンス。
FBIの捜査官を演じたのは、『イット・フォローズ』(2016)のマイカ・モンロー。
一家を惨殺し、父親が自殺するという事件の恐ろしさだけでなく、次第に明かされる“ロングレッグス”の不気味さが見るものを恐怖に陥れます。そんな本作は、2024年の独立系映画の全米興収NO.1、過去10年における独立系ホラーの全米最高興収、北米配給NEON史上最高興収と次々に新たな記録を樹立しました。
映画『ロングレッグス』のあらすじとネタバレ
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1990年代半ば。FBIの捜査官リー・ハーカーは、住宅街に潜めていた凶悪犯の家を特定します。
「応援を呼びますか?」とハーカーが言うと、ペアの捜査官は「直感で応援は呼べない」とその家に向かいます。
ノックをした直後扉が開き捜査官が撃たれます。ハーカーは息を飲み恐怖に身がすくみますが、家に突入し犯人を逮捕します。
上司のカーターはハーカーの直感力に目をつけ、長年糸口が見つけられずにいる事件の捜査担当に、ハーカーを抜擢します。
ごく平凡な家族の父親が突如妻子を殺害し、自殺をするという凄惨な時間が30年間に10件も発生していました。
何者かが侵入した形跡はなく、“ロングレッグス”という署名がある暗号メッセージが残され、被害者家族には、14日が誕生日であったり、娘がいることが共通していました。
ハーカーは捜査資料に没頭し、夜遅くなったためカーターを送ります。カーターは家に寄るように言います。
「それは命令ですか?」と尋ねるハーカーに驚きながらも「命令だ」とカーターは言い、ハーカーは家に寄ります。
カーターの娘に気に入られたハーカーは、数日後にある誕生会に誘われます。
その後、自宅に帰宅したハーカーは、離れて住む母親に電話をします。その時、何者かの気配を感じたハーカーは外に出て様子を見ます。
すると何者かの影が見えて、ハーカーは恐怖を覚えます。振り返ると家で物影が見え、慌てて家に戻ります。
侵入者は見つけられませんでしたが、机の上には捜査資料と同じ暗号文がありました。ハーカーは、その暗号を解読し、黙示録に感激していることなどを突き止めます。
そこから悪魔崇拝に辿り着き、時間が娘の誕生日である14日前後に行われていること、その形が儀式の模様と同じ逆三角形だと気づきます。
映画『ロングレッグス』の感想と評価
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ニコラス・ケイジが初めてシリアルキラーを演じた映画『ロングレッグス』。
父親が妻子を殺し、自殺を図った凄惨な事件。30年に10数件も起きているというのに、FBIは何の糸口も掴めていませんでした。
そんな事件の捜査に抜擢されたのは、並外れた直感力を持つリー・ハーカーでした。
事件の真相を追ううちに、リー・ハーカーは、“ロングレッグス”すなわち人形師のデール・ファーディナンド・コブルに辿り着きます。
コブルは呆気なくFBIに拘束されますが、コブルが捕まったことは事件の終わりではなく始まりだったのです。
コブルはなぜかハーカーのことを知っていたのです。そこから“ロングレッグス”とハーカーのつながりが明かされていきます。
まるで答え合わせのように進んでいくストーリー展開、ハーカーが若き女性捜査官であることなどから『羊たちの沈黙』(2001)を想起した人も多いでしょう。
本作はサスペンスでありながら、そこにオカルトの要素が入ってきます。そのベースにあるのはキリスト教です。
コブルは下にある男の指示に従っていると言います、それは地獄のことを指しているのではないでしょうか。
コブルは悪魔崇拝によって、人形に呪いを施し、少女の魂を人形に閉じ込め、父親に妻子を殺させたというのです。
しかし、ハーカーはコブル単独の犯行ではなく、誰か協力者がいると考えていました。そして、その協力者は恐ろしいことに自分の母親だったのです。
ハーカーが長く生きられるため、母親はコブルに協力していました。シスターを装うことで人々に怪しまれずに、人形を渡すことができたのです。
教会のギフトが当選したと言って人形を渡し、きちんとやり遂げたか確認するのが母親の使命でした。ここで疑問が湧きます。FBIの捜査資料ではどの事件にも侵入された形跡はないと言っていました。
しかし、回想シーンで母親は家の中に侵入していました。さらに人形の存在も全く出てきませんでした。人形を回収し、自分がいた形跡を消してからその場を去ったのでしょうか。
また、学校に行っていたおかげで父親に殺されなかったキャリー・アンは、精神病棟にいましたが、ハーカーが人形を発見し、解体したことで緊張病から解けます。
キャリー・アンは人形から解放されるまでは、緊張病で何も話さず人形のような状態だったわけです。
ハーカーも同じく殺されずに生き延びており、人形も存在していました。それなのに普通に生活していたのはなぜなのでしょうか。
人形の効果が曖昧なのです。さらに、ハーカーが来たことで捜査が進んだとカーターは言っていましたが、30年間FBIの捜査官が誰1人として暗号を解読できなかったとは考えにくく、生存者のキャリー・アンに誰も気づかなかったとは思えません。
また、そもそもロングレッグスの目的もよくわかりません。
ロングレッグスは、足が長いということから、あしながおじさんを意識しているのかもしれませんが、関連性はギフトをプレゼントするという点だけです。
悪魔のために死という犠牲を必要としたのかもしれません。「サタン万歳」というセリフも、言ってしまえばとってつけたそれっぽいものとも言えます。
狂気的な犯行の動機を安易に悪魔崇拝に結びつけて整合性を持たせようとしているといっても過言ではありません。
そのように本作はサスペンスとして見るとかなり粗い部分が目立ちます。しかし、オカルトに振り切っている訳でもありません。
様々な要素を融合させた不思議なホラーといえるでしょう。
それでもB級ホラーとしてのチープさをあまり感じないのは、美術や演出のうまさといえます。
よかよく見ていくと質の高いサスペンスでもホラーでもないのです。それでも言いようのない不気味さ、怖さがあるのです。
まとめ
(C)MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
本作でシリアルキラーを演じたニコラス・ケイジは、特殊メイクで顔の印象を変え、真っ白な顔に長い髪の風貌と話し方で観客をゾッとさせます。
そんなロングレッグスに対峙するFBI捜査官を演じたマイカ・モンロー。
『イット・フォローズ』(2016)においても、ホラー映画のヒロインを演じたマイカ・モンローですが、本作におけるハーカーは、典型的なスクリームクイーンではありません。
恐怖を抱きながらも、向かっていこうとする勇気を持っています。
また、ハーカーというキャラクターは、いわゆる人間らしい感情表現をするタイプでありません。上司を送って行った後、家に寄っていくように言われると「それは命令ですか?」と尋ねます。
そのような様子から人との交流を避けていることがわかります。また、母親に電話をしていますが、どこかで母親を避けている印象も受けます。
劇中ハーカーの父親の存在は語られることはなく、恐らく母が1人でハーカーを育てたこと考えられます。
ハーカーは母親の愛情に重さを感じている、自分の気持ちをうまく伝えることができないと、母娘の間には軋轢があるように見えます。
しかし、その軋轢が後半の展開もうまく噛み合っているとは言い切れない部分はあります。
『キャリー』(1976)のように、母による抑圧、そこから解放された娘という要素が描かれたらまた印象は変わったかもしれません。