ラッセル・クロウが実在したヴァチカンのチーフエクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父を演じたホラー大作
チーフエクソシストとしてローマ教皇に使え、生涯で数万回の悪魔祓いを行ったガブリエーレ・アモルト神父。
悪魔との戦いについて記したガブリエーレ・アモルト神父の著書『エクソシストは語る』を基に、『オーヴァーロード』(2018)のジュリアス・エイバリーが映画化しました。
実在したガブリエーレ・アモルト神父を演じたのは、『ロビン・フッド』(2010)、『レ・ミゼラブル』(2012)と数々の作品に出演し、近年は『アオラレ』(2020)でインパクトのある役が話題になったラッセル・クロウ。
悪魔祓いを疑問視する枢機卿から目を付けられているヴァチカンのチーフエクソシストが、ローマ教皇からある少年の悪魔祓いをしてほしいと頼まれ、スペインにあるサン・セバスチャン修道院に向かいます。
そこで修道院の調査をはじめ、中世ヨーロッパの異端審問と地下に眠る邪悪な存在についての真実を知ります。悪魔と対峙しようとするチーフエクソシストの運命は……。
映画『ヴァチカンのエクソシスト』の作品情報
【日本公開】
2023年(アメリカ、イギリス、スペイン合作映画)
【原題】
The Pope’s Exorcist
【監督】
ジュリアス・エイバリー
【原作】
ガブリエーレ・アモルト
【キャスト】
ラッセル・クロウ、ダニエル・ゾバット、アレックス・エッソー、フランコ・ネロ
【作品概要】
「エクソシストたちの学長」もしくは「ヴァチカンのエクソシスト」として知られたガブリエーレ・アモルト神父。劇中にもありますが、1925年に生まれ、第二次世界大戦中ファシスト党台頭し始めるイタリアでパルチザンになり、ファシストやナチスと戦います。
第二次世界大戦後の1951年に司祭となり、チーフ・エクソシストの補佐役を経て1992年前任の死去によりチーフ・エクソシストに任命されます。そして生涯に渡り数万回に及ぶ悪魔祓いをしたといいます。
ガブリエーレ・アモルト神父の著作を基に『レ・ミゼラブル』(2012)など数々の映画に出演してきたラッセル・クロウが神父を演じます。
共演には、『ドント・ブリーズ』(2016)のダニエル・ゾバット、『DRONE/ドローン』(2019)のアレックス・エッソー、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)のフランコ・ネロなどが顔を揃えました。
映画『ヴァチカンのエクソシスト』のあらすじとネタバレ
1987年7月。
アメリカ人のジュリアは夫を交通事故で亡くし、2人の子供エイミーとヘンリーを養うためスペインにあるサン・セバスチャン修道院の修復の仕事を引き受けます。
息子のヘンリーは父の死後口を聞かず、娘のエイミーは反抗期まっ只中で、ジュリアに何かと反発します。
それでも子供達のため修復の仕事に専念しようとしたジュリアでしたが、ガスによる爆発などトラブルが相次ぎ修復の作業員がいなくなってしまいます。更にヘンリーの様子がおかしくなり自分で自分を傷つけはじめます。
しかし、病院に診せても何も異常はないと言われ、精神科をすすめられます。困惑しているジュリアにヘンリーはヘンリーとは別人の声で話し、神父を連れてこいと言います。
ジュリアは教区担当の若いトマース神父を呼びますが、トマース神父はヘンリーの部屋に入った瞬間吹き飛ばされこの神父ではないと言われます。トマース神父はヴァチカンにエクソシストの派遣を要請します。
その頃、ヴァチカンではチーフエクソシストであるガブリエーレ・アモルト神父が、ヴァチカンに無許可で悪魔祓いの儀式を行ったとして枢機卿らから呼び出されていました。
ガブリエーレは、依頼の98%は大抵悪魔祓いの必要のない精神疾患など医療を必要とする件で、残りの2%は悪魔祓いを必要とする件だと説明し、問題視されている件については人間の真理を利用しただけで悪魔祓いではなかったと説明します。
医療が進み始めた70年代後半、神父の中にも悪魔憑きはフィクションか何かのように思う人も増え、悪魔祓い自体をよく思っていない神父もおり、ガブリエーレは問題視されていました。
しかし、飄々とした態度を変えることなく、ガブリエーレは自分は教皇に仕えるエクソシストである、何か言いたいことがあるなら直接ボス(ローマ教皇)に言ってくれと言いその場を後にします。
そんなガブリエーレにローマ教皇はスペインのサン・セバスチャン修道院に行ってくれと言います。その修道院は以前も問題を起こしている、嫌な予感がするから気をつけるよう忠告します。
ガブリエーレがスクーターで修道院に着くと、トマースが迎えます。トマースは悪魔祓いの知識は殆どなく、ラテン語もできないと言います。そんなトマースにガブリエーレは悪魔の言うことに絶対耳を貸すな、相手にしてはいけない、ただ祈りを唱えるのだと言い聞かせます。
ジュリアは神父ではなく医者を必要としていると言いますが、ガブリエーレは、「医者は納得のいく説明をしてくれたか?」と問います。答えられないジュリアに私の見立てを聞くだけでいいと落ち着かせ、ヘンリーの部屋に入っていきます。
外見も変わり果て、ヘンリーではないものの声でガブリエーレに卑猥な言葉を浴びせかけるヘンリーにガブリエーレは平然とジョークをいい、悪魔なら名前を名乗れと言います。
悪魔祓いをするには悪魔の名前を知ることが重要だからです。ガブリエーレを挑発し続けるヘンリーは、ガブリエーレがかつてパルチザンに所属し、味方が皆撃たれたなか一人だけ助かったことや、信じてあげずに人任せにした結果自殺させてしまった娘などガブリエーレが神に赦しをこうも自分のなかで消えぬ罪悪感として残っているものについて幻覚をみせます。
同様にトマースも、かつて結婚しようとまで愛していたが、神父を辞めることはできず別れた恋人の幻覚を見させられ悪魔の挑発にまんまとかかってしまいます。
我に返ったガブリエーレはトマースをおさえて部屋から出ます。
映画『ヴァチカンのエクソシスト』の感想と評価
実在した神父を映画化した『ヴァチカンのエクソシスト』は、『エクソシスト』(1974)をはじめとしたエクソシスト映画の王道を踏まえつつ、見事なエンタメに昇華した映画になっています。
印象的なのは、ラッセル・クロウ演じるガブリエーレ・アモルト神父のキャラクターです。スクーターを乗り回し「クックー」とふざけるガブリエーレは、悪魔に対しても冗談を言ったりします。
実際のガブリエーレ・アモルト神父もその発言が物議を醸すことがしばしばあるような人として知られています。劇中で垣間見えるヴァチカンの一部であまりよく思われていない姿は実際もそうであったのでしょう。
また、ガブリエーレと共に悪魔祓いをすることになるトマース神父も印象的なキャラクターです。まだ若く純粋さのあるトマースですが、愛した恋人と結婚することより神に仕える道を選んだというほど信仰心の厚い人間です。
最初はラテン語で祈りを唱えることも覚束なく、悪魔の挑発に乗ってしまうような、観客から見ても悪魔にやられてしまうのではないか、と心配になるようなキャラクターであったトマースは最後には悪魔に真っ向から対峙していくまでに成長します。
対照的なトマースとガブリエーレの姿はバディ映画としての面白さもあり、共に修道院に隠された秘密を探っていく姿は『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)や『薔薇の名前』(1987)のような宗教とミステリーが融合した映画を想起させます。
ミステリー要素を踏まえつつ、最後の悪魔との対峙は、ダイナミックなCGを使い、スラッシャー要素もあるエンタメとしての魅せ方にこだわった作りになっており、見応えのあるクライマックスになっています。
それだけでなく、本作は信仰についてもかなり大胆に切り込んでいます。異端審問の背景には悪魔がいたかのように描く姿勢はエンタメとして分かりやすい善悪の構造に落とし込んでいますが、歴史、宗教の観点からするとやや危険な解釈とも取れます。
本作でガブリエーレが語る信仰についての考えも印象的です。大天使聖ミカエルはなぜルシファーにとどめをささなかったのか、それは神によってどのような行為も赦されるから、神はルシファーもお赦しになるとガブリエーレは言います。
罪の告白、赦しをえることこそ信仰のような考えを持っているように見受けられます。
しかし、そのようなガブリエーレの信仰や、異端審問関する大胆な解釈は、エンタメというジャンルだからできることともいえます。その姿勢は同監督作の『オーヴァーロード』(2019)においてもあらわれていました。
『オーヴァーロード』では、ナチス×ゾンビという題材で見事にエンタメに昇華していました。本作も信仰について切り込んでいますが、あくまでその描き方はエンタメの域を出ないラインで作られています。
まとめ
悪魔祓いを題材にした映画はやはり『エクソシスト』(1974)が有名ですが、その他にも沢山作られています。
悪魔祓いの映画といえば、その儀式も注目ポイントでしょう。
冒頭、悪魔を豚に憑依させてその豚を殺すというシーンが出てきます。近年では動物を用いた悪魔祓いはあまり行われないとも言われていますが、韓国映画『プリースト 悪魔を葬る者』(2016)においても豚に憑依させるという方法が行われていました。
映画によく描かれる悪魔祓いの方法としてはロウソクなどで聖域を作り聖水をかけ十字架を用いてひたすら祈りを唱えるということが多いでしょう。
しかし、映画として盛り上がらせるためということもあり大抵儀式は途中で失敗し、悪魔と物理的な対峙となる展開はかなり多く、本作においても悪魔との物理的な対峙に展開します。
また、よくある展開として悪魔祓いの最中で師匠から弟子へ師匠の死を持って継承されていく展開もよく描かれるものです。韓国映画『ディヴァイン・フューリー 使者』(2020)はまさにその系譜といえます。
本作においては、死を持っての継承ではなく、トマースがエクソシストとして成長する姿を描きました。
悪魔の名前を知ることも悪魔祓いにおいては重要ですが、本作で登場した“アスモデウス”という上位の悪魔でした。修道院の地下に眠る資料からはアスモデウスのように地下に封印された天使が他にもいることを示す地図が出てきています。
ガブリエーレとトマースが、地図に描かれた場所に出向き悪魔祓いを行っていくことを予感させるラストは、本作の続編もあり得るのではないかと期待させるようなエンディングになっていました。