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【ネタバレ】ベンジャミン・バトン|あらすじ感想考察と結末の評価解説。泣ける映画のハリケーンとハチドリが意味する“命の時間の姿”

  • Writer :
  • からさわゆみこ

“老人”の身体で生まれ、歳を重ねるたび若返る男の一生とは?

今回ご紹介する映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は、『ゴーン・ガール』(2014)、『Mankマンク』(2020)のデビット・フィンチャーが監督を務め、第81回アカデミー賞にて作品賞を含む13部門にノミネート。美術賞・視覚効果賞・メイクアップ賞を受賞しました。

1918年の第一次世界大戦が終戦した夜、まるで老人のような姿で生まれた赤ん坊。その子は歳をとるごとに若返っていく、特殊な体質を持っていました。

彼の名はベンジャミン・バトン。2003年、85年間という生涯を終えた彼のさまざまな人との出会いと別れを通し、彼が体験した数奇な運命を描いたファンタジー映画です。

映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の作品情報

(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved

【公開】
2009年(アメリカ映画)

【原題】
The Curious Case of Benjamin Button

【監督】
デビッド・フィンチャー

【原作】
F・スコット・フィッツジェラルド

【脚本】
エリック・ロス、ロビン・スウィコード

【キャスト】
ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ティルダ・スウィントン、ジェイソン・フレミング、イライアス・コティーズ、ジュリア・オーモンド、タラジ・P・ヘンソン、フォーン・A・チェンバーズ、ジョーアンナ・セイラー、マハーシャラルハズバズ・アリ、ジャレッド・ハリス、エル・ファニング

【作品概要】
映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は、F・スコット・フィッツジェラルドの短編小説(1922)を原案に、エリック・ロスとロビン・スウィコードによって脚本が作られました。

監督のデヴィッド・フィンチャーと主演のブラット・ピットは、『セブン』(1996)、『ファイト・クラブ』(1999)に続く、3作品目のタッグとなりました。

ベンジャミンの最愛の女性デイジー役には、『アビエイター』(2005)で第77回 アカデミー賞助演女優賞、『ブルージャスミン』で第86回アカデミー賞主演女優賞を受賞した、ケイト・ブランシェットが演じます。共演は、養母のクイニー役のタラジ・P・ヘンソン、エリザベス役のティルダ・スウィントンなど。

映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のあらすじとネタバレ

(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved

2005年、ハリケーンが接近するニューオーリンズのとある病院で、死の床にいる老いた女性デイジーは、自分の最期を悟り、娘キャロラインに語りだします。

デイジーは1918年に建設された、新しい駅の記念式典に父親が出席したことを話します。

駅にはシンボルとなる大きな時計が設置されました。制作者は南部一と名高い時計職人のガトーです。

ガトーは生まれつき盲目でしたが、フランスからの移民女性と結婚し、一男をもうけてつつがない生活を送っていました。

時代は第一次世界大戦の開戦で混沌とし、ガトーの一人息子も戦地へと出兵し、戦死の知らせが届いてしまいます。

戦死という理不尽な理由で一人息子を失ったガトーは、その深い悲しみと怒りは一層仕事に打ち込みます。そして、完成した時計にはガトーの想いも込められていました。

時計は逆回転する仕組みになっていました。ガトーは演説で「時を戻せば、戦争で死んだ若者は戻ってくる」という願望を述べ、その日を最後に姿を消しました。

そして、デイジーはキャロラインにカバンの中にある、日記帳を読み聞かせてほしいと頼みます。

日記帳はデイジーの物ではなく、“ベンジャミン・バトン”という男の物でした。日記というよりは、彼が歩んできた人生の記録です。

日記の書き出しは1985年4月4日のニューオリンズ、これは“遺言状”であるとあり、“生まれた時のように何も持たずに死んでいく”と記されていました。

1918年ニューオーリンズ、第一次世界大戦の終戦を迎えた夜、とある富豪の屋敷で1つの命が誕生しました。

屋敷の主トーマスが慌てて妻のもとに駆けつけますが、難産の末に亡くなってしまいます。妻は死の間際「あの子をどうか頼みます」と言い残しました。

助産医や看護師はどことなく、よそよそしく緊張した面持ちでした。トーマスは生まれたばかりの我が子を見て愕然とし、見るやいなやブランケットにくるんで屋敷を飛び出します。

そして、激しく泣き続ける赤ん坊を抱いたトーマスは、波止場にたどりつくと我が子を投げ捨てようとします。

しかし、トーマスは警官にみつかり、逃走するとある建物に迷い込みます。彼は玄関ポーチにその子を置くと、わずかなお金を懐に挟んで去っていきました。

そこは老人介護施設でした。経営者のクイニーと夫ティジーの夫婦は、終戦を祝う祭りに行くため出かけるところでしたが、置き去りにされた赤ん坊に気付きます。

クイニーは老人のような姿の赤ん坊を見て驚きます。ティジーは警察に届けようと言いますが、彼女はその子を抱き上げ、神から授かった奇跡の子だと信じます。

クイニーは赤ん坊の名をベンジャミンと名付け、かかりつけ医に診せました。診断は身体機能が著しく低く、白内障を発症し聴力もない、残り僅かな命だというものでした。

ティジーの反対を押し切り、短命ならば育てると決意するクイニーです。施設の老人も自分と変わらないベンジャミンを可愛がりました。

そして、医師の診断とは裏腹にベンジャミンは生き長らえて成長をし、車椅子や補聴器を使いながら、“ノーラン財団老人ホーム”で生活を送るようになります。

以下、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』ネタバレ・結末の記載がございます。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved

土曜日の晩は敬虔なクリスチャンのクイニーが、教会の集会へ連れていってくれます。

ある土曜日の晩、ヒーリングの力を求めて信者が集まった時、クイニーは妊娠できない身体の悩みを神父に告白します。

神父は彼女の腹部に手を当て神に祈りを捧げます。そして、車椅子のベンジャミンを見た神父は、彼にどんな困難があるのか尋ねます。

クイニーは悪魔がベンジャミンを墓場に連れていこうとしていると話すと、神父はベンジャミンに手をかざし、悪魔祓いを唱え年齢を尋ねます。

ベンジャミンが“7歳”だと答えると、彼の額に手を当て、“神の御業で歩ける”というと、ベンジャミンは立ち上がり、1歩2歩と歩きだしクイニーは奇跡だと歓喜します。

ところが神父が「神を讃えよ」と天を仰ぐと、そのまま横転し亡くなってしまいます。

1930年の感謝祭の日、ベンジャミンは杖1本で歩けるようになっていました。施設には入居者の家族も集まり、食事会が催されます。

久しぶりにベンジャミンと会ったフラー夫人は、彼に「若返ったように見える」と言います。そして、夫人の孫娘デイジーと運命的な出会いをしました。

デイジーの“青い眼”がベンジャミンの心を掴み、かけがえのない存在にします。

その日、クイニーは子供が授かったことを発表します。過去に一度、男の子を産んでいましたが、肺を患いすぐに亡くなっていたので、ベンジャミンは心配しています。

深夜、就寝していたベンジャミンはデイジーに起こされ、テーブルの下で秘密を打ち明け合おうと言われます。そこでベンジャミンは自分は老いた姿だがまだ、子供だと教えます。

デイジーはその話しに驚くこともなく、むしろ腑に落ちたと言うと、そこにフラー夫人が現れ、ベンジャミンに「恥知らず」と怒りながら、デイジーを連れて部屋に戻ります。

2人は子供同士の無邪気な感覚でしたが、フラー夫人はベンジャミンのことをあまり知らず、外見が老人というだけで、遠ざけられました。

ホームは誰かが亡くなり、新しい入居者が来るというのを繰り返しますが、クイニーに女の子が誕生し、ベンジャミンの周辺と彼自身に変化がはじまります。

ベンジャミンは一人遊びを好むようになり、新しい入居者の夫人からピアノも習いました。体つきはますます若返り、体力も強くなっていきます。

ある日、川へ船を見に行くと、船で働く者はいないか募る男がいました。船長のマイク・クラークです。ベンジャミンは雑用として働き始め、初めて報酬を得る喜びを覚えました。

マイク船長はベンジャミンをただの老人と思い、酒場や娼館に連れて行き、さまざまな体験をさせました。

そして、娼館に居合わせたある男が、ベンジャミンを見ると後を追い、家まで送ると声をかけ、“トーマス・バトン”と名乗ります。

トーマスはベンジャミンを酒場に誘って、彼の出生について聞きます。トーマスは出産が原因で亡くなった妻の話、“ボタン”製造会社の経営者という話をします。

1936年、ベンジャミンは18歳を目前にしていました。彼は若返りを続けていますが、それが親しい人たちの死を見送ることだと気づき、悲しいことだと知ります。

そしてベンジャミンは世界を知るため、マイク船長の元で正式な船乗りになり、旅に出ることを決意します。

週末毎にホームを訪れていたデイジーは、旅立つベンジャミンとの別れを惜しみます。そんな彼女に彼は行く先々で、葉書を書いて送ると約束しました。

一方、デイジーもまたバレエダンサーになるため、ニューヨークのバレエ学校のオーディションを受験し合格し、夢に向かって歩みはじめます。

(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved

ベンジャミンは船乗りとして世界中を周り、極東ロシアに到着するとホテルで冬を越すことになります。

滞在したホテルには、表向きはイギリス貿易使節団の代表と名乗る、スパイのアボット夫婦も滞在していました。

ベンジャミンはアボットの妻エリザベスを“美人でもないし、人目もひかない女性”と表現します。ある晩、眠れないベンジャミンがロビーにいくと、エリザベスが読書をしています。

そして、その日から2人は深夜になると食堂で会い、夜明けまで旅での出来事などを語り合います。ベンジャミンは彼女の奥に秘めた情熱と知性に惹かれていきます。

エリザベスは19歳の時に、英仏海峡を泳いで横断する挑戦をしますが、荒れた海を32時間かけて泳ぎ、あと3時間でフランスに到着するというところで、力尽き断念します。

インタビューではまた挑戦すると言ったものの、その日まで達成していないと話します。ベンジャミンはそんな彼女に恋をし、やがて2人は肉体関係を持つようになります。

しかし、エリザベスは自身の立場上、「日中は会わないこと」「愛していると言わないこと」を条件に、ベンジャミンとのアバンチュールを容認しました。

1941年、日本軍が真珠湾を攻撃したニュースが流れた朝、エリザベスはベンジャミンの部屋のドアの下に「会えて嬉しかった」と置き手紙を残して姿を消し、彼の恋は終りました。

やがて太平洋戦争がはじまり、マイク船長の船はアメリカ海軍の後方支援を命じられます。マイクは元々の船員に参加したくない者は、船を降りることを許します。

新たな船員を補充し真珠湾へと向かい、その惨劇の第一発見者となりますが、潜水艦に発見され、戦艦からの攻撃を受けてマイク船長は戦死してしまいます。

1945年、26歳になったベンジャミンは老人ホームに帰ります。クイニーは戦場に行ったベンジャミンが、無事に帰ったことを喜び抱きしめます。

ティジーは既に他界し、クイニーの娘がホームの手伝いをしていました。

しばらくすると、バレエダンサーとして成功しているデイジーが、ホームを訪ねてきてベンジャミンと再会します。

デイジーは洗練され都会的な美しい女性に成長していました。ベンジャミンはそんな彼女に気おくれしてしまい、一緒に食事をしても昔のようにはならず、話もかみ合いません。

ベンジャミンはエリザベスと恋に落ちた時を最後に、デイジーに葉書を送っていませんでした。彼女はエリザベスのことを聞き、終わった恋だと知ります。

一段と若返り、頼もしくなったベンジャミンをデイジーは誘惑をしますが、彼は彼女との見た目年齢が、まだ離れていることを理由に彼女の誘いを断りました。

その晩、ベンジャミンのところにトーマス・バトンが訪ねます。彼は右足が感染症で不自由になっていました。

トーマスはベンジャミンを食事に誘い、戦争のおかげでボタン製造業の業績が10倍になったと話し、それでも感染症のせいで命もそう長くはないと告げます。

そして、ボタン工場へ連れていき、事業の歴史を語り始めます。ベンジャミンはトーマスに工場に連れてきた理由を聞きます。

トーマスはベンジャミンが自分の息子であることを告白し、彼が生まれた晩の話をすると、ベンジャミンは実の母のことを尋ねます。

トーマスは屋敷へ連れていき、廊下に飾られた写真の中から、母との結婚式の写真を見つけます。母の名は“キャロライン”で、トーマスの一目ぼれだったと言います。

そして、別荘のある湖畔の風景が好きだったことや、一族のことを語り聞かせると、ベンジャミンはなぜそんな話をするのか聞きます。

幾ばくも無い命のトーマスは、全てをベンジャミンに譲りたいと言いますが、彼には何の感情も湧かず、クイニーにそのことを伝えると、“18ドルで捨てた男”となじります。

自部屋に行く途中、“7回雷に打たれた”という老人が何気なく語りかけます。彼の「目も耳も記憶力も衰えたが、“幸運にも生きている”」という言葉に心を動かされます。

ベンジャミンは再びトーマスの屋敷へ戻り、彼を連れて別荘へ行くと、明け方の湖畔の風景を見せてあげました。トーマスは息を引き取ります。

後にベンジャミンはサプライズでニューヨークまで、デイジーの公演を観に行きますが、ダンサーとして絶頂期の彼女には、ベンジャミンを気づかう余裕がありませんでした。

互いの心に存在が常にあったとしても、時間だけがただ流れます。ベンジャミンはトーマスの遺産を相続しますが、クイニーのホームを手伝っていました。

ある日、ベンジャミンの元にパリから電報が届きます。パリでの公演でリハーサルを終えたデイジーが、通りへ出たとたん車に撥ねられ、入院をした知らせでした。

ベンジャミンは病院に駆けつけますが、デイジーの足の骨は複雑骨折しており、バレエダンサーの夢を断たれていました。

デイジーは惨めな姿を見られ、同情されるのを嫌い、自分の人生に関わらないでほしいと、ベンジャミンを拒絶します。

ベンジャミンは「いつまでも待つよ」というのが精一杯で病室を出ますが、しばらくパリを離れずに、外から病室の窓を見るため通っていました。

(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved

1962年の春、デイジーはニューオーリンズに戻り、ベンジャミンを訪ねます。ベンジャミンとデイジーの気持ちが、長い年月をかけてようやく重なりました。

その夜、二人は結ばれました。ベンジャミンはデイジーを誘って、離れ離れだった時間を埋めるように遠出の旅をします。そして、旅から帰った日がクイニーの葬儀でした。

ベンジャミンは相続した屋敷を売り、デイジーとの新たな暮らしのため、新居を購入し2人の甘い生活が始まりました。

そして、ある日デイジーは妊娠したことをベンジャミンに告げます。それは彼にとって喜びであるとともに、重大な決断をしなければならないできごとでした。

ベンジャミンは自分がどんどん若返り、やがて生まれてくる子供と変わらぬ姿になり、父親としての役目ができないことを恐れました。

テレビのニュースでは、あのエリザベス・アボットが史上最年長で、英仏の海峡を泳いで横断したことを伝えていました。

デイジーの腹部は足下が見えないくらいに大きくなり、それが原因で階段を踏み外し階下に落ちると、そのまま女児を出産しました。

ベンジャミンは自分を生んで亡くなった母と同じ名前の“キャロライン”と名付けました。デイジーの病床で日記を読むキャロラインは、自分の父親がベンジャミンだと知ります。

普通なら3人で幸せな家庭生活を送るはずでしたが、ベンジャミンの不安は膨らむばかりで、デイジーにも父親不在で、キャロラインと自分を育てることになると話します。

そして、キャロラインが1歳の誕生日を迎えた時、ベンジャミンは残された遺産を全て処分し、デイジーと娘の生活費として残して姿を消しました。日記にはキャロラインが2歳になった1970年から、1981年までのメッセージが書かれた葉書が出てきます。

キャロラインが12歳になった時、ベンジャミンはデイジーのバレエ教室を訪ね、素性は話さず娘と再会し、それ以降は会うことはありませんでした。

デイジーの再婚相手が亡くなり独りになったある日、老人ホームから彼女に1本の電話が入ります。

10代の少年の姿になったベンジャミンは、記憶の大半を失い自分のことすら分からない状態で、児童養護施設に保護されていました。

所持品から“ノーラン財団老人ホーム”に連絡が入り、義妹が兄だと証言して、デイジーにも連絡がいきました。ベンジャミンは混乱し、デイジーのことも忘れていましたが、デイジーはホームに入居して、彼の面倒をみるため暮らし始めます。

ベンジャミンの姿は幼児となって手がかかるようになり、2002年駅の時計が新しいものに掛け変わります。

2003年の春、デイジーはすでに老女となり、ベンジャミンは赤ん坊の姿になると、彼は彼女の腕の中で眠るようにその生涯を閉じました。

キャロラインがその日記を読み終えると同時に、ハリケーンが上陸し停電がおきます。デイジーは就寝前に必ずつぶやいた「おやすみ、ベンジャミン」と言って息を引き取ります。

映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の感想と評価

(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved

映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は2009年公開の作品ですが、1991年〜1992年頃に、スティーブン・スピルバーグが映画化権を得て、トム・クルーズの主演で動いていました。

しかしその企画はなくなってしまい、エリック・ロスによって脚本がリライトされ、それを読んだデビッド・フィンチャーが、気に入ったという過程で2001年から制作に入りました。

「限りある人生」について考えさせられる

ベンジャミン・バトンは両親の愛情を知らず、老人のような姿で身体が不自由という、不幸な幼少期を過ごします。

見た目と身体機能は高齢者と変わらず、記憶や知識は認知症の高齢者と似てますが、好奇心は同じ年代の子供と同じです。長生きはできないと医師に言われたベンジャミンは、終焉の時を待つ老人と暮らす中で、生死の繰り返しを見て成長します。

しかし、ホームにくる高齢者達には、各々に違う長い人生があります。ベンジャミンは入居者の人生の一端を見て「人生には限りがある」ことを知ります。

そして、彼が若返っていると気づいたことで、“未来”があると確信し、17歳から未来へ向かって、世界を見る旅に出ました。普通に育った17歳は人生に限りがあるなど、あまり考えないものですが、ベンジャミンには、余すことない人生を送るという情熱が育まれました。

複雑な出生を理解してくれたデイジーとの出会いも稀有でした。2人とも恋愛経験は重ねますが、互いの愛は特別でした。

ベンジャミンとデイジーは、共に人生を歩み育むことができませんが、別れても心から消えることのない存在というのが、切なくも濃厚で豊かな愛だと感じさせます。

互いが思い合い愛し続けていたからこそ、デイジーはベンジャミンの終焉を看取り、ベンジャミンは愛する人の腕の中で、安らかに死ぬことができました

そしてデイジーも愛する人との間にできた、愛娘に看取られベンジャミンの元に旅立ちます。「限りある人生」ベンジャミンとデイジーの人生は幸福な生涯でした。

“ハチドリ”と“ハリケーン”が意味するもの

作中に出てくるマイク船長は身体に入れた“ハチドリ”のタトゥを見せながら、その特殊な羽の動かし方について説明します。

ハチドリは普通の鳥と違い、翼を八の字に高速で羽ばたかせることで、ホバリングさせて花の蜜を吸い生きる鳥です。

その羽の動きは八の字を横にしたような感じで、「無限(∞)」を表しているとマイクは語りました。

ハチドリはマイク船長が戦死し、ベンジャミンが護衛艦に助けられたあと、大空に高く羽ばたいていき、デイジーが亡くなり、ハリケーンで荒れた空に羽ばたいていく場面ででてきます。

海外に“輪廻”という思想はあまりなさそうですが、ハチドリの羽ばたきを“無限”と考えた時、命は永遠に繰り返すことの象徴のように見ることができます。

そして、もうひとつ象徴的だったのが“ハリケーン”です。冒頭、ハリケーンが上陸する場面ではじまり、デイジーが“時を戻す”意味の逆回りする時計の話をします。

ハリケーンは反時計回りに回転する嵐なので、ベンジャミンの日記を読むことで、過去に遡ることを意味し、逆に失ったものは戻せないことも意味していました。

ハチドリとハリケーンが示すのは、命は永遠に繰り返されるが、人の一生は二度と戻らないことを表し、本作のテーマの象徴として用いられたのでしょう。

まとめ

(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved

“人間も老いてくると、子供に返る”という言葉を耳にすることがありますが、この『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は、それを体現化したような作品でもあります。

姿は80代の老人のようでも、生まれたばかりの赤ん坊が、誰かの助けなしでは生きられないように、高齢になり子供から赤ん坊の姿になっても、手がかかることに違いはなく、心身の“成長と後退”は似ていると感じさせました。

“人は生まれる時も死ぬ時も一人”という意見もありますが、人の手を借りて生まれ、亡くなる時も見守られて逝きたいものです。

迷ってばかりの人生はハチドリの羽ばたきのように、高速に過ぎていき、後悔しても時間は戻すことができません。この映画はどんな境遇であれどう生きることが、素晴らしい人生なのかを考えさせる作品でした。




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