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Entry 2017/06/16
Update

エンドレス・ポエトリーあらすじ考察と評価!公開日と劇場は?

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

日本公開日が2017年11月18日になるアレハンドロ・ホドロフスキー監督の新作『エンドレス・ポエトリー』。

今作は自身の幼少期を題材にした『リアリティのダンス』の続編にあたる作品で、今から映画ファンの間では話題になっている作品です。

ホドロフスキー監督の『エンドレス・ポエトリー』をご紹介します。

1.映画『エンドレス・ポエトリー』の作品情報

【公開】
2017年(フランス・チリ・日本映画合作)

【脚本・監督・制作総指揮】
アレハンドロ・ホドロフスキー

【キャスト】
アダン・ホドロフスキー、パメラ・フローレス、ブロンティス・ホドロフスキー、レアンドロ・ターブ、イェレミアス・ハースコビッツ

【作品概要】
『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』などでカルト的な人気を誇るアレハンドロ・ホドロフスキー監督による自伝的作品「リアリティのダンス」の続編。

ホドロフスキー監督の長男ブロンティス・ホドロフスキーはホドロフスキー監督の父親役、青年となったホドロフスキー監督役を末っ子の息子のアダン・ホドロフスキーが前作に引き続き演じています。

また、撮影に『恋する惑星』などのクリストファー・ドイルが、ホドロフスキー作品に初参加。

2.アレハンドロ・ホドロフスキーのプロフィール

伝説的なカルト映画『エル・トポ』(1970)

アレハンドロ・ホドロフスキー・プルジャンスキー(Alexandro Jodorowsky Prullansky)は、1929年2月17日生まれのチリ出身の映画監督。

チリのボリビア国境近くの町トコピージャに生まれたロシア系ユダヤ人です。

首都にあるサンティアゴ大学で心理学と哲学を学んでいたが、マルセル・カルネ監督の映画『天井桟敷の人々』を観たのをきっかけにパントマイムに没頭していき、大学を退学します。

1953年渡仏し、実験的な映画を制作したり、マルセル・マルソーとの戯曲の共著は100作に登ります。

1957年にトーマス・マン原作の短編『LA CRAVATE』を製作して映画監督デビュー。この作品はジャン・コクトーに絶賛されました。

やがて、メキシコに渡り、1967年に『ファンド・アンド・リス』(日本劇場未公開)を制作して、監督・脚本・出演・音楽を担当します。

1970年に制作した映画『エル・トポ』が、“もしフェリーニが西部劇を、クロサワがキリスト映画を撮ったらこうなったであろう”と絶賛され、カルト的な人気と支持を得ました。

また、ジョン・レノンやアンディ・ウォーホル、ミック・ジャガーなどから絶賛され、その中でも作品に深い感銘を受けたジョン・レノンは同作と次回作の興行権を買い取りました。

1973年の『ホーリー・マウンテン』もアメリカでロング・ラン上映が達成され、またも大きな話題となります。

やがて、1975年にSF超大作『デューン』の製作に着手します。

メカデザインにSF画家のクリス・フォス、クリーチャーとキャラクターのデザインにバンド・デシネのカリスマ作家メビウス、特撮担当にダン・オバノン、悪役ハルコンネン男爵の城のデザインにH・R・ギーガーを起用しました。

キャストもまた一流のメンバーを構想して、ハルコンネン役にオーソン・ウェルズ、皇帝役にはサルバドール・ダリ、他にもミック・ジャガーやデビッド・キャラダインなどをキャスティング。

さらに音楽担当はピンク・フロイドやマグマが製作するなど、まさに各界から一流のメンバーが集められたのですが、1年間の作業の後、配給元が決まらず、企画は中止。ホドロフスキー監督の映画を待ち望んでいたファンも大きな落胆をします。

1989年に商業映画を意識した作品『サンタ・サングレ 聖なる血』を制作して、これを含め3作品を監督した後、フランスのコミックの原作者に転向した傍ら、マルセイユ・タロットの研究と復刻事業などに従事。

2013年に自伝的な映画『リアリティのダンス』完成させました。

【フィルモグラフィ】
短編映画『LA CRAVATE La cravate 』(1957)
『ファンド・アンド・リス(Fando y Lis)』 (1967)
『エル・トポ(El Topo)』(1969)
『ホーリー・マウンテン(The Holy Mountain)』(1973)
『Tusk』(1980)
『サンタ・サングレ/聖なる血 (Santa Sangre)』(1989)
『ホドロフスキーの虹泥棒』The Rainbow Thief』(1990)
『リアリティのダンス(La danza de la realidad)』(2013)
『エンドレス・ポエトリー(Poesía Sin Fin)』(2016)

3.映画『エンドレス・ポエトリー』のあらすじ


(C)Pascale Montandon-Jodorowsky

この物語は、ホドロフスキー一家が故郷トコピージャから首都サンティアゴへ移住するところから始まります…。

青年となったアレハンドロは、自分に自信の無いことや、抑圧的な両親との関係に悩みを抱えています。

この環境から脱して何とか自分の道を模索したい葛藤をしていました。

ある日、アレハンドロは従兄リカルドに連れられ芸術家姉妹の家を訪ねることになりました。

そこには古い規則や制約に縛られないダンサーや彫刻家、ほかにも、画家、詩人など、若いアーティストがともに暮らしていました。

彼らと接する中でアレハンドロは、ついに自分が囚われていた檻のような価値観から解放されます。

エンリケ・リンやニカノール・パラなど、後に世界的な詩人となる人物たちとの出会い。

さらには初めて恋に落ちたステジャ・ディアスとの関係で、アレハンドロの詩的運命は未知の世界へと紐解かれていく…。

4.前作『リアリティのダンス』のあらすじ

1920年代のチリの小さな町トコピージャ。

共産党員として厳格な父親であるハイメと、息子は亡き父の輪廻転生による生まれ変わりだと信じる母親サラ。

そして、二人の間に生まれた少年アレハンドロは、ユダヤ人の血を引く理由から周囲の子どもたちから揶揄われている存在でした。

息子を“真”の男に育てたいハイメは、アレハンドロに対して身体的暴力を振るうなどの行動をとります。

一方で、父ハイメは、チリの右翼系の大統領の暗殺計画を企てますが失敗。

それが原因となり、長らく自宅に帰ることができなくなってしまいます。その間、アレハンドロは母のサラと、より強い関係を築いていくようになります。

一方でナチスに収監されて拷問を受けながらも、ハイメは何とかしてトコピージャに帰郷しました。

しかし、ハイメと家族たちは町に住み続けることができなくなり、船に乗込んだ3人はトコピージャを後にする…。

5.『エンドレス・ポエトリー』のポイント①
【ホドロフスキーとの共有体験】

ホドロフスキーから日本のファンへのメッセージ

『エンドレス・ポエトリー』は、自身の幼少期を題材にした『リアリティのダンス』の続編として、悩みや葛藤を抱えた青年ホドロフスキーが、アヴァンギャルドな芸術家と交流する様子を描いた映画です。

この作品を撮影するにあたって製作は、フランス、チリ、日本による合作映画となりました。

また、資金調達の一部はクラウドファンディングサイト「キックスターター」や「インディゴーゴー」での呼びかけで、世界各国から新作を熱望する支援者約9,000人によって、約9,000万円(日本円換算)が集められ、映画『エンドレス・ポエトリー』は完成したのです。

日本のファンに向けたホドロフスキーのメッセージ動画には、「思うにきっと前世は日本人でした」とだから嬉しいのだと熱く語るほか、「映画の中でご覧になるすべての場所は、私が若いころに重要な経験をした場所です。同じ場所、同じ家、まったく同じです。起こった出来事もすべて」と強い思いを語ってくれています。

なぜ、ホドロフスキー監督は、“若いころに重要な経験をした場所です。同じ場所、同じ家、まったく同じです。起こった出来事もすべて”と述べ、これを映画として残し留めたのでしょうか。

映画という擬似的であれ、“同じ場所”を観客にも目撃させ、体感させ、共有することで限界のないアートの可能性を見せたのではないでしょうか。

『エンドレス・ポエトリー』のポイント②
【撮影監督クリストファー・ドイルのフレーミング】

恋する惑星』予告編

今作の撮影監督は、ウォン・カーウァイ監督作『恋する惑星』や、ガス・ヴァン・サント監督、ジム・ジャームッシュ監督たちの作品に参加している、クリストファー・ドイルが務めています。

クリストファー・ドイル(Christopher Doyle)は、1952年5月2日にオーストラリアのシドニーで生まれた映画撮影監督

幼い頃に日本文学を多読して18歳から商船員や石油採掘の仕事に就いた後、中国で映画撮影の仕事を始めます。

やがて、ウォン・カーウァイ監督作品の手持ちのズームカメラ撮影で一躍有名になりました。

しかし、作品の内容によっては、スタイリッシュな画面構成や色彩構成を施すこともあり、ホドロフスキー作品には初めて参加することで、どのようなフレーミンングや画面構成をするのかに要注目です!

『エンドレス・ポエトリー』のポイント③
【魅惑的なマギッシャーレアリスムス】


(C)Pascale Montandon-Jodorowsky

アレハンドロ・ホドロフスキー監督が敬意を表する映画監督に、イタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニの名を挙げています。

冒頭の予告編を観ていただくと解るように『エンドレス・ポエトリー』はフェリーニ好みな風合いが確かに見え隠れしています。

舞台となるチリの首都サンティアゴで、悩みながらも葛藤した青年ホドロフスキーが、現地のアヴァンギャルドな文化的な人たちと交流しながら、芸術や愛の力に触れることで、自身が解放たれていく様は奇異なものを好んだフェリーニを思わせます。

参考作品フェデリコ・フェリーニ監督『アマルコルド』(1973)

しかし、この作品にはホドロフスキー監督の「マギッシャーレアリスムス」も十分に発揮されています。
マギッシャーレアリスムス(Magischer Realismus)、とは、魔術的現実主義と訳され、日常にあるものと日常にないものが融合した作品に使われる芸術表現のことです。

伝承や神話、非合理などの非現実的なものと現実が相まって融合している手法ですが、時にはシュルレアリスム(超現実主義)と同義に扱われることもあります。

『エンドレス・ポエトリー』の物語の中で、次々にイメージを解放するかのように移り変わる幻影のような世界観。

これらがあなたの感情に強く働きかけたとしたら、それが「マギッシャーレアリスムス」であり、ホドロフスキー監督の真骨頂です。

ぜひ、酔いしれて観てはいかがでしょうか?

*注・「マギッシャーレアリスムス」は「マジックリアリズム」と同じ意味ではありますが、言葉の印象的に伝わりづらいと考えそのように書くことにしました。

まとめ


(C)Pascale Montandon-Jodorowsky

アレハンドロ・ホドロフスキー監督は『エンドレス・ポエトリー』をマギッシャーレアリスムスだとし、観たものが真の自分自身を発見する手がかりだと述べています。

それは監督自身が昔に見た“同じ場所、同じ家、まったく同じ”で時間を超越して存在し、語られています。

ホドロフスキー監督は、このようにも述べています。

「“生きること”への招待ともいうべき作品です」

2017年11月18日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク渋谷ほか全国順次公開。

アレハンドロ・ホドロフスキー監督の『エンドレス・ポエトリー』。

ぜひ、お見逃しなく!

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