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【ネタバレ】アンダーカレント|あらすじ感想と結末評価。“ラストシーンの意味”から今泉映画の揺れ動く人の深層心理を探る

  • Writer :
  • からさわゆみこ

人を知ろうとするより前に、自分が抱える謎と向き合うための映画

今回ご紹介する映画『アンダーカレント』は、海外でも人気の漫画家・豊田徹也の長編漫画を、『愛がなんだ』(2019)、『窓辺にて』(2022)の今泉力哉監督が主演・真木よう子で実写化した映画です。

かなえは父亡き後、家業の銭湯を継いで、夫の悟とともに平穏な日々を送っていました。ところがある日、銭湯組合の慰安旅行先で悟が突然失踪してしまいます。

途方に暮れたかなえは銭湯を一時休業しますが、進展のない状況を諦め営業を再開。数日後、銭湯組合の紹介を通じて、堀という男が働きに現れます。

久しぶりに大学時代の友人菅野と再会したかなえは、事情を話すと菅野は夫の知人の探偵・山崎を紹介。かなえは山崎に悟の捜査を依頼し、堀との銭湯を切り盛りしながら、穏やかな日常を取り戻していくのですが……。

映画『アンダーカレント』の作品情報


(C)豊田徹也/講談社(C)2023「アンダーカレント」製作委員会

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督】
今泉力哉

【原作】
豊田徹也

【脚本】
澤井香織、今泉力哉

【キャスト】
真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央

【作品概要】
主人公・かなえ役には『ゆれる』(2006)で、第30回山路ふみ子映画賞新人女優賞を受賞し、『ポイズンベリー』(2015)で主演を務めた他、話題作へ多く出演する真木よう子。

謎の男・堀役を『朝が来る』(2020)、『福田村事件』(2023)など話題作で難しい役柄を多く演じ、常に注目を集める井浦新が務めます。

胡散臭い探偵・山崎役は『ぐるりのこと。』で初主演を務め、ブルーリボン賞新人賞を受賞し、『そして父になる』(2013)では温和な父親役、同年公開の『凶悪』では非道な悪役を演じるなど、存在感の強いリリー・フランキー。

共演には『福田村事件』(2023)では井浦とも共演し、『怪物』(2023)など近々で話題作の出演が続く永山瑛太が失踪した悟役を、ユニークな演技でテレビドラマを中心に、幅広い作品で人気を集める江口のりこが菅野役を演じます。

映画『アンダーカレント』のあらすじとネタバレ


(C)豊田徹也/講談社(C)2023「アンダーカレント」製作委員会

関口かなえは2年前に父紘三を亡くした後、父が経営していた銭湯「月乃湯」を受け継ぎ、共同経営者の夫・悟とパートの木嶋の3人で営んでいました。

ある朝、かなえは銭湯の入り口に貼った「しばらく休業いたします」と書かれた貼り紙をはがします。休業していた理由は悟が理由も告げず、突然失踪してしまったからです。

いつまでも休んでいられないと営業を再開し、常連客も徐々に戻りますが、夫が見つかったわけではないと知ると「かなちゃんは気が強いからなぁ」と噂話をします。

数日後、銭湯組合の紹介で働きに来たという、堀と名乗る男が訪ねてきました。たしかにかなえは、臨時の従業員の求人を銭湯組合の大村に依頼していました。

しかし、履歴書に目を通したかなえは堀の持つ資格を見て、寂れた銭湯でしかも臨時で働くことに戸惑い、考え直したらどうかと提案します。

ところが、それでも堀は「月乃湯」でその日から働きたいと言います。また、銭湯組合から住み込みと聞いて来た堀は「部屋はどこか」と尋ね、かなえは焦りました。

住み込みは昔のことで、今は部屋がありません。すると堀は竈の脇にあった、かつての休憩部屋を指差すと「アパートが見つかるまで」という条件で住むことにします。

かなえがスーパーで買い物をしていると、大学時代の友人・菅野と偶然会います。菅野の夫の実家が近所で、生まれたばかりの息子を連れて会って来たばかりだと言います。

悟も同じ大学に通う顔見知りでしたが、かなえとはゼミも違いあまり接点がなかったので、2人が結婚したことに菅野は驚いていました。

かなえはある日、悟がフラッと銭湯を訪ねて来て、いろいろ話すうちに彼は交通遺児で両親がおらず、自分も早くに母を亡くしていたことで、意気投合したのだと話します。

菅野は近いうちに夫婦同士で飲みに行こうと誘います。かなえは少し躊躇しながら、その悟が失踪してしまったことを話します。かなえは失踪したこともつらいが、一番つらいのは「彼にとって私は本当の気持ちを話せる相手じゃなかったこと」と言います。

数日後、菅野から電話が入り夫の知り合いの探偵を紹介するから、悟のことを調べてもらったらどうかと言われます。

かなえは喫茶店で山崎と待ち合わせをします。面会した彼はサングラスに不精髭で、一見チンピラ風で変わっていました。

悟について聞かれたかなえは、兵庫県出身で両親を交通事故で亡くしていると伝え、さらに人物像を質問されると、常連客からは人当たりがよく、優しい好青年だと言われていると答えます。

すると山崎は悟について、彼の“人当たりの良さ”や“優しさ”は、本当の自分を隠すための表面的な部分だと断言します。

かなえは会ったこともない彼の何がわかるのかと、山崎に不快感を抱きます。山崎は「人をわかるってどういうことですか?」と質問すると、かなえは閉口してしまいます。

山崎はとりあえず調査は3ヶ月間行い、2週間に一度進捗を報告すると告げて解散します。

以下、『アンダーカレント』ネタバレ・結末の記載がございます。『アンダーカレント』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)豊田徹也/講談社(C)2023「アンダーカレント」製作委員会

7月、堀はアパートがみつかり月乃湯に通いながら働きます。タバコ屋の主人で常連客のサブじいとも親しくなり、2人で将棋を打ったりしますが自分のことは語りません。

田島はどこの出身なのかと尋ねられると、堀は「九州」と答えますが、それにしては訛りがないと指摘します。堀は「こちらでの生活の方が長いからだ」と答えます。

最初の調査報告を聞くため、かなえが向かったのはカラオケ店でした。やはり風変わりな山崎に疑念を抱きますが、山崎は「大切な話はこういうところでするのが最適だ」と言います。

そして茶封筒から委任状で取ってきた、悟の戸籍謄本を差し出します。そこには悟が言っていた「兵庫県」の文字はなく「山形県」と書かれていました。

かなえは「交通遺児だから、施設が兵庫県だったのかも」と言いますが、山崎はある箇所に気がつかないかと、両親の欄を見るよう促します。

そこには2年前まで、彼の両親が“健在”だったことが記されていました。山崎は悟の両親は2年前、自宅の火災で焼死したのだと教えます。

悟から聞いていた話と全く違う事実を突きつけられ、かなえは困惑し茫然自失となってしまいます。それでも日常は流れていきます。

とある休日、知り合いの同業者のツテで、廃業する銭湯から重油バーナーを譲渡してもらうことになり、かなえは堀に運転を頼み一緒に取りに行くことにします。

車中、かなえは堀がこのままずっといてくれたら、薪の窯のままでもいいと言い出しますが、堀は「ずっとはいませんね」とサラッと答えます。

かなえは「行く先々で女を泣かせてきたんでしょう」とやけっぱちのように話しかけると、堀は淡々と「今日はどうしたんですか?」と返されてしまいます。

そうこうしているうちに、現地近くまで来ると仲介者に連絡を入れます。しかし、仲介者は廃業した銭湯が火事で全焼し、主人の内海が失踪したと告げます。

かなえは焼けた銭湯を眺めます。仲介者は内海について、妻を亡くしたのを機に廃業を決め、新しい人生に向けて意欲的だったので、失踪する心当たりがありませんでした。

かなえは自分の身に降りかかっていることとも重なり、やるせない気持ちで家路につきます。そして、おもむろに話し始めます。

かなえは幼い頃からm何度も同じ夢を見ていると切り出します。池のほとりで泣いている自分に、誰かから「どうして泣いているの?もう泣かなくても大丈夫だよ」と囁かれます。

そして声の主の手なのかは分からないが、何者かの手にゆっくりと首を絞められながら、水の中に沈められる……そんな夢だと教えます。かなえは「それが、自分の望んでいること」と語り、堀は黙ってそれを聞いていました。

山崎への調査依頼から3ヶ月が過ぎ、最終報告を受けるために、今度は遊園地を指定され出向きます。ところが山崎は携帯で“メリーゴーランド”に乗るよう言ったり、風船を買うよう指示。そして最後に、観覧車乗り場まで来るように言いました。

最初は山崎のことを訝し気に感じていたかなえも、遊び心のある彼のやり方にワクワクしていました。そして、山崎は観覧車の中で報告を始めます。

悟が失踪した直後に、彼の預金は全額引き出されていました。その後の足取りはつかめず、女性の影もなく、唯一以前の職場に親しい同僚の女性がいたが、今は全く接触はないと言います。

ところがその職場を辞めるきっかけとなったのが、その親しかった女性が会社の金を横領し、その容疑を悟がかぶったためだと説明しました。

山崎は調査が中途半端な形で終わることを詫びつつ、最後に「失踪者というのは絶対に見つからない」と告げます。かなえはその言葉に落胆するでもなく、山崎に感謝して別れます。

帰宅したかなえは夕飯を食べながら、堀に約束してほしいことがあると「あなたは黙って出て行かないで」と告げました。

そんな中、「月乃湯」に通う常連客・藤川美奈が慌てて駆け込んできます。8歳の娘・みゆが帰宅しないと言うのです。道路に放置されたランドセルが発見され、警察の捜査が始まりました。

かなえはこの出来事で、子どもの頃の記憶を思い出します。“さなえ”という仲良しの女の子がいて、よく遊んでいたことを。

そしてある日、さなえがかなえとガラス窓の前に並び、顔を見ながら「双子みたいに似ている」と言ってくれたことなどを思い出していました。


(C)豊田徹也/講談社(C)2023「アンダーカレント」製作委員会

かなえは木嶋に「ねぇ、子どもの頃“さなえ”ちゃんという子がいたよね?その子、どうしたっけ?」と聞き、側にいた堀の表情が驚きに変わります。

木嶋は突然の質問に動揺してしまい、「さ、さなえちゃんは……」と口ごもっていると、美奈が駆け込み、みゆが無事に発見されたと告げます。それを聞いたかなえは、その場に倒れて失神してしまいます。

かなえは25年前に不審者にさらわれ、その時にさなえが助けを求め叫んだことで、逆に不審者に捕まり溺死させられていました。

そしてかなえが逃げようとした時、犯人に「誰にも言うな!ずっと見てるぞ!」と脅され、さなえが自分の代わりに犠牲になったことを、彼女は告白できずにいました。

かなえは以後、気丈に振舞うことで誤魔化しながら気の強い大人になりますが、心の片隅に罪悪感を抱え、ずっと「死にたい」と思うようになっていました。

布団に寝かされたかなえは回想し、うなされ介抱してくれる堀に「殺して」とつぶやき、涙を流します。堀は彼女の頬を伝う涙をそっと拭いました。

かなえの父の命日、銭湯組合の大村が焼香しに来ます。そして堀の働きぶりが良いことを知ると「自分から売り込みにきただけあるな」と言います。

堀は銭湯協会の紹介で来たのではなく「“休業中”の貼り紙を見て大変そうだから、働かせてほしい」と協会に頼み込み、月乃湯に来たのでした。

そんな時、再び山崎から連絡が入り「悟が見つかった」と報せを受け、面会できる算段がついたと言われます。

面会の日、迎えに来た山崎の車の中で経緯を聞きます。最後の報告の日、山崎が双眼鏡でかなえを見ていると、彼女を尾行する者を見つけます。

かなえに変な指示を出したのは様子を探るためで、山崎は同行していた仲間に尾行者を捕まえさせたところ、その尾行者は悟が雇った探偵だったのです。

山崎は「会う心の準備はできていますか?」とかなえに聞くと、彼女は「大丈夫です」と答え、車は出発し待ち合わせ場所のビーチへ向かいます。

一方その頃、荷物をまとめてアパートを出る堀の姿がありました。タバコ屋の前を通り過ぎる堀をサブじいが見ていました。

ビーチのカフェで待つかなえの元に悟が到着します。無精ひげを生やした悟を見たかなえは「髭剃った方がいいよ」と言います。

悟は失踪した根本の原因を話し始めます。彼は幼い頃から大嘘つきで、そのことに罪悪感もなく、ありもしない都合のいい嘘がスラスラ出てきたのだと言いました。

しかし嘘は必ずバレる時がくるもので、ついた嘘を隠すためにさらに嘘を重ね、それを続けていくうちにボロを出し、嘘だと気付く人が現れたらそこから逃げ出す……そんなくり返しの人生だったと語りました。

また、かなえと会う前に勤めていた職場で、会社の金を横領した子をかばって、辞めたことになっているが、横領の真犯人は実は自分であり、彼女がしたかのように仕向けたとも言います。

かなえと付き合い結婚生活を重ねる中で、本当のことを全て話したいと思ったこともあったと言いますが、結局逃げ出してしまったと告白します。

かなえは「何か言いたげなのは、わかってた。もっと早く話してくれたら……」と返します。悟は離婚届は送っておいてと告げると、かなえは最後に一発殴らせてと言います。

しかし、彼女は自分がしていたマフラーを外すと、悟の首に巻くと「体に気をつけて」と言い、かなえと悟は決別をします。

そのころ、堀がバス停に向かって歩き、高台から一点をみつめます。そこにサブじいがやってきて、「昔、あの辺に池があったんだが……」と話し始めます。

幼い少女が殺害され溺死体で上がった事件があり、後に池は埋められ住宅地になったと語り、堀を見ながら彼の素性について聞き出します。

堀はさなえの歳の離れた兄でした。彼は妹と仲良しでしたが大きくなるにつれ、友達からひやかされることもあって距離を置き始め、その時からさなえは、かなえとよく遊ぶようになったと話します。

かなえとさなえは、サブじいの妻が営んでいた駄菓子屋の前でよく遊び、堀はさなえを迎えに来ていたので、顔に見覚えがあったのです。

堀は事件後、両親とともに父親の故郷である九州へ引っ越したが、妹の死から母親は立ち直れず、両親の仲も複雑になり一家離散になったと語りました。

やがて堀は就職し上京しますが、この土地は避けてきたといい、たまたま仕事の都合でこの土地に来た時、バスの車窓からかなえの姿を見つけたと言います。

日頃、成長したさなえの姿を想像していた堀は、かなえの顔を見てすぐにわかったと確信し、バスを降りて追跡し「月乃湯」にたどり着いたのだと話しました。

サブじいは「黙って去って本当にいいのかい?」と念を押します。堀は黙ったままうつむきますが、到着したバスには乗らず見送ります。

かなえが銭湯に戻ると、堀が薪を割っていました。「休日なのに」と言うと「明日の分を準備し忘れた」と答える堀。かなえは「夕飯、食べてってね」と声をかけます。

夕食を食べていると、堀が急に泣き出します。かなえはビックリしながら、堀にティッシュを渡したり、なだめたりしていると、堀は重い口を開きかなえに言います。

「さなえは……俺の妹です」

翌朝、犬の散歩をするかなえの後ろから、堀が一定の距離を保ちながらついて行きます。

『アンダーカレント』の感想と評価


(C)豊田徹也/講談社(C)2023「アンダーカレント」製作委員会

それぞれの“アンダーカレント”

「アンダーカレント」とは“潜流”とも呼ばれ、海流の表層部から下の深海部の海流を指しますが、“表面上では分からない、心の奥底に流れるもの”の比喩的な表現にも用いられます。

映画『アンダーカレント』は表向きでは分からない、人のつらい出来事や悲しみを心の奥底に隠し、記憶から消え去ってしまうほど傷つき、それでも深層心理の中で苦しむ原因になっていることを物語っていました。

主要な登場人物のかなえ、堀、悟の3人は、それぞれに「アンダーカレント」を抱えています

悟は“虚言癖”によって自分のついた嘘に追いつめられ、逃げるような生き方しかできない苦しみを抱えていました。

堀は妹・さなえの面影をずっと引きずりながらその面影に似ているかなえを偶然発見し、かなえを見守るように近くで暮らすようになります。

かなえは幼少期に親友・さなえが自分の身代わりのように亡くなり、犯人からの脅迫に怯え事実を話せなかったことが、深層心理の中で自責の念になり苦しんでいました。

悟は逃げ場に選んだかなえの元で、人としてまっとうな生き方を得られそうでしたが、将来の夢を語る幸せそうなかなえに、本当のことを話せず再び逃げだします。かなえの中に確立された自分のイメージを壊し、彼女に幻滅され拒絶される恐怖に負けてしまったのでしょう。

再会した時がかなえとの本当の別れになりましたが、本当の自分をさらけ出したのも、彼女が初めてだとしたら、それが今までの自分との決別となり、新たな人生を踏み出せたはずです。

堀のかなえに対する感情はどういうものだったのでしょうか?妹の身に起きたことを忘れ去り、平凡に暮らしていることに怒りを覚えた様子もありません。

さなえが言った通り2人は雰囲気が似ていて、成長したかなえは堀のイメージしていた妹そのもので、単にしばらくそばで見守りながら、さなえのことを覚えているか知りたかったのだと推察できます。

しかし、かなえはさなえのことをすっかり忘れているようで、複雑な心境になりながら、かなえの弱さや心の奥で苦しんでいることを知ります

ラストシーンの意味を考える

ラストシーンのかなえと堀の距離は、堀がさなえが自分の妹だと告白した後、2人は思いの丈をぶつけ合ったのだとわかります

堀は長い間かなえが妹の死で傷つき、罪悪感から生じた悪夢に苦しんでいたことを知り、かなえは自分の勇気のなさで、堀やその家族を苦しめていたことを知ります。

事実を知らない時には、2人で並んで犬の散歩をしたシーンもありますが、ラストシーンは少し離れた距離で散歩をします。

かなえは堀に「黙ってここを去らないでね」と言っていました。このあと堀が去ることも考えられますが、同じくかなえは悟に「もっと早く話してほしかった」とも言っています。

黙って去る残酷さと、真相を知る残酷さを知ったかなえは、“真実”は知るべきなのか、知らない方が幸せなのか、自問自答する姿がラストシーンに描かれていると伝わります。

ただ、かなえと堀は同じ苦しみを味わってきた同朋ともいえます。2人で銭湯を営みながら時間とともに、苦しみや悲しみを水に流し、立ち直っていくのではないかと希望を感じました

まとめ


(C)豊田徹也/講談社(C)2023「アンダーカレント」製作委員会

映画『アンダーカレント』は目にみえる表面的なことでは、人の真意、真実は理解できず、自分のことですら、本当の自分を理解していないことを物語っています。

そのことを海面の流れと深水の流れの違いに例え、穏やかそうな流れに見えても、水面下では激流が流れ、心がかき乱されているやもしれない……そんな人の姿を描きました。

人は傷つきながらも感情に流されぬよう、平静を保とうとすることがあります。また、自分でもわからない“性癖”で、現実逃避することも……いずれも心の中にある、“失うことの恐怖”から発露していました。

本作はそんな人の繊細な部分を大切に描いた作品といえます。原作者の豊田徹也は「愛読者の人たちを、がっかりさせないように作ってほしい」と要望しており、その言葉通りの作品になっているのではないでしょうか。

特に作品全体に漂う水中のような静けさ、息の詰まるような心の機微が、細野晴臣の音楽によって存分に表現されています。

元より人のことなど知ろうとするのが無茶であり、それでも言葉を交わすことで、心を通わせる瞬間も芽生えます。映画『アンダーカレント』は、話すことを恐れない人間関係はまず“話すこと”が穏やかに生きる一歩なのだと伝えてくれた映画なのです。



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