映画『TOUCH/タッチ』は2025年1月24日(金)より全国順次公開!
アイスランドで反響を呼んだ恋愛小説を原作として、バルタザール・コルマウクル監督が手がけた映画『TOUCH/タッチ』。
1970〜80年代のロンドンと近年の日本を舞台に、一人の女性に惹かれながらも突然の別れを遂げられ、長い年月を経て再会の旅に出た一人の男性の姿を描きます。
本作は2024年11月22日より広島で行われた「広島国際映画祭2024」でジャパンプレミア上映され、当日はコルマウクル監督が登壇し、舞台挨拶を行いました。
今回は作品の考察とともに、その映画祭での模様を合わせてレポートします。
CONTENTS
映画『TOUCH/タッチ』の作品情報
【日本公開】
2022年(アイスランド・イギリス合作映画)
【英題】
TOUCH
【監督】
バルタザール・コルマウクル
【キャスト】
エギル・オラフソン、Kōki,、パルミ・コルマウクル、本木雅弘、奈良橋陽子、ルース・シーン、中村雅俊ほか
【作品概要】
アイスランドに住む初老の男性が、かつて若い頃に突然謎の失踪を遂げた女性の行方を追って、回想とともに日本を旅する姿を描いたラブストーリー。2020年にアイスランドの作家オラフ・オラフソン発表した小説を原作としています。
作品を手がけたのは『エベレスト 3D』(2015)、『殺意の誓約』(2016)などのサスペンス作品で知られるバルタザール・コルマウクル監督。
本作では純粋なラブストーリーにチャレンジしています。また日本からのキャストとしてKōki,、本木雅弘、中村雅俊らが出演を果たしています。
原爆の悲劇に言及したメッセージ性が感じられるこの物語は広島でも撮影が行われ、広島県広島市、呉市、竹原市の印象的な風景が物語に花を添えています。
映画『TOUCH/タッチ』のあらすじ
初期の認知症の診断を受けた、アイスランドのレストラン経営者クリストファー。
コロナウイルスの世界的流行が始まった頃に診断を受けていた彼は、医師より「やり残したこと」を問われ、日本に向けて旅に出ることを決意します。
50年前、学生時代を送るロンドンで出会い恋に落ちながらも突然、彼の雇い主でもあった日本料理店を営む父・高橋とともに彼の前から姿を消した女性・ミコを探すために。
薄れゆく記憶と戦いながら、ロンドンを訪れたクリストファーは、当時高橋の店で共に働いていたヒトミという女性より、一通の手紙を見せてもらいます。
そしてその住所をたどり、クリストファーは日本を訪れます。東京を経て広島へ。そして、時を超えた切ない真実が明らかになっていくのでした……。
バルタザール・コルマウクル監督プロフィール
1966年アイスランド生まれ。1990年にアイスランド芸術アカデミーを俳優として卒業し、国立劇場の劇団員に。10年近く立て続けに主役に抜擢され、若手俳優として頭角を現し、高い評価を受ける。
90年代には、最も人気のある若手俳優の一人として長編映画でキャリアを積む一方、自身の会社であるThe Air Castleを共同設立し舞台劇やミュージカルをプロデュース、演出する。
そしてさらなる芸術の道を探求し続け、映画製作会社Blueeyes Productions / Sögnを設立し、2000年にはビクトリア・アブリル主演の長編映画『101 Reykjavík(※原題)』を製作。この作品の国際的な成功によって、コルマウクルはVariety誌の“注目すべき監督10人”に選ばれたほか、トロント国際映画祭でも賞を受賞する。
以降、欧米を股にかけて監督、プロデューサー、脚本家として精力的に活動し、『湿地』(2015)、『ハード・ラッシュ』(2013)、『2ガンズ』(2013)、『エベレスト 3D』(2015)、『殺意の誓約』(2017)、『アドリフト 41日間の漂流』(2020)、そして最近では『ビースト』(2022)などの長編映画を手がけている。
「広島国際映画祭2024」バルタザール・コルマウクル監督トークショー
本作は「広島国際映画祭2024」の二日目となる11月23日にプレミア上映され、上映後には特別ゲストとしてバルタザール・コルマウクル監督が登壇し、舞台挨拶とともに撮影当時を振り返るトークショーを行いました。
コルマウクル監督が本作の原作に触れたきっかけは、クリスマスに娘からプレゼントされた原作本。
「シンプルだけど『世界で最も大きな犯罪、悪』が起きた時代へ、静かに連れていってくれるような物語。ある意味人々がまたこの罪を繰り返すのではないかという恐れがほのめかされているようにも思えました」と、原作を読んだ際の印象を語ります。
また注目ポイントであるKōki,、本木雅弘という日本人俳優の起用。特にKōki,に関してはその外観的イメージのみで出演してもらうことを決めており、特別な個性を印象として抱いたわけではない一方で、監督との信頼関係や監督の息子でメインキャストを務めたパルミ・コルマウクルとの積極的な役作りでいい空気感を作り上げていたことを高く評価します。
日本を描くという点については、自国アイスランドを例に挙げ「アイスランドはアメリカなどの映画でわりにバカにされたような描き方をされることが多く、私はそんな作品を見るのが嫌いなんです。日本もそんな風に描きたくはないと思いました」と、さまざまな視点でリアルな日本文化を描くことにこだわったことを回想します。
またロケハンで訪れた広島の民宿では、偶然にも被爆二世であるという女主人と出会い、広島の原爆投下に関わる生の声を聞いたりいわれのあるものを見せてもらったりと、さらに反核に対する意識を深め、撮影に臨んだ様子。
そして広島で起きた歴史的悲劇について「これはどう考えても人類最大の罪。世界で今その危機が再び訪れようとしている中で、若い世代の人はそれを意識していない気もします。だからこういった話を広げていかなければならない。この映画を通じて、その『会話』が始まれば」と、作品を通して訴えかける自身の思いを語りました。
映画『TOUCH/タッチ』の感想と評価
若き日に出会った男女が愛し合い、ある日突然別れ、そして年月を経て再会の旅に出る。
この作品がプレミア上映された広島国際映画祭2024は、上映に先だって藤井道人監督の映画『青春18×2君へと続く道』が上映されました。結末などに若干の違いはあれど、奇しくも非常に似たラブストーリーを展開するという意味で共通した世界観が存在するようにも感じられます。
自身の思いや相手の真意を理解することに対し長い期間を要すること、そして旅というもの、あるいは何らかのプロセスを講じる必要があるということは、恋愛という行為が壊れたことに対して、修復するために必要な要素であり、その意味では恋愛映画としてまさしく必要な要素を物語に盛り込んだ一つの形式であるといえるでしょう。
一方で広島でも撮影が行われた本作には、この地に深い関わりを持つ平和、反核という要素が織り込まれている部分にも注目すべきポイントを擁しています。具体的には被爆後の人々に付きまという「被爆者」の宿命、彼らが受けた偏見についてのものであります。
ユニークなポイントとしては、作品全体に盛り込まれた「反核」の要素と、この物語の時系列の中で比較的新しい時代設定として、コロナ禍が広がり始めた世界の要素をうまく交差させている点にあります。
それぞれが直接的に交わったり、ぶつかったりするような展開は描かれないのですが、コロナ禍の時期には感染者、非感染者という立場の違いによって、社会では偏見的な目線が生まれました。このトピックスを、どこか被爆者が終戦後に受けたさまざまな偏見というポイントとうまく被せている印象があります。
物語のクライマックスでは、登場人物がある意味このコロナ禍の際にタブーとされていた壁を越えてしまうシーンがあります。一般論的には批難されがちな行為でありながらも、そんなタブーすら超えてしまう、それだけ愛という関係が強いことをうまく示しているようでもあります。
そして逆に、そんな愛を感じるシーンが平和、反核という困難なテーマに対して、何らかのヒントや問題に向き合うために必要な要素であるということを示す象徴のようにも感じられるわけです。
新たな時代における、平和という課題に向けた新たなアプローチの一つと感じられるものでもあります。
まとめ
作品で最も注目すべきポイントは、アイスランドから広島という場所を通して見た平和、反核というテーマに対する視点にあります。
非常に印象的な演技を見せたKōki,、本木雅弘という2人の日本人俳優ですが、彼らのたたずまいは劇中ではとちらかというと静的な存在感を示しており、感情の変化のようなところで印象的を残す演出とはなっていません。
作品の原作がアイスランドの作家によるものであったことからも、視点はあくまでアイスランドから見た日本、原爆投下という歴史の印象といったものがベースとなっており、「果たして海外の人たちは、核兵器という問題に対する認識、意識というものをどのように抱いているのか」という興味も湧いてくるところであります。
近年では『オッペンハイマー』などの、海外の人の視点による反核というテーマを取り上げた作品が発表され始めていることは顕著な傾向であり、このテーマに対する世界的な興味が高まっていることは想像できるものであります。
その意味では、海外作品におけるこの平和、反核というテーマを織り込んだ作品に対して、国内の同様な作品との差異などを議論していくことは、平和という課題を考え、意識していく上でも非常に意義のあるものであるとも考えられます。
映画『TOUCH/タッチ』は2025年1月24日(金)より全国順次公開!