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Entry 2021/07/08
Update

『映画 太陽の子』あらすじ感想と内容解説。キャスト三浦春馬×有村架純× 柳楽優弥で描く日本の原爆開発の背景|映画という星空を知るひとよ70

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第70回

『映画 太陽の子』は、2021年8月6日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、イオンシネマ他にてロードショー!

本作は、2020年の終戦記念日にNHK総合で放送され、SNSを中心に大きな反響を呼んだ特集ドラマ『太陽の子』の映画版です。

黒崎博監督が手掛け、柳楽優弥、有村架純、三浦春馬らが幼馴染みの3人を等身大の若者として演じています。

太平洋戦争末期、京都大学の物理学研究室に海軍から新型爆弾を作る密命が下されます。

これは兵器開発ではないか、そうとは思わず物理学の研究として没頭するべきなのかと苦悩する主人公と、兵士となって戦地に赴く弟、見守る幼馴染みの3人を通して、時代の波に翻弄されていく若者たちの姿を描き出します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

『映画 太陽の子』の作品情報


(C)ELEVEN ARTS Studios/2021「太陽の子」フィルムパートナーズ

【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本】
黒崎博

【プロデューサー】
コウ・モリ、土屋勝裕、浜野高宏

【音楽】
ニコ・ミューリー

【主題歌】
『彼方で』福山正治

【出演】
柳楽優弥、有村架純、三浦春馬、イッセー尾形、山本晋也、ピーター・ストーメア、三浦誠己、宇野祥平、尾上寛之、渡辺大知、葉山奨之、奥野瑛太、土居志央梨、國村隼、田中裕子

【作品情報】
『映画 太陽の子』は、終戦75周年を迎えた2020年の終戦記念日にNHK総合で放送された特集ドラマ『太陽の子』の映画版です。原爆開発を背景に、時代に翻弄される若者たちの苦悩と青春を、テレビドラマとは異なる視点で描き出しています。

京都大学で物理学を研究する研究者の兄に『夜明け』(2019)の柳楽優弥、軍隊に入隊して戦地に赴く弟に『アイネクライネナハトムジーク』(2019)の三浦春馬、2人の兄弟の幼馴染みに『花束みたいな恋をした』(2021)で好演した有村架純が扮し、激動の時代を駆け抜ける若者たちの青春群像劇を熱演。監督、脚本は黒崎博が務めました。

『映画 太陽の子』のあらすじ


(C)ELEVEN ARTS Studios/2021「太陽の子」フィルムパートナーズ

1945年の夏。軍の密命を受けた京都帝国大学・物理学研究室の若き科学者・石村修(柳楽優弥)と研究員たちは、原子爆弾の研究開発を進めていました。

研究に没頭する日々が過ぎていくにつれ、戦争状況も次第に悪化します。

その頃、建物疎開で家を失った修の幼馴染の朝倉世津(有村架純)が、祖父と一緒に大文字山の近くにある修の家に居候することになりました。

時を同じくして、修の弟・裕之(三浦春馬)が肺病療養のため、戦地から一時帰郷してきました。

久しぶりの再会を喜ぶ3人と、それを微笑ましく見つめる兄弟の母フミ(田中裕子)。

ですが、ささやかな食卓を囲むひとときの幸せな時間の中で、修と世津は戦地で裕之が負った深い心の傷を見ることになります。

また、物理学に魅了されて研究をしていた修も、その実験成功後の裏側にある‟破壊”の恐ろしさに葛藤を抱えています。

そんな2人を力強く包み込む世津はただ一人、戦争が終わった後の世界を見据えていました。

それぞれの想いを抱え、束の間の療養が終わった裕之は、再び戦地へ赴きます。

残された修は、自分たちの未来のためと研究開発を急ぎますが、運命の8月6日が訪れました。

日本中が絶望に打ちひしがれる中、それでも前を向く修が見出した新たな光とはーー?

『映画 太陽の子』の感想と評価


(C)ELEVEN ARTS Studios/2021「太陽の子」フィルムパートナーズ

日本が負った二重の敗北

『映画 太陽の子』は、終戦間際の時代の波に翻弄されながらも生きる若者たちを描き出しました。

海軍からの密命を受け、原子爆弾の開発に勤しむ研究者・修と軍人の弟・裕之、そして幼馴染みの世津。

実験及び研究することを使命とする研究者の修ですが、そこには「この研究が成功すれば、戦争は終わる」という思いがありました。

日本がやらなければアメリカがやり、アメリカがやらなければソ連がやるだろうという推測のもと、日夜を問わず、原子爆弾の研究を進める修たち。

けれども、その努力もむなしく、日本よりも一足早く研究に成功したアメリカが原子爆弾の成果を試すことになります。

そして迎えた終戦……。日本は戦争にも原子爆弾開発という研究にも負けました。

物理実験の成功だけを考えていた修ですから、ダブルな敗北にどれだけ落ち込んだことでしょう。

戦争禍におけるそれぞれの生き様


(C)ELEVEN ARTS Studios/2021「太陽の子」フィルムパートナーズ

軍人であれ民間人であれ、戦争は数えきれないほど多くの国民の命と夢を奪い去って行きました。

「お国のため」という一言のもと、我慢を強いられ、文句も言えずに軍の命令に従うだけの日々で、兵士である裕之の心の葛藤は凄まじい……。ひた隠しにしても‟戦争の恐怖”は裕之を追い詰めていきます。

療養して気持ちの整理をつけた裕之。戦地へ戻る彼が別れ際に母に捧げた‟挙手の礼”には、親への感謝と決意表明がにじみ出ていました。

かすかに震えながらもピンと伸びた指先……。じっと母を見つめる眼差し……。

裕之に扮する三浦春馬の万感の想いが込められた美しい敬礼は必見です!

そんな裕之を複雑な想いで見送る修と世津。

物理の美学に魅せられた修は好きな研究に没頭できるのですが、その成果が戦争に使用されることで悩みます。

研究者ゆえの修の喜びと苦悩を、柳楽優弥が狂気じみた演技で表現しています。また可憐な中にも力強い逞しさを見せる世津は、包み込むような優しさを持った有村架純が好演。

「夢を一緒に語ろう」と誓うこの3人ですが、はたしてその誓いは叶えられるのでしょうか。

三者三様の若者たちの青春を描きながら、見えてくるのは国の狡さでした。

敗戦が色濃くなってきているのに、国民にはそれを隠して原子爆弾の研究を急がせます。戦争に勝つことが幸せに通じるという見識で国民を煽ります。

戦地に行っても行かなくても、国民たちは自分たちの夢を奪われ、命の危険に晒されることに変わりはなかったのです。

哀しみとむなしさが残された終戦に、国のトップの判断一つでどれだけ多くの国民の人生が狂わされたのかと考えさせられます。

『映画 太陽の子』の公開は8月6日。広島原爆投下日に公開というのも、戦争というものを問いただす深い意図があるようです。

まとめ


(C)ELEVEN ARTS Studios/2021「太陽の子」フィルムパートナーズ

本作は、2020年の特集ドラマ『太陽の子』の映画版で、黒崎監督が偶然に目にした若き科学者が残した日記から構想10年をかけて作り上げた青春グラフィティ。

太平洋戦争末期、京都大学の物理学研究室で海軍から新型爆弾を作る命令を出された、若き研究者たちの姿を描いています。

時代の波に翻弄され、殺人兵器開発を進めるべきなのかと苦悩する研究者たちですが、大きな任務に携わる傍らで、家族との団らんや恋愛、友情が交差する日々があり、現代とほとんど変わらない青春を過ごしていました。

実話であるだけに、若者の等身大の姿からは、戦争について悩み苦しむ様子が切実に伝わってきます。

世界で唯一の被爆国である日本が、戦争中に他の国同様、原子爆弾の研究をしていたという事実にも驚くことでしょう。

『映画 太陽の子』は、2021年8月6日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、イオンシネマ他にてロードショー!

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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