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Entry 2019/02/10
Update

映画『洗骨』ネタバレ感想。奥田瑛二・大島蓉子・水崎綾女の演技力が光るユーモアと優しさに溢れた作品

  • Writer :
  • 福山京子

ガレッジセールのゴリが本名の「照屋年之」名義で監督・脚本を手がけた長編作品。

最愛の人を失い、数年後その人にもう一度会える神秘的な沖縄の離島に今も残る風習、“洗骨”。

死者の骨を洗い、祖先から受け継がれた命の繋がりを描き、ユーモアと感動で世界各国で絶賛を浴びた珠玉のヒューマンドラマです。

映画『洗骨』の作品情報


(C)「洗骨」製作委員会

【公開】
2019年(日本映画)

【原題】
『洗骨』

【脚本・監督】
照屋年之

【キャスト】
奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、坂本あきら、山城智二、前原エリ、内間敢大、外間心絢、城間祐司、普久原明、福田加奈子、古謝美佐子、鈴木Q太郎、筒井真理子

【作品概要】
本作の礎になったのは国際的な短編映画祭で数々の賞を受賞し、大きな話題となった照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)監督の短編映画『born、bone、墓音。』(2017)。

12年に渡り自主映画の制作で積み重ねてきた照屋監督のその短編を原案に、長編映画として新たに生まれた映画です。

主演の最愛の妻を亡くした父親に奥田瑛二を迎え、実力派の筒井道隆、河瀨直美監督作『光』(2017)で主演を演じた水崎綾女、そして大島蓉子、坂本あきら、鈴木Q太郎、筒井真理子などが脇を固めます。

2018年8月に開催された北米最大の日本映画祭“JAPAN CUTS”では28本の新作日本映画の中から観客賞を受賞しました。


映画『洗骨』のあらすじとネタバレ


(C)「洗骨」製作委員会

白百合の横に死化粧を施した女性の顔。赤い口紅が似合う女性の遺体が座っている姿を横にして棺の中に納められています。

母親恵美子の顔にそっと手を伸ばすのは、娘の優子でした。

家の外で最期に会いにきてくれた近所の男性に、女性の息子剛と叔母の信子が応対します。

「おにぎりまで貰ってすみません。でこの後、餅も残るよなあ…」と話す男に、剛は「よかったら餅を持って帰ってください」と言って、餅を素早く取りに行きます。

「すみませんね、あの机の上のマグロも残ったら腐るよね」と男が言いかけると、「早よ帰れ!」と信子が一喝しました。

葬儀を無事に終えたものの、剛と優子がいなくなると、父親の信綱は長足台の下からそっと泡盛の瓶を取り出し、酒を浴びるように飲んでいました。

4年後の『洗骨』で会う約束をして、新城家の人々はそれぞれの思いを胸に過ごします。

4年後。青い海が広がる中、船に1人の女性が乗っています。

その女性は、名古屋で美容院に勤める優子、信綱の長女でした。

明らかに彼女は妊娠しており、今にも生まれそうな大きいお腹のワンピース姿。彼女は沖縄の孤島、粟国島に父の信綱が1人住む家に向かっています。

優子は島に着くと、信綱に電話を掛けますが応答がありません。

一方薄暗い部屋で信綱が寝ています。ヨレヨレのシャツと白ブリーフのまま横になり、敷きっぱなしの布団とその横に妻恵美子が寝ていただろう布団もそのまま敷かれたままでした。

「窓ぐらい開けてよ」と言いながら入ってくる優子に気づいた信綱は、「ごめん、迎えに行く約束してたのに」と申し訳なさそうな表情で話しながら、半ズボンを履きます。

「天気がいいから歩いてきた」と優子は話しながら、窓やカーテンを開けます。窓に佇んでいる優子を見て、信綱は驚きながら「そのお腹、どうした?」と質問をします。

優子は面倒臭そうに「店長が好きになった、子どもが欲しくてセックスした。子どもは自分が育てる。後はにいにが帰ってきてから詳しく説明するから、もう聞かないで」と言い放ち、外へ出ていきます。

優子は家を出て角を曲がり、海に向かって歩いていきます。角の白いヤギが見守っています。

海へ続く道で、近所の女性に会いお腹を見ながらその女性は、優子に「新城さんとこの娘やな、帰ってきたのね。結婚したの?」と話しかけますが、優子は「結婚してません」と言って海に向かって歩きます。彼女は海が見える高台のブランコに座り、ずっと海を眺めました。

新城家では夕ご飯の用意をして近所の人も集まり、「剛くんは、東京の大企業で働いて妻も子供もおってエリートやなあ」と近所の連れに声をかけられつつも、「優子はどこに行った?」と長男の剛が不平そうに呟きます。

「奥さんと子ども、なんで来れないの」と信子は不審がって話していますが「いろいろあるから、学校とか習い事とか」と剛は言葉を濁します。

「さき食べようか」と話す信綱に向かって、信綱の姉信子が「みんなが揃わな食べたらダメでしょ」と叱りますが、結局新城家の人々と御膳を囲い、食べ始めていると優子が帰ってきます。

優子のお腹を見て一同は唖然とします。「優子どういうことか説明しろ!」と怒鳴る剛に、「店長が好きだからセックスした。店長に子どもができたこと話したら、店長は怯えた顔してた。だから自分で子どもを育てる」と優子は激しく言い返します。

剛は優子に、ふしだらな姿で母親に会うのを許さないと感情をぶつけますが、信子はそれは父親の信綱が決めることだと詰め寄ります。

信綱は、身動きもせず無言のまま俯いていました。

その後、1人の長髪の見知らぬ男が新城家を訪ねてやってきます。

「お父さん、申し訳ございませんでした」と信綱の前で謝るのは、優子の相手の店長の亮司でした。

なぜもっと早く話に来なかったのか、順序が違いすぎる。こんなこと認められないと兄の剛は激しく叱りますが、父の信綱は無言で俯いたままです。

「なんで剛が決める?信綱が決めることだ!」と信子が再び一喝します。

その夜、隣の優子の部屋から優子と亮司の話が聞こえます。剛は隣の部屋で2人の会話を耳にします。

「小さい頃台風の時に、丘のブランコが飛ばされると思って、1人で見に行ったの。みんな私がいなくなったと思って探したの。にいにはすぐにブランコの場所だと気づいてくれた。あそこは家族でなんども過ごした所」と優子が話す中、亮司は鼾をかき始めます。

ある夜、優子は母恵美子の写真の後ろに母の形見の赤い髪留めを見つけます。

一方みんなが寝静まった後、1人で外で酒を飲んで過ごしていた信綱は酔い潰れ、割れた瓶に頭を突っ込みます。

血だらけの信綱を見つけた優子は、剛とともに病院へ運びます。治療を終えて帰ろうとする時に、剛は我慢していた思いを信綱にぶつけます。

「自分だけが辛いと思ってるのか。工場の借金を全部子どもが払って、母親が疲れて死んで、母親の代わりにお前が」と剛は溢れる思いを止めることができず、1人歩いて帰ります。

その後ろ姿を追うように、信綱は「本当に死んだんか」と声を絞り出します。

翌朝、信綱が目覚めると台所に妻の恵美子の姿が見えて、信綱は微笑んで近づきます。それは赤い髪留めをした優子の姿でした。

食卓に信綱、剛そして店長が座り、優子が母秘伝のジューシーをお茶碗によそって持ってきます。「美味しい!」と店長がジューシーを口に運ぶ中、信綱はジューシーを泣きながらでかき込みます。そんな父を優しい目で剛は見つめています。

ある日近隣の人々が、「スク(小魚の群れ)がやってきたぞ!」と叫びながら、新城家にやってきました。

新城家と亮司は、海の中で網を操り力を合わせてスクの水揚げに成功します。

剛は家に帰る途中車内で、妻と離婚したことを打ち明け、今まで黙っていたことを信綱と優子に謝ります。

洗骨の前日、剛と優子は海が見えるブランコの丘で話し、そこで父が母にプロポーズしたことを優子が話すと、剛は髪の毛を切って欲しいと頼みます。

一方信綱は姉の信子に連れられ、かつて経営していた工場跡を訪れ、錆びた看板を剛が目にしながら、信子に「現実に向き合え、恵美子さんは死んだのよ」と諭されます。

優子が剛の髪を切った後、剛は父にも髪の毛を優子に切ってもらうように進めると、3人は恵美子の仏壇の前に穏やかな表情で座り、明日の洗骨の日を迎えようとしています。

以下、『洗骨』ネタバレ・結末の記載がございます。『洗骨』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)「洗骨」製作委員会

洗骨当日、新城家の人々はそれぞれ桶を担いだり、洗骨の道具を持って恵美子が風葬されている場所へと歩きます。

信綱が道の途中で跪き、道に何かを供えます。何をしているのかと問う亮司に、優子が「ここから西側太陽が沈む場所で死者の住むお墓、東側が生きている者が住む所」と丁寧に説明します。

お墓がある砂浜にたどり着くと、一同は一つ一つ積み上げている石を運び出し、棺を全員で担いで運び出しました。

4年ぶりに棺の蓋を開けると、そこには黒ずんで風化した恵美子の頭蓋骨と骨が現れました。一同誰も声を上げず、静かに信綱が恵美子の頭蓋骨を取り出し、素手で海水をかけて骸骨をぬぐいます。

黒い髪の毛も拭うと綺麗に剥がれ、丁寧に拭い椅子の上に置きました。その後一同がすべての骨を一本一本丁寧に拭い、泥や汚れが綺麗になっていきます。

白い布に並べたすべて骨を、棺に頭骸骨を入れてから一本一本丁寧に納めていると、優子のお腹が急に痛みます。

伯母の信子が、様子を見ると「破水してる!」と声を上げ、すぐに広げた布の上に移動させようと両足を持ち上げるようとした、途端、信子がぎっくり腰になり横になったまま動くことができなくなりました。

皆が慌てるなか、信子は剛に枕を持ってくるように指示し、その横になった体勢のままで「優子ここで産め!大丈夫」と優子を激励します。

信子の言う通り、男たちはお湯を持ってきたりタオルを取りに行ったり、家に帰っても鍵を忘れて行ったりと焦りながらも、必死に駆け回ります。

何度も優子はいきりますが優子の体力も限界に近づき、信子は子宮が開かないことも考慮し、信綱に「信綱がハサミで切れ」と指示します。

弱々しい信綱の目が真剣になって「優子切るぞ!」と覚悟してハサミを入れ、元気な鳴き声とともに赤ちゃんが生まれました。

信綱は、優子が抱く赤ちゃんの近くに、恵美子の頭蓋骨を寄せました。

「童神」の歌が聞こえる中、恵美子の洗骨が終わりました。

映画『洗骨』の感想と評価


(C)「洗骨」製作委員会

あまり知られていない琉球の風習

本作冒頭場面で長男の剛が葬式後「4年後の洗骨でな」と言いながら、母恵美子の棺の蓋を閉めます。

その後、剛の言葉で洗骨の説明がされるのですが、「骨を洗ってもう一度亡き人に会える」と言う解説がどうしてもイメージできないまま、物語は進んでいきます。

今も沖縄の一部の地域で残っている風習だとされていますが、ほとんどの観客は、そのイメージを持つことができないでしょう。

未知の聖域である“洗骨”が、本作の大きな魅力です。

そしてそのモヤモヤした思いを持ちながら、この新城家の人々はそれぞれこの4年間にいろいろなものを背負って集まってくることを知ります。

一人一人が秘密を持ち、素直になれない“弱さ”を抱えた人ばかりでした。

その家族を演じる俳優陣の“らしくない”演技が、もう一つの魅力です。

かつてトレンディ俳優であった奥田瑛二の魅力

何と言っても、弱々の酔いどれ「お父」こと信綱に扮する奥田瑛二が素晴らしいです。

優子が粟國島の実家に帰った時のお父の姿が、あのカッコいい奥田瑛二なんて、特に奥田瑛二のトレンディドラマを観て青春を送った奥様たちには、受け入れられないほどの情けない白いブリーフ姿です。

寝静まった夜に1人酒に溺れ、瓶に頭を突っ込んで血だらけの信綱が、治療の後声にならない声で「恵美子は本当に死んだんか」と嘆きます。

なんとも情けない姿は秀逸です。

そして優子の子宮にハサミを入れる時のビビった表情。

等身大のどん底まで落ちた父親の哀れな姿を見事に表現している奥田瑛二の演技力には注目です。

琉球のオバアそのものに成りきった大島蓉子

それに反比例して、大島蓉子演じる伯母の信子の存在が強烈です。

ドラマでは、お茶目で優しい役を演じることが多い大島蓉子ですが、この演じる信子はダメダメ弟の信綱に「信綱がここの主人だ!」と言い切り、「信綱、現実に向き合え!」信綱、信綱といつも呪文のように弟を叱咤激励します。

優子にも「1人で育てる気なら、恥かいとけ」とキツい言葉でハッキリとものを言いますが、根底に愛が溢れているのを相手は分かっています。

照屋年之監督が、求めていた沖縄のヒエラルキーの頂点に立つオバァのキャラそのものでした。

さらに普段ドラマや映画では、穏やかで知的な男性を演じる筒井道隆扮する「にいに」こと剛。

不甲斐ない父信綱に常に苛立ち、父を蔑ろにして自分が何でも決めてしまう少々鼻に付くエリート東京息子を演じています。

映画の中では話を先取りして、意外にも感情を露わにする役ですが、後半妙に素直に離婚の話をして謝ったり、髪の毛を妹に切ってもらったりと借りて来た猫のようになる演技に引き込まれます。

本作で女優として生きる再確認をした水崎綾女

最後に瑞々しくフレッシュなイメージの女優水崎綾女扮する優子

若さで体当たり演技さながら、映画の進行とともに表情が女性から母親になっていく演技が光ります

後半彼女の動きは、妊婦の動きとなっており、休みの日でも妊婦姿で過ごしていたエピソードを監督が語っていたのが頷けます。

実力のある俳優さんたちだからこそ、あえて“じゃない”役、裏切る演技がこの映画で光を放ちます

まとめ


(C)「洗骨」製作委員会

照屋年之監督は、日本大学芸術学部映画科演劇コースを中退して、中学の同級生だった川田広樹と「ガレッジセール」と言うお笑いコンビで、吉本デビューを飾ります。

テレビやドラマで活躍する一方、短編映画を自主制作し続けて10年以上の月日が経ちました

その経験を生かし、初の長編映画の監督を務めたのが映画『洗骨』です。

この映画を撮る前に自分自身の母親を亡くし、今までの苦労をかけた思いと重なり、脚本を完成させました。

地元沖縄のある島に今も残る風習“洗骨”から、命のバトンリレーの思いを託し本作を撮りきりました。

監督自身も火葬後の母親の骨を拾いながら、母親が生きてくれたから自分が生まれたこと、その母親を生んだ祖父母そして先祖と長い長い命のリレーをしてきたからこそ、今の自分がある

洗骨で、一本一本丁寧に骨の汚れや泥を拭っていく場面があります。

その一連の動作は神聖なものであり、誰もが一心に心を込めて行なっていますが、この映画の真剣さの中に、時々心が温まる笑いやユーモアが織り込まれ、悲しみに打ちひしがれているはずの信綱や剛、そして優子がなんとなく癒されていきます。

亡くなった人の深い悲しみを取り除くことはできないかもしれませんが、優しく心の汚れを拭い、ユーモアという柔らかい布で覆うようなそんな余韻を残す映画です。

『洗骨』の命のバトンリレーを、あなたの目で確かめにいきませんか。

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