映画『ヒューマン・ポジション』は2024年9月14日(土)より全国順次公開!
とある港町における、静かで優雅な生活の中に見える微妙な疑問とメッセージを優しいタッチで描いた映画『ヒューマン・ポジション』。
色鮮やかなファサードの建物が立ち並ぶ美しい港町ノルウェー・オースレンを舞台に、一人の女性が自身の立ち位置に迷いながらも答えを求めて歩んでいく姿を描きます。
ノルウェーのアンダース・エンブレム監督が、自身の故郷であるノルウェーのオーレスンを舞台とした物語を構築しました。
映画『ヒューマン・ポジション』の作品情報
【日本公開】
2024年(ノルウェー映画)
【原題】
A Human Position
【監督】
アンダース・エンブレム
【キャスト】
アマリエ・イプセン・ジェンセン、マリア・アグマロほか
【作品概要】
病気の療養から復帰した新聞記者が、なにげない日常や社会との繋がりから心の居場所を見いだしていく姿を描いたドラマ。
本作を手がけたのは、前作『Skynd Deg Sakte (Hurry Slowly)』(2018)に続き、本作が長編二作目となるアンダース・エンブレム監督。主人公はエンブレム監督のデビュー作にも出演を果たしたアマリエ・イプセン・ジェンセンが担当しました。
映画『ヒューマン・ポジション』のあらすじ
ノルウェーの港町で新聞社に勤める記者アスタ。プライベートでは、ガールフレンドのライヴととともに穏やかな時間を過ごしている彼女でしたが、一時体調を崩し休職。そして復調し仕事に復帰します。
しかし地元のホッケーチームのサポーターやアールヌーボー建築を保存するための小さなデモ、クルーズ船の景気など、地元に関するニュースを記事にする毎日に、無気力感をおぼえていました。
そんなある日、アスタはノルウェーで10年間働きながら住んでいた一人の難民が強制送還されたという記事を発見、その事件に強い興味をおぼえていきます。
そして事件を深掘りしていく中で、彼女は自身が目指す「心の居場所」を次第に見いだしていくのでした。
映画『ヒューマン・ポジション』の感想と評価
1970年代からの石油資源開発による経済発展により現代では世界屈指の豊かな福祉国家となり、「世界一裕福な国」ともいわれているノルウェー。
本作はその国の人の「豊かな生活」の風景より「裕福」であるがゆえの逆に不自由なところ、見えない部分に言及した物語と見ることもできるでしょう。
主人公の女性アスタは新聞記者としての活動を続けていく中で、何か心にモヤモヤした思いを募らせ、表情にその思いを表していきます。
その表情には記者として取り上げる題材に関しモチベーションを持てない、自身の使命に疑問を感じているような様子が見え、病気療養以前に何があったのか、などといったさまざまな経緯を想起させます。
ある時アスタはガールフレンドのライヴにノルウェーという国のイメージを問われ「不自由もないけど、不満を口にできる立場にない」という答えを受け取るのですが、この言葉はある意味アスタを新たな方向へ動かす起点となるわけです。
そしてアスタが注目した題材は「不条理な理由により強制送還となった一人の難民にまつわる話」。
ノルウェーは「裕福な国」である一方で、労働力確保という課題を持ち合わせている社会であり、2016年には定年を70歳まで引き上げるなどその問題は顕著なものとなっています。
他方、この国では1990年以降にパキスタンやソマリア、イラクなどからの経済難民を積極的に受け入れる方策をとっています。
そのため肉体労働や長時間労働などの厳しい老司同条件における現場には多くの移民が携わっており、近年ではその過度な移民増加を懸念する声が高まっているといわれています。
難民、移民に対する長年の問題、課題は近年フランスなどでもさまざまな場で叫ばれているポイントでありますが、この物語から見えてくるその実態は、「裕福な国」という空気感がその問題を隠しているのでは、などとさまざまな考えを想起させてきます。
アスタのモヤモヤを呼び起こしていたその題材の数々は、どちらかというとノルウェーという国内に限定した出来事でしたが、難民の問題に直面した時点で彼女の表情は変化を見せており、何かのヒントを得たような展開を見せています。
結果的にアスタは取材結果で何らかのカタルシスを得られるわけではなく、自身の立ち位置、居場所という部分に迷いを生じたままであることが伺えます。
それでも物語は最終的に何らかのポジティブな空気感をおぼえさせ、よりよい未来への指針を想起させるような方向性で締めくくられています。
タイトルの示す「A Human Position」の意味を、深く見るものに問う内容であると言えるでしょう。
まとめ
物語のメッセージ性を強めるために、本作では二つのアイテムを効果的に使用しています。
一つは、猫。これはアスタたちの家で飼われているペットでありますが、揺れ動く彼女の気持ちと、そんな彼女にさまざまなヒントを与えるライヴという二人の女性の間で、「我関せず」と彼女らの間を無邪気に歩き回ります。この猫の振る舞いは客観性の象徴と見ることができるでしょう。
もう一つは、アスタが強制送還された難民の行方を捜すために訪れたとある食品工場で見つけた、一つの壊れたイスであります。
これはもともとその難民が使用していたものでありますが、アスタはそのイスに何かを感じた様子を示します。そして物語の展開によりイスは、何らかポジティブな空気感をもたらす一つのアイテムとして機能し始めます。
全体に北欧の豊かな生活をイメージさせる淡いパステルカラーの中で展開する本作ですが、これらのアイテムとともに展開していく物語は、映画としての完成度を高めています。
またエンブレム監督のデビュー作『Skynd Deg Sakte (Hurry Slowly)』はノルウェーの西海岸に暮らす一人の女性が、自閉症の兄の世話や地元のフェリーでの仕事、そして音楽への興味を両立させながら、人生が変わる数か月の生活を過ごす様子を追った作品。
「ノルウェーという場所に生きる人々が自身の立ち位置を探す」というポイントは、監督自身の重要なテーマであるとも推測され、その静かな作風とともに製作者の特徴が強く表れた作品であると言えるでしょう。
映画『ヒューマン・ポジション』は2024年9月14日(土)より全国順次公開!