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Entry 2021/08/31
Update

映画『ホロコーストの罪人』ネタバレ結末考察とラストの感想解説。ノルウェーの国家警察や一般市民による“最大の罪”と〈引き裂かれた家族の悲劇〉

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

ノルウェーの秘密警察がホロコーストに加担したノルウェー最大の罪を描く

ナチス侵攻の裏側でノルウェーの秘密警察がユダヤ人をベルグ収容所で強制労働をさせ、アウシュヴィッツ行きのドナウ号に強制収容させた事実をもとにユダヤ人家族に訪れる悲劇を描きます。

1942年ノルウェー秘密警察により多くのユダヤ人がアウシュヴィッツの連行されたドナウ号事件から70年経った2012年1月、当時のノルウェーのストルテン・ベルグ首相は、ホロコーストにノルウェー警察や市民が加担していたことを認め政府として正式に謝罪しました。

ホロコーストにまつわる映画が数多く作られている中語られてこなかったノルウェー最大の罪をノルウェーのエイリーク・スベンソン監督が描きます。

映画『ホロコーストの罪人』の作品情報


(C)2020 FANTEFILM FIKSJON AS. ALL RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2021年(ノルウェー映画)

【原題】
Den storste forbrytelsen(英題:Betrayed)

【監督】
エイリーク・スベンソン

【脚本】
ハラール・ローセンローブ=エーグ、ラーシュ・ギュドゥメスタッド

【キャスト】
ヤーコブ・オフテブロ、シルエ・ストルスティン、ミカリス・コウトソグイアナキス、クリスティン・クヤトゥ・ソープ、シルエ・ストルスティン、ニコライ・クレーベ・ブロック、カール・マルティン・エッゲスボ、エイリフ・ハートウィグ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー

【作品概要】
チャールズ・ブラウデを演じたのはノルウェーの俳優ヤーコブ・オフテブロ。『コン・ティキ』(2013)でオスカーにノミネートされ、『獣は月夜に夢を見る』(2016)、『トム・オブ・フィンランド』(2019)に出演するほか、待機作としてノオミ・ラパス主演『Black Crab』(2022)がある。

その他のキャストは『ソフィーの世界』(2000)のシルエ・ストルスティン、『ミレニアム』シリーズのミカリス・コウトソグイアナキスなど。

エイリーク・スベンソン監督は日本のアニメに憧れる少女を描いた映画『HARAJUKU』(2020)アマンダ賞で7部門にノミネートし、録音賞、音響効果賞の2部門を受賞し、トーキョーノーザンライツフェスティバル2020でも上映されました。

映画『ホロコーストの罪人』のあらすじ


(C)2020 FANTEFILM FIKSJON AS. ALL RIGHTS RESERVED.

ノルウェーを代表するボクサーのチャールズ・ブラウデ(ヤーコブ・オフテブロ)はスウェーデン代表選手と闘い見事勝利します。

勝利の祝杯をあげているチャールズと弟・ハリー(カール・マルティン・エッゲスボ)の元に兄のイサク(エイリフ・ハートウィグ)がやってきます。

ユダヤ人であり、ユダヤ教を信仰しているブラウデ一家にとって今日は大事な安息日の日だからです。

帰ってきた息子たちに対し、母のサラは怒りを露にし、自分のことばかりだと指摘するも、チャールズが祈りの言葉を唱えると穏やかな表情になりました。

夕食後チャールズは結婚を考えている恋人がいることをサラに告げます。しかし恋人のラグンヒルはユダヤ人ではありません。そのことに複雑な表情をしたサラでしたが、「あなたが幸せならいい」と言います。

翌日、父ベンツェル(ミカリス・コウトソグイアナキス)が経営するソーセージ店にラグンヒルがやってきます。店の中でチャールズはラグンヒルにプロポーズします。盛大な結婚式をあげ、ラグンヒルとチャールズの新婚生活が始まりました。

幸せな日々は長く続かず、1940年4月9日、ナチス・ドイツがオスロへと侵攻してきます。ノルウェーはナチス・ドイツの統制下となります。

危険を感じた姉のヘレーン(シルエ・ストルスティン)はスウェーデンに逃亡することに。一緒に行くよう両親に説得するも、両親はノルウェーに残ることを決めました。

チャールズが通うボクシングジムは閉鎖を命じられ、ブラウデ家にはユダヤ人であることを証明する調査票が届きます。ユダヤ人ではなく、自分はノルウェー人であるとチャールズは主張し、ベンツェルと口論になります。

劇場で俳優をしているハリーもユダヤ人だとバレたら追い出されると書類を書くことに難色を示すも、説き伏せられ警察署に調査票を提出しにいきます。警察署に提出すると身分証にユダヤ人(JEWS)であることの証明にJのハンコが押されました。

1942年突如チャールズの家に警察が押しかけ、理由も告げずにチャールズを逮捕すると言います。連行され車に乗ると、車の中には父と兄弟の姿が。強制的に連れてこられたのはベルグ収容所でした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ホロコーストの罪人』ネタバレ・結末の記載がございます。『ホロコーストの罪人』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2020 FANTEFILM FIKSJON AS. ALL RIGHTS RESERVED.

ベルグ収容所にはユダヤ人の男性が集められ、劣悪な環境下で強制労働を強いられていました。

チャールズがボクサーであったことを知っていた収容所所長(ニコライ・クレーベ・ブロック)はチャールズを呼び出すと、監視員たちは東部戦線帰りで退屈しているし、自分も退屈しているから自分とボクシングの試合をしないかと提案します。

チャールズが試合を提案されたことを知ったベンツェルは闘えば解決するわけじゃない、闘うなと言います。

父の教えを守り、チャールズは闘わないと所長に言います。その瞬間所長の形相が変わり、お前がノーと言える立場だと思ったのかとチャールズに暴行を加え、ユダヤ人は豚だ、豚野郎だと言って豚小屋に引きずっていき、更に暴行します。

チャールズは父と兄弟らと抱き合い、父はチャールズにお前のしたことは正しいと言います。

その頃残されたサラは毎日家族がどこに連れて行かれたのか尋ねますが相手にされません。そしてユダヤ人の家には接収委員会がやってきて家財など資産を勝手に査定していきます。

サラは慌てて僅かな現金と大切なものを入れた箱を隠しますが、それすらも見つかってしまいます。委員の情けで婚約指輪だけは奪われずに済みました。

ベンツェルが経営していたソーセージ店も大きくユダヤ人、閉店と書かれ奪われてしまいます。途方に暮れ、現金もつてもないサラは行く宛などないと諦めていましたがサラの強い説得にスウェーデンに逃げることを決めました。

しかし、残酷にもその夜、ノルウェーの秘密国家警察の本部に副部長のクヌート・ロッド(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)は48時間以内にノルウェーにいるユダヤ人リスト化し、アウシュビッツに向かう“ドナウ号”に強制連行せよという指令を受けます。

荷支度を済ませ眠っていたサラは慌ててやってきたラグンヒルに警察がやってきたことを知らされ隠れますが、警察に捕まり連行されてしまいます。

どこへ向かうのか、なぜ連行されるのか分からず集められた女子供たちが並べられ、秘書たちは名前をチェックし、身分証は回収します。ぞろぞろと船に向かう人々の列ができています。

連行前夜、収容所においても突如夜中起こされ、どこかへ向かうグループと残るグループに分けられます。

チャールズだけ残され、他の家族は連行されていきます。何かを察していたのか父は、家族と一緒にいたいと言うチャールズを説得し、お前は残った方がいいと涙ながらに言います。

無理矢理引き戻されたチャールズに所長が「アーリア人の妻に感謝するんだな」と言います。

怒りながらも宿舎に帰ったチャールズでしたが、外に飛び出すと所長に殴りかかります。その場にいた監視員らがチャールズを取り押さえようとするのを制して所長は続けるよう促します。

激しい殴り合いの末、チャールズは所長の上に馬乗りになって殴りかかります。我を忘れたチャールズを監視員らが取り押さえ、もう気絶しているからやめろと言われます。

父と兄弟らも収容所から船に連行され、アウシュヴィッツにつき家族は束の間の再会を果たしますが、すぐに45歳以上の男性と女子供と他の男性で分けられ離れ離れに。何が起こるのか分からず不安な人々。

多くのユダヤ人が強制連行され、多くの命を奪ったアウシュヴィッツ。サラとベンツェルは着いたその夜にガス室で殺され、兄弟も収容所内で命を落としました。

一人残されたチャールズは終戦まで収容所で強制労働をさせられ、終戦になってやっと解放されたのでした。

映画『ホロコーストの罪人』の感想と評価


(C)2020 FANTEFILM FIKSJON AS. ALL RIGHTS RESERVED.

ノルウェーの戦争映画では、ナチス占領下の中抵抗を続けたレジスタンスのリーダー、マックス・マヌスを描いた映画『ナチスが最も恐れた男』(2011)や、ナチスの侵攻に対し抵抗したノルウェー国王ホーコン7世を描いた映画『ヒトラーに屈しなかった国王』(2017)など“英雄”を描くう映画が多く作られていました。

ブラウデ一家について描かれたマルテ・ミシュレのノンフィクション・ノベルを元に作られた本作では、ナチスのユダヤ人強制収容にノルウェーの国家警察や市民など“一般的な人”が加担した“最大の罪”を描いています。

本作においてナチスは殆ど登場することはなく、ユダヤ人を密告したのも、強制連行し、収容所で強制労働をさせたのはノルウェーの国民でした。

秘密国家警察によってノルウェーのユダヤ人を“ドナウ号”に送ることになった朝、ロッドに秘書が「やっと追い出せる」と言う場面があります。それは当時のノルウェー人の本音だったのでしょうか。ベンツェルの経営していたソーセージ店書かれたユダヤ、閉店の文字は市民による落書きかもしれません。

チャールズを演じたヤーコブ・オフテブロは、ノルウェーの国民がユダヤ人迫害に加担していたという事実を知り、そう簡単には受け入れられなかったといいます。

監督を務めたエイリーク・スベンソンはこの事実を全く知らず、知った時は映画化せずに何を撮るのかと思うほどの使命感に駆られたそうです。ヤーコブ・オフテブロもこの役を演じることに対する責任と使命感を感じたといいます。

第二次世界大戦の負の遺産を過去のこととするのではなく、今一度見つめ直し向き合うこと語り継いでいくことの重要性を今一度考えさせられます。今なお残る人種差別や偏見は私たち日本人にとっても無関係ではないのです。

まとめ


(C)2020 FANTEFILM FIKSJON AS. ALL RIGHTS RESERVED.

ナチス・ドイツ占領下のノルウェー。ユダヤ人の強制連行にノルウェーの警察や隣人などの“一般市民の人々”が加担していたノルウェー最大の罪を描く映画『ホロコーストの罪人』。

衝撃の事実を見つめ直すことで、過去の負の遺産を風化させず語り継いでいこうとする作り手の使命感が伝わってきます。

しかし、戦時中のユダヤ人迫害問題に関しては長らくナチス・ドイツによるものとされ、国民の意識になかったことが伺えます。

80年代以降徐々にユダヤ人の生存者が声をあげ始めて世に知られることになりました。その後、ノルウェーが政府として正式に謝罪したのは2012年になってからです。その頃には生存者の多くは亡くなっています。

多くの犠牲者がいたにも関わらずユダヤ人迫害が問題視されていなかったこと自体もこの問題に対する根深さ、今もなお残る問題を感じさせます。

他国の歴史から私たち日本人も過去の歴史を見つめ直す必要性を問われているのではないでしょうか。


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