Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

ワン・セカンド 永遠の24フレーム|あらすじ感想と評価解説。チャンイーモウおすすめ最新作は“美しい不変性”を説く

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『ワン・セカンド 永遠の24フレーム 』は2022年5月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!

激動する時代の中で、一つの映画をめぐって出会った一人の男と少女の心の交流を描いた『ワン・セカンド 永遠の24フレーム 』。

文化大革命時代の中国で一本の映画に執着する一人の男性が、その作品を通して出会った少女との関係に大きく心動かされていく様子を、名匠チャン・イーモウが物語として仕上げました。

映画『ワン・セカンド 永遠の24フレーム 』の作品情報


(C) Huanxi Media Group Limited

【日本公開】
2022年(中国映画)

【英題】
ONE SECOND(原題:一秒钟)

【監督・共同脚本】
チャン・イーモウ

【脚本】
ヅォウ・ジンジー

【出演】
チャン・イー、リウ・ハオツン、ファン・ウェイ

【作品概要】
文化大革命時代の中国を舞台に、映画を通じて巡り合った一人の男性と少女の心の交流を描いた人間ドラマ。

『活きる』(2002)などのチャン・イーモウ監督が作品を手掛けるとともに、『妻への家路』(2014)などのヅォウ・ジンジーと共同で脚本を書きあげました。

主人公の男性を『オペレーション:レッド・シー』(2018)などのチャン・イーが担当、さらに彼と出会うヒロインの少女を数千人に及ぶ高校生の中から選ばれたリウ・ハオツンが演じます。さらに『胡同(フートン)愛歌』(2007)などのファン・ウェイらが名を連ねています。


映画『ワン・セカンド 永遠の24フレーム 』のあらすじ


(C) Huanxi Media Group Limited

1969年の中国で、強制労働所に収容されていた男(チャン・イー)は、当時国の中で民衆に親しまれていた映画上映会で流れる予定となっていた22号という映画本編前のニュースフィルムに、自分の娘が映っていることを風の便りに聞かされます。

娘の姿を一目見たい一心で男は強制労働所から脱走、フィルムが今届いているとある村にたどり着いていました。

ところがそのフィルムが入った缶を運搬しているバイクを見かけた際に、男はフィルム缶を一人の子供(リウ・ハオツン)が盗むのを目撃してしまいます。

なんとか男は娘に追いついて捕まえ、フィルムを取り戻し、次の村で上映上の担当者に引き渡します。ところが肝心の22号のフィルムは運搬中のトラブルにより損傷を受け、あわや上映中止の危機に。

かくして村人ともにフィルムの修復に向き合う男と少女。その奮闘のを通じて、男と少女は奇妙な絆で結ばれていくのでした。

映画『ワン・セカンド 永遠の24フレーム 』の感想と評価


(C) Huanxi Media Group Limited

「情報伝達」を超えた映画の価値

映画を通じた人同士のつながりというテーマからは、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い出す人も多くいるのではないでしょうか。

中国において映画は現代のようにインターネット環境などない時代の中で貴重な情報をもたらすメディアであり、激動の時代を背景としたこの作品は、この映画を取り巻く人々の姿を描いています。

一本の映画フィルムが数々の困難を潜り抜けながら、それでも人々が大事なものとして求められ欲せられて上映にこぎつけるという展開からは、映画が見せるものがオンライン上を無機質に流れる情報ソースとは同じものではない、特別なものに見えてきます。

その意味で「映画フィルムに映る娘の姿を一目見たい」という男性の願いは、「何かを知る」ということの、本当の意味を改めて人々に問うているようでもあります。

時代の中では映画が人々にさまざまな情報を与えるということで、非常に大きな存在意義を持っていたということ自体が、一転してファンタジックにも感じられ、心地よい浮遊感を与えてくれることでしょう。

チャン・イーモウ監督自身の映画愛溢れる風景


(C) Huanxi Media Group Limited

また、本作は物語の展開も非常に秀逸な流れを描いています。

物語はとある村に主人公の男性がやって来たところから始まりますが、彼がなぜその村を訪れたのか、そしてメインキャラクターとなる少女の正体は何なのかなど、冒頭から「どのようなお話なのか」という核心はあいまいにスタートします。

そして「文化大革命時代」という激動の時代の中で「名もなき逃亡者」「リウの娘」という不確かな存在が描く物語の全貌は、徐々にその輪郭を描いていきます。

徐々にその形を明確に表していく光景は、どこか薄汚れた時代的風景の中で、心に灯をともすような美しさを見るものに与えてくれることでしょう。

必要なものを廃してテーマ、ポイントを明確にしながらも、感情に深く訴えかけるような作風は、チャン・イーモウ監督自身の映画に対する愛情が深く感じられるところでもあります。

まとめ


(C) Huanxi Media Group Limited

世界的緊張が高まる中、中国国内での映画に対する検閲の目も厳しく、2019年に第69回ベルリン国際映画祭本作にてコンペティション部門で入選されながら開催直前にキャンセルとなった本作も、その影響を厳しく受けている様子が伺えます。

この時代はイーモウ監督が『活きる』、『初恋のきた道』、『妻への家路』といった作品でも描いている部分であり、監督自身のもっとも鮮烈な記憶として抱いたイメージであるともいえます。

それ故に本作が正当な評価を受けきれていないと見えることは非常に残念でありながら、それを差し引いても強い魅力を味わえる作品であり、監督の心に抱いたイメージと、その風景に寄せた強い意思を感じさせます。

物語のラストでは、2人の人物は思いを完全には遂げられなかったにもかかわらず笑顔を見せます。その表情はイーモウ監督が心に抱くこのノスタルジー的風景が、単なる回顧的なものではないと訴えているようでもあります。

映画『ワン・セカンド 永遠の24フレーム 』は2022年5月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『晩春』ネタバレ解説と考察評価。結末までのあらすじで解く、娘の結婚に“複雑な父の思い”

「なるんだよ、幸せに」小津作品の中でも特に傑作と名高い作品『晩春』を観る 映画『晩春』は、小津安二郎の1949年の作品で、小津作品の中でも『東京物語』(1953)などと並ぶ最高峰の一つとして高く評価さ …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】アウシュヴィッツの生還者|結末あらすじ感想評価。実話実録にベン・フォスター演じた‟ボクサーとして生き延びた男”

アウシュヴィッツ生還者の息子が父の半生について描いた衝撃の実話を映画化 映画『アウシュヴィッツの生還者』では、アウシュヴィッツから生還したハリーがアメリカに渡り、ボクサーとして活躍する一方で、生き別れ …

ヒューマンドラマ映画

『Be Here Now』あらすじ感想と評価解説。インディーズ映画界の新鋭監督が初長編作品で描く‟不器用な人間たちのピンボケな人生”

映画『Be Here Now』は2023年5月にアップリンク吉祥寺で公開後、9月16日(土)より大阪シアターセブンにて限定公開! インディーズ映画界の新鋭・西本達哉監督が初の長編に挑んだ映画『Be H …

ヒューマンドラマ映画

『お祭りの日』あらすじ感想評価。TAMA NEW WAVE2023審査員特別賞を受賞した“5つの小さな物語”

映画『お祭りの日』が2024年11月2日(土)より渋谷・ユーロスペースほか順次公開 映画『お祭りの日』では、お祭りの日に、お祭りに行かない人たちの5つの物語が、ゆるやかに繋がりながら展開します。 監督 …

ヒューマンドラマ映画

『アメリカの影』ネタバレあらすじ結末と評価考察。巨匠の映画監督ジョン・カサヴェテスが即興演出で若者たちの揺れ動く心を活写!

巨匠ジョン・カサヴェテス監督の記念すべき第1作 マンハッタンに暮らす若者たちのありのままの姿を描いた、巨匠カサヴェテスのデビュー作にして、後の映像作家たちに大きな影響を与えたインディペンデント映画の金 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学