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Entry 2020/07/27
Update

映画『シリアにて』感想と考察評価。内戦の恐怖に耐える名もなき市民の生きる希望を描く

  • Writer :
  • 松平光冬

戦地シリアでアパートの一室に身を寄せる市民たちの緊迫の24時間

第67回ベルリン国際映画祭で観客賞を受賞した映画『シリアにて』が、2020年8月22日(土)より岩波ホールほか全国順次公開されます。

今なお戦乱激しいシリアを舞台に、自らの住むアパートの一室に身を寄せる家族と、その隣人夫婦の緊迫の24時間を描く密室劇の、見どころを紹介します。

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映画『シリアにて』の作品情報

(c) Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

【日本公開】
2020年(ベルギー・フランス・レバノン合作映画)

【原題】
Insyriated(英題:In Syria)

【監督・脚本】
フィリップ・ヴァン・レウ

【撮影】
ヴィルジニー・スルデー

【編集】
グラディス・ジュジュ

【音楽】
ジャン=リュック・ファシャン

【キャスト】
ヒアム・アッバス、ディアマンド・アブ・アブード、ジョリエット・ナウィス、モーセン・アッバス、モスタファ・アルカール、アリッサル・カガデュ、ニナル・ハラビ、ムハマッド・ジハド・セレイク

【作品概要】

未だ内戦の終息が見えないシリアで暮らす市民の日常を、24時間の緊迫の密室劇で描きます。

監督・脚本を務めるのはベルギーの社会派監督フィリップ・ヴァン・レウで、2012年に友人の父親が、シリア北部の都市アレッポの住居から3週間出られずにいたという話を元に映像化に着手。

死と隣り合わせの日常におびえる家族を強く導く女性主人オームを演じるのは、『ミュンヘン』(2005)、『ブレードランナー 2049』(2017)などのハリウッド映画にも出演するパレスチナ出身のヒアム・アッバス。

隣人ハリマ役は、『判決、ふたつの希望』(2018)で注目を浴びたディアマンド・アブ・アブードで、本作の演技でカイロ国際映画祭主演女優賞を獲得しました。

日本では2017年の第30回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門として初上映され、今回が一般公開となります。

映画『シリアにて』のあらすじ


(c) Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

シリアの首都ダマスカスのアパートに住むオームは、戦地に赴いた夫の代わりに家長としてアパートの一室にこもり、そこに身を寄せた隣人のハリマ夫婦とともに、何とか生活を続けていました。

ある日の朝、ハリマの夫がレバノンの首都ベイルートに脱出するルートを見つけ、その夜のうちに逃げようと彼女に語ります。

ところが、夫が脱出する手続きをするためにアパートを出た途端、スナイパーに狙撃されてしまいます。

その一部始終を目撃していたメイドのデルハンはオームに知らせるも、外に出るのはあまりにも危険であるとして、そのことを知らないハリマには伏せておくよう告げます。

やがて昼になり、アパートを物色する強盗が現れたことで、オームたちに予期せぬ事態が…。

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映画『シリアにて』の感想と評価


(c) Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

戦闘シーンを排除した“密室”戦争ドラマ

本作『シリアにて』は、未だ内戦の終息が見えない、アサド政権と反体制派、そしてIS(イスラム過激派組織)の対立が続くシリアを舞台とした戦争ドラマです。

しかしながら本作は、戦地が舞台でありながら、砲弾や爆弾が飛び交う戦闘シーンはおろか、瓦礫の山と化した街並みなどは一切映りません

カメラは、メインの登場人物であるオームとその家族が暮らすアパートの部屋からほぼ出ることなく、彼らが交わす会話で構成される、文字通りの密室劇となっています。

武器を持たずに、聴こえてくる銃声・爆音や周囲の住人の反応に怯える一般市民側の視点を通じて、観る者も戦地に立ち会っているかのような臨場感をもたらします。

(c) Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

常に死や暴力と隣り合わせなシリア市民の現状


(c) Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

シリアが舞台の映画は、ここ数年間で、世界各国で次々と製作されています。

軽く挙げるだけでも、女性戦場記者メリー・コルヴィンの生涯を描く実録ドラマ『プライベート・ウォー』(2019)や、内戦に介入するトルコ軍を描いたミリタリーアクション『レッド・ホークス』(2019)、そして、現地のシリア人女性監督が日々の戦況を撮ったドキュメンタリー『娘は戦場で生まれた』(2020)などが日本で公開されています。

テーマや切り口はさまざまですが、いずれの作品で共通して触れられているのは、シリアで暮らす一般市民たちが置かれている現状です。

彼らは、常に命を落とす危険性に脅えながら、電気や水道も満足に使えない生活を余儀なくされています。

本作での主要人物に当たる女性オームも、不在の夫の代わりに、子どもや義父ら家族の安全を守ろうと常に神経を尖らせつつ、家事に勤しんでいます。

そのため、銃声や爆音はもちろん、ヘリコプターの飛行音やサイレン、さらにはアパート内を行きかう足音やノック音にまで危機感を募らせます。

そんな緊張感を強いられる生活を送っていたオームは中盤で、あまりにも理不尽な暴力と直面することになります。

観ていて思わず目を背けたくなるような事態に、ある選択を迫られることになるオーム。

あらすじこそフィクションではありますが、彼女達が暮らす今のシリアでは、実際に起こっても何らおかしくはないのです。

参考:『娘は戦場で生まれた』(2020)

まとめ


(c) Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

2020年3月現在、死者は民間人を含めて少なくとも38万4000人にも上り、開戦から10年目に突入した今も終息の目途が立たないシリア内戦。

そんな哀しき人道危機を、息苦しさを誘うサスペンスドラマに昇華した本作『シリアにて』。

死の恐怖に耐えながらも、生きる希望を失わない人間の強い意志から、目を逸らさないでください。

映画『シリアにて』は、2020年8月22日(土)より岩波ホールほか全国順次公開です。




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