Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

映画『レッド・ホークス』あらすじと感想レビュー。男の友情が泣かせるトルコ製ミリタリーアクション!|すべての映画はアクションから始まる4

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第4回

日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアクションから始まる』。

第4回は、2019年11月8日(金)~14日(木)のヒューマントラストシネマ渋谷で開催の「ワールド・エクストリーム・シネマ2019」にて公開されるトルコ製ミリタリー・アクション、『レッド・ホークス』です。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

映画『レッド・ホークス』の作品情報


(C)2018 & TAFF Pictures & BRKS Productions

【日本公開】
2019年(トルコ映画)

【原題】
Can Feda(英題:To Die For)

【監督】
チャアタイ・トスン

【キャスト】
ブラック・オズチビット、ケレム・バーシン

【作品概要】
紛争激しいシリアを舞台に、トルコ軍特殊部隊員の死闘を描くミリタリー・アクション。

トルコ軍が撮影に全面協力したという、リアルな戦闘シーンが見ものです。

主なキャストは、テレビドラマシリーズ『オスマントルコ帝国外伝~愛と欲望のハレム~』にも出演するブラック・オズチビットに、『シャークトパス』(2010)のケレム・バーシン。

監督は、母国トルコでテレビドラマを多数手がけてきた実績を持つチャアタイ・トスンです。

本作は、2019年11月8日(金)~14日(木)にヒューマントラストシネマ渋谷で開催される「ワールド・エクストリーム・シネマ2019」にて、日本初公開となります。

映画『レッド・ホークス』のあらすじ


(C)2018 & TAFF Pictures & BRKS Productions

内戦激しいシリア。

ここで紛争鎮圧に乗り出していたキリク大尉率いるトルコ軍特殊部隊“ホーク隊”は、絶体絶命の窮地に陥っていました。

その危機を救うべく、1機のトルコ軍戦闘機が敵部隊を爆撃、見事殲滅しますが、その爆風により機体に損傷を受け、墜落してしまう事態に。

パイロットが墜落したとみられる場所は、シリア国内でも屈指の武装テロ組織が支配する危険地帯でした。

そのパイロットが、幼少時からの友人であるオヌールだと知ったキリクは、安否が絶望視されながらも、軍司令部の反対を押し切り救出に向かうことを決意、テロリストたちの巣窟へと向かいます――。

トルコ軍全面協力のミリタリー・アクション


(C)2018 & TAFF Pictures & BRKS Productions

本作『レッド・ホークス』は、日本ではなかなか目にする機会が少ないと思われるトルコ製作の戦争映画です。

トルコは良心的兵役拒否すら認めない完全な男性皆兵制国家で、NATO加盟国第2位の兵員規模を誇ります。

それゆえに、キリク大尉役のブラック・オズチビットを筆頭としたキャスト陣も兵役経験があるため、銃の構えや動きもまさに本物。

撮影もトルコ軍が全面協力しており、使用する兵器も本物なら爆破も本物という、徹底したリアルテイストで製作されているのが特徴です。

参考動画:『レッド・ホークス』メイキング

“軍事大国トルコ”アピールのプロパガンダ映画?


(C)2018 & TAFF Pictures & BRKS Productions

本作の背景にあるトルコ及びシリアの関係について、ここで大まかな説明を。

両国は、歴史的にシリア地域ながら現在はトルコ領となっているハタイ県の帰属をめぐる係争などから、長らく緊張関係が続いてきました。

なかでも重要なのは、シリアをはじめトルコやイラクなど中東各国に分布する世界最大の民族クルド人との対立です。

自治・独立を訴えるクルド人を歴史的背景から長らく否定するトルコは、シリア内戦に介入。

シリア北部で勢力圏を確立しつつあるクルドの民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」を、過激派組織「イスラム国(IS)」と同じテロリストと断定して攻撃しており、アサド政権に反発しYPGとも対立する「自由シリア軍」を支援しています。

劇中で「我々はアル=バーブの紛争を止めに来た」というホーク隊員のセリフがありますが、これは2017年2月に、ISが占拠していたトルコ国境に近いシリア北部の都市アル=バーブを、トルコ軍と自由シリア軍が奪回した「ユーフラテスの盾作戦」を指します。

つまりこれは、同じくISの掃討に当たっていたクルド側より早くにアル=バーブを奪回したことで、クルド側の勢力拡大を阻止するという狙いなのです。

また、ホーク隊隊長のキリクは、トルコ国内でISが仕掛けたと思われる爆破テロで、妻子を失っているという設定があります。

以上のような事情から、本作はトルコの立ち位置を国内外にアピールした、プロパガンダ要素が強い作品となっています。

(C)2018 & TAFF Pictures & BRKS Productions

第二次大戦時は、日本やナチスドイツ、アメリカなどで戦意高揚を目的に作られてきたプロパガンダ映画。

現在でも形を変えて製作されており、アメリカ製ミリタリー・アクション『ネイビーシールズ』(2012)などは、米海軍特殊部隊ネイビーシールズのPRを目的としたプロパガンダ映画です。

ただ、架空の麻薬テロ組織が敵だった『ネイビーシールズ』に比べ、本作では遠巻きながらも、ISやYPGといった実在組織を敵対勢力として描いているのがポイント。

2019年10月には、クルド人の大規模な排除を目的に、トルコ軍がシリア北部の複数の町を制圧したことで、クルド側を支援するアメリカが非難声明を出したばかり。

ミリタリー・アクションながら、内実は現在進行形の民族紛争を描いているのです。

ヒロイックな男の友情が泣かせる


(C)2018 & TAFF Pictures & BRKS Productions

デリケートな問題をテーマにしている本作『レッド・ホークス』ですが、アクション映画としての見どころはしっかり抑えています。

明らかに勝算がないながらも、死を恐れずに仲間を救いに行こうとするホーク隊の勇姿は、観ていてテンションが上がります。

また、悲しみを抱えつつも、頼もしいリーダーぶりを発揮するキリクの姿にも注目したいところ。

爆破シーンなどもCGに頼らない本物の迫力を追求したトルコ製ミリタリー・アクションを、お見逃しなく!

次回の連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『台北セブンラブ』感想と内容解説。愛と時間を求め現代人は彷徨う|銀幕の月光遊戯27

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第27回 CM・MV監督としても知られるチェン・ホンイー監督が、建築ラッシュに沸く台北のデザイン事務所を舞台に、男女7人が繰り広げる恋愛模様を鮮烈に描き出す! クラウドファ …

連載コラム

『破戒』ネタバレあらすじ感想と結末考察。島崎藤村の原作小説を映画化!突きつける部落差別問題に苦しむ主人公の生き様|永遠の未完成これ完成である34

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第34回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは、島崎藤村の小説『破戒』です。これまでに2度、映画化さ …

連載コラム

劇場版SOARA『LET IT BE 君が君らしくあるように』感想とレビュー評価。キャストの演技で青春と友情を描く|銀幕の月光遊戯 45

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第45回 劇場版SOARA『LET IT BE -君が君らしくあるように-』(2004)が2019年10月04日(金)より、池袋HUMAXシネマズにて2週間限定公開されます …

連載コラム

『バンクシーを盗んだ男』考察。価値観を揺さぶり問いただすアートとは|映画と美流百科4

連載コラム「映画と美流百科」第4回 今回ご紹介するのは、グラフィティ・アーティストとして最も有名な人物バンクシーと、その作品に迫ったドキュメンタリー映画『バンクシーを盗んだ男』(2017)です。 舞台 …

連載コラム

Netflix『全裸監督』第6話あらすじネタバレと感想。ハワイで求刑370年の理由は飛行機での撮影!?|パンツ一丁でナイスですね〜!6

連載コラム『パンツ一丁でナイスですね〜!』六丁目 Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』が2019年8月8日より配信中です。 伝説のAV監督村西とおるを描いた本シリーズ。 ついにハワイでの撮影が …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学