Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2018/12/22
Update

映画『チワワちゃん』感想と内容解説。門脇麦の演技力の評価は二宮健監督の信頼感を得ていた

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

今、最も注目の20代の演技派俳優たちが集結!
映画『チワワちゃん』は2019年1月18日(金) 全国ロードショー

仲間チワワの東京湾バラバラ殺人事件での遺体発見をきっかけに、若者たちの揺れる思いを赤裸々に若手俳優が演じ切ります。

主人公ミキ役を演じたのは門脇麦。近作でも一歩抜きに出た存在感で『サニー 32』『止められるか、俺たちを』『ここは退屈迎えに来て』などを熱演し、人気と実力を兼ね備えたた女優。

また共演に『スマホを落としただけなのに』の怪演で若手俳優の注目の一番手となった成田凌。そして『銃』で東京国際映画祭でも賞に輝いた村上虹郎

そのほか作品タイトルにある“チワワちゃん”役には、オーディションで選ばれた期待の新人となった吉田志織

二宮健監督の特徴でもあるアップテンポでリズミカルな自由な映像を、若いキャスト陣が軽やかな等身大の姿をスリリングに演じています。

映画『チワワちゃん』の作品情報


(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

【公開】
2018年(日本映画)

【原作】
岡崎京子

【脚本・監督】
二宮健

【キャスト】
門脇麦、成田凌、寛一郎、玉城ティナ、吉田志織、村上虹郎、仲万美、古川琴音、篠原悠伸、上遠野太洸、松本妃代、松本穂香、成河、栗山千明、浅野忠信

【作品概要】
1980~90年代にかけて『ヘルタースケルター』や『リバーズ・エッジ』などの人気作品を描き続けた漫画家の岡崎京子。

彼女が1994年に発表した『チワワちゃん』を自主映画『SLUM-POLIS』や、商業映画デビュー作『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』で知られた弱冠27歳の新鋭監督二宮健が実写映画化。

映画『チワワちゃん』のあらすじ


(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

東京湾バラバラ殺人事件の被害者の身元が判明しました、「千脇良子、20歳、看護学校生…」。

それを初めて聞いたときミキは、自分の知っている“チワワちゃん”のことだとは思いもしませんでした。

しばらく前のこと、ミキはいつものミュージックバーで、仲間のヨシダ、カツオ、ナガイ、ユミらと酒を呑んでいたとき、ヨシダの新しい彼女として“チワワ”が現れます。


(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

かつてヨシダに口説かれミキは、肉体的な関係を持た交際関係だったため、少し複雑な気持ちで2人を見つめていました。

すると、バーテンダーのシマから、VIP席に座っている男たちの持っているバッグの中身は、政治家に届ける現金600万円が入っていると告げられます。

それを聞いた皆は驚きにざわつくなか、チワワだけが意を決し、あっという間に男たちのバッグを奪い、店内を飛び出して逃げて行きす。


(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

チワワの後を追いかけたミキやメンバーたちは、連携を取りながら追っ手の男たち見事に巻いて、チワワとミキは逃げる事に成功。

するとチワワは。ミキのカバンを勝手に開けて、600万円の半分の300万円を入れました。

これでどちらかが捕まっても300万円は手に入るねとチワワは嬉しそうに笑いました。

翌朝になり、昨夜のミュージックバーにいた男たちが政治家への贈賄罪で逮捕されたニュースがテレビで報じられます。

これで宙に浮いた現金600万円をメデタくせしめたチワワやミキたち一同は、その大金を手に夏のバカンスに繰り出すことを決めます。

チワワ以外は国外旅行での豪遊を希望しますが、なんとチワワだけがパスポートを持っていないことから、バカンスの行き先は国内になりました。

毎晩が豪華なパーティとお祭り騒ぎ。しかし現金600万円は、たった3日で使い切っていまい、皆は日常に戻ることになります。


(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

しかし、チワワだけが、その後のも“パーティを続けるような生活”を過ごしていました。

チワワはミキの見よう見マネで始めたインスタグラムがきっかけで、人気モデルにまでなっていきます。

すると、あっという間にヨシダの彼女だったチワワは、サカタという有名カメラマンと交際を始めました。

そんなチワワと、ミキたち仲間の誰もが、チワワと住む世界や価値観が違い始めていくようになり、距離感を置くようになります。


(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

やがて、ミキたち仲間は東京湾で見つかったチワワを偲ぶため、久しぶりに集まりますが、誰も最近のチワワの真実をよく知りませんでした。

そんななかミキは、ファッション雑誌のライターのユーコから、事件で亡くなったチワワの追悼記事の取材を受け始めます。

チワワについて詳しく話を聞かせてほしいとユーコに頼まれたミキは、仲間たちにあらためてチワワとの思い出を聞きに歩き始めますが…。

映画『チワワちゃん』の感想と評価


(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

天真爛漫なチワワに追いつけない少女のもどかしさ

本作の主演を務めた門脇麦は、主人公ミキ役で多彩な表情を見せてくれます。

吉田志織が演じるチワワちゃんという、絶対的な存在力を持った少女に、初めのうちは嫉妬や軽いイジワルな面も見せる“一般的な女の子ミキ”が主人公となって物語を引っ張っていきます。

主人公ミキは、若い女の子なら誰でも同性の女子とは異なった魅力を発揮して、少し抜きに出たい乙女心を見え隠れさせます。

しかし、それに対してチワワは無自覚な天然娘として、何事も可愛らしいまでに、あっさり出し抜いてこなしていきます。

それは身体的に恵まれた特徴や、行動に対する思いっきりの良さ、または母親のような手料理まで、男の子であれば誰もが惚れてしまう要素ばかりでした。

そのうえ、おそらくは寝ても床上手であるようにも描かれているので、チワワは“男子にとっての天使のような存在”といえるでしょう。

実際にチワワのような女の子がいた場合、同性である女性たちは“自分が可愛いと思い込んでいる同性を最も嫌い、イジメにあうようなタイプなのかもしれません。

しかし、門脇麦が演じたミキという少女は、チワワこそが元カレだったヨシダのカノジョに相応しいと、あっさり白旗の敗北宣言をして見せます

ミキはチワワには勝てない自己存在を素直に受け入れてしまう少女なのです。

このように華やかで派手なチワワの存在に対して、対峙できるミキの存在感を演じられる女優こそが、門脇麦をおいて他におらず、今の日本映画に唯一無二な彼女の証明のような気がします。

圧倒的な輝きの存在感のチワワちゃんを前に、誰よりも彼女に寄り添う姿勢を見せるミキ

チワワの魅力を心聞に見つめて観察し、その存在の意味のなかに自己のアイデンティティを突き詰めていく様子は、見ていて痛々しくもありますが、明るさの陰にあるような月のような存在で、一般的なモドカシイ少女の揺れる刹那的な思いそのものです。

また、門脇麦の体当たりの熱演は説得させるだけの表現力を持っています。彼女はこれまで演じてきた役柄のように、“物事に向き合い探究心を見せるというキャラクターそのもの”でした。

これこそが門脇麦の持つ第一の魅力といっても良いでしょう。

女優・門脇麦を振り返る

参考映像:『スクールガール・コンプレックス~放送部篇~』(2013)

門脇麦は1992年8月10日生まれの東京都出身

2011年にテレビドラマで『美咲ナンバーワン!!』で女優デビューを果たします。

2013年に『スクールガール・コンプレックス~放送部篇~』で映画初主演や、NHK大河ドラマ『八重の桜』にも出演。また同局の作品では、2015年にNHK連続テレビ小説『まれ』でも好演を見せました。

そして、2014年に映画『愛の渦』『シャンティ デイズ365日、幸せな呼吸』『闇金ウシジマくんPart2』にて、第88回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞などを獲得

参考映像:『二重生活』(2016)

2016年には、単独初主演映画『二重生活』『太陽』に出演。そのほか、初挑戦となるミュージカル『わたしは真悟』(2016~17)など幅広く活躍し、2018年エランドール賞新人賞を受賞

近年の主な出演映画は、2017年に『こどもつかい』や『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。

2018年には『サニー 32』や『止められるか、俺たちを』、また『ここは退屈、迎えに来て』があります。

女優・門脇麦は、本作『チワワちゃん』の劇中で見せた幼気な表情や、過酷な状況でも自身に対して凛とする姿を大きなスクリーンで目の当たりにしたとき、誰もが若い女の子の生身の生き物らしさ(人間らしさでは敢えてなく)に魅了されるでしょう。

その表現力から出た熱量からは、真の女優の香りを感じずに入られません

二宮健監督の門脇麦の共有プラン

本作『チワワちゃん』の演出を務めた二宮健監督は、撮影当時、若干26歳

監督の若いフレッシュさと相まって放つ新鮮な若者たちの描写は、眩しいすぎる日常を音楽ともに自由自在に編集されていることに誰もが驚かされるでしょう。

本作を完成するに当たって二宮健監督は、前述でも述べたように女優・門脇麦の存在は大きなものでした。

二宮健監督は、主人公ミキ役を演じる門脇麦に、若手俳優の取りまとめまでオーガナイズさせました

脚本を初めて読んだ際に、門脇麦は「すごく面白い、やりたい」と即決。二宮健監督と一緒になって、衣装合わせ、本読み、リハーサル、撮影現場でも本音を語り合ったそうです。

それはミキがストーリーを引っ張っていく主人公であるとともに、個性のバラバラなキャスト陣をひとつにまとめ上げて行く役割があったからです。

二宮健監督は時に二人三脚のように、門脇麦に出演者たちをどうまとめあげるかまで相談をしたのです。

ミキという役を通して、作品全体のことを一緒に考えていきました。

その作業が結果的にミキの役作りにも繋がるのではないかと、門脇さんは、協力的でとても心強い方でした

本作の物語は仲間のひとりであったチワワの死を通して、門脇麦が演じたミキが、それまであまり深く理解していなかった友だちの人物像に迫って行く内容であり、女優・門脇麦のストイックな探究心を伺わせることにマッチした配役でした。

まるで物語にある、東京湾バラバラ殺人事件の被害者チワワの身体の断片を、彼女がひとりの人間に戻していくような様子でもあるのです。

そして併せて見えてくるのは、“青春という輝きそのものであったチワワの存在”。

そこでチワワが発見された現場でミキたちは、大人になってしまった自分たちから、“青春という過去”に思いを寄せます

まとめ


(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

本作でチワワ役にオーディションで選ばれた、期待の新人となった吉田志織

彼女が演じたマスコット的存在のチワワちゃんに、ミキという女の子が関心を示すことで、他者のみならず自己の存在を見つめ直す作品です。

そこにあるのは、世代を超えて“ある意味で輝かしい若い一時期”を重ね合わすような構成になっています。

また、主人公ミキの他にも、若手俳優の注目である成田凌が演じるヨシダにも要注目です。

近作の『ビブリア古書堂の事件手帖』や『スマホを落としただけなのに』、また『愛がなんだ』とは、違った演技を見せ、その役者としての技量の幅を感じさせてくれるはずです。

また映画『銃』で東京国際映画祭でも賞に輝いた村上虹郎は、チョッと引っ込み思案でイケテナイ男子を演じていますが、これもまた彼にとっては、ハマり役であった気がします。

東京国際映画祭の『銃』のマスコミ記者会見で、村上虹郎が何故か門脇麦の話ばかりをしていた姿が印象的でしたが、本作を見た際に妙に納得ができました。

それほどに、本作『チワワちゃん』での女優・門脇麦は絶対的な存在感を見せていました。ファンならずとも注目の一作です。

ぜひ、劇場で多彩な表情を見せてくれる門脇麦をお見逃しなく!

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『クライ・マッチョ』ネタバレ結末感想とラストの意味解説。イーストウッドの新作にして代表作は“強いアメリカ”ではなくアップデートした境地へ

挫折を経験した孤独な男と愛を知らない少年のメキシコ横断の旅 1971年の『恐怖のメロディー』を皮切りに数々の名作を生み出してきたクリント・イーストウッド監督。監督・製作・主演を務めた『クライ・マッチョ …

ヒューマンドラマ映画

映画『サラバ静寂』SUMIRE(ヒカリ役)演技評価と感想

映画『サラバ静寂』は、2018年1月27日より渋谷ユーロスペースほか順次全国公開。 キャスティングは『太陽を掴め』の吉村界人を主演のミズト役を務め、共演に『葛城事件』の若葉竜也をトキオ役で起用。なかで …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】大人は判ってくれない|あらすじ結末感想と評価解説。ラストシーンが有名すぎる多感な少年の反発と“その視線で見つめたもの”とは⁈

名匠フランソワ・トリュフォーの自伝的要素を含んだ傑作 フランス映画界の“ヌーベルバーグの旗手”となったフランソワ・トリュフォー監督。彼の長編デビュー作となるのが、『大人は判ってくれない』(1960)で …

ヒューマンドラマ映画

映画Our Friend/アワー・フレンド|あらすじ感想と考察解説。エスクァイアの実話エッセーをケイシー・アフレック×ダコタ・ジョンソンが熱演

映画『Our Friend/アワー・フレンド』は10月15日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー! 妻の死に向き合う家族と、彼らを支えようとする親友との、愛と葛藤の姿を描いた …

ヒューマンドラマ映画

映画『Noise ノイズ』感想評価と内容解説。20代の松本優作監督が切り取る現代社会の問題点

映画『Noise ノイズ』は、2019年3月1日からテアトル新宿ほかので順次公開 立場の違う若者3人が、それぞれの理由で集まる街、秋葉原。 若者たち、その周囲の大人の視点から、現代社会のの問題点を問い …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学