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【ネタバレ】大いなる自由|あらすじ感想と結末の評価解説。戦後ドイツを舞台に男性同性愛を禁ずる刑法175条の下、愛する自由を求めた男の20余年の闘争

  • Writer :
  • 西川ちょり

ドイツ刑法175条、不合理な迫害の歴史の中で愛する自由を切望する男の姿を描く

男性同性愛を禁じたドイツ刑法175条の下、繰り返し逮捕、投獄される男・ハンス。終戦後の1945年から、恋人と共に投獄された1957年、刑法改正が報じられた1968年の3つの時代をシャッフルしながら、ハンスの抵抗の物語が綴られます。

監督を務めるのはオーストリアの俊英セバスティアン・マイゼ。撮影監督はセリーヌ・シアマ監督の『水の中のつぼみ』(2007)、『トムボーイ』(2021)、『ガールフッド』(2014)のクリステル・フルニエが務めています。

第74回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞作品。第94回アカデミー賞・国際長編映画賞オーストラリア代表作品。

映画『大いなる自由』の作品情報


(C)2021FreibeuterFilm・Rohfilm Productions

【日本公開】
2023年公開(ドイツ、オーストリア合作映画)

【原題】
Grosse Freiheit(英題:Great Freedom)

【原作】
クレメンス・マイヤー

【監督・脚本】
セバスティアン・マイゼ

【共同脚本】
トーマス・ステューバー

【撮影】
クリスティル・フルニエ

【キャスト】
フランツ・ロゴフスキ、ゲオルク・フリードリヒ、アントン・フォン・ルケ、トーマス・プレン

【作品概要】
第二次世界大戦後のドイツ、男性同性愛を禁じた刑法175条の下、何度も投獄される男・ハンスの姿を描いた人間ドラマ。

『希望の灯り』(2018)のフランツ・ロゴフスキが、ハンスを演じています。監督・脚本はオーストリア出身のセバスティアン・マイゼ。2021年・第74回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した他、国内外の映画祭で高い評価を受けています。

映画『大いなる自由』あらすじとネタバレ


(C)2021FreibeuterFilm・Rohfilm Productions

1968年。当局が公衆トイレに設置していた隠しカメラに、様々な男性と性行為をしているところを撮られたハンスは「175条違反者」として逮捕され、執行猶予なしの懲役24ヶ月を言い渡されます。

ドイツでは、175条という法律条項で同性愛は刑事犯罪とされていました。

かつてハンスは、ユダヤ人であるために強制収容所に収容されていましたが、第二次世界大戦が終わっても、同性愛者は他の人たちのように自由を得られず、直接刑務所に送られました。以降もハンスは自身の性的指向を理由に繰り返し投獄され続け、約25年間のほとんどを刑務所の中で過ごします。

1945年にはじめてハンスと出会った服役囚のヴィクトールは、当初、「175条違反者」である彼を嫌悪していました。

しかし、ハンスの腕に彫られた番号を見てハンスが強制収容所から直接刑務所に送られたことを知り、ハンスの腕に入れ墨を彫りたいと申し出ます。

彼は自家製のタトゥーキットを所持していました。それがふたりの友情の始まりでした。ハンスが収容されるたび、ふたりは互いをみつけだすのでした。

ハンスはしばしば看守に殴られ、何度も独房行きになり、地獄のような照明のない穴の懲罰部屋に裸にされて放り込まれました。

ヴィクトールは長期の服役によって刑務所内での振る舞いを熟知していました。彼はハンスが真っ暗な懲罰室に放り込まれるたびに、たばこを差し入れました。そのおかげでハンスは心を落ち着けることができました。

ヴィクトールとの友情とは別にハンスは何度も恋に落ちます。1957年にハンスが投獄されていたときは、オスカーという美しい背年がパートナーでした。ふたりは刑務所に収容される前から恋人同士でした。

しかし、収容されてからふたりの関係はギクシャクし出し、挙げ句にオスカーは亡くなり、その恋は悲劇として終わることになりました。

1968年.ハンスと同じくビデオに映っていたことで逮捕された音楽教師のレオと恋仲になります。ハンスは看守の手伝いをする役割を担っているヴィクトールに頼んで、レオに聖書を渡してもらいます。

ハンスは裁縫の仕事をしていて、針を所持しており、その針で聖書に書かれた文字に穴をあけて、レオへの手紙をしたためたのです。

しかしふたりのロマンチックな関係にも終止符が打たれます。ハンスはレオを救うために立ち上がり、レオがしたことは自分に強制されたせいであり、悪いのは自分だと語り、1人独房に放り込まれます。

ヴィクトールは終身刑を言い渡されていましたが、これまで何度か、刑の軽減の審査を受けていました。3度目の審査が始まる際、彼は緊張のあまり麻薬を打ち、トイレで倒れているところを看守にみつかります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『大いなる自由』ネタバレ・結末の記載がございます。『大いなる自由』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

刑の軽減の話は立ち消えになり、彼の牢獄生活は続きます。ある日、彼は看守を買収して、ハンスを同室にしてもらうよう頼みました。

部屋にやって来たハンスに、ヴィクトールは自分がなぜ終身刑になったのかを告白します。彼は戦争では誰一人殺さなかったのに家に帰ってきた途端、殺してしまったと語ります。その瞬間、妻は目を大きく見開き「なぜ」と言ったそうです。

ハンスはこれまで一度も罪状について尋ねなかったと、ヴィクトールはつぶやくように繰り返しました。

ヴィクトールは体のどこかが悪いらしく、一晩中、吐き気をもよおし、ハンスは彼を賢明に看病しました。

また、ヴィクトールは麻薬を接種しようとしますが、ハンスはそれもやめさせました。彼はヴィクトールを抱きしめて、同じベッドで眠りました。

ある日、ハンスは裁縫の作業所で一冊の雑誌に目をとめ、驚きの表情を見せます。表紙には刑法175条が改正されたという見出しが、でかでかと載っていたからです。

ハンスがその雑誌を持ち帰ってヴィクトールに見せると、ヴィクトールは信じられない様子で、「法律を廃止することなんて出来るのか?」と呟きました。

ハンスは晴れて釈放されることになりました。別れ際、ヴィクトールは、たまにタバコを差し入れてくれと言い、ハンスはうなずきました。

ハンスは晴れて自由になり、「大いなる自由」という名のバーに入りました。すぐに鋭い目つきをした男がハンスに視線を送ってきました。

ハンスは男に導かれるままに、階段を下っていきました。降りてみると、そこでは裸の男たちが狂宴を広げていました。

バーに戻ってきたハンスは自動販売機でタバコを買い、店を出ました。彼はある高級店のショーウインドウの前に立ち、おもむろにガラスを叩き割りました。

激しく警報が鳴り響く中、彼はタバコを吸いながら、その場に座り込み、パトカーがやって来るのを待っていました。

映画『大いなる自由』解説と評価


(C)2021FreibeuterFilm・Rohfilm Productions

映画は1968年、ハンスが判決を受けるシーンから始まります。当局が隠し撮りした証拠の映像を見せられたハンスは、ただ黙って判決を受け入れました。ドイツ刑法175条違反者として。

ドイツ刑法175条とは1871年に制定された男性同性愛を禁じる刑法です。ナチス時代に厳罰化され、戦後も東西ドイツでそのまま引き継がれた後、1969年にようやく非犯罪化され、1994年に撤廃された条項です

第二次世界大戦中、ハンスはユダヤ人で強制収容所に収容されていましたが、同性愛者は、戦後も釈放されず、そのまま刑務所に送られました。

ハンスはその後も20数年以上に渡って、175条刑法違反で繰り返し投獄され続けます。

映画はそんな彼の姿を1945年、1957年、1968年という3つの時代に焦点をあて、時代をシャッフルさせながらそのほとんどを刑務所内の物語として描いています。

『大いなる自由』は、非人道的な刑法175条に対する抵抗の物語です。

ハンスは看守から暴力を受けたり、真っ暗な独房に裸で閉じ込められたりという虐待を何度も体験しますが、彼の行動は一貫しています。

彼は時に危険を犯しながらも、好きになった相手と、好きな時に、好きなように愛し合い続け、自身のセクシュアリティを表現することを恐れません。

例え法的に罰せられ、狭い空間に閉じ込められ続けても、例え世間が自分たちを憎み続けようとも、彼は常に自由であろうと奮闘し続けるのです。

ハンスが逮捕され、収監されるたびに出会うヴィクトールという男がいます。彼は終身刑を言い渡されていて、長い期間刑務所暮らしを送っています。

彼らの最初の出会いは1945年です。最初、ヴィクトールはハンスが「175条違反者」であることを知り、拒否反応を示して追い出そうとしますが、やがて偏見は消えていきます。2人の間には友情が生まれ、長い時を共にするうちに深い絆で結ばれていきます。

本作は厳しく過酷な刑務所生活が描かれていますが、絶望の中で賢明に生きる人々の「愛」が、なによりも心を打つ作品に仕上がっており、作品に流れる暖かな感情が思いの外、心に染みてきます

人間性を否定する刑法175条への社会的批評は、終盤、ヴィクトールがその廃止が決まった際に、呆けたように「法律を廃止することなんて出来るのか?」と呟いた言葉に端的に現されています。

人間性を否定するような法律を簡単に作り、これまで散々人を裁いて来たこと、廃止されるような法律にこれまで長年縛られてきたこと。人間のアイデンティティは犯罪にするようなものでも、恐れられるようなものでもないにも関わらず。

ハンスにとってはやっと解放されたという喜びよりも、タイミングの悪さと不運に振り回されたという忸怩たる思いが強かったのではないでしょうか。

刑務所を出たハンスが、ラストに取った行動は、そんな彼の心情が反映されたものといえるでしょう。しかし、これはまた、彼の不屈の反抗心の現れなのかもしれません。

まとめ


(C)2021FreibeuterFilm・Rohfilm Productions

主人公ハンスを演じたのはミヒャエル・ハネケ監督の『ハッピーエンド』(2017)や、トーマス・ステューバー監督の『希望の灯り』(2018)などの作品で知られる若きスター俳優、フランツ・ロゴフスキです。

過酷な刑務所暮らしの中で、子供のような純粋さと無邪気さを見せ、愛を諦めない反骨精神あふれる人物を説得力ある演技で見せています。

ロゴフスキはダンサー、振付師でもあり、寡黙な主人公を、身体の動きで雄弁に表現しており、思わずハンスの心情に寄り添い、物語にのめり込んでしまいます

ヴィクトールには演技派ゲオルク・フリードリヒが扮し、ハンスとの唯一無二の友情を築く姿を感動的に演じています。

監督のセバスティアン・マイゼと共同脚本のジョアナ・スクリンズィは、3つの時代をシャッフルさせるという複雑な映画話法の中で、ハンスの20年以上に渡る抵抗の日々を鮮明に描き出しました。

セリーヌ・シアマの初期作品で撮影監督を務めたクリステル・フルニエの陰影に飛んだ撮影にも注目してみてください。


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