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映画オーストリアからオーストラリアへ|あらすじ感想と評価解説。ドキュメンタリーで描く《ふたりの自転車大冒険》と過酷な旅で知る“これからも続く旅”

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』は2022年2月11日(金)より全国ロードショー!

オーストリアからオーストラリアへ」……似たような国名ながらも行き先ははるか遠く、日常を離れ自転車による大冒険の旅に出た二人の姿を描いた映画『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』。

日常を捨て、遠路はるばるの自転車旅を敢行した二人の男性を追ったドキュメンタリーである本作。

自転車での旅に出ながら自らを映し続けたアンドレアス・ブチウマン、ドミニク・ボヒスの二人が自ら映像を編集し、一本の映画として作り上げました。

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映画『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』の作品情報


(C) Aichholzer Film 2020

【日本公開】
2022年(オーストリア映画)

【撮影・編集・監督】
アンドレアス・ブチウマン、ドミニク・ボヒス

【作品概要】
二人の男性が日常を離れ、オーストリアからオーストラリアまでを自転車で走破する旅に向き合う姿を描いたドキュメンタリームービー。

旅を敢行するとともに自らの映像を映し続けたのは、オーストリアのアンドレアス・ブチウマンとドミニク・ボヒス。3大陸・19ヶ国の国々を自転車で走破すべく、長く過酷な旅に挑む姿が活写されています。

映画『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』のあらすじ


(C) Aichholzer Film 2020

IT企業に勤めていたアンドレアスとドミニクは、旅に出たいという胸の内の思いを実現すべく、ドローンと4Kカメラなどを積んだ自転車でオーストリアを出発、オーストラリアを目指す旅を開始します。

二人はビザや通行路などの障害に直面しながらもロシア、カザフスタン、中国、パキスタン、インドなどを横断。

旅では最初から悪天候に見舞われ、さらに水や食糧の不足、体調の不良など、二人にさまざまな障壁が容赦なく立ちふさがり、時に旅のモチベーションを大きく下げますが、二人はなんとかそれを乗り越え、最終目的地のオーストラリア・ブリスベンへと向かっていきます。

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映画『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』の感想と評価


(C) Aichholzer Film 2020

現実を素直に表した映像

「オーストリアからオーストラリアへ」……この発想、作品タイトルにはユーモアすら感じさせますが、劇中の旅はどちらかというと過酷さが際立つもの。

この旅を決意した二人が旅に出向いたその理由は「やってみたいから」というシンプルなものでした。特にYouTuber文化が大きく広がった近年ではありがちにも見える動機でありますが、本作を物語と考えると実は非常に重要なポイントであることがわかります。

もし彼らがこの旅に出向いた理由がほかに深い意味を持っているとすれば、旅の中で起こるさまざまなハプニングの見え方にかぶって作品のポイントが曲げられてしまう恐れもあるからです。それをふまえると、作中で映し出される旅は実にフラットな視点に基づいて物事を捉えています

また重要なのは、劇中に直接深い希望を感じさせる画がほとんどないという点にあります。旅ではさまざまなハプニングに出くわし、時に思いもよらなかった幸運を得られること自体はあれど、二人の表情からはミッションを達成するための焦りや挫折のようなものも垣間見られ、「旅」という行為がいかに苦しく険しい道のりであるかということを強く表しています。

「リモート社会」への提言を感じさせる視点


(C) Aichholzer Film 2020

作中の二人が出くわすアクシデントや驚きの光景からは、リモート環境におけるコミュニケーションが急速に発展を遂げ続けている2021年以降の時流に、一石を投じる思いのようなものも見えてきます。

彼らが旅先で目の当たりにしたものは、ネット上を通して遠くから見た「きれいな景色」ではなく、実際に自分の足を使わなければわからない、仮想現実では体験できない世界を示しているものであり、「自分の足を使う」でしかわからないことがあるということを痛感させられます。

劇中の出来事の数々から見られる現実と、ネット上で見られるきれいな情報とのギャップに苛まれるようなケースは多々あります。そして実際の現実に足を踏み入れ、その場に立ってこそ、現在の日本国内で深まりつつある「地方創生」的な流れなどから得られるような情報だけでは知ることができない、それぞれの場所にある別の面、隠れた表情なども見つけられるのです。

また本作のフッテージ……すなわち二人が一年の旅の上で撮影した映像は、合計で150時間分に及ぶものといわれています。本作で映される彼らの表情はあくまでほんの一部の感情を示したことであり、長期にわたった旅の大変さ、その負荷は体力的にだけでなく精神的にも彼らに大きくのしかかっていたことがうかがえます。

このように本作は「自分の足を使う」がいかに大きな覚悟が必要かという課題を示しながらも、それでもその壁を乗り越えてまでやるべきという意義も示しています。

まとめ


(C) Aichholzer Film 2020

自転車によるロードムービーといえば2008年のブルガリア映画『さあ帰ろう、ペダルをこいで』や、2016年のドキュメンタリー映画『Start Line』などがありますが、そうした作品群にはやはり「大きな困難を乗り越えて得られる成果」という共通のテーマがあります。

その成果とは必ずしも目に見えるもの、具体的なものではなく、鑑賞者は映画全編を通して感じられるものの集大成としてさまざまな思いを受け取ることができるでしょう。

本作の終盤では、長期にわたっての非常に過酷な旅を終えた二人がオーストラリアの「とある場所」で最後の景色を眺める姿が映し出されます。ただその場面の良さは、必ずしも「この景色を見るためにこの旅を行った」と言ってしまえるようなハッピーエンド的な意味を持たせていないという点にあります。

映し出されるのは確かに非常に雄大な景色ではあるものの、その色彩感には同時にどこか冷たさ、厳しさのようなイメージが垣間見られます。

それは、二人の旅が単に「深い業を終え悟りを開いた」と想起させるようなポジティブな方向性ではなく、何か自分の見えていなかったものに多く気づき、これからも二人に迫りくる人生の上での苦難に対して改めて立ち向かうような覚悟を示しているようでもあり、「これで映画/物語は終わり」では終わらせない、個々の人生への問いかけを示すようなエンディングとなっているのです。

映画『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』は2022年2月11日(金)より全国ロードショー!


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