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Entry 2021/06/21
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映画『東京自転車節』感想評価とレビュー解説。青柳拓監督が“新しい日常”を生き抜くために駆け回る路上労働ドキュメンタリー|映画という星空を知るひとよ69

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第69回

映画『東京自転車節』は、実家の家族の反対を押し切り、東京で友人の家に泊まりながら自転車配達をする青柳拓をありのまま撮影したドキュメンタリー映画です。

『東京自転車節』は、2021年7月10日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開!

本作は、セルフドキュメンタリーを踏襲しながら、SNS動画の感覚でまとめあげた日常を記録した映像を通し、コロナ禍によって生まれた「新しい日常」とは何かを問いかけています。

自転車配達の仕事のノウハウやその苦労もわかる映画『東京自転車節』をご紹介いたします。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『東京自転車節』の作品情報

(C)2021水口屋フィルム、ノンデライコ

【公開】
2021年(日本映画)

【監督】
青柳拓

【撮影】
青柳拓、辻井潔、大澤一生

【プロデューサ・構成】
大澤一生

【音楽】
秋山周

【出演】
青柳拓、渡井秀彦、丹澤梅野、丹澤晴仁、高野悟志、加納土、飯室和希、齊藤佑紀、林幸穂、加藤健一郎

【作品情報】
ひいくんのあるく町』(2017)の青柳拓監督が、2020年緊急事態宣言下の東京で自らの自転車配達員としての活動を記録したドキュメント。

新型コロナウイルスの感染が拡大されていた2020年の日本。故郷の山梨では仕事が無くなったため、緊急事態宣言が発出された東京で自転車配達員として働くことになった青柳の活動を、スマートフォンとGo Proで記録した作品です。

映画『東京自転車節』のあらすじ


(C)2021水口屋フィルム、ノンデライコ

2020年3月。山梨県で暮らしていた青柳監督は、コロナ禍で代行運転の仕事が無くなってしまいました。

奨学金の返済額も500万円を超え、生活費などの収入のあても無くて困っていたところ、友人の紹介で自転車配達員のことを知ります。

新しいデリバリーのカタチとして、ちょうど注目されてきた自転車配達仕事は魅力的で、青柳監督は家族が止めるのも聞かずに新型コロナウイルス感染者数が増えていた東京に向かいます。

緊急事態宣言下に入っていた東京。新たな気持ちで自転車配達員の登録をすませ、青柳監督は自転車配達の仕事を始めました。

そして、自らの活動と東京の今を撮影し始めたのです。

映画『東京自転車節』の感想と評価

(C)2021水口屋フィルム、ノンデライコ

2020年。人から人へと感染する新型コロナウイルス感染症が蔓延し、マスク着用や不要不急の外出控え目といった制限がされ、人と人との接触も遠ざけられました。

故郷での仕事が無くなった主人公青柳は、非常事態宣言が発布された東京に出稼ぎに来て、コロナ禍でも稼げるという自転車配達の仕事を始めます。

これはとても勇気のいることでしょう。何しろ地方では、東京へ行くだけでコロナになると思われていたそうですから。しかも、ほとんど土地勘のない大都会の東京です。自転車だけで配達をするなど、無謀とも言えます。

ですが、27歳の青柳は必死でした。配達員登録から配達先の地図まで全部スマホを使ってやり遂げ、がむしゃらに働き出しました。

収入は、9時間かけて9千円ちょとのときもあれば、5千円のときもあります。その日その場の行きあたりばったりの安定感のない稼ぎ方で、ご本人は当然のことながら、誰もがこれでやっていけるのかと不安を覚えることでしょう。

このように先の見通しの立たない自転車配達の仕事ですが、今自分に出来ることを一生懸命にやっている青柳に共感を覚え、思わず声援を送りたくなります。

少し給料が入ると、休みたくなる青柳の気持ち、よくわかります。あまりに疲れて路上で寝っ転がり、「死にたい」と叫びたくなる気持ちも理解できます。

青柳が自転車で突っ走る東京の街には、上層社会に這い上がれないどん詰まりの人生感が漂っていますが、それでも人々は生きているのです。青柳のこの窮地を乗り越えたいという思いに強く同感しました。

一日の収入がゼロのときもあれば1万円弱のときもあり、収入のアップダウンが激しいなか、どうすれば稼げるのかと、青柳は一生懸命に研究をします。

生活貧困層の支援があることや簡易宿泊所を教えて貰ったりと、毎日自転車を漕いで配達しながらも、青柳は次第に人とのつながりを意識していくようになりました。

新型コロナ感染の影響を受けて経済がガタガタになった東京で、自分の足と自転車一台で生活していくのは並大抵ではありません。

けれども、青柳は自分の置かれた境遇を理解しながらも、それでもペダルを漕いでいきます。ただただ稼ぐため、生きるため。

一つの信念を持って突き進む愚直ともいえる姿勢は、何よりも強いと思わざるを得ません。決してかっこのよい主人公ではありませんが、次第に逞しくなっていく青柳からは、困難も乗り越えられるという明るい希望をもらえます。

まとめ

(C)2021水口屋フィルム、ノンデライコ

映画『東京自転車節』は、自転車配達員の視点で疾走する路上労働ドキュメンタリー。コロナと背中合わせの“あたらしい日常”を生きていくことや働くことを、リアルに問いかけています。

山梨から東京へ出稼ぎにきて、自転車配達員の仕事に従事する青柳。稼ぐことを目的に日夜自転車を漕ぐ彼のイメージにピッタリな主題歌『東京自転車節』は、秋山周が手掛けました。

その哀愁漂うメロディは、人生のほろ苦さ、物悲しさを切実に訴え、とてもインパクトがあります。

青柳は東京で自転車配達員をして何を得たのでしょう。生き辛い日々を生き抜く知恵でしょうか。どん底生活でも生きていく強さでしょうか。

現在のリアルな日本の姿と照らし合わせて、考えさせられる作品です。

映画『東京自転車節』は、2021年7月10日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開!ポレポレ東中野では好評を受けて、当初7月30日(金)まで3週間の予定だった本作の上映を大幅に延長!

それに加え、青柳監督のデビュー作『ひいくんのあるく町』『井戸ヲ、ホル』をポレポレ坐(ビル1Fのカフェ奥の上映スペース)にて特集上映します。

※スケジュール等詳細は『東京自転車節』公式サイトまたは上映劇場ポレポレ東中野HPをご参照ください。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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